★
「……………………」
「…………」
「……………………っ」
「……おう。何か俺に用があって、わざわざ来たんじゃねえのか?」
「ぅ……すみません。……えっと、そうなん、ですが……」
アミバを倒し、次なる目的地がカサンドラに決まった時。
その準備の一環として私は、トヨさんの村へと足を運んだ。
目的は当然、カサンドラ攻略の手伝い要請……なんて筈も無く、その先の話。
時期が前後する可能性こそあるが、記憶が正しければ拳王侵攻隊が……いや、ラオウが直接動くのは、このタイミングのはずだ。
そして、これまた原作通りに話が進むなら、先んじて帰ったレイさんがラオウの手にかかり、新血愁によって死の運命を決定づけられることとなる。
それが分かっているのなら、相応に急いで村に帰ることもまず思い浮かぶが……原作でトキさんを狙った待ち伏せのような、足止め部隊は今回も配置されているだろう。
そう考えるとやはり、別枠から侵攻にあわせ救援に駆けつける戦力がどうしてもほしい。
私はそれをジャギに願うため、ここに来たのだ。
……しかし。
「ジャギ~! 救世主の姉ちゃんとなぁに話してんだ~? またあとで拳法教えてくれよ~!」
「やかましい、今は……多分、大事な話してんだ! ガキどもはばぁさんの手伝いでもしてろや、しっしっ」
(…………ッ)
紹介した始めの頃は、彼が馴染めるか少し不安だったが、ジャギは短い期間ですでに村に受け入れられている。
それは、きっと。私の紹介だからってだけじゃなくて。
ジャギが身に着けた力と振る舞いによって、受け入れられる努力を怠らなかったからに他ならないだろう。
だからこそこうして実際に村に来て、彼らの顔を見て、その努力を。今の安穏とした日常を。
それを、想えば、想うほどに。
────"その今"を自分の手で壊すための言葉が、覚悟していた以上の重さとなり、私にのしかかっていたのだ。
「その……えっと」
「……あぁ~~、なんとなく分かった。……俺がさらった妹の兄、南斗の男に首でも持ってくるように言われたか?」
「違います!! ……彼にも、ジャギのことはすでに話してあります。……彼は、その、もちろん許せるわけは無いにしろ、処遇は決着をつけた私に任せる、と。そう言ってくれています。……ただ」
……私だって、この世紀末で、全ての命を拾えるなんてことは思っていない。
だが、一度、私の存在によって運命が変わり、生を、未来を掴んだジャギ。
そんな彼を、再び他ならぬ私が。
死の運命に叩き込むことになるかもしれない、ということ。
それは、すでに多くの敵達の死を見てきた私にとっても、明確な躊躇に苛まれる選択であった。
……それでも、ここに来た以上。
止まる選択肢は、無い。
「…………同じことかもしれません。いえ、もしかしたらそれ以上の……今こうして、未来を掴んだあなたに死んでくれ、と言」
「構わねえ。聞かせろ」
「────ッ」
言い終わらないうちに、被せるように躊躇なく受け入れたジャギの言葉。
そして、その言葉に込められた覚悟の力強さ。
それを受け、私は一度大きく息を吸って……そして、言葉を紡ぐ。
「────失礼しました。……あなた達の兄、ラオウ。彼が世紀末覇者拳王を名乗り、動き出しているという情報が入っています」
「…………」
「これから私達は、彼に対抗するためにもトキさんを解放せねばなりません。もし、その間に彼らの手が迫るとしたら、以前話した……レイさんの妹たちも居る、あの村を襲う可能性が高いのです」
「そういう、ことか……」
「私のお願いは一つ。侵攻隊が来たらその村へ救援へ行って、可能な限り誰も死なさないよう守って欲しいのです」
うなだれるように考え込むジャギ。
ただ、拳王の配下が迫ってくるだけなら、何人で来ようが今のジャギからすれば物の数ではない。
それでも考える必要があるのは、本隊が……すなわち、拳王軍を統べる存在が来たならば、の話。
「兄者……ラオウが相手か。……倒す必要は?」
「ありません。トキさんの解放次第、私達も必ず、急ぎ駆けつけます」
そして、その言葉を受けてジャギは。
「おう、いいぜ。やってやろうじゃねえか」
「────っ」
……おそらく、私がここまで躊躇していた理由が、ラオウの存在によるものだけではないことは、ジャギは分かっている。
分かっていてなお、それを受けるジャギの言葉と、態度は軽く。
その上で決して気楽に考えているわけではないことが、覚悟が。
私にも伝わってくる。
何しろ、私がここで救援を請うている村に居るのは。
(……アイリさん)
ジャギが攫い、売ったことが原因で人生が大きく変わった女性なのだから。
