【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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突然の自分語り失礼します
北斗の拳で特に好きな悪役はゴンズ様です
突然の自分語り失礼しました


第四十四話

★★★★★★★

 

 

「ぷふぅ────……」

「ふぅ、ぐふぅ……はぁ……!」

 

「お、おぉ~~! すげぇ~~……!」

 

その後。

どちらが強いか、という質問があったことからも興味を持つ子どもは多かったのだろう。

マコトの提案を大喜びで後押しする声にも逆らえず、ジャギはなし崩し的にマコトと組手をした。

 

結論として、子ども達から見たその結果は、ほぼ互角。

互いに極めて高度な、それでいて子ども達にも分かる範囲内での技術を見せつけ合った上で、互いに余力を残しその手合わせは終了となる。

 

(……やっぱバケモンだぜ)

 

……スカーフこそ外したとはいえ、動きやすさを重視した普段とは違う、ましてや下はスカートという装いのままで。

おまけに教育に悪いものは決してお見せしない、とばかりにその場から殆ど動かず、服も破らせず。

半ば本気で放った北斗羅漢撃までをも苦もなく捌ききったという事実に、ジャギは内心嘆息したが。

 

強い……いや、また強くなっている。

ジャギもあれから研鑽を欠かしたつもりは無いが、彼女が生き抜いてきた実戦の濃密さはそれ以上のものだったのだろう。

 

しかし、と。組手を終えたジャギは頭をひねる。

今大事なのは彼女の単純な強さではなく、その目的の方だ。

彼女に限って突然、自分の力の誇示のために手合わせを申し込んだということはないだろう。

 

 

一息つきながらにジャギが抱いた、そんな疑問は。

 

「救世主の姉ちゃんもすんげー! ねえねえ、どうやったらそんな強くなれるの!?」

 

という。

手合わせを終えた途端飛びついてきた、子ども達の無邪気な声で氷解することになった。

 

 

(────あぁ、なるほどな)

 

 

マコトがこの組手で示したもの。

それは、かつてジャギに提示したものと同じ。

すなわち可能性……選択肢だろう。

 

ジャギの強さばかりを見て育つのが問題なら、他の強さを見せつければいい。

事実、以前マコトがこの村を救った戦い。それを知らない者は特に、彼女の強さに興味津々だ。

 

自身の拳が絶対無敵のものではないことを知った今。

何も知らぬ子どもたちの妄信的な憧れも風化していくはずだ。

ジャギはそう結論づけた。

 

 

……そう、これでいい。

マコトに認められた自分の拳を卑下するつもりは無いが、邪道で無い拳で生き抜いていけるなら、それに越したことはない。

ジャギは子ども達にそれを教えたマコトの助力に感謝し……

 

(…………へっ)

 

その上でなお、ほんの少しばかり寂しい、と。

そう感じる自分の女々しさに自嘲した。

 

 

だが、それもすぐに押し込むと。

ジャギはマコトの思惑に乗ろうと仕上げの声をかける。

 

「お~お~、良いじゃねえかお前ら。わりいがマコト、兄者ぶっ倒して暇になったら、ガキどもをしごいてやってくれや」

「…………」

 

「えぇ!? いいのー!? オレらも姉ちゃんみたいに強くなれるのかー!?」

 

 

当然、歓喜の声を上げる少年。

 

その反応に満足気にジャギは頷くと、当然来るであろうマコトの了承を待つ。

 

 

と、その時。

 

突然、ジャギは服を小さく引っ張られる感触を受け、そちらに目を向けた。

 

「…………」

 

それを行ったのは、最初からジャギの近くに佇んでいた一人の少年。

「あん?」というジャギの困惑を受け、少年はおずおずと……

しかし、はっきりとそれを言った。

 

「…………おれ、いい。救世主様より、ジャギに教えてもらう」

「ほう、それはどうしてですか?」

 

少年の発言に、食い気味に続きを促したのはマコトだ。

 

少年はマコトを見て……少し申し訳無さそうな顔をしたかと思うと。

目を閉じながら、叫んだ。

 

 

「だって……だって、前におれたちを助けてくれたのは、ジャギなんだもん! ジャギみたいになりたいから、おれは強くなりたいんだ!」

 

「────────っ」

 

……と。

 

そんな、力強い叫びを受け。

 

一瞬しん、と静まり返ったかと思うと。

 

