【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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要約:大体マコトくんのせい


第四十八話

★★★★★★★

 

────危機感。

 

今、ジュウザと相対するラオウが、これほどまでの力を身に着けた理由を一言で表すとするならば。

この言葉こそが、最も簡潔に説明出来ていると言えるだろう。

 

 

本来辿る原作、マミヤの村にて初めてケンシロウとラオウが対峙した際。

その戦いは、トキの手助けやリンの後押しによる心の力も働いた結果、決着のつかない引き分けで終わっている。

そうして、それまで自らを脅かすものなどせいぜいトキぐらいだと認識していたラオウは、ケンシロウの力を存分に認め立ち去っていった。

 

この出来事により、次なる決着に臨む際。

ラオウがケンシロウを意識して……すなわち危機感を持ったことによって、彼がさらに強くなっていったことは間違いないだろう。

 

事実、北斗神拳の師であるリュウケンを超える実力を持つとされる男、コウリュウ。

傷を癒やしたラオウは、そんな達人すらをも苦もなく屠ることが出来ているのだ。

 

 

一方、この世界において同じくマミヤの村にて、マコトとラオウが初めて対峙した際。

マコトは、ジャギやマミヤ達の手助けを受けていながらなお、完全なる敗北を喫している。

 

では、その結果を受けたラオウは。

原作のような危機感を抱くこと無く、勝利の余韻に酔いしれその場を去ることとなっただろうか。

 

答えは当然、否である。

 

何故なら、あの時点でのマコトには明確な敗因があり。

そしてそれはこの敗北を受けて克服してくるだろう、ということをラオウは予感していたからだ。

 

さらに言えば、ごく短い期間で学んだ北斗神拳で。

ラオウからすれば、戦うことすら考えられないような華奢な女の体躯で。

そんな明確な敗因を持ち合わせていながら、なお『あと一歩』のところまで拳王が追い詰められたのだ。

 

……元より、豪胆な覇道を歩むという生き方とは裏腹に。

自身に逆らう拳法家をカサンドラに監禁し、禍根を断つという側面も持ち合わせていた通り、慎重で繊細な顔も覗かせる男、ラオウ。

 

そんな彼が、この脅威を目の当たりにして。

これまで通りの過ごし方をするなど、出来ない。出来るはずがない。

 

故に、彼は鍛え直した。

 

マコトがラオウを最大の目標として、心の力を燃やすことでここまでたどり着いたように。

 

ラオウもまた、次に戦うマコトを……ともすれば『格上の怪物』にすらなり得ると考え。

もしかしたら、当時のマコト以上と言ってもいいほどの。

そんな強い心の力で以て今、この場に至るまでに成長……いや、進化したのだ。

 

 

最強の肉体と、最高の才と、それにも驕らず燃えたぎる心を併せ持った存在。

 

それが今、この場に立つ世紀末覇者拳王、ラオウという漢だった。

 

 

「────────ッッ」

 

 

そしてジュウザは、皮肉にもというべきか。

強くなったことでより、眼の前の怪物が持つおぞましいほどの力を把握することが出来ている。

 

しかし、それでもジュウザが退くことや恐れることは、無い。

恐れは拳を鈍らせ、曇らせる……

生か、あるいは死かの極地に身を置く戦いこそが、ジュウザが振るう我流の拳の真髄なのだ。

 

とはいえ、対峙する男の圧倒的な拳力を目にした上で、無策で特攻するという選択肢も無い。

ジュウザはただ時間稼ぎの捨て駒になるためではなく、勝利するためにこそ、この場に立ったのだから。

 

 

「────フッ」

 

っと。

しばらく無言で睨み合っていた彼らのうち、覚悟を決めたようにジュウザが突然笑う。

 

そして、全身の力を抜きながらに、ゆらり、ゆらりと左右に揺れた、と思うと。

 

ふわり、と、こともなげに。

 

()()()()()空へと舞った。

 

「────まさ、かッ!?」

 

迫りくる豪炎を前にしても汗一つかくことがなかった拳王が。

この戦いにおいて今、はじめて明確な動揺に冷たい汗を流す。

 

 

そして、必中の気迫を以て放たれたラオウの拳は、"当たり前のように"ジュウザの身体を通り抜け。

ラオウは、無防備な懐へとジュウザの侵入を許してしまった。

 

