ラオウくんの二人称が統一されていないのは原作仕様となります
多分ある程度印象や場の雰囲気によって使い分けてらっしゃる気がします
★★★★★★★
「お、俺の身体に傷、を……!」
ジャギが放った北斗羅漢撃は、確かにラオウの身体を捉え、頑健な身体に傷を穿った。
────天が選んだのは自分だと、自身が最強である、と。そう確信を持って覇をとなえる拳王。
それに傷を負わせたのが、北斗四兄弟の中でも最も評価に値しなかった……言ってしまえば、歯牙にもかけていなかった男という事実。
それは、ラオウをもってして驚天動地といっても過言ではないほどの凄まじい衝撃を、驚きを。
彼に与えていた。
……だが、しかし。
「が、は、あぁ……ッ!!」
この攻防の末崩れ落ち、膝を折ったのはジャギの方だ。
拳の形に陥没した胸元を抑え、血反吐を吐きながら、ジャギは改めて戦慄する。
────あのタイミングでも、反撃してきやがるとは……!!
ラオウの恐ろしいところは、単純な剛拳の威力や闘気量だけではない。
歴代北斗神拳伝承者と比べても、最高峰といっていい才覚からもたらされる、類まれなる戦闘センス。
その真価が発揮されるのは、むしろ先ほどのように自身が窮地に陥った状況なのだ。
しかし当然、ジャギもそれは警戒していた。
だからこそあのような形で隙を作り、リスクを避けた上での攻撃に踏み切ったのだ。
にもかかわらず、ここまで致命的な反撃をその身に浴びた理由……それにジャギは思い至り、内心で歯噛みする。
(しまっ、た……馬鹿、か俺は…………ッッ!!)
────あの兄者に。あれほど強かった、雲の上の存在だった兄者に今なら手が届く……!
…………勝てる……!!
認められない日々が続き、マコトとの出会いでようやく拳法家としての道を歩き出して……
そして、この土壇場で目にした勝機を前に芽生えたこの想い。
破滅の道を進んでいたジャギを生かし、変えさせたこの"希望"という馴染みの無かった感情が、皮肉にも先ほどの攻防に『必要以上の踏み込み』を与えてしまったのだ。
欲をかいたと言って捨てるにはあまりにも酷な、淡い希望。だが、少なくともジャギは今そう認識し、自身の愚かさを呪った。
結果として彼は、殆ど闘気での軽減も出来ない無防備な状態で、ラオウの一撃を受けることとなったのだ。
ただ、それでも。
「ぐ、ぎ……ぐ……!」
ジャギは、立ち上がる。何故なら、自分の体はまだ動くから。
……そして、マコトの願いを、彼女との約束を。まだ果たせていないから。
とはいえ、すでに立っているのもやっとという状態なのには変わりがない。
当然、拳王からすればとどめを刺すのは容易い……が、拳王はまだ、それをしない。
立ち上がったジャギを前に、自身の傷を拭うことも忘れ、ラオウはただ言葉をかけた。
「……信じられぬな。貴様に一体何があった……いや、そもそも。貴様は本当にジャギなのか?」
「…………」
「信じたいものが出来た、と言ったな。何かは分からぬが、それの影響か」
「まあ、な……まあ……なんていうか……あれだ」
少しばかり、言いにくそうに。しかし、それ以上に誇るように。
ジャギは、言葉を続けた。
「────俺には、希望の女神様ってやつが憑いちまってるんでな」
「────────」
戯言を、と切って捨てるのは簡単だった。
しかし、ジャギのここまでの戦いぶりに加え、何より今もなお不敵に笑う心の強さ。
それを見ると拳王をしてその言葉を吐くことは、はばかられた。
故に、この場でラオウが返すもの……それは、拳しかない。
ラオウは改めて、ジャギを見下していた弟ではなく、一人の強敵として打ち倒すことを決めた。
「そうか……良いだろう! ならば俺は、貴様のその希望とやらごと打ち砕いて────」
その時。
ラオウの言葉が言い終わらないうちに、ザッと足音とともに、気配が現れる。
「……へっ」
それを同時に感知したジャギは小さく笑い……そのまま倒れ込む。