やがて俺も、僕も、と。

全員では無いにしろ、子どもたちは口々に賛同の声を上げ、ジャギに寄り添っていった。

 

 

「────残念、振られてしまったようです」

 

ふふんっ、と。

その様子を見て、言動と一致しない嬉しそうな表情のままただ笑うマコト。

この事態に混乱しているのは当のジャギのみだ。

 

「な、なんだお前ら、何言ってやがんだ?」

 

ありえない、意味がわからない。

 

より強くて、実際に兄者たちを含む多くの人間に認められているマコトの拳法。

邪道で嫌われものな自分の拳より、どう考えてもそちらを学んだほうが良いに決まってる、とただただジャギは戸惑い続けた。

 

 

『……大丈夫ですよ、ジャギ』

『っ!』

 

その時。

再び小さな声で囁きを飛ばしたのは、当然マコトだ。

 

彼女は、以前ジャギと雌雄を決したあの時のように。

幼い子どもに言い聞かせるように、言い含めるように、ジャギからして慈愛すら感じる微笑みとともに。

 

戸惑うジャギに、ゆっくりと。

 

それを、口にした。

 

 

『彼らにとっての……"世紀末救世主(ヒーロー)"は、他ならぬあなたなのですから』

 

「────────あ……?」

 

 

────ジャギが、考えた通り。

マコトが子ども達に示したものは可能性であり、選択肢だ。

だが、マコトは子どもたちがジャギに向ける憧れの視線から、こうなることをほぼ確信しながら、それを提示した。

 

井戸問題やジャッカルの襲撃といった村に訪れた最初の危機、その際の貢献から救世主様だなんて言われているが。

あの時は子ども達の前ではあまり拳法を振るっていない上、あれから新しく増えた子ども達も含めて。

彼らが間近で見続けたのは、マコトでなくジャギが戦う姿である。

 

それにより長く根付いた憧れは、ちょっとやそっとの新しい選択肢で簡単に揺らぐものではない。

いや、むしろ選択肢があった上でさらに自ら選んだことで、より強固な心持ちで学ぶことが出来るはずだ。

……それはマコト自身、未だブレずに持ち続ける北斗神拳への憧れ、という形でも証明している。

 

だから、マコトは自信を持って改めて言う。

進む道の正しさを信じられなかった昔のジャギとは違う。

最高の目標が……確かなヒーローが居る彼らが、不幸になることなどきっと無いだろう、と。

いや、たとえこの先に苦難があったとしても、ジャギの拳を学んだことを後悔することなど無いだろう、と。

 

……そして、それでも不安なら。

 

『そんな苦難が起こらないぐらいに、それこそジャギが、圧倒的に強くしてやればいい……違いますか?』

 

っと。

 

 

……マコトの、そんな考えを聞いたジャギ。

 

彼は、何かを思い出すかのようにしばらく目を閉じたかと思うと……ぽつり、と言葉を漏らした。

 

 

『────────はん、理想論、じゃねぇ、か』

 

 

『えぇ、理想論です。……お嫌いですか?」

 

 

ああ、嫌いじゃない。嫌いなわけない。嫌いになれるはずが無い。

ジャギは、自分こそがこの世で生きる誰よりも。

その理想論に救われた男であることを自覚しているのだから。

 

 

……だから。

 

 

「けっ……! しょうがねえやってやるよ! ……どいつもこいつも、物好きな野郎ばっかだぜ」

 

「全くです。……案外、物好き多かったりするんですよね、この世界」

 

 

最後は、周りにも聞こえる声で。

お互い多くのものを含む言い草での、そんなセリフとともに。

 

ジャギとマコトは、理想を胸に笑いあったのだった。

 

 

 

 

「マコトさん、あの後何人かの子ども達と話してたけど、やっぱりマコトさんも教えるの?」

「うんうん! マコトさんならきっといい師匠(センセイ)になるんじゃないかな」

 

マミヤ達からそんな質問が飛んできたのは、ジャギ達と別れ、一旦元いた村へと三人で帰ろうとする道中でのことだった。

 

……元々彼女たちの仲は悪いものではなかったが、今日だけでずいぶん気安く話せる間柄になったようだ。

 

「うーん……もしかしたら最終的にはそうなるかもしれませんが……それも、この後の流れ次第ですかね」

 