静かに流れる身体の動きとは裏腹にビシっと鋭く、それでいてあくまで軽く。

ラオウの胸元にジュウザの両手のひらがかざされる。

 

そこから披露される、ジュウザが誇る我流拳の奥義はもちろん────────

 

 

「撃壁背水掌ッッ!!」

 

「グフッ!!!」

 

 

鋼鉄をも超える強度のラオウの肉体から、多量の鮮血が飛び散る。

ジュウザが叫び声とともに、至近距離からの強烈無比な一撃を浴びせたためだ。

 

「────ッ!!」

 

そして、それを為したジュウザは即座に後方へと飛び退き、拳王の反撃を防ぐ。

 

「ああ、拳王様がやられた!」と。

叫ばれた部下の言葉に表されるように、確かなダメージを負ったラオウ。

彼に対し、ジュウザは未だ無傷だった。

 

……しかし。

 

「────浅かったわ」

 

「……フンッ……」

 

ジュウザは、まともに決まれば一撃で決着となってもおかしくない、自らが誇る奥義の手応えから。

今の攻防でラオウに致命打を与えることが出来なかったことを悟り、内心唇を噛む。

 

撃壁背水掌は、現代で言う寸勁のような理屈により放たれる奥義だ。

ほんの少しの、わずか数ミリの隙間さえあれば、絶妙な体重移動と闘気のあわせ技で最大のインパクトを発揮する。

身をすり合わせる接近戦でこそ真価を発揮する、我流のジュウザならではの秘術である。

 

しかしラオウは、ジュウザに懐に潜り込まれた刹那、半ば本能でその特性を見抜くと。

後ろではなくあえて前に歩を進めることで、奥義に必要な"わずか数ミリ"を殺し、威力を半減させた。

 

掛け値なしの天才の拳を目の当たりにし、一見危地に見える死中にこそ活路を見出す。

ラオウという名の覇道、その生き様を存分に示すかのような、彼だからこその解答であった。

 

とはいえ、それでジュウザが諦めるなど、当然無い。

それならば何度でも打ち込んでやる、とラオウに聞こえるよう呟くと、再び揺れる動きを見せつけた。

 

「その動き、やはり貴様、サウザーの技を……!」

 

そう、先程もラオウを驚愕させ、容易く懐を取ることを可能にしたこの動き。

それはあの時目にした、マコトとサウザーの戦い……そこで使われた南斗鳳凰拳究極奥義、天翔十字鳳を再現したものだ。

 

当然、鳳凰拳伝承者でもないジュウザが、この技を完璧に使いこなせているわけでは無い。

しかし、行き着いた拳法は我流ながら同じ南斗に属するもので、元より身軽な動きと類まれなる見切りの技術を併せ持つ天才、ジュウザならば。

あの日見た動きを元に、それに近い効果をこの土壇場で行使することは、決して不可能ではなかった。

 

「ッチィ!」

 

実際にサウザーと戦った、今のマコトでも出来なかったこの絶技。

それを前に剛拳使いのラオウが出来ることは、当たらぬと分かっている拳を振るうのみ。

 

そうして差し出された拳を難なくジュウザは回避し、再び潜り込もうとし────

 

「────ぬっ!?」

 

ドゴォ、という破砕音と共に。

踏み出した足が捉えるはずだった、大地が崩れていることに声を漏らす。

 

ラオウが突き出した"回避されると分かっていた"拳が、そのまま地面へと闘気弾を発したことにより、地形を崩したことが理由だ。

 

「そこだぁ!」

 

如何に何者でも捉えられない羽を真似たジュウザでも、無限に空を舞うことは出来ない以上、地面の存在は必須だ。

ましてや完全なものではない奥義は、あらぬ方向から加えられた妨害に、その真価を容易く失う。

 

まるで実体を得たかのように、無防備な身を晒したジュウザに対し、ラオウは烈ぱくの気合で渾身の拳を振るう。

 

それは、とっておきの秘奥義を破られた動揺に目を見開く、ジュウザの命脈を断ち切らんとその身体に吸い込まれ……

 

 

────ぬるんっ。

 

 

「な、にッ!?」

 

すかさず身を捻ったジュウザの身体を掠めると、予め身体中に塗られていた油によってあえなく滑り、空を切った。

 

「────元より、種明かしは一度きりよ!」

 

回避しながらしてやったり、という表情で誇ったのは、ジュウザだ。

 

