原作、北斗の拳を読んだ時からずっと疑問に思っていた。
リュウケン、オウガイ、ジュウケイ……
あくまで描写されている範囲内での話にはなるが、それぞれの拳法の師匠である彼らは、修行の厳しさとは裏腹に肝心な部分での放任主義が目立ち……言ってしまえば、説明不足のために弟子が悪影響を受けたという事例が少なくない。
ただ、それにしたってサウザーの伝承の件。
いくらオウガイ自身が満足して逝ったからと言っても、死に際のあの一言二言だけで終わらせるのは、サウザーに対しあまりに酷な話ではないか。
いや、一言かけられただけまだマシだ。
ただでさえ目隠しによりサウザー側の余裕が無い以上、サウザーが目を開けたときには、オウガイは完全に物言わぬ骸となっていた可能性すらあるのだ。
そうなったら何故自分が師匠に襲いかかられたのかすらも理解出来ないまま、愛深き彼はその場で混乱とショックのあまり廃人にでもなっていたかもしれない。
そんな凄絶な継承の儀を目の前にして。
あれほどサウザーに愛を注いで居たはずのオウガイが、彼に何も遺していない、という方が不自然な話ではないだろうか、と。
そんな風に考えた私は、ラオウに対する敗戦後、リュウケンさんからの伝承を終えるとそれを探しに旅立った。
原作知識についての話をしていない以上、普段のように彼らと行動を共にしているならばこういった奇行の説明は難しいが、一人きりのこのタイミングならばちょうどいい。
おまけに、探すのに相応の時間がかかるだろうと覚悟していた南斗鳳凰拳の修行場については、運良く通りかかった
通りすがりからの武力を伴う情報収集は北斗神拳伝承者のたしなみである。
そうして、南斗鳳凰拳の修行場にたどり着いた私は。
「…………普通にあったなぁ……」
拍子抜けするほど、あっさりと。
目的のものを手に入れることが出来たのだった。
何しろ、普段使っていたであろう部屋の、最も目立つところにでん、と置かれていたのだ。
おそらくサウザーが継承し、身辺整理などをしている時に必ず見つけられるようにしていたのだろう。
……だが、そうはならなかった。
おそらくサウザーは師を失った直後から狂い、その亡骸だけを抱えて飛び出し、聖帝としての道を歩みだしたのだろうから。
ならば、これは本来見るべき人間が見なければならないものだろう、と。
差出人と宛名が、私の知る彼らであることだけを確認すると懐にしまい込んだ。
そして、旅からの帰還後。サウザー率いる聖帝軍と戦いが始まってからの私は。
誰も死なせないことを第一前提に、その上でこの遺言状を彼に突きつけることを目標にし、これまで動いていたのだ。
……彼に、これを見せた結果どうなるのかは、私にも分からない。
もしかしたら私が知る原作から外れ、よりひどいことになる可能性もあると考えると、空恐ろしいものがある。
それでも。
「思いついちゃったなら……しょうがない。うん、しょうがない」
────────私はどう思われようと、自分に出来ることを精一杯やる。
サウザーに向けて放った啖呵ではあるが、これはたとえ敵であるサウザーに対しても、何も変わることはないのだから。
★
遺言に書かれた筆跡を見たその瞬間、これが偽物である可能性はないと判断したのだろう。
サウザーは私からまさに無我夢中というような勢いでそれを奪うと、目の前に先程まで戦っていた者がいることすらをも忘れたように、一心不乱に遺言状を読みだした。
……おそらく今この場の私から闘気が無くなっている、というのも感じた上での行動だと思うが、それにしても彼にとって、師がどれほど大きな存在なのか。
この一幕だけで窺えると言えた。
そして、その師が彼に遺したもの。つまり、この手紙の中身についてだが…………
「…………お前がわざわざこれを持っていたということは……お前はもう、これを読んだのか?」
当然の疑問だ。
……でも、私は。