『この後?』と頭を捻る彼女たちに、マコトは続ける。

 

「えぇ、ちょっと思いついたというか……良い機会なので、もう一つやりたいことが出来たんですよね。……ただ」

 

そのままマコトが、そのためにはちょっとだけ遠出の必要がある、と。

なので、一旦一人で行動をしたい、と。

そんな旨を伝えると、二人は了承したのだった。

 

離れる事自体は残念に思う気持ちも二人にはあったが、すでに見たいものは見れたということもある。

特にマミヤの場合は、この後彼女に取ってのメインイベントも控えているのだ。

 

「……も、もちろん勝手に着替えたりはしませんので……多分」

「え、別にもう……いいえ、是非そうしましょう!」

 

「お、おぅ……」

 

二人的にはすでに十分満足していたので、着替えたいといったなら別にそれで良かったわけだが。

律儀にもこの装いを続行してくれると言うのならば、是非もない。

村に着くと『頑張ってね』という、合っているのかどうかも分からない激励を送り、別れることとなった。

 

 

「────ふぅ。さて、行こう」

 

 

そして、一人になったマコトは再び歩き出す。

 

衣装への羞恥心が無くなったわけではないが、何よりも好きに世紀末を生きる『いつもの感じ』となったマコトの心の前には。

歩むその足も、先程までよりはずいぶんと軽やかなものとなっていた。

 

 

「────────良いんじゃねえか、か」

 

…………その道中、一度だけ。

足取りが軽くなった本当の理由は、単に今の自分を褒めてくれた、あのたった一言のおかげではないか、と。

脳裏をリフレインする言葉とともに、そんな疑念が一瞬だけ頭をよぎったが、すぐに『ないない』と切って捨てた。

 

 

(……さすがに、そこまでチョロくはないわ、うん)

 

 

 

 

サウザーは、悩んでいた。

 

 

「が、ひっな、なんで貴様が、こんなところわらッッッ!?」

「…………」

 

一人ふらり、と立ち寄った村で行われていたそれは、鎖を巻きつけた村人をハンマー投げに見立て投げ殺し、その距離を競うという極めて醜悪な催しだ。

 

その地において今まさに新たな犠牲者を放り投げようとし、そしてサウザーに一撃のもと斬殺されたゴンズと呼ばれていた男。

その死体にも、続けて今まさに仕留めた、村を支配する頭領であった男にもろくに目を向けないまま、サウザーは一人呟く。

 

「…………外から見た俺は、このような存在と成り果てていたのか」

 

暴を振りかざし、弱者を踏みつけ食い物にする。

弱肉強食という言葉をまるで免罪符にするかのように、欲望のままに生きる醜悪な悪党たち。

 

マコトとの戦いで部下も去り、その上でマコトと師の言葉によりサウザーは。

それ以来そんな、以前までの自分を見ているような無体を働く悪党たちを、倒して回っていた。

……この辺りは拳王が治める村だったはずだが、元より敵対していた相手である以上それも関係ない。

 

だが。

 

「あ、ありがとう……ございます」

「…………」

 

助けられたことへの、確かな感謝。

しかしその中にも恐れの色を隠しきれていない村長の姿に。

サウザーは、これで良いのだろうか、と思う。

 

それは単に目の前で悪党が惨死したから、というよりは。

最大の敵であったラオウが治める村であるからこそ、聖帝として暴を振りかざしていた頃の自分を知っているのだろう、とサウザーは判断した。

実際、これまで立ち寄った村でも、ことごとく同じ目を向けられ……

果ては助けた対象に命乞いをされたなんてこともあったのだ。

 

そして、それは当然のことだとも思っている。

何しろそれらは誤解でも何でもない、純然たる事実なのだから。

サウザーが聖帝であった頃に下で抑えつけられていた者たちが感じた恐怖。

それは、今目の前に居る村人たちが感じるそれとは比較にもならないものなのだ。

 

 

(────ここで、続けるべきでは無いのだろうな)

 

そもそも、この行動自体。

熱く燃える信念や考えのような物があるわけでもない。

ただ、全てを失い何をすれば分からなくもなり、しかし何もしないわけには行かないということで、ひとまず悪党の断罪という形でマコトの真似をしていたに過ぎない。

 