そう、ジュウザは自分が真似するこの奥義が、完全でないことも認めた上で今、あえて見せ札として使った。

変幻自在こそを信条とする邪拳は、元より同じ相手への再使用は想定していないのだ。

 

そしてその奇策は成り、ラオウの拳を油で滑らせ回避した勢いのまま、一回転。

至近距離ながら寸勁とは別の形で、ラオウに牙突き立てるに足るエネルギーを携えたジュウザは。

必倒の気迫を以て渾身の後ろ回し蹴りを放った。

 

雲尽旋蹴(うんじんせんしゅう)ッッ!!」

 

「────お、のれぇ!!」

 

それでもなお、超人的な反応によるラオウの迎撃の肘が迫る……が、遅い。

 

如何にラオウの実力が上がっていても、このタイミングで出された反撃よりも自分の一撃の方が遥かに早く刺さることを、ジュウザはすでに見切っている。

 

 

そしてその予測に違わず、ジュウザの蹴りは確かに、あやまたずラオウの頭部を先に捉えた。

 

 

────────ボゴォッ!!

 

 

「────ガ、ハァアァッッッッ!!!?」

 

 

…………そして、そのジュウザの蹴りと()()()()

 

突如、爆発的な加速を見せたラオウの肘がジュウザの身体に突き刺さり。

 

 

圧倒的な破壊圧の前に、ジュウザはいとも容易く、まるで紙くずのように吹き飛ばされたのだった。

 

 

「ば、バカ、な!?」

 

この事態に、これまで黙って戦況を見守っていたシュレン達からも驚愕の声があがる。

 

かろうじて目で追えた彼らから見ても、ジュウザの攻撃はラオウより遥か早く刺さり、それにより勢いを殺されたラオウの剛拳はジュウザに届くことなく止まる、そのはずだった。

 

しかし刹那、常識では考えられない加速を果たしたラオウの肘は、ほぼ同時にジュウザの胸部に命中。

ジュウザの蹴りのそれとは比較にもならないほどの甚大なダメージを、彼の身体に刻み込んだ。

 

……もし、曲がりなりにも先に届いたジュウザの蹴りにより、その衝撃が幾分ながら殺されていなかったなら。

この一撃だけでジュウザの身体はバラバラに弾け飛んでいてもおかしくはなかった、と。

そう思わせるほどに、ラオウが放ったそれは凄まじい一撃だった。

 

 

────剛爆靠(ごうばくこう)

 

この土壇場でラオウが使ったこの技は、彼にとっては苦汁とも言えるあの戦い。

すなわち、マコトとの直接対決により着想を得たものだ。

 

飛龍、と彼女が呼ぶ、足先から闘気を爆発させ、その加速を以て一度のみ空中機動を可能とする妙技。

その脅威を実際に体感した……正確には修行時に彼女との戦いを思い返したことで、技の正体に行き着いたラオウ。

 

それを自己流に変化させ編み出したのがこの、インパクトの瞬間手から強烈な闘気を噴出し、爆発的な加速を生み出す剛と速を併せ持った一撃だ。

それは、天才ジュウザの見切りすら覆し、彼に致命打に等しいダメージを叩き込むこととなった。

 

「ぐ、ぐ……! フ、フフ……まさか、ゲフッ! これ、にも返してくる、とはな……!」

 

「フ……致命の秘孔ではないにせよ、もはやまともに身体を動かすことも出来ぬだろう。ここまでだ、ジュウザ!!」

 

甚大な被害に身体を震わせながらも、あくまで笑みを絶やさずに口を開くジュウザ。

しかしラオウはそれも虚勢に過ぎぬ、とジュウザに決定した敗北を突きつける。

 

そうして心を折ったならば。

にわかに気になりだした南斗の将、その正体を割らせる事が可能だ、と。

 

「……そうか、ならば────────」

 

────しかし。

 

 

「っ!?」

 

「────さあ、打ってこい、ラオウ!!」

 

ラオウの思惑と裏腹に、その時のジュウザが見せたもの。

それは、言葉と共にスウッと両腕を広げ、無防備な身体を晒す姿だった。

当然、これまでも幾度となく彼の戦術を味わったラオウだけに、額面通り受け取り油断する、ということは無い。

 

ただラオウが見るに、少なくともジュウザはラオウの拳を受けること……つまり、すでに死を前提に入れた覚悟をしているように思えた。

それが示す意味は、単純に潔く敗けを認めたか、はたまた玉砕覚悟での相打ち狙いか……

 