「いいえ。宛名と、差出人と。そして、これがまだ誰にも読まれていない状態だったことだけを確認して、懐に収めました。……南斗鳳凰拳の伝承については、その、知っていたので、もしかしたら必要になるかもしれない、と」
「そうか…………そうか…………」
そう、私はまだこの遺言状の中身を改めていない。
ただでさえ遺言を読んだサウザーがどういう行動に出るか分からない以上、安全を考えるなら検分して、渡す渡さないの判断をするべきだったのは間違いない。
……それでも、これを最初に読むのは荒らしに来た野盗でも私でも無く、サウザーであるべきだ、と。そう思ったのだ。
────そして、サウザーが遺言を読み終えた。
「…………」
……遺言など関係ないと再び襲いかかってくるか、それとも戦い自体を止めるか……今の彼の表情からはこの後取る選択は読み取れなかったが、どうなっても対応できるよう、私は静かに闘気を高め、身構える。
そして、サウザーは……まず、目を閉じたまま顔を天に向け、何事か考える。
その後ばっ、とこちらを見たかと思うと、そのまましばらく、形容しがたい複雑な面持ちのまま私の顔をじっと見つめた。
「…………っえっと」
戦いにおいて互いに目を合わせる、という行為は数え切れないほどやってきたが、それ以外でこうも視線を交わし合うというのは慣れていない。
サウザーの内心が掴みきれないということもあり、少々の居心地の悪さに、私がおもわず声を出した、その時。
「…………軍は、引き上げる。……二日後、十字陵にて、待つ」
静かな。
だけど、有無を言わせぬと言わんばかりの確かな力強さを以て。
ただそれだけを私に伝えると、そのままサウザーは背を向け、去っていった。
そして、それを聞いた私は────────
「ぇ、あ、はい。行きます、必ず。えっと、昼頃でいいですか?」
……この場での拳を収めるどころか、レジスタンスと戦っていた聖帝軍まで引き上げさせるという、予想以上の結果。
それを突きつけられた途端、臨戦態勢だった緊張が剥がされ、思わず呆けた素のテンションのままに返事をしてしまった。
どの道行かないという選択肢は無かったので、行くと言ったこと自体に問題はないが……
サウザー達が去り、一人になった今、改めて思い返すと。
私が取ってしまった、殺伐としたこの世紀末にあるまじきのどかな返答は、まるで。
「…………デートの約束じゃ、あるまいし」
あの瞬間の私はもしかしたら、サウザーの内から湧く気迫に呑まれていたのかもしれない。
決着には、改めて気を引き締め直して臨もうと決意するとともに。
せめて、サウザーがおかしな受け取り方をしていないことを祈ろう、と思った。
★
その後、一度レイさん達と合流しお互いの状況を報告。
宣言通りサウザーの部下達が一斉に下がったことと、ユダ一派の撃退に成功したことを知る。
……しかし、まさかレジスタンスに居たあの男が副官ダガールで、おまけにダム爆破の実行部隊として来ていたとは。
アイリさん達には危ない橋を渡らせてしまった、と冷や汗をかいたが当の彼ら……特にアイリさん本人は、兄達の役に立てたとご満悦だった。つよい。
そして、私からはサウザーと戦い、その後流れにより一旦勝負を預けることになったことを説明する。
「マコトならここで決着をつけることも出来たのでは?」
という至極当然の疑問もレイさんから飛び出したが、これに関しても私は少し考えがある。
実は私は、あの場でサウザーを倒し切るのは出来るだけ避けたいと考えていた。
それは単に、彼にオウガイの遺書を渡したかった、というだけではない。
……この考えが正しかったかどうかは、次に聖帝十字陵で彼と会った時に分かることだろう。
そして私達は、サウザーとの戦いから二日後。
約束通り、聖帝十字陵へと足を踏み入れたのだった。
★
遠くからでも分かるほどに大きく、高くそびえ立つ聖帝十字陵。
そこにたどり着いた私は、おもわずその威容に目を奪われそうになった、が。
何よりもまず確かめるべきものがある、と素早く周囲に目を配らせる。
そして。
(よしっ……!)