彼女と、そして彼女の兄との邂逅はジャギにとって、ある意味ラオウとの戦い以上の修羅場となるかもしれないのだ。
だからこそ、私は謝ることも、これ以上余計なことを言うこともなく……ただ、一言だけを返す。
「ありがとう……ございます……っ」
★
★★★★★★★
「貴様、は……!」
「あの……男は……」
「…………」
片や地面に倒れ伏しながら。片や離れた位置で立ち尽くしながら。
現れた男の姿を視界に収めた南斗の兄妹は、同時に目を見開き、呟く。
そしてその男、ジャギはそれら反応には応対せず、ただ黙ってラオウと相対し続けた。
「ジャギ、か……配下になることを断ったとは聞いていたが、うぬがこの俺と戦う気か?」
「……まあ、そのつもりだ」
「なんだと……ッ!!」
ここでレイは、今自分が妹の敵の手により命を救われ。
あまつさえその敵が、自分の代わりにラオウと戦おうとしていることを知る。
当然それは、拳法家としてもアイリの兄としても、到底看過出来るものではない。
致命の秘孔は外れたとはいえ、深いダメージを負った身体。
それを無理やり立たせ、感情のままジャギのもとに詰め寄る。
が、その足音を……紛れもなく殺気も混ざっているだろうそれを耳にし、あまつさえ真後ろに迫られてもなお、ジャギはラオウから目を切らない。
そのままジャギは、訝しむレイに静かに声をかけた。
「……今、刺してえなら、刺せばいい。……マコトのやつも、文句は言わねえよ」
「!!」
「ほう……」
その死をも覚悟した声色にレイは驚愕し、ラオウはわずか感嘆の声を漏らす。
「捨て鉢、というわけでもない。死をも呑み込んだ上で、この俺と対峙するか! 面白い、どうやら問うまでも無く、うぬも死兆星を見ているようだな!」
「あいにく乙女趣味な兄者と違って、星占いに興味はねえよ。……それより信じたいものも出来ちまったもんでな」
そのまま、おい南斗の男、とジャギは続ける。
「……気に入らねえなら、利用しろ。拳王を止めるために、殺しても惜しくない、捨て駒を拾ったとでも思え。……どのみち俺は、そのために来たんだ」
「ぐ……」
ジャギから出たマコトという単語もあり、彼がここに来た理由、その真意をすでにレイは察することが出来ている。
……ジャギの言葉とは裏腹に、ジャギを死なせることが、マコトの本意とはかけ離れていることも。
そしてレイは煩悶の末……マコトやケンシロウのことを思い返し、今この場ではその拳を収めることを選択する。
そのレイの判断を察したわけではないだろうが、同時にラオウが歯を剥き、吠えた。
「良いだろう、ならばかかってくるが良い! 我が愚弟が何処まで成長したか、この拳で確かめてくれるわ!!」
「その馬に乗ったままでか? ……俺の銃が、見えてねえわけじゃねぇよな兄者?」
「フッ……」
ここから馬ごと撃ち抜いてもいいんだぞ、と態度で表すジャギ。
それを前に不敵に笑ったかと思うと、ぬんっ! と掛け声とともに腕をジャギへと突き出すラオウ。
たったそれだけで、離れた場所に位置するはずのジャギの身体が切り刻まれ、全身を血が流れる。
ラオウが自らの溢れ出る闘気を放ったことにより、暴力的なまでの風圧が向けられたためだ。
「そのようなチャチな玩具で、この拳王の闘気と撃ち合えるとでも思ったか!!」
「ちっ……」
そしてラオウにとってのこれは、ただの挨拶代わりであって攻撃ですら無い。
「かかってこぬのなら、こちらから行くぞッ!!」
雄叫びに合わせるようにラオウが駆る馬……黒王号が走る。
それが、ジャギとラオウとの戦いの、始まりの狼煙となった。
★
「ぐ、クソ……! 北斗羅漢撃~~ッ!!」
「ぬるいわッ!!」
ラオウの突撃を見て横に回りながらも、ジャギが放った得意技、北斗羅漢撃を片腕であっさりと弾くラオウ。
そのまますかさず、高速の手刀で横薙ぎに腕を振るった。
「ガ、フッ!!」
間一髪攻撃を避けた、とジャギが思ったのもつかの間、横一文字に腹部が切り裂かれ、血が噴き出す。
(────掠っただけでこの威力かよ!)
北斗四兄弟としてこれまで過ごした経験から、ラオウが凄まじい力を持つことは、よく分かっているつもりだった。
が、しかしこの男は、ジャギが知るあの頃から。
さらに比べ物にならないほどに強くなっている。
やはり、まともに当たるのは得策ではない。
それを改めて認識したジャギは、さらに警戒を強め距離を取り始めた。
…………一方、優位に戦いを進めるラオウ。彼としてもジャギの変化を前にして、内心ではある種の驚きと疑念を覚えていた。
その疑念とは。
(……分からぬ。何故こいつは、こうも冷静なのだ?)