その結果出来上がったもの。

それは、悪党の死体が散乱するこの地と、恐れの色をひた隠す善良な村人と、それをどうすることも出来ずただ無言で佇む自分。

今この場に師や、マコトが求めた愛と呼べるようなものがあるとは、サウザーにはとても思えなかった。

 

……もちろん、続けていったならば、いつしか見る目も変わり、異なる状況となるかもしれない。

 

だが、そこに至るまでにいたずらに恐怖や混乱を招くぐらいならば。

この辺りはシュウやマコトに任せ、自分はどこか遠いところ……そう、例えば。

この世紀末でも残っているらしい海を渡った、その果ての地にでも行くのが似合いなのではないか、と。

 

 

そこまで考えたサウザーは、そこに向け足を踏み出そうとし────────

 

 

「息災のようだな、サウザー」

 

 

と、後ろから声をかけられる。

 

振り返ったサウザーの前で微笑を浮かべていたその声の主は。

南斗の者としてかねてより親交があり、そしてサウザーが聖帝となって覇を唱えてからは、敵対し骨肉の争いを繰り広げていた相手……

 

仁星の漢、南斗白鷺拳のシュウだった。

 

 

 

 

「…………俺にも分かるようにもう一度説明してくれ」

 

 

偶然ではなく、サウザーを探し訪ねてきた漢、シュウ。

サウザーがシュウと顔を会わせたのは、マコトとの戦いを終えてからはこれが初めてとなる。

 

当然それまで敵対していたということもあり、気まずさのようなものをサウザーは感じていた、が。

当のシュウは何事も無かったのように、何故か親交のあった昔かそれ以上に気安い様子で、サウザーにある提案をした。

 

そして、彼から提案されたそれを聞かされたサウザーは……理解を拒むかのように頭を抑えながら、かろうじてそう返したのだった。

 

「まあそう言うだろうとは思っていたがな。……だが、そんなお前だからこそ、だ。サウザー」

 

そして一拍置いたシュウは、改めてはっきりと、サウザーに伝える。

 

 

「お前に、我々が面倒を見ている子どもたち……中でも特に、強さに憧れている子たちの世話を願いたい」

 

 

……シュウがした提案は、大まかに言うとこうだ。

サウザーとの戦いのため結成したレジスタンスは、そのまま拳王軍や野盗の暴虐から人々を守るために振るう。

その際、子ども達の保護も行ってはいるが、その全員の面倒を見るのは現実問題困難である。

 

中でも特に、"とある理由"によって強さを求めているやんちゃな子たちは存外多い。

故に、その子どもの世話や修行をサウザーに任せたい。

代わりに、こちらからは食料などの提供を行う……と。

 

 

改めてこの提案を聞いたサウザーは、頭を抱えながら呆れたように漏らす。

 

「……正気とは思えんな」

 

サウザーの反応は当然だ。

レジスタンスの子どもたちからすれば、敬愛するシュウを最も苦しめてきた敵の親玉。

さらに、聖帝軍に囚われていた子どもたちからすれば、自分たちを苦しめてきた張本人である。

 

そんな状況で子どもがそれを希望するのも、シュウがその発想に至るのも、どう考えてもありえない話で……

 

「────いや待て。まさかその話は……」

 

そこまで考えたところで、気づく。

まさにその通り、如何に過去ケンシロウを助けたように、子どもという可能性を大事にするシュウだとしても。

いや、子どもを大事に思うならばなおさら、シュウがこのようなことを思いつくというのは、まずありえない。

 

だが、そんな"ありえない"を起こす……サウザーはつい最近の経験から、そんな珍妙な存在に確かな覚えがあった。

 

 

「さすが、察しがいいなサウザー」

 

「…………ど、どうも……です」

 

 

笑うシュウに促され、後ろから何人かの子どもを連れながら、少しだけ気まずそうに出てきたのは。

サウザーが今頭を悩ませている、生き方というもの……それを大きく変えた女、マコトであった。

 

その姿を見て……サウザーからして言いたいこと、聞きたいことは山のようにあったが。

何よりもまず、最初に感じた疑問はそのまま口をついて出た。

 

 

「…………とりあえず何だ貴様、その格好は」

 

「…………ほっといてください」

 

 

 

 

初めにマコトがサウザーの居場所を尋ねるとともに、この提案を持ってきた時は。

当然、さすがのシュウも無理があるのでは、と難しい顔をした。

そしてそれはマコトも分かっていたようで「こちらにもアテがあるので、もしシュウさんの周りに希望者がいれば」という、そんな程度の温度感ではあった。

 

