原作で描写が少ないキャラはいくら盛ってもいい
自由とはそういうものだ
★★★★★★★
荒野を、黒い影が猛進していた。
遠目からは一体の巨大な獣を思わせるそれだが、物珍しさから近づこうとするものは、当然居ない。
この荒野の……いや、この世紀末においての最大最強。
そんな存在に限りなく近いものとなった影の正体は、一糸乱れぬ行軍を続ける、拳王軍の本隊だ。
そして、その頂点に立つ男、拳王。
彼が当代の北斗神拳伝承者と戦い受けた傷は、すでに完治している。
傷を受ける以前よりも、遥かに勢いを増したこの侵攻。
もはやそれを止めえるものは、その北斗神拳伝承者である女以外には存在しない。
彼女以外にできることは、天災がごとき侵攻がもたらす被害を恐れ、震えながら祈るのみ────
その、はずだった。
「拳王様ァッッ!!」
進軍により響き渡る轟音。
それにもかき消されないほどの声量で放たれたのは、拳王ラオウの側近による悲鳴じみた呼びかけだ。
が、声をかけられたラオウ本人がそれに返答をすることはない。
なぜならラオウもまた、言われるまでもなく同じその光景を目にすることとなっているからだ。
「ぬぅ……っ!」
────豪炎が、渦を巻いていた。
それは、炎のような何か、ではなく炎そのもの。
それが、まるで意思を持った生物のように、拳王軍の行く手を阻まんと立ち塞がっていた。
「ひ、ひぃいいぃ、うわあああぁあ!!」
その異様を目にした拳王軍配下の一人が、悲鳴を上げる。
見れば悲鳴を上げた男は、すでにここに至るまでに身体の節々に痛々しい火傷と矢傷を帯びており、満身創痍という状態だった。
「く、来るぞ────ッ!!」
続けて上がった叫び声。
それに呼応するかのように、ずらっと空を埋め拳王軍に殺到したのは、おびただしい数の火矢だ。
「────ッ!!」
ただの矢が持つ殺傷力に加え、それが火を纏い迫りくるという、生物が持つ根源的な恐怖を呼び起こす、その脅威。
それは、血を血で洗うかのような殺伐とした世紀末を生きる悪党たちからしても、悲鳴を上げ逃げ惑うほどの恐怖……トラウマとなるには、十分なものであった。
とはいえ、北斗神拳を極めた世紀末覇者、拳王本人に火矢など効くはずもない。
羽虫でも払うかのように腕を振るうだけで、拳王に飛んだ火矢はなすすべなく地に落ちる。
また、拳王自身だけでなく特に精鋭となる一部の拳王側近達も、すでに"幾度もの襲撃"による経験から的確に斬り裂き撃ち落とし、と対処する。
雑兵の類はともかく、さすがに拳王軍の側近ともなると火矢のみでそうは狼狽しない。
しかし、彼らを襲う脅威はまだ、終わらない。
「う、うおおおぉわあああッッ!!」
そびえ立っていた火柱が突如、まるで自ら意思を持って動き出したかのように。
拳王軍のもとに襲いかかった。
その炎は、叩き落とされながらもいまだ燻っていた火矢を巻き込み、業火となって拳王軍を薙ぎ払う。
すでに極限まで動揺していた拳王軍の末端は、もはや拳王の喝も耳に入らず、悲鳴とともにのたうち回ることしか出来ない。
結局その地獄は、拳王ラオウが放った北斗剛掌波により空いた風穴から、ほうほうの体で配下たちが脱出するまで続くこととなった。
「…………ちぃっ……」
すでに心が折れかけている配下を見て、拳王軍は苛立ったような舌打ちをこぼす。
ここしばらく、幾度にも渡り拳王軍はこういった、意思を持ったような炎に襲われるという怪現象に見舞われていた。
一連の現象で、拳王自身は傷などは一筋たりとも負っていない。
しかし、それでもこう何度も行軍を止められ、手勢に被害を与えられるとなると当然、心穏やかでは居られるはずもなかった。
────なにより。
「…………っ!」
そんな拳王の視界に今、拳は届かないがその表情は分かる、という絶妙な距離感でこちらを見てはニヤリ、と笑う一人の男。
ラオウ自身もよく知る拳法家であるその男…………ジュウザ。
彼は、下手人である自身の存在を隠す気も無くこうして現れては挑発し、そしてまた離れる。
そしてしばらく経ったと思ったら、再びこういった妨害を行うということを繰り返していた。
(…………まさか、この男が動き出すとは)
当然、プライドの高いラオウからすれば、純粋な憤怒で爆発してしまってもおかしくない、この状況。