そして、ラオウはそのジャギの姿を目に収め……あえて気配の方へは振り返らないまま、静かに、
「────ジャギが言う希望とは、お前か」
「…………」
「久しい……いや、お前が"そう"なってから会うのは初めてか。────ならば、改めて名乗るがいい」
「────────リュウガ、ユリアの妹……そして、北斗神拳の使い手、マコトです。……希望の女神は、出来れば勘弁してください」
★★★★★★★
「ラオウ……」
「…………」
「貴様たちも来たか、トキ、ケンシロウ」
私の後ろから現れた二人に……その中でもやはり、トキさんに対して強い注視の目を向けるラオウ。
それは、単純な強さや拳法の相性からくる脅威という以外に、もう一つ。
彼ら二人が、実の兄弟だという関係によるものだろう。
彼ら二人もお互い言いたいことは色々あるだろうが、今この場で用があるのは私だ、と一歩前へ出る。
「ラオウ、あなたを止めに参りました……レイさん、ジャギとの連戦でお疲れなら、このままお帰りいただいても構いませんが」
「フ……ユリアの後をついて回っていたハナタレ小娘が抜かしよるわ。トキならばともかく、にわか仕込みのお前の拳でこの拳王と打ち合えるとでも思ったか?」
ぬんっ、とラオウが腕をこちらに向けると同時、闘気の圧が暴風となって私に襲いかかる。
それを無防備な、棒立ちのまま受けようとする私に対し、倒れ伏したままジャギが「マコト!」と緊迫した声で呼びかける。
「ふぅっっ!!」
「むぅ!」
それに対し心配無用、とばかりに私は闘気を展開。
かといってその闘気の質は、ラオウの闘気に対抗するような暴風ではない。
その風に晒されてもなお受け流す……いうなれば、柳のイメージだ。
「ほう……その闘気……なるほど。お前は、トキの教えも得ていたのだったな」
「……にわかなのは認めますが、これでも、私は勝つつもりで来ていますよ」
「面白い」
と、その言葉とともにラオウが見るのは、またもケンシロウさんとトキさんの方だ。
これは言外に『お前たちはそれでいいのか?』と彼らに問うているのだろう。
……北斗神拳使いに多対一は無い。
正直なところ私はそこまでその掟に強いこだわりは無いが、少なくともケンシロウさんやトキさんはラオウ相手にそれをしようとは思わないだろう。……途中交代という形でならともかく。
それに、私としてもこの先ラオウ以外の強敵とも戦うことになると考えると、やはり手段を選ばずこの戦いにだけ勝てばいい、とはならなかった。
なので、ラオウからして最も警戒しているトキさんじゃなく、まず私が一対一で戦うということに、こうした確認を挟むというのは至極当然の流れと言えた。
……だが、それはそれとして。
ラオウが彼らに目を向けたと見るや、足先に溜めた闘気を爆発させボッという炸裂音を残す────最近になって"
「!!」
ラオウが発する闘気が形成する、拳の幻影をくぐり抜け、ラオウ自身の迎撃も柔拳で受け流すと、私はあえて真正直に、真っ直ぐに。その拳を放った。
当然、ラオウはそれを残った片方の手のひらで受ける。
が、バチィっと激しい音とともに受けた衝撃に、ラオウの表情がほんの少し、険しいものに変わったことを私は確認した。
「────────」
「ぬぅ……!」
……私がこの時、今の自分の力を誇示するような形でラオウに突っかかったのは。
自分のとある心の動き……その衝動の発露のため。
アミバではないが、目の前に対峙してなお、こうもトキ、トキとばかり気にされると私としては面白くないというか……
そう、"妬ける"ものがあったのだ。
「……気持ちはわかりますが、あまりつれなくしないで欲しいです」
何しろ。
龍渦門鐘にしたって。
トキさんから学んだ柔拳にしたって。
いや、他のあらゆる修行も、これまでの戦いも。
この世界で目覚めてからというもの、その行動ほぼ全ての照準は、行き着く先は。
今、このときのためにあったのだから。
「────私は、今までずっと、貴方を