ラオウが知る限りのジャギという存在。彼を一言で表すならば、『功名心と虚栄心の権化』だ。
自分の実力を過大評価し、認められるのが当然と思っており、それが認められない鬱屈は弟のケンシロウに向けられる。
この世紀末で多少拳法の腕前が伸びようとも、その在り方自体がそうも変わることはない、と。そう考えていた。
事実、先ほど放たれた北斗羅漢撃は想定の範囲内の……
多少マシにはなっているが、それでもラオウからすれば取るに足らない程度の攻撃であった。
故に、それを受けてもラオウが馬から降りることもせず、見下されたまま戦っているという事実。
それはジャギにとっては耐え難い屈辱であり、それにより更に乱れた精神で振るわれる拳は、ラオウを前にあっさりと砕け散る……
その、はずだった。
しかし、予測に反しジャギはあくまで沈着冷静。
むしろ、馬に乗ったままで戦いが続くことを好都合と思っている節すら見える。
その後数度、打ち合いをしてもそれは変わらなかった。
圧倒的な地力差により、拳を交わすたびにジャギの身体には確実にダメージが刻まれている。
しかし、それでもジャギは焦らず、動じず。
付かず離れずの距離を取りながら戦い続けている。
(ちぃっ……!)
ラオウからしても理解の及ばぬ不気味さに、ほんの僅かながら。
次第に精神を乱され始めたのは、ラオウの方だった。
が、しかし。ラオウがこれで臆するような存在ならば、世紀末覇者など端から名乗るはずもなく。
────何を考えているかは知らぬが、それならばその小賢しい目論見ごと打ち砕くのみだ。
瞬間、そう割り切ると、さらに闘気をみなぎらせてジャギへの突進を再開した。
更に一歩踏み込み、確実に打ち倒すための必殺の気合が乗った猛進だ。
そして、それを見たジャギは。
「へっ……!」
────まるで逃げるように、近くにあった遮蔽物に身を隠したのであった。
「ふん……!」
当然、それを目にしたラオウが止まるわけもない。今更逃げようがこのまま轢き潰すのみ、とさらに加速させようとした……
その瞬間。
「むぅ!?」
突然、その遮蔽物が宙を舞い、ラオウのもとへと高速で飛来した。
ジャギが遮蔽物を、ラオウ目掛けて叩き込むように蹴り上げたためだ。
一瞬視界を防いだそれを目にしても、ラオウに動揺は無い。
ジャギから視線を切らないようにしながらも、にべもなく腕で払いのける。
────が。
その瞬間パシャァっという音とともに、不快な感覚にラオウと、彼がまたがる黒王号の身体の一部が晒される。
不快感の正体は、液体に濡らされた感触。
そして、この独特の刺激臭が示す液体の正体は。
(────ガソリン!!)
ジャギが身を隠し、蹴り上げた遮蔽物。
それは、レイに葬られた拳王侵攻隊の男……彼が使い遺した、ガソリンが入ったドラム缶だ。
それに思考が至る、と同時。ラオウの視界に映るもの。
それは、放物線を描き投げ込まれる二つの火種。
「────────ッ!!」
……膨大な闘気に包まれたラオウの身体に、生半可な炎など通用しない。
事実、本来辿る流れで燐の使い手であるシュレンと相対した時も、正面から苦もなく打ち破った。
が、しかし今は。
ラオウだけでなく、その下にいる黒王号にもガソリンがかかっている、今においては。
ラオウは良くても、黒王号は。
「お、のれぇ────!! 北斗、剛掌波────ッ!!」
拳法家が想定外の事態に陥った際、無意識で頼るものは、自身が最も得意とする技。
ラオウにとってのそれは、圧縮した闘気を手から打ち出し、触れたものを粉微塵に破壊する剛拳の奥義。
そんな、ラオウという存在を象徴するといってもいい技を受け、上空の火種は跡形も無く、まとめて霧散する。
この迎撃のため、ラオウがジャギから目を切ったのはほんの数瞬にも満たない、刹那の時間。
しかし、今のジャギにとっては。
戦いながらも環境を観察し、これを最初から狙っていたジャギにとってそれは、十分すぎる"勝機"。
火種を投げると同時に動いたことで、すでにラオウの懐へと潜り込んでいたジャギは、ラオウの横面目掛けて再びその技を放つ。
「北斗羅漢撃────ッッ!」
「させぬわッ!!」
が、直前の行動によりわずか反応が遅れるものの、さすがの拳王。
不十分な体勢ながら、半ば反射で腕を振るい、先ほどと同じようにジャギの拳を弾こうとし────
────逆に、その腕を弾かれた。
「ぬぅお!?」
「おぉぉおらあああぁあ!!」
先ほど
今のジャギという存在が放つ渾身の、本物の北斗羅漢撃を。
ラオウはその身に浴びる事となった。
★★★★★★★
ジャギ様といえば銃、含み針、そして火ってそれ一番言われてるから