しかしどのような策があろうとも、それを真正面から打ち破ることこそが彼が選んだ覇道、その生き様。

 

ならばここで、世紀末覇者拳王が返す答えは決まっていた。

 

「良かろう!! では地獄へいくがよい!!」

 

そんな言葉と共に迫りくる必殺の剛拳を。

どこか他人事のように視界に収めながら、ジュウザは考える。

 

 

恐るべき拳王の強さを相手に、確かに自分は勝てなかった。

だが、それでも。ただでは死なぬ、ただで命は捨てぬ。

 

(将よ……あんたに会った時からこの命、無いものと思っていた……最後だ!!)

 

すでに身体中が悲鳴を上げているこの状況。

この上に拳王の拳を受ければ無論、死は免れない。

 

────それでも、自分は死を恐れずに。

 

その上で、冥土の土産に腕の一本は持っていく、と。

 

そうすることできっと、後に続く者に遺せるものがある、と。そう信じて。

 

 

そうして、拳が届く瞬間。

 

始めに、救出しようとこちらに駆け出そうとしているシュレン達に目を向け。

 

次に、自分が命を使うに足る最愛の女、ユリアの無事を願い。

 

そして最後に。

後に続く者、すなわち拳王と戦うであろうマコトのことを思い浮かべ────────

 

 

「────────ッう、おおおおおぁあああああッッ!!!!」

 

「ッッ!!?」

 

 

瞬間。

思考をほとんど介さないままに無理やり身体を捻ったことで。

ラオウの拳は浅く肉を抉るものの、ジュウザはかろうじて命を繋ぐこととなった。

 

 

「な、に……!?」

 

「────────…………ッッ!!」

 

 

間違いなくこの拳を受け、命を捨てるつもりだった。

直前までそう認識していた拳王は当然驚きに目を剥くが、目を見開き困惑しているのはジュウザも同じだ。

 

……今更死に臆し、命が惜しくなったのだろうか。

 

ありえない。愛するユリアのために命を使い切る決意は、今この場に至っても何一つ揺らぐことは無い。

 

だが今、自分の身体を突き動かしたものも、間違いなく自分の内から……すなわち心の力によって出たもので。

それがどこから来たものかをジュウザはほんの僅か考え……そして、すぐに得心した。

 

「……っ血は、争えぬか……フ、ハハ、ハッ……!」

 

「何故だ……!? 何故貴様が今更、生にしがみついたッ……!?」

 

ラオウの戸惑いが耳に入りながらも、その時ジュウザの脳裏によぎったもの。

 

 

────それは、あの日見上げた聖帝十字陵。

そこで腹違いの妹が繰り広げた……最後の最後まで誰の命をも諦めずに戦い抜いた、あの光景。

 

あの日、彼女が意図せずしてジュウザに見せたそれは。

宿命に殉ずる名誉ある死に様では無く……未来に繋ぐ生き様だ。

 

……ジュウザは、別にそれを殊勝にも真似して、命を惜しもうと考えたわけではない。

雲のように自分の意思で生き、そして命を使うことに躊躇しない在り方もまた、ジュウザ自身の誇りであることに間違いはないのだから。

 

だが、"それはそれとして"だ。

 

 

────悔しいではないか。

 

 

(妹に出来たぐらいのことを、兄の俺がこなせないなんざ、なあ!?)

 

このまま素直に拳にかかり死んでしまって、あの生き様を見せた妹に後を託す。

 

それはたとえ一拳法家として、南斗五車星として、そして雲のジュウザとして何の間違いでなかったとしても。

兄として見たならばきっと────、と。

 

だから。

 

自分は自他共に認める天才であり、その気になれば成し遂げられないことなど何もない────

あの日、ユリアに手が届かない運命であることを知り、打ちひしがれた瞬間までは、確かに抱えていたこの矜持。

 

それは、この死地において今再び、確かな輝きを放ち。

 

ジュウザにもう一つの、彼だけの……

すなわち、"両取り"の選択肢を与えたのだった。

 

マコトのように、最後の最後まで命を抱え生き汚くあがく。

ユリアのために、最後の最後は命を惜しまず戦い抜く。

 

それが、二人の兄として。

今、雲のジュウザが自らの意思で選んだ、答え。

 

 

そんな、万感の意志を携えて。

ジュウザは歯を剥きながら、ひどく簡潔に。

 