もしかしたら、それこそがジュウザの目論見だったのかもしれない。
事実、配下たちの恐慌や怒りに押されるように、ラオウもまた苛立ちを感じる心は少なからずあった。
が、しかし当のラオウは、そんな明確な屈辱と怒りを感じながらも、その一方で今。
不思議なほどに冷静な思考を続けることが出来ていた。
その理由は、ジュウザがよく知る人物だからこそ今、ラオウが覚えた一つの違和感。
彼が炎を起こした原理などは知るはずもないし、どうでもいい。
問題は、愛するユリアを手に出来なかったことで世捨て人同然となっていたこの男が、なぜこのタイミングで突然自分に弓を引いてきたのか。
一度問いかけた拳王に、彼自身は雲ゆえの気まぐれと軽く返していたが、一連の行動にはそんな言葉で表すには重すぎる、確固たる意思や執念のようなものが感じられた。
少なくともジュウザは、これで拳王自身を直接害することが出来る、とは思っていないだろう、と拳王は見る。
かといって雑兵ばかりをいくら掃除しようが、根本的に拳王軍の崩壊に至ることは無い。
結局のところ、極まった拳法家同士の戦いでは、余人など何人居ようがそれが影響をもたらすことは無いからだ。
究極、この場にいる配下全員が一斉にかかることがあったとして、ラオウはもちろん、ジュウザにも勝つことは出来ないだろう。
で、あるならば目的はあくまで精神を乱すことか、『足止め』をすることに他ならない。
足止め……何から?
それは当然、拳王軍から。
では、何のために?
この拳王軍がこのまま行進を続けていたとして、世を捨てたはずのジュウザにどんな不都合があった?
この侵攻の先に一体、ジュウザを変えたほどの何がある?
……まさか、マコトか?
いや、その可能性は十分にあるが、だとしたらもっと早くに動き出していたとしてもおかしくはない。
それに今更、ジュウザがユリアからマコトに鞍替えしたということも考えづらいだろう。
(…………面白い)
元よりラオウの残る目的は、マコトと決着をつけ世紀末にて天を握ることだけといっても良かったが。
侵攻の先に待つ何かに、ジュウザの後ろにいるものに。
今この時、ラオウは明確に興味を覚えた。
その内心を伝えるかのように、立ち去る前のジュウザに薄く歪めた口と共に、ぎらっと鋭い視線を向ける。
それにジュウザはほんの一瞬、顔を険しくすると……何事も無かったように去っていったのだった。
★
「ダーメだな。ありゃ、これ以上崩れはせんわ」
退却が完了するやいなや、もうお手上げさ、とでも言いたげなポーズとともにごちるジュウザ。
「ならば、今こそ我らの拳で拳王を討ち果たすべきだ!」
投げやりとも捉えられかねないジュウザの言葉を受け、そう血潮をたぎらせたのは、髪も鎧も赤く染まった炎の男シュレンだ。
この場にいるもうひとりの男、青みがかった髪に鉢金を巻いた男、風のヒューイも、兄星であるシュレンの言葉を後押しするようにうなずいた。
炎のシュレンと風のヒューイ。
二人は雲のジュウザや山のフドウと同じく南斗五車星に属し、南斗最後の将であるユリアのために命を投げ捨ててでも戦う男たちだ。
彼らはもともとこの拳王軍の侵攻に対し、残る五車星の一角、軍略家である海のリハクの要請により立ち向かうところだった。
当然彼らの目論見としては、拳法家の誇りにかけ真正面から拳王と相対し、打倒することにある。
倒せればもちろんそれでよし。
また、力及ばず敗れることががあっても、その献身により拳王の足を止めることが出来たならば、それが将のためになると、そう信じて。
故に、まず最も機動力に優れた風の旅団を率いるヒューイが拳王軍に襲いかかろうとし……
「まあ待てよ。どうせなら、もっと面白いやり方があるぞ」
っと。
今や全身に気力と拳力をみなぎらせた男、ジュウザ。
ヒューイの肩におかれた彼の手によって、その"確定していた死"を止められたのだった。
ジュウザという人間は元より、必ずしも一対一で、拳法家として正々堂々と戦うなどといったこだわりは持ち合わせていない。
本来辿るはずだった流れでも、拳王の拳を"スカして"拳王の愛馬黒王号を奪ったり、配下に命じて岩を落とさせたりと、どちらかというと今のジャギのように策を弄して戦うタイプだ。