サウザーの部下こそ近くにいるものの、特に武器を突きつけられたり、拘束されたりしている様子も無く佇む子どもたち。
さらに、聖帝十字陵の頂で、革製の戦闘衣だけを身に着け、すでに臨戦態勢で私を見下ろすサウザー。
この光景を目にし、私は。
この戦いにおける最も大きな懸念事項がほぼ解決した、と内心で力強く拳を握ったのだった。
このサウザーとの……いや聖帝軍との決戦にあたり、私が最も恐れていたこと。
それは、労働力としてかき集められた罪のない子どもたちを人質に取られることだ。
原作においては彼らに加え、ケンシロウさんの敗北によりシュウさん達レジスタンス本部が襲撃を受け、レジスタンスの母子たちまで人質に取られた。
これにより、シュウさんはほぼ抵抗すら許されずサウザーに殺されることとなる。
その後、サウザーとケンシロウさんとの決戦により、ケンシロウさんは勝利するわけだが……
これに関してはサウザーが『人質など必要でない』と、自らこの絶対的優位を投げ捨てて戦ったためであり、もし人質をフルに活用されていたなら、勝負の行方がどうなったかは分からない。
ただ、これに関してはたまたま運良くサウザーが気まぐれを起こしたわけではない、と私は考えている。
すでにケンシロウさんに一度勝っている、という油断もあったかもしれないが、それよりも何より。
認めていた男、仁星のシュウさんが愛のために戦い、そして死んだことによりサウザー自身の感傷が呼び起こされた。
これにより同じくシュウさんに対する愛、哀しみのために戦おうとするケンシロウさんに対し、自らの拳で決着をつけたいと考えた……というのが、彼の選択の理由なのではないだろうか。
事実、シュウさんを慕う少年に攻撃をされ、怒りを表すでもなく彼が自らの過去を語ったのは、この直後のはずだ。
私は今回、可能な限りそれに近い状況を作ることで、聖帝軍対レジスタンスではなく、サウザー対私という個対個の構図になるよう動いてきた。
そのために、最初のサウザーとの邂逅でトラウマを刺激するような真似をし、そしてオウガイの遺書を渡した。
怒りにしろ何にしろ、彼の感傷を呼び起こした上で、注意を私に向けることこそを最優先としていたからだ。
あの場で決着をつけなかったのも、それによりサウザーの部下が暴走し、子どもたちに予期せぬ危害を加えられる可能性を憂慮したのだ。
そして、その小細工は今。
サウザーが部下にも、人質にも一切の執着を見せずに、私のみを鋭い目で見据えていることから、ほぼ成ったと考えて間違いないだろう。
ふぅ……と。気は緩めないようにしながらも、バレないよう内心で一息つく。
…………ユダの謀略やらといい、ここしばらくは考えないといけない要素が多く、はっきり言って胃が痛い日々ばかり過ごしたものだ。
だがおそらく、その甲斐はあったといえる……はず。
────あとは。
「望み通り、来ましたよ、サウザー。…………ここで、決着をつけるつもりということで、間違いないですね?」
私が、彼に。
おそらくは、原作とは全く違う心の在り様から振るわれる、南斗最強の拳を相手に。
勝利を、掴み取るだけだ。
★★★★★★★
「…………来たか、マコト」
ぎらり、と。聖帝十字陵の頂から、自身を見上げるその女マコトに、サウザーは視線を向ける。
その視線に、一昨日にあったような理不尽な怒りの気は、ない。
しかし、かといって和睦をし、これから手を取り合おう、などといった生温い気配もまた、微塵も無い。
ただただ鋭く。打ち倒すべき敵としてマコトを見据えている、とその場に居る多くの者が感じていた。
その内心をより知らしめるかのように、サウザーは口を開く。
「まず、我が師オウガイが遺したものを届けたその働きに。そして、その権利を持ちえながら中を改めなかったお前の、その心に。────感謝をしよう」
その言葉を受けどよめいたのは、サウザーの部下や戦いを見届けに来たレジスタンス達だ。
恐怖と力の象徴、聖帝として君臨してきた、まさに暴君ともいえる存在であるサウザーが、まさか一人の小娘に真っ直ぐな感謝の念を伝えるとは。
バットやリンなどは驚きとともに、もう戦わなくても良くなったのでは、とまでささやきあっている。
……が。
「────でも、止まるつもりは……無いんですね」
「無論! 俺は全てを統べる者、聖帝サウザー!! 俺を止められるものは愛でも、情でも! ……っ、死人、の言葉でも無く、ただ一つ! 拳のみだ!!」
大気を震わすがごときそのサウザーの宣言を聞き、マコトは動揺した様子も無く。
ただ一言「そうでしょうね」と小さく呟くと、聖帝十字陵の階段半ばで静かに構えた。
と、その時。
この場にいる殆どの人間には届かないほどに小さく。