そして結局、シュウからして恩ある存在であるマコトの願いだったということもあり。

一応話だけでも通してみよう、と子どもたちに説明をする。

 

 

そして、その結果が────────

 

 

「サウザー。彼らが今回、サウザーのもとでの修行を希望した子どもたちです。……見覚えは、ありませんか?」

「ぬ……これは……」

 

ずらっと並んだ子どもたちの顔、そのいずれにも、うっすらとだが覚えがあることにサウザーは気づく。

記憶にあるその顔ぶれは……そう、あの日聖帝十字陵においてサウザーとマコトの戦いを見上げていた者たちだ。

 

あの戦いで間近に見た拳法の強さに、凄さに憧れて集ったのだ、と子どもたちを紹介するマコト。

が、しかしそれでも受けるサウザーの表情は、固い。

 

「……それならばお前が教えるべきだろう。俺が過去にお前達子どもに何をしたかしらん訳ではあるまい」

「……えぇ、たしかにその通りです。ただ、私は先にどうしてもやらなければならないことがありますし……それに、です」

「…………?」

 

自分がしでかしたことが許されることではない、と考えて固辞しようとするサウザー。

たとえ彼らが良くても、自分がそれをすることを許せないのだ。

 

それに対し、マコトはあっさりとその意見、感情を肯定しながらも、訝しがるサウザーに続けた。

 

 

「あなたの師、オウガイも。今あなたが持つものと同じ葛藤の末にあなたを育て……そして愛を取り戻したのでは無いでしょうか?」

 

「…………っ!!」

 

その言葉に……師が遺した手紙と、その裏を知った今思えば。

サウザーの修行時代に稀に覗かせていた、師の葛藤や陰を思い出し、ぶるっと震える。

 

 

「正直に言いますと、私もシュウさんたちレジスタンスや、あなたが従えてきた子どもが賛同する可能性は低い、と思っていました。なので、私の方から子どもを紹介する予定だったのです」

 

それは、ジャギがいる村で、ジャギのような武器などを使った戦いではなく。

『やっぱり男なら拳一つで勝負だろ!』という価値観に憧れる、一部の子どもたちだ。

 

人が集まれば、様々な価値観、様々な憧れは出来るもの。

それを知るマコトは村を出る前に彼らに、別の強者のもとで学ぶ気は無いか、と予め話をつけてここに来ていたのだ。

 

 

「ですが、結果は見ての通り、何人もの子どもが今あなたのもとに集っています。それは、何故でしょうか?」

 

「……それはっ……」

 

「……それは、あの日のあなたの姿を、見たからです」

 

 

もし、彼ら子どもたちがあの日の戦いを実際に目にせず。

単に『サウザーは心変わりをしたので、彼のもとで頑張ってください』と言うだけならば、当然相手にもしなかっただろう。

 

しかし、彼らはあの日罪滅ぼしを決意し、命を投げ出して行った凄絶な戦いを。

そして、その上で師のぬくもりを思い出し、あげた慟哭を。

貴き誇りを取り戻したその姿を、間近で見ていたのだ。

 

子どもは賢いが、その多くが素直な生き物である。

強烈なまでに印象に残ったその光景に、それまで感じていた辛さや恨みつらみ以上の価値を見出した者がいたならば。

それを為すであろうサウザーのもとへ向かう決意も、マコトやシュウが考える以上に容易いものとなった。

 

だから、と。

 

平和な現代でなく、過酷な世紀末で生きる子どもたちならではの。

その強さたくましさを想いながら、マコトは続ける。

 

 

「これまであなたが、様々なものを踏みにじってきたのが事実なら……あの日、彼らの胸をうった戦いを、生き様を見せたということもまた事実です。……過去に目を向けるのなら、そのどちらにも目を向けるべきなのでは無いですか?」

 

「……そういう、ことだ。お互い、過去を水に流すことはまだ出来ないかもしれぬ。だがこの先に……未来にそうすることが出来るよう、努力をするのはきっと間違いではないはずだ」

 

そう、マコトの言葉を後押ししたのはシュウだ。

子どもの……ケンシロウの未来という光のために、自らの光を閉ざした男は。

もしかしたらマコト以上に、この世界の未来を信じた上で同調した。

 

「……………………」

 