ラオウが放った疑問に、再び動き出した拳とともに、応えたのだった。

 

 

「────兄ゆえの……ただの意地よッッ!!」

 

 

 

 

戦い、戦い、戦い抜いた。

 

すでに満身創痍の身で、死の恐怖を知らず、その上で生にしがみつく、泥臭くも美しいその戦いぶりは。

南斗六聖拳はおろか、北斗の兄弟達と比べてもまるで劣らない、まばゆい輝きを放ち続けた。

 

「ぐ、く、ぶ、ぐっぅ…………!」

 

「…………」

 

────しかし、それでもなお。

今のラオウ相手に勝ち切るには、至らず。

 

着実に刻まれ続けた傷跡に彼の身体はついに、どのような強い意志を以てしても身じろぎすら困難なほどに、追い詰められてしまった。

敗北を悟ったシュレン、ヒューイも加勢に向かうが、ラオウが放った闘気圧に吹き飛ばされ、その救援の手は及ばない。

 

 

そしていよいよ、最期の時が来た。

 

 

「────────敵ながら。見事であった、ジュウザ」

 

 

ラオウはすでに、トドメの一撃を振りかぶっている。

 

……ジュウザの口から最後の将の正体を吐かせる、という当初の目的をラオウは忘れたわけではない。

 

しかしラオウは、このどこまでも強く誇り高き漢との決着を前に。

それは今、不純物にしか成りえない些事である、と断じた。

 

()()()()()()()()()()()()()()────

 

「言い遺す言葉はあるか」

 

正体とは別に、まるで一筋のみジュウザとの別れを惜しむ気持ちがあるような、そんな感傷が口をついて出るラオウ。

 

彼に対してジュウザはあくまで最後まで、不敵な笑みをたたえながら、応える。

 

「…………"お前には"、くれてやらねぇよ」

 

「……フッ、そうか」

 

 

それを、別れの挨拶と認めたラオウは────ゴウっと拳を振るった。

 

(わるいな、マコト……ユリア)

 

今度こそ迫りくる拳を前にし、内心で二人に侘びながらも。

 

それでも、やるべきことは、やりたいことは、自分がやれることは全て出しつくし……それで負けるのならば仕方がない、と。

 

最後に、そのような境地に至ったジュウザは目を閉じると、これまでの生き方が嘘のように潔くその拳を受け入れる。

 

 

そして────拳王はその剛拳を、振り抜いた。

 

 

「……………………っ」

 

 

しかし……その拳が捉えたものは、何もない空間のみ。

 

それは、拳王とジュウザはもちろん、倒れ伏すシュレン達にとってすらもまるで予想していなかった事態。

 

拳王は当然、眉根を寄せ。

 

 

……そして、ジュウザは。

 

 

その拳王以上に、顔をしかめた。

 

目で幾十もの苦虫を噛み潰したかのような、そんな心底不本意な表情のままに。

 

未だ苛む激痛をも押してかぶりを振ったのだった。

 

 

「…………かぁ~~やだやだ、ほんっっっとやだ!! よりにもよって、恋敵(お前)に助けられるのかよッ!!」

 

っと。

 

 

そんな、抱えた満身創痍の漢からの雑言を受けてもただ「すまぬな」っと。

 

 

表情も変えないままに静かに答え、拳王の前に立ったのは……一人の漢。

 

 

その姿にラオウは、トドメを刺しそこねたことへの憤りも忘れると。

 

喜色にも近い感情のままに、ただ吠えたのだった。

 

 

「そうか、お前が……お前がここに来たか────────ケンシロウッ!!」

 

 

★★★★★★★

 

 

「来たな~~!! 拳王配下最強部隊、長槍騎兵隊の死の特攻を味わうがいいわ~~ッ!!」

 

奇声を上げながら崖から飛びかかり槍を突き出すという、死の特攻という言葉が比喩にもなっていないあんまりな戦法で襲う拳王配下軍。

 

それをフドウさんとともに蹴散らした私は、拳王軍の抵抗が激しくなってきている感覚に軽く頭を抑える。

 

私の知る原作とはタイミングが異なっているかもしれないが、ともかく私達に差し向けられる足止めの数が増えてきた。

 

それが示すものはおそらく。

ラオウが私だけではなく、南斗最後の将に興味を持ち、私より先に会うことを意識し始めた可能性が高い、ということ。

 

(……五車星の彼らは……ジュウザは無事だろうか)