きりり、という何かが軋むような音が鳴る。
その音の出どころである弓を引き絞るのは、聖帝軍の男。
自分たちのボスが、どういうつもりで自分たちを下がらせたのかは知らない。
が、彼からすればわざわざ正々堂々と戦わせるまでもない。
「へへ……あばよ、北斗の女」
この場で後ろから撃ち抜いてやれば、あの女はどんな顔をして崩れ落ちてくれるか。
そんな、下劣な想像を働かせながらもその凶弾をマコトに放とうとし……
突然後ろから現れた、自分の頭をすっぽりと包むほどの巨大な手に、無造作に首ごとねじ切られた。
「────手出しはならぬ。この闘いを汚す者は許さぬ!」
「な、ひえぇ!! 貴様らはっっ!?」
「ほう……来たか。ラオウ、トキ」
驚愕の声を上げ散り散りに離れていく部下たち。
その中心に位置する圧倒的な存在感を持つ二人の男に、サウザーは一声をかけ……
かと思うと、すぐにマコトに目を戻した。
「…………?」
北斗の二人の男。特に同じ覇を競う相手であるラオウを目にしたにしては淡白というか、言ってしまえば、そっけないとでも言うような。
そんなサウザーの様子に、ラオウとマコトは揃って、一瞬訝しげな表情を作る。
「────では、かかってくるがいい、当代北斗神拳伝承者、マコト!! 帝王の名のもとに、ここを北斗神拳終焉の地としてくれるわ!!」
が、高らかに放ったその言葉とともに、早くも開戦へと動いたサウザーを見て。
一人は見極めるために、一人はそれを打ち倒すために。
彼らは疑問も考慮も、今は頭から追いやることにしたのだった。
★
「ぬぅ……」
サウザー、マコトの戦いが始まり、少し経ったあと。
彼ら、特にラオウは内心で、大きな驚愕と戦慄を覚える自らの心を自覚していた。
驚きの理由は、今目の前で繰り広げられる戦いのレベル……すなわち彼らの強さに対してだ。
マコトに関しては、分かる。
世紀末覇者拳王たる自分をアレほどまでに追い詰めたのは彼女のみであり、その頃に持っていた弱点……自らの強さを信じるというプライドの欠如すらをもすでに克服したのならば。
アレもまた怪物に化けている可能性は、十分に考えられる事態といえた。
だが、サウザーはどうか。
確かにサウザーも、ラオウにして生涯最大の宿敵といえるほどの恐るべき敵ではある。
だが、それはあくまで北斗神拳の秘孔が通じないという特異体質を加味した上でのことであり、トキが知るその秘密さえ解明出来たならすぐにでも倒し、屈服させようと。
そういう相手であるとラオウは認識していた。
そしてそれを鑑みた上で……戦いにおいて、こちらの想定の及ばぬ手練手管をいくつも持ち合わせており、北斗神拳以外の戦闘法をも見せたマコトなら、たとえ秘孔の謎を解いておらずとも。
この戦いはまずマコトが有利に運ぶだろう、とラオウは見ていた。
何より、妙な視点で物事を見ているように思えるあの女ならば、それこそ秘孔の謎すら知っていてもおかしくはない。
────しかし。
「オォオオオオッッ!!」
「────つっう、でぇぁりゃああっ!!」
「…………強い!」
以前に拳を見た時とは比較にならぬほどの速さを、勢いを以て振るわれる南斗鳳凰拳。
並の拳法家では残像すら目に追えないであろうその拳は、たとえ秘孔の謎が無かったとしてもそう簡単には……と。
見ているラオウに汗をかかせるに足るほどの、凄まじいまでの力を誇っていた。
そして、何よりラオウが分からなかったのは。
「……分からぬ。やつのあの表情は、一体なんだ?」
その拳を振るうサウザーの表情、感情だ。
それは、ラオウがよく知る怒りでも、サウザーが聖帝であることを知らしめる傲慢さでもない。
静かに、どこか澄んだ目で……にもかかわらず、振るわれる拳は遠慮容赦の欠片もない、あまりに鋭すぎるもの。
ただただ目の前の相手に打ち勝とうと……いや、ただ勝つというのも違うような、そんな形容しがたい複雑にすぎる表情。
「……むぅ……」
ラオウが発した言葉は独り言だったが、それを拾ったトキすらもまた、困ったようにただ唸る。
如何に愛や哀しみといった情をラオウより知るトキでも、この事態に至った経緯は知らないという事もあり、サウザーの内心までは推し量りきれなかったのだ。
────ただ。
今のサウザーが振るう拳の強さと、それをもたらす感情の正体が分からずとも。
それをなした原因、その心当たりに関してならばラオウもトキも。
容易く一致したのだった。
何しろジャギという似たような前科……もとい前例を、すでに彼らは知っているのだから。
「……ヤツだな……」
「……だろうな……」
大体、
★★★★★★★
(────────ぜんっぜん、分からん!)