「えっと、それにですね、やってほしい理由は他にも色々あって……」

 

……そして、それを聞いて黙り込むサウザーに、さらにマコトは続ける。

 

やり方と目的は間違っていたとはいえ、子どもたちを統率する経験があるならば、この世紀末でそれを生かさない手は無いだの。

子どもたちにとっての選択肢は多いほうがいい、やってみてダメそうならやめればいいだの。

つらつらと並び立てられるマコトの主張。

 

 

その必死な演説を、表情をしばらく眺めていたサウザーは。

 

 

「だから、不安もお有りかと思いますが、もちろん私もシュウさんもサポートしますし……えっと、サウザー?」

 

 

突然、「フッ」と。

 

息を吹き出したかと思うと。

 

 

「フ、フフ、フハハハハハハハハハ!」

 

 

「ふぁ、な、なんですか!?」

 

 

何時ぶりになるかも分からない、この世界ではマコトも初めて目にする。

そんな、高笑いをしたのだった。

 

今笑うところあった? と困惑するマコトたちを置き去りに、サウザーは笑い続ける。

 

────ああ、思い返せば初めて邂逅し、戦った時もそうだった。

この女は敵である自分のためにわざわざ師の遺書を持ってきて、それを突きつけ。

……そして、その反応を見る時も、今と同じ心配そうな表情をしていた。

 

この暴力が支配する世紀末で、それを生き抜くだけの確かな力を持ちながら。

このようなことに、それこそ戦う時以上に真剣に当たるその姿に、ちぐはぐさに。

サウザーは可笑しさを感じたのだ。

 

 

「────フハハハハハ! 何故、俺でなく提案しているだけの貴様のほうが必死なのだ!」

 

 

────本来、これまでの道を悔い、改めて。

その上で、進む道に迷っているこちら側のほうが頭を下げてどうにかしてくれと懇願する立場だというのに、と。

 

 

(なるほど、な)

 

 

思えば、戒律に縛られぬ生き方に対する逆恨みと、それから来る敵対心にはじまり。

その後は、師の言葉を届けた、確かな恩ある存在となり。

最後は、自らを打ち倒し、新たな道を指し示した北斗神拳の伝承者。

 

そういった、立ち位置というフィルターを通してでしか見ていなかったこの拳法家を。

今、お互いにそれを脱ぎ捨て、その上でただ一つの個として。

敵であった自分のために、あたふたと説得を続ける様を見て。

 

────ああ、この女はこんな顔をしていたのだな、と。

今になって初めて、サウザーは知ったのだ。

 

 

「……存外、良いではないか」

 

 

「……えっと、よく分かりませんがオッケーってことですか?」

 

 

ぼそり、とつぶやいた一言。

 

……それがどういう意味を持つのかは、つぶやいたサウザー自身もまだ、計りきれないものではあったが。

耳ざとく拾い約束を取り付けようとするマコトに、サウザーは「ああ」と。そう返したのであった。

 

 

同意を得られたことに、我が事以上の喜びを見せるマコトとシュウ。

 

そんな二人の様子に水を差したいわけではないが、「ただし!」と。

サウザーはたった一つだけ、マコトに対し条件を提示する。

 

 

「貴様も生きて帰り、たまにはこいつらの様子を見に来い。……俺の南斗聖拳も覚えたのだ。拳王などに負けることは許さんぞ」

 

「────────はい」

 

ぴしっと。緩んでいた顔を締め返事をするマコト。

それに一筋の安心感を覚えながらも、サウザーは続ける。

 

 

「無闇矢鱈に俺たちに未来だの理想だのを提示したのだ。……ならば貴様も、それを最後まで通して見ろ。それが……お前の北斗神拳伝承者としての責任だと、そう思え!!」

 

 

そんな、照れ隠しも混ざった叱咤激励の声に。

マコトは改めて「はい!!」と。

大きく返事をすることで、了承の意を示したのだった。

 

 

 

「…………ところで、先の話になりますが。……一子相伝の伝承の儀などは……」

 

「…………せん」

 

 

★★★★★★★

 

 

こうして、無事子どもたちの居場所と、サウザーが進む道という心残りが片付いた私は。

彼らと別れ、村へと戻る帰路の途中、改めて想う。

 

きっかけは強引で恥ずかしいものではあったが、こうして今日。

彼らと会うことが出来て本当に良かった、と。

 