そんな彼からして今、五車星として認められる力を持ちながらバカ正直に拳王と戦おうとしている二人の姿は……
言ってしまえばあまりに非効率でもったいないものに見えた。
故に彼は言う。お前たちの力は、ラオウを相手にしたとしてもっと別の形で活かすことが出来るはずだ、と。
それこそが、幾度も拳王軍を襲った災火の正体。
……原作においてシュレンと相対した拳王は、彼は燐を操り炎を生み出すと看破した。
しかし当然のことながら、ただ燐を使うというだけで、大の男をまとめて火だるまにするような炎を瞬時に生み出すことは困難だ。
それを成したのは、リュウガの凍りつく闘気と同じような、シュレンの放つ特有の闘気によるもの。
燐を呼び水に闘気を走らせ紅蓮の炎を自在に操る……この力があったからこそ彼は、南斗五車星の一角炎のシュレンとして君臨することが出来ているのだ。
これはもちろん、風のヒューイに対しても同じことが言える。
触れずして鋼鉄の刀をも細切れに裂くことが出来る風の刃は、闘気によって風を自在に操る彼の適性を以て初めて為せる技だ。
……それがラオウに通じなかったのはひとえに、ラオウの闘気があまりに膨大過ぎたからと言えるだろう。
そして兄弟星という関係にある彼らの拳力は当然、揃って使用することで初めて真価を発揮する。
風が炎を運び、育て。膨れ上がったそれは、まるで意思を持ったかのように自在に動き、拳王軍を襲う。
この魔法じみた芸当により現在、五車星自身はもちろんその配下にもまるで被害を出すことなく、行軍を遅滞させることに成功していた。
聖帝軍も消滅した今、マコト達を除けばこの世紀末で、これほど拳王軍に打撃を与えられたものは、居ない。
南斗最後の将を守護する五車星に相応しい、得難い戦果だったといって差し支えはないだろう。
とはいえ、それももはや限界だ。
使える火矢や燐にも限りはあるし、自分たちはともかく作戦を通しての配下たちの疲労も無視できるものではない。
何より、肝心のラオウへのダメージは皆無で、精神的な動揺も想定以上に見られないのだ。
この事態を受け、今こそ我らの拳で直接ラオウを葬り去る時だ、とシュレン達は気勢を上げた。
彼らからすれば最初からそうするつもりだったということもあり、命を賭けて戦うことに躊躇いなどあるはずもない。
そして、そんな彼らの言葉を聞き……バリボリと頭を掻きながらにジュウザは立ち上がると。
「……ああ、そうだな。じゃあまあ、拳王のバカヤロウをぶん殴ってやりにいくか」
そう、事も無げに彼らの言葉に首肯し。
まるで天気がいいから散歩でもしようか、とでも言うかのような気軽さで、死地へと向かい歩き出したのだった。
そんな、あっさりと決意を見せた彼の態度に、少しの困惑が混ざった表情を互いに見合わせながらに、シュレンとヒューイは追従しようとし────
一転、今まででも最も真剣な声色によってかけられたジュウザのその言葉に。
彼らはその歩みを、止められることとなった。
「────ただし、戦うのは…………オレ一人だ」
★
「……変わりおったな、ジュウザのやつ」
「……うむ」
今、両腕を少し横に広げ下ろした、構えとも言えないような不敵な自然体にて、拳王と相対する男、ジュウザ。
彼の堂々たる立ち姿を少し離れた位置にて見やりながら、シュレンとヒューイは言葉を交わす。
はじめ、ジュウザが一人でラオウと戦おうとしていることを知り、当然彼ら二人は反射的に異を唱えた。
が、その反論でジュウザを説き伏せるためには、現状の二人には致命的に欠けているものがあった。
「そうか。ならばうぬらは、今二人でかかればこの俺を倒せると思うか?」
「ぬ……」
「ぐっ……!」
そう。彼らでは仮に同時にかかったとしても、少なくとも今のジュウザを相手に勝利をすることはとても出来ない。
で、あるならばもし、ラオウがジュウザで勝てない相手だった時もまた、勝利をおさめることはまず不可能だ。
同じ五車星でありながら、今の彼らにはそれほどまでに隔絶した差が出来ていることを、間近で見る彼らは誰よりも痛感していた。
ならば三人でかかればいい、とも案としては出たが。
その場合ジュウザの身をすり合わすような接近戦と、シュレン、ヒューイの合わせ技による豪炎は相性が悪すぎる。