鬼神もかくやという強さで私に襲いかかるサウザー。
そんな彼と拳を合わせながら私が第一に考えていたのは、このサウザーの強さの……いや、正確には強くなった理由だ。
まず前提として、原因は原作と異なる要素であるオウガイの遺書しか考えられない。
また、私はオウガイの遺書を読んではいないが、それでも原作という形で知る彼の人となりから、書かれた内容についてはある程度の察しはついている。
おそらくは、サウザーに対して言葉で伝えきれなかった愛の言葉や、この伝承の儀に至った心情。
もしくは南斗鳳凰拳の宿命についての話といったところではないだろうか。
そしてそれを受け取ったサウザー。
彼が取るであろう反応を考えると、一つは極限まで都合よくいくならば、読んだその場でこれまで歩んだ覇道を悔い改心する……ということ。
ただ、さすがにそう簡単にはいかないだろうし、実際そうはならなかった。
この世界の人間は、とりあえず拳を合わせるまではだいたい意地っ張りであることを私はよく知っている。
もう一つは、それでももはや止まれぬ、と引き続き覇道を歩むという選択。
少なくともこの戦いが始まる前の彼のセリフだけを取ると、これが最も近いように思える。
ただ、その場合は、心の奥底にある愛が遺言でさらに強くなり、それにもかかわらず無理やり押し込めたことで、一昨日よりも精神的に弱体化していたはずだ。
……正直なところ、サウザーが止まらないならばそれはそれで戦いやすくなる、というのもこの遺書を突きつけた理由だったりする。
なので、これもない。このサウザーはどう見ても一昨日より、そして原作のこの決戦時よりも強く、何より迷いが無い。
……あとはオウガイが意外に過激派で、北斗の影に怯えていた南斗の遺志を継ぎ、北斗のくそったれどもを根絶やしにせよと遺した、なんて嫌すぎる想像も一瞬だけよぎった。
確かにこれなら今の迷いのないサウザーの強さにも説明が付くが、これはさすがに無いと信じよう。
何でもありのスピンオフ作品じゃあるまいし。
と、いうわけでしばらく戦った結論として、結局現状では分からないということだけが分かった。
それが把握出来れば戦いやすくなったかもしれないが……仕方がない。
分からないなら分からないなりに、やれることをやって勝つだけだ。
(……よし、気合入れ直しだ)
「疾ッッィィイッッ!!」
サウザーの猛攻に一瞬後ろに下がるそぶりを見せた私に、さらに追撃しようとするサウザー。
それに対し、私は急激に反転し被弾覚悟で前に出ると、刺突による攻撃を行う。
徹底して攻めに回るサウザーの戦術を前にし、引いた立ち回りで好き放題させるのは下策だ。
こうして前に出てかち合うほうが結果的にリスクは小さくなる。
「ぐ、ぬぅおっ!!」
サウザーは最初の邂逅時のように、余裕で突かせてくれたりはもうしない。
すでに虚気という形で見せたように『何をしでかすか分からない』という印象を与えている私の攻撃は、サウザーに回避か迎撃かの選択を迫ることが出来ている。
……それに、私はすでに表裏逆の秘密を知っていることを特に隠すつもりもなく、反対側に当たりをつけて秘孔を狙っている。
サウザーもおそらくすでに、私が"気づいていることに気づいている"だろう。
そして。
「せぇあ!! でぇえあありゃあ!!」
超高速で迫るサウザーの手刀を龍尾で弾き、掌底で顎をかち上げる。
十字型に切り裂く極星十字拳をかいくぐり、カウンターの拳を叩き込む。
鋭く放たれたサウザーの回し蹴りを、シュウさんの動きを取り入れた蹴り技で迎撃する。
……正面からの打ち合いで、徐々に私が押し込む場面が増えてきた。
致命の秘孔には至らないまでも、いくつもの痛撃によりサウザーの表情が苦しげに歪む。
確かに今のサウザーは恐るべき強さだが、私もまた最強の敵、ラオウとの死闘を経て大きく力を増している。
サウザーの秘孔の謎による迷いなどとも無縁な以上、そう簡単に遅れを取るわけには行かない。
────何より、サウザーはまだアレを……南斗鳳凰拳の最大奥義を、繰り出してはいないのだから。
(だから、まずはそれを引き出してからだ!)