(ジャギも、サウザーも、みんなも……頑張ってる。変わろうとしている)

 

 

正直、今回は……特にサウザー周りは根回しの時点から、自分でも色々無理があるのでは、という疑念との戦いだった。

しかし、話の流れもあったとはいえ、死の運命を捻じ曲げ確かな道を示したジャギと違い。

投げっぱなしのような形に終わっていたサウザーは、どうしても心残りとなっていたのだ。

 

自分が余計なことをせずとも、良い方向に向かっていた可能性は当然あるが……それでも、最後のサウザーやシュウさん、そして子どもたちの顔を見る限り。

私が取った選択は、きっと間違ってはいないはずだ。

 

…………サウザーのもとでの修行を希望する、と集った子どもたちの中に。

ターバンを巻いた、大変見覚えのあるとある少年が混じっているのを見たときには、小さな悲鳴も漏れたが。

この世界ではシュウさんもどうにかなっていないし、きっと大丈夫だろう、うん。

原作で彼が見せた行動を見るに、むしろ心の強さという点において最も有望なのかもしれない。

 

 

ともかく。

 

"今"をより良いものとするために。

提案したのは私かもしれないが、勇気を出して選んだのは彼ら自身だ。

 

そして、そんな彼らの姿に私自身もまた、勇気を、希望をもらった。

 

衣装を見せるとかではなく、未来に向け力強く生きる人たちの姿を見ることが出来たのが、今回の最大の収穫だ。

……マミヤさんやリンちゃんが、どこまで考えていたのかまでは分からないが、戻ったら改めてお礼を言わなければなるまい。

 

……まさに、夢のような時間だった。

 

「────上手く、行き過ぎですけどね……と、もう着いたか」

 

そんな風に考えているうちに、慣れ親しんだ村へとたどり着く。

 

はじめに目についたのは、これまた見慣れたいつものメンバー。

その中には、今朝は見かけなかったケンシロウさんの姿もある。

 

……そういえば、彼にはまだ今の衣装を見せていなかった。

 

姉さんという心に決めた人がいる以上。

あまり張り切って見せて、原作のマミヤさんのようにスルーされる、という事態を考えると少々怖いものもあるが。

まあ、妹っぽい小娘がお洒落をしたぐらいなら、存外彼もちゃんとリアクションをしてくれるかもしれない。

 

 

そんなちょっとした期待を胸に、彼のもとへと近づいた────────

その瞬間。

 

 

ケンシロウさんが、一際大きく……咳き込んだ。

 

 

「う、ごっ、ぼっ!!」

 

 

「────────っ」

 

 

帰還を告げる私の声も、リンちゃんたちの出迎えの声も。

本来あがるはずだったそれらはなく、ただただ静寂が場を包み込む。

 

……ケンシロウさん達が死の灰を浴びてからというもの、咳き込む事自体はこれまでも何度も見ている。

 

「け、ケン……?」

 

にも拘らず、顔を青くしながら、ようやく震える声をかけたのは、リンちゃんだ。

 

……当然だ。

今ケンシロウさんが吐いたものは、ただの咳だけではなく。

 

この世界において初めて目にする……赤黒い血の混じったそれだったのだから。

 

それが意味するものは、死の灰がもたらす病の無慈悲な進行。

すなわち、迫りくるタイムリミットを告げる合図。

 

その光景に私たちはそれ以上の声も出せずに、ただ立ち尽くす。

 

 

そして。

 

 

 

「おぉ~~い、大変だぁ~~ッ!! 拳王軍が、拳王軍が~~ッッ!!」

 

 

拳王軍の本格的な侵攻を知らせる、悲鳴にも似た村人の叫びが響き渡ったのは、それと全く同時のタイミングだった。

 

 

瞬間、ぞわり、と。

 

 

這い出るように私の背中を撫でた"それ"は。

 

私が目覚めた時から、ずっと変わらず傍にあって。

 

それでも、ただ先のことだ、と。

 

見えないよう、見えないようにしていたもの。

 

 

(………………っ)

 

 

 

────────夢の時間は、終わり。

 

 

 

現実が、追いつく時が来た。

 

 




次回より世紀末救世主編となります
次は最後まで書き溜めをしてから投稿する予定なので、これまでより間が空く可能性が高いです
ご了承ください

急に気が変わったらその限りではありません
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