ジュウザごとまとめて焼き払ってしまうようでは、すでにラオウには効果が薄いという結果が出ていることも手伝い、逆にラオウへの援護射撃に等しいものとなるだろう。
「まあ、俺が敗けたらどうもこうも、お前らの好きにすればいいとは思うが、な」
故に彼らは、その軽い口調の裏に見せる強い覚悟も手伝い、この場でジュウザがリスクを買って出ることを認めざるを得なかった。
その事実に対する悔しい、と無力を嘆く思いはもちろんある。
しかし、それとは裏腹に彼らは、ジュウザが自らこの選択を取ったことに、強い感慨を覚えていた。
(…………っ)
ぎゅぅ、と。
シュレンは、拳王軍に痛撃を浴びせた手応えを反芻するように拳を握る。
思えば、今回自ら拳王を戦うことを決めたことといい、その前に自分たちの力を活かす戦いを提示したことといい。
ジュウザが自分たちを見る目は、自身以上に正確で、的を射たものに思えた。
あれだけ好き勝手に、自分のためだけに生きてきた人間が、誰よりも深く、冷静に一個人を見られる存在になるまで変わった……
この事実に以前からのジュウザを知る彼らが覚えた感動はいかばかりか。
……そして、だからこそ。
「……ヒューイ、分かっているな」
「無論」
ジュウザの言葉通り、ジュウザが敗北を喫する時まで彼らは手を出すつもりは無い。
しかし、もしその時が訪れたならば、たとえ、この命に代えてでも。
将を守るためにも、最も得難い才覚を示した彼を逃がすことに喜んでその身を捧げようと。
そんな強い決意を、密かに交わしたのだった。
「願わくば、我らが将とその妹君と……そして
「…………フッ」
今は一歩、拳力及ばずとも。
彼らもまた、誇り高き漢であった。
★
「────フッ。コソコソと、くだらぬ小細工に励むのはもう終わりか?」
「ああ、もはや出来ることなど何も残っておらぬわ。潔く玉砕させてもらうとしよう!」
「ぬかしよるわ!」
これまでの戦法から一転、裸一貫の単騎にてラオウの前に立ち塞がったジュウザ。
それを見たラオウによる、幾度と繰り返された妨害への意趣返しに対しても、ジュウザはあくまで軽く返した。
当然、ジュウザの諦めたような言葉がまやかしであることをラオウは分かっている……
が、これがジュウザに取っての死地であること。
それ自体には何の紛れは無いということもまた、ラオウは見切っている。
だからこそ、半ば無意味だとは分かっていても。
改めてラオウは、その質問をした。
「今一度問おう。何故、この拳王の前に立ち塞がった! 愛する者と……ユリアと結ばれず、心を捨てたはずの貴様が何故今、そうも闘気を滾らせている!!」
「…………」
「答えぬか……ならば、貴様ら南斗五車星が守護する宿命にある、という将とやらのためか。あるいは、それ以外か────────よかろう!!」
ザッ、と。
ジュウザの天賦の才と、今ここに満ちる確かな気迫を感じ取ったラオウは。
一合と手を合わせることもなく、愛馬黒王号から地に降り立つことを選んだのだった。
「さすがにラオウ、我が拳の威を認めたか!! …………わが将のためにこの場に拳王! お前を葬ろう!!」
それを見たジュウザもまた、不敵な笑みを崩さぬままに闘気を高める。
「容赦はせぬぞ!!」
「したらお前の負けだ!!」
互いに鋭く言い放ったこの言葉が、開戦の狼煙となった。
★
戦いが始まると同時。
片や覇気猛々しく、片や涼やかかつ無造作に距離を詰める……
と、お互いの拳が届く間合いに入ったやいなや、ジュウザはくるり、と大胆にも後ろを振り向き。
そこから予測困難な軌道の後ろ蹴りを放った。
「ぬっ!?」
そしてその蹴りは、反射的に腕を差し込んだラオウをあざ笑うかのように軌道を変える。
残像を残しながら縦横無尽、変幻自在に迫るそれは、まるで突然千人からなる蹴りを向けられたような、そんな世紀末覇者拳王からしても常識はずれの一撃。
そして、その幻影にわずかでもまどうならば、突き刺さるは本命である必殺の一蹴。
だが、ラオウはその中にあっても、迷いなく力のこもった本命の一撃を見定めると、闘気を込めた腕で受ける。
天賦の才持つジュウザが放った、渾身の蹴り。その類まれなる威力を予感したラオウは、地を踏みしめる両足にさらに力を込め。
(────────軽いッッ!?)
