【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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第四十三話

その後も、見せられるわけがない、いいや見せるべきだのと一対二の舌戦はグダグダと続いたが。

決定打となったのは、リンちゃんが放ったとある一言だった。

 

「どうしてもマコトさんが恥ずかしいなら仕方ないけど……でも」

「……でも、なんですか? 何を言われても私はですね……」

 

「……普段見れないマコトさんの姿を見たら、みんなも普段見れない反応をしてくれると思うの……マコトさんは見たくは、ない?」

「う、ぐぅぉ────!!」

 

告げられたそれは、あまりにも甘美な誘惑。

突きつけられたそれは、思わずこの子は私の出自を知った上でとぼけているんじゃないか、と。

そんな疑念を持ちそうになった程の、あまりにクリティカルな言葉。

 

見たくない、なんて言えるわけがない。

 

レイさんとマミヤさんの進展を喜び、シュウさんとレイさんの再会に打ち震え、ジャギやサウザーの行く末にロマンを見出し。

そんな世紀末を生きてきたこの私が、昔から憧れた人物たちの私の知らない反応に、興味を惹かれないなんてことはありえない。

……当事者が自分でさえなければ、どれほど良かったか。

 

思わず『ありまぁす!』と、反射的に口をついて出かけたその言葉。

が、しかし私が持つ男の記憶も携えた理性は、いやいや待て待て、としぶとくあがき続ける。

 

「い、いや、そもそも。私が着替えただけで良い反応を得られる、と決めてかかるのがまずおこがましいというか……全然無反応だったり、笑われたりして終わる可能性も普通にあるわけで……」

 

うだうだごにょごにょ、と。

抵抗と言うには、我ながらいささか弱く女々しいそのセリフ。

 

そんな私に対し「安心しなさい」と。

微笑みかけたのは、ドレスの効果か普段よりなお女性的に見えるマミヤさんだ。

 

どこまでも優しく、まっすぐなその眼差し。

そして、ケンシロウさんが姉さんの生き写しと見紛ったこともあるこの姿……

 

これは、慈母星……?

 

「あなたを見てもしそんな反応をする男がいたら……私が許さないわ」

 

娥媚刺(がびし)でも刺すのかな?

 

どうやら慈母星よりもうちょっと恐ろしいなにかだったらしい、と。

私は据わった目で宣言したマミヤさんから目をそらす。

 

同時に何故か、痛覚をむき出しにする秘孔龍頷(りょうがん)を突かれた上で、娥媚刺を刺されて叫んでいるジャギの姿を幻視した。

まあ、さすがにこれは冗談で言っているとは思うが。

 

……ここで、ふと湧いた疑問がそのまま口をついて出る。

 

「……ちなみにマミヤさんは、レイさんのところにはまだ行かなくても?」

「ええ、会うのは夜の予定だから。このドレスはリンちゃんにせがまれて、先に一度着てみたの。だから安心してね」

 

逃さないから安心してね、ですね分かります。

リンちゃん一人ならどうにか言いくるめて、と思ったがどうやらそれも叶わないようだ。

 

 

……そうして、こうして。

 

「大丈夫よマコトさん、きっとみんな驚いてくれるわ」

「ぅ……む……ぅぐ、ぐ……」

 

 

リンちゃんとマミヤさんがつけた太鼓判に押されて、北斗の漢の反応を見る、という動機も出来てしまって。

 

悩んで悩んで、頭の中でぐるぐる回って……結局、最終的には。

 

 

「ふ……二人がそんなに言うなら、し、仕方ないですね……! まあ、た、試すだけでも、とりあえずやってみましょうか、うん」

 

っと。

そういうことになった。

 

 

★★★★★★★

 

 

道中。

 

彼女たちが出会ってからこれまでに至るまで、自分がオシャレなんて……という態度を隠そうともしていなかったマコトが。

数歩進むたびに、スカーフの角度や前髪を忙しなくいじっているのを見て。

後ろを歩くリンとマミヤが、声に出さないよう笑い合っていたことを、マコトは、知らない。

 

 

存外、当代の北斗神拳伝承者はちょろかった。

 