またも放たれた極星十字拳を紙一重で防ぎながら、私はサウザーに拳を向ける。
完璧に隙を突けたわけではないが、ここからサウザーが迎撃するにせよ、回避するにせよ、すでに動きは想定出来ている。
である以上、この攻防で不利を背負わされる可能性はかなり低いと言えるだろう。
北斗神拳の奥義、水影心による技の見切りがある以上、長引けば長引くほど優位に働くのはこちらなのだから。
そんな、気の緩みとすら言えないような客観的な一つの事実。
……それに思いを馳せた私に、まるで
サウザーが次に取った行動は、私の想定を大きく覆すものとなった。
「────なっ……は、ぇっ!?」
拳が刺さる寸前に彼、サウザーが取った動きは、回避。
それも、ただの逃避ではなく、後ろに倒れ込みながら地面に手をつき、回避動作と同時に鋭く蹴り上げる、という流麗華美な動き。
「な、ばかな!?」
かろうじて身を捩るも、その蹴りによって私の身体から血が流れる。
それと同時、下から見上げていた一人の漢……シュウさんが上げた驚愕の声が、私の耳に刺さった。
……シュウさんの反応から見ても、今のは私の見間違いではない。
だが、戦闘中にもかかわらず見間違いを疑うほどの衝撃に揺れる私は、続けて放たれたサウザーの攻撃をまともに食らうこととなる。
「っっづッぅぁッ!?」
その攻撃とは、衝撃波。
直前の回避動作により離れた距離を物ともせず、ただ手を振るうだけで"それ"は遠くから私の身体を裂く。
しかし、私は今。
そんな傷の痛みなど比較にならないほどの混乱に、頭の殆どを支配されていた。
なんとか衝撃波が迫る僅かな隙間を見計らい脱出をすると、私は息をつき動揺を鎮めながら、改めて。
今放たれた二つの技について考察する。
私の拳を回避した技の名は、烈脚空舞。
そしてその後、私の身体を刻んだ衝撃波は、この世界で、この目で見るのは初めての技、伝衝裂波。
サウザーが使った技の正体を知りながら……いや、"知っているからこそ"、私は先程極限まで混乱し、狼狽したのだ。
────使えてもおかしくはない、とは思う。
────だが、それ以上に。絶対に使うはずがないのに、と強く思う。
何故なら、今サウザーが使った技。
それは、南斗だが、異なる流派……それぞれシュウさんの南斗白鷺拳と、ユダの南斗紅鶴拳。
それらを振るうという選択は、自らの南斗鳳凰拳こそが最強と信じ、敵は全て下郎とする精神の在り方と真っ向から反するはずだから。
「────────っ」
オウガイの遺書により強くなること自体は想定していた私も、この事態はさすがに考えていない。
そう思い、一体この男は何を考えているのか、と改めて。
……対峙するサウザーの、その目を見て。
(…………ぁっ)
…………全て、悟った。
(────────ああ。そういう…………ことか…………)
悟ったものは、サウザーがやろうとしていること。
そして、その上で、その先で。
この私に、求められていること。
ああ、と。
どこか他人事のように、ふわふわとした思考のままに思いを馳せる。
やはり、私は今から。この漢を。
────殺さなければ、ならないんだなあ、と。
今章の〆に向け若干書き溜めをしていました
続きは今回ほどには間は空かない気がします