その"異様なまでの威力のなさ"に危機感を抱く────が、遅い。
「おぉぉおお!!」
ラオウに受けさせ引っ掛けた腕を、文字通り"足がかりに"し。
軽業師のように登ったジュウザは、そのままラオウの肩口から水面蹴りに近い形で、無防備な顔面を蹴り飛ばした。
「ぐっふぅッ!?」
「あぁ! 拳王様ッ!!」
それだけでも十分に技として通じる、変幻自在の蹴りをも布石とし、ラオウの腕を封じながらに放った一撃。
それは、すでに最大限に警戒していたラオウの意識をも、更に覆すに足るものだった。
「…………恐るべき、技のキレよ!! ……どうやら蘇るどころか、俺が知るジュウザとは比べようも無い進化を遂げているようだな!!」
「ごくっ……」
最初の攻防で一方的に拳王が痛撃を受けたという事実と、当の拳王がたたらを踏みながらに漏らした、賛辞の言葉。
それは、自分たちが主の力を絶対のものとして誇る拳王軍配下達の背中に、冷たい汗を流すには十分すぎるものであった。
────まさか、拳王様が敗れるのでは。
そんな不安すら一抹とはいえ心に湧き出るものがいた事も、無理からぬことであろう。
ジュウザは紛れもなく、拳王に牙を突き立てるだけの力を持つ、天才なのだ。
そんな一撃を加えたジュウザもまた、雲のように気軽な、涼し気な表情をそのままにニヤリ、と笑い────
そして。
(────────冗談、じゃねえや)
と、内心。
今の攻防で
なぜなら。
まだ拳王がこちらの力を測りかねている最初の立ち合いにて。
自身の拳法の特性……すなわち邪拳による初見殺しとも言える技巧を惜しまず使って。
完全に優位な姿勢で放った完璧な蹴りに対し……ラオウが残した片腕による迎撃は、あとほんの僅かでジュウザの命脈絶つ秘孔に届くまでに迫っていたのだ。
もしも、早くに最後の将……愛するユリアの存在を知り修行をしていた時間がなかったなら。
今の一瞬で自分は容易く終わっていた、と確信が出来る。
……いや、本当はユリアのために戦うと決め、そして改めて戦場でラオウを見たときから、それには気づいていた。
気づいていたが、それを意識し、死を恐れることは自分の背水の邪拳を鈍らせるだけである、と本能的にあえて無視していた。
その事実を今、ジュウザは改めてこの攻防で痛感させられ、冷たい汗を流す。
────シュレンやヒューイの可能性も見出した雲の慧眼から……一つだけ、断言出来ることがある。
あの日、自分が目覚めるきっかけの一つとなった、実際に目にしたサウザーとマコトの戦い。
常識外れの成長を続けサウザーまでをも破った彼女が、そこからさらに成長している、ということを最大限加味した上で。
……それでもマコトが、このラオウに敵うことは無いだろう、と。
この男は、世紀末覇者は今、あまりにも…………強くなりすぎている。
★★★★★★★