 

 

 

ジャギは、悩んでいた。

 

 

「…………どうですか」

 

っと。

 

自分が世話になっている村の恩人であり、自分にもまたターニングポイントとなった道を指し示した女、マコト。

異常そのものな成長速度で、今や化け物といって差支えない強さを持ったその女は、突然村に訪問したかと思うと。

いきなり仁王立ちで、たったそれだけのセリフと共にジャギの前に立ち塞がってきたからだ。

 

当然はじめに出たのは『何やってんだこいつ?』という困惑に満ちた感想。

次に湧いたのは、妙な語気の強さと眼力(めぢから)から、戦いにでも来たのかという想像。

 

実際、そのままのセリフは喉まで出かかった、が。

よくよく見ると。

 

「…………笑うなら、別に笑ってもいいですよ」

「…………」

 

視線は泳ぎ、引き結ぼうとしている口元はおかしな形に歪み。

あまつさえ全身はプルプルと小刻みに震えている。

 

彼女らしからぬ言葉数の少なさといい、耳まで赤く染まった面持ちといい。

気づけば、どこから見ても彼女の状態はいっぱいいっぱいである、と。

そう言ってしまっていい有様であった。

 

おまけに後ろには、その様子を微笑ましそうに見る仲間の女二人。

さらに自分の隣には、それ以上に笑顔満点といった体のバァさん、村の村長であるトヨだ。

 

(…………あぁ~~……)

 

……道を踏み外していた頃は当然、この村に来た直後に同じ事態に陥っても。

彼は何も察することが出来なかっただろう。

 

が、用心棒といった形で村に入り、多少なりとも対人経験を積んだ今なら。

『わがままなガキども』に合わせるために、多少不本意なことでもやるべきことをやってきた、今のジャギなら。

 

 

「…………笑うところなんかねえよ。……まあ、良いんじゃねえか」

 

そう、簡潔に。

彼女が立たされている状況を理解した上で、そんな"空気を読んだ称賛"をすることぐらいは、出来る。

 

「…………っ!」

「わぁ…………っ!」

 

驚いたように口と目を小さく開くマコトと、手を口にあて喜色をあらわにするリン。

 

その様子に、先程まで満ちていた謎の緊迫感の霧散を感じたのだろうか。

ワッと、村の子どもが彼女たちを取り囲んだ。

 

「救世主様きれーい」だとか「かわいいー」だとか「いつ結婚すんだー」だとか。

好き勝手に囃し立てられるそれらを、幾分余裕を取り戻した様子のマコトやジャギは軽く茶化し、流す。

 

「いやぁそれほどでも……ちょ、ちょっとスカート引っ張るな、やめ、やめなさい」

「なにやってんだ……オラ、あんままとわりついてんじゃねえぞガキども」

 

そんな様子に、リンやマミヤは再び、満足そうに顔を突き合わせ笑ったのだった。

 

 

……ただ、そんな中にあって、一つだけ。

 

「ねえねえー、ジャギと救世主様ってどっちが強いのー?」

「────────っ」

 

っと。

無邪気に問いかけられた、そんな言葉を受けた瞬間。

 

ジャギは確かに、ほんの一瞬ピタッと。

その動きを、止めた。

 

 

★★★★★★★

 

 

────────驚いた。

 

それは、いざ見せるという段階になって、緊張やら何やらで全く口が回らなくなった自分に対して、というのもあるが。

 

何より、そんな状況を受けて理不尽にも答えを迫られたジャギが。

本来辿る歴史で外道に堕ち、どうしようもない悪党に成り果てたあのジャギが、見事状況を理解し慮った答えを返してくれたことに、だ。

 

正直なところ、からかわれたりするぐらいならマシで……そもそも完全に気づかれなくてダダ滑りする、という恐ろしすぎる事態も覚悟していた。

それだけに、彼の答えを聞いた私は、内心小さくない衝撃を味わったのだ。

 

……いや、考えてみれば当たり前だ。

違う道を歩き、違う心を手にし、そして自分の人生を歩んでいるジャギ。

それが、私が知る記憶などとはまるで別物の存在となっているのは、"何でもない普通"のことだ。

 