 

如何に本来の流れとは異なり、ジュウザが本気になって動いているとはいえ。

それでも拳王ラオウと対峙し彼らが無事で居られる保証は、一つとして無い。

 

だからこそ私は考えても仕方がない、と思いつつもどうしても彼らと……

そして、別れてラオウの下へ向かってもらったケンシロウさんの無事を祈った。

 

 

 

 

私がフドウさんの案内通り将に会うにあたり、出した二つの条件。

 

そのうちの一つが、代わりとしてケンシロウさんを五車星に助力……いや、救援に向かってもらうというものだ。

 

……こういった手分け自体はこれまでも幾度も行ってきた作戦ではあるが、今回それを決断するための心労は、これまでの比ではなかった。

 

何しろ私は、この戦いが始まる直前にケンシロウさんの吐血という形で、死の病の進行を目の当たりにしている。

おまけに五車星と戦っているのはこれまでで最強の敵である、世紀末覇者ラオウだ。

実際、トキさんとともに残ってもらうべきか、と出立するその時まで迷いに迷っていた。

 

それでも今、当たり前のように側にあろうとする彼の力を、この期に及んで頼るという決意が出来たのは……

間違いなく、サウザーを倒したあと彼らが"挑んでくれた"立ち合いのおかげだろう。

あれでケンシロウさん達が見せてくれた心の力があればこそ、私は拾える全部を拾い集めるために動くことが出来ているのだ。

 

 

「……それは……しかし、ケンシロウさんも……いや……」

 

私が繰り出した提案に、わかりやすいほどに迷いの表情を見せたのはフドウさんだ。

彼の迷いは当然だ。

将の幸せを願う彼は、恋人であるケンシロウさんも彼女に会わせたい、と間違いなく願っていただろうから。

 

その気持ちは良く分かる……いや、何なら幼い頃から彼らの幸せを願う私のほうがきっと、その気持ちは強い。

 

 

……そして、その上で。

 

迷う彼の背中を押すかのように、どうなるにせよ、と私は残る条件を口にする。

 

「そしてもう一つ。……今この場で教えて下さい。……あなた方が守る最後の将の、その正体を」

「…………!!」

「将の……正体……?」

 

そう。

そもそもフドウさん達が南斗最後の将……姉さんの正体を隠してたのは、それをラオウに知られて奪われることを防ぐため。

しかしお互いが将を求め動き出すことこの時に当たって、隠し立てをする理由はもはや無いだろう。

 

それに何より、すでに将の正体を知る私が。

同じように姉さんとの再会を渇望するであろうケンシロウさんに、その正体を知らせずに動いてもらう、ということはなんというか。

ものすっごく嫌な、フェアじゃない真似に思えてならなかったのだ。

 

そして、経緯は違えど。

 

フドウさんもしばし考えたあとに……同じ結論に至ったようで。

 

 

「…………我が将は女性にございます」

 

「…………」

 

「女性…………は、まさか!」

 

 

「左様……南斗最後の将はあなた方が愛した女性、ユリア様にございます!」

 

 

ついに彼の口から。

この事実が語られることとなったのだ。

 

 

 

 

そうして、全てを知った上で……それでもなお私のワガママを叶えてくれるため、五車星の下へと走ったケンシロウさん。

 

……ちなみに、目的はあくまでラオウ打倒で無く、救出である、と強く念押ししている。

 

どの道ラオウとは私が戦う気満々なのだ。

そんな私に伝承者としての役割を譲ってくれた彼が、ラオウと本気で命のやり取りをすることは無いとは思うが……ケンシロウさんを前にしたラオウがどう出るかまではわからない以上、それでも危険なのは間違いない。

 

彼らの無事を願いながらも、決して油断せず確実に拳王軍を打ち倒し。

私とフドウさん、そしてバットくんとリンちゃんは将の居城に向かい歩を進めていく。

 

 

「フ、フドウ様~~!! フドウ様~~~~ッッ!!」

 

フドウさんの配下と思しき男達が、焦りの色を隠すこともせず。

一人の傷ついた少年を抱えながら悲痛な声を上げ向かってきたのは、そんな時だった。

 

「なっど、どうしたんだお前達!!」

 

「は、はいそれが大変で────っ!? あ、いや、その…………!!」

 

当然驚いたフドウさんに何事か、と問われ返そうとする男────

が、横にいる私の存在に気づくと、しまった、というように口ごもる。

 