そして、その何でもない普通が。

普通にまっとうな人生を送れている彼の今が何よりも嬉しい、と。

私は素直にそう受け止めた。

 

……初めにジャギに披露しに来たのは。

単にケンシロウさん達が見当たらなかったってことで、最も近場に居る知り合いに来た、というだけであった、はずだ。

 

それでも、今では彼のその答え一つに。

大げさかもしれないが、これまでの人生が肯定されたかのような、そんな高揚感に包まれ。

それとともに、私をガチガチに縛っていた緊張もいつしか消えていた。

ここに来てよかった、と思う。

 

 

────だから。

 

 

「ねえねえー、ジャギと救世主様ってどっちが強いのー?」

 

そんな他愛もない質問に、ジャギの身体がほんの刹那、硬直したのを我ながら目ざとく見つけると。

 

今度は私の番だな、と。

内心、グッと拳を握り決意したのだ。

 

 

★★★★★★★

 

 

『なにか、悩み事があるんじゃないですか?』

 

(────────っ!)

 

先程の質問に一瞬の躊躇の後、ただ「さぁな」とだけ返し、以降は平常通り対応していたジャギ。

そんな彼の耳にだけ聞こえたのは、子ども達の喧騒に包まれる中で発せられた、ごく小さな声量による問いかけだった。

 

究極の暗殺拳、北斗神拳。

その使い手である彼女らは、聴力という点においても常人のはるか上を行く。

本来の伝承者であるケンシロウなどは「2キロ先の内緒話すら聞き取れる」とされるほどだ。

 

故に、確かな意志と指向性を持った声を小さく小さく発したならば。

拳法の素人ばかりのこの場において、"堂々と内緒(ひそひそ)話をする"ことなど彼女たちには容易い。

 

そして、そんな彼女の問いかけに対し────何故分かった、だとか何故そんなことを、という今更な質問をジャギは返さない。

マコトはこういう人間であり、だからこそ自分が今、ここにいることが出来る。

そのことをジャギはよく知っていたからだ。

 

だから、ジャギは観念したように。

心の内を素直に話すことを選んだ。

 

『……最近ガキどもが拳法を学びたい、と言ってきてやがる。野盗どもと戦う俺を見てこうなりたい、ってな』

『……結構なことではないのですか?』

 

マコトのその返答をいや、とジャギは否定する。

 

『教えたとして、だ。俺の拳法は……お前は肯定してくれたとはいえ、断じてキレイなものじゃねぇ。これを学んで外に出たガキどもが、俺の拳法のせいで忌み嫌われ……果ては、お前と会う前の俺のようになっちまうってこともありうる』

『…………』

 

……それは、北斗神拳を彼なりに真剣に考え、その上で編み出した戦い方を。

誰にも認められない不遇の時代を長く過ごした、ジャギだからこそ至った懸念。

 

彼らが行く先で会う人物が。

マコトのように、純粋な拳力でなく武器や小細工も用いるような、そんな在り方を肯定してくれるものばかりとは限らない。

仮に居たとしてもそれは、後ろ暗い人生を送ってきた野盗だとか、そんな日陰を生きる連中ばかりになるのではないか、と。

 

────それに。

 

『……それに、俺はもうお前に負けちまってるからな。本当は、お前みたいなやつが教えるのが良いんじゃねえかと思っている』

『どちらが強いか、という質問で詰まったのはそういうことですか……なるほど……それなら……』

 

それならば、と僅かな間を置いて。

 

 

「────ジャギ」

「あん?」

 

 

これまでのような内緒話でなく、子ども達にも聞こえるよく通る声で。

女性的な装いを披露しに来たはずの少女は、格好や年齢相応の朗らかな笑みを浮かべ。

 

それでいて、バキキッと。凶悪なまでの力を拳に込めながら、言葉を続けた。

 

 

「せっかく来たんです。久しぶりにってほどではありませんが……軽く手合わせをお願いできますか?」

 




二話で終わらせるつもりだったんです
本当です
さすがに次で終わるね間違いない
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