(……このタイミングで来た、か)

 

緊急の事態にも拘らず今、彼が口ごもった理由。

それはおそらく、彼らの第一目的が北斗神拳伝承者である私を将に会わせることにあり。

それ以外の情報を入れてしまうことはその妨げとなり、ひいては使命の放棄に成りかねない、ということを悟ったからだろう。

 

フドウさんも彼の態度に並々ならぬ事態が発生している、と察しひとまず私から離れて話を伺おうとする、が。

 

「いいえ、今ここで話してください。────何が、ありましたか?」

 

当然、原作を知る私がそんな選択をさせるはずもなく、話を聴くまではここを動かない、と。

不安そうな視線を向ける少年にも言い含めるような強い意思を見せ、話を聞き出したのだった。

 

 

 

 

「────ヒ、ヒヒヒヒ!! よく来たなぁ、拳王様に逆らう愚か者共よ!!」

 

 

こうして、フドウさん配下の男の案内でたどり着いた、とある流砂地帯。

 

そこで待っていたのは、凶悪な面相で甲高い声を張り上げ笑うリーダー格の男と、ズラッと並び弓矢を抱えた拳王軍の群れ。

そして、リーダー格の男になすすべなく抱えられた、二人の少年の姿だった。

 

「……ぐ、ぐ……タンジ、ジロ……!」

 

それは、フドウさん配下の報告と……そして、私が知る原作とほぼ同じ光景だ。

 

ヒルカと名乗るリーダー格の男に抱えられる少年、タンジくんとジロくん。

彼らはフドウさんが血のつながった家族のように可愛がり、世話をしている子ども達である。

 

そしてそれを今、この危険な底なし流砂地帯にさらい笑うのは、皮肉にも彼らの実父である拳王軍配下の男なのだ。

 

当然、子どもたちを愛するフドウさんからすれば、如何な使命を帯びていようとも見過ごせるはずもない。

 

原作においても狡猾な男が周到に仕組んだ、実の子どもを人質に使ったこの作戦。

それに釣り出されたフドウさんだけでは、この事態の解決は不可能だ。

 

だから私は、余計なタイムラグで危険に晒す必要も無い、ということで半ば無理やり彼らに付いていったのだ。

そもそもこんな状況で子ども達を見捨てて会いに行ったとして、あの姉さんが喜ぶはずもない。

 

 

……そう、この選択自体は間違ってはいない、はずだ。

 

だがしかし、この状況は。

 

(────────おかしい。明らかに弓矢を構えた部下の数が多い……いや、多すぎる)

 

確か私が知る原作では、部下もいるにはいたが。

それはフドウさんの救出を妨害するため程度の手勢であり、こうも数十人と揃えたものではなかったはず。

 

しかし今回は間違いなくそれより多くの手勢が弓を構え……何より。

 

「────────っ」

 

その照準がフドウさんでも私でも無く。

 

バットくんやリンちゃん、そしてフドウさんの配下達に向いていることに気付くと、私は内心唇を噛んだ。

 

 

(……そういう、ことか……!)

 

……思えば、原作とのタイミングのズレも少し気になっていた。

 

そう、確か本来は、拳王軍の大軍勢の前にフドウさんが足止めを買って出て……

そしてケンシロウさんが一人で行動をしたところで偶然、拳王軍に襲われる少年を保護。

その少年よりはじめて、ケンシロウさんはヒルカの情報を得た。

 

そして、フドウさん達は拳王軍の撃退を進めていくうちにこの流砂地帯にたどり着き、この光景に出くわすこととなる。

それはおそらく、厄介なケンシロウさんとフドウさんが離れたタイミングでフドウさんの情を突き、確実に仕留めるためにヒルカが整えた舞台だったのだ。

 

一方、今回は。

さらったという情報がフドウさんの配下に漏れた……いや、おそらくは意図的に流したことにより、ヒルカは計算通り私とフドウさんをここに導いたのだ。

 

この行動が示すヒルカの狙いは、考えるまでもない。

 

「…………っ」

 

拳王軍で最も冷酷残忍とされ、配下最強を名乗る男、ヒルカ。

彼が今、この場で取ったその選択は、紛れもなく。

 

……フドウさん以上に、守るべきものを抱えた"私"こそを狙い撃った、悪辣な人質作戦だった。

 




次回、拳王配下最強の男、がんばります
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