【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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第四十九話

(…………くそっ、厄介な……)

 

静かに冷たい汗を流す私の視界に映ったもの。

それは、油断なく構えた弓矢を私達に向ける多数の拳王軍配下と、底なし流砂の近くでフドウさんの子ども達を抱えニヤつく男、ヒルカ。

 

当然、警戒態勢である北斗神拳使いの私自身に向けられるだけならば、弓矢など何発射たれようが"止まった棒"である。

しかし、敵方もそれは承知しているようで、狙いはあくまで私の後ろにいるバットくん達に定めていた。

 

それに加え、ヒルカが抱えた子ども達はフドウさんに取ってとても大事な存在。

ほぼ間違いなく、この後子ども達を流砂に落とし、フドウさんにそれを助けに行かせ。

それと同時に一斉に矢を放つことで、私に庇わせるという目論見を持っているはずだ。

 

原作の彼らはフドウさんが子どもの犠牲を絶対に見過ごせない、という弱点を知って似たような行動に出たわけだが。

北斗神拳伝承者である私、マコトのこれまでの道程から、そっくりそのまま同じ戦法が突き刺さることに気づいたのだろう。

……大正解だ。憎らしいことに。

 

こんなことなら、それこそ原作のケンシロウさんのように後から現れて奇襲をかける形にすれば良かった、とも思わなくもないが。

それはそれで先にフドウさんや子ども達にリスクを背負わせることに繋がる。

 

状況の打開として考えられる手段としては天破活殺になるだろうが……

今回の相手、ヒルカは拳王配下最強を名乗るだけあり、ほぼ間違いなくある程度の闘気を操ることが出来る。

また、ラオウの配下ということもあり、北斗神拳の遠距離技を知識として持っていてもおかしくはない。

……以前の牙大王ほどではないにしろ、通じる可能性は低い。

 

また、今からバットくん達を下がらせるという選択肢も無い。囲まれているこの状況、むしろ私達から離れれば離れるほど守れる確率が減るだろう。

 

「ぐ、くっ……タンジ、ジロ……ヒルカ貴様、何をする気だ!!」

 

私のような知識と照らし合わせたわけではないだろうが、それでもこの状況に覚えたであろう不吉な予感。

それに突き動かされるように声を上げたフドウさんを、ヒルカは見下しながら口を歪める。

 

「フフ……北斗神拳使いのガキはともかく、貴様はこの底なし流砂の恐ろしさは良く分かっているだろう」

 

「な、まさかっ! ば、バカなことはやめ────ッッ!?」

 

ヒルカの言葉と、今にも取ろうとしたその挙動。それを受け、弾かれたように動き出した巨体。

 

「────ッ私が助けます! バットくん達をお願いします!」

 

「なっ!?」

 

潜在能力を解放した万力が如き力でそれを引き止めながら、私が飛び出したのは、それらと同時の出来事だった。

 

フドウさんが行っても自力で流砂から抜けることは出来ないが、私ならそれが可能だ、と。

全力の高速歩行術、龍流によりヒルカの近くにある底なし流砂に向けて足を踏み出す。

 

大丈夫、問題ない。

これまで鍛えた私の速度ならきっと、子どもたちをまとめて助けることが出来るはずだ。

 

そう強く信じ走り出した……その瞬間、私の目が捉えたものは。

 

 

「────な!? ふざ、けっ……!! くっそぉっ!!!」

 

 

二人の子どもを、わざと"別々の流砂に放り込んだ"、ヒルカの邪心に満ちた醜悪にすぎる笑みだった。

 

 

あまりの所業に沸いた怒りと、想定以上の危機感に一瞬、視界が真っ赤に染まる。

思わず漏れ出た悪態とともに、これまでにないほどに頭を回しながら闘気を全開に、より近い方の流砂に転がるように駆け出した。

 

 

(────手が、足りない…………ッッ!!)

 

 

フドウさんは私が走り出すと同時、バットくん達に放たれた矢を払うのに手一杯だ。

 

フドウさんを確実に流砂に落とすためまとめて放り込んだ原作と違い、異なる二つの深い流砂に落とされたというこの状況。

彼らを助けるには、流砂の底まで走り子どもを拾い上げ、その上で足先から闘気を噴出する飛龍によって流砂を抜けて、次は子どもを抱えたまま再度同じことをしなければならない。

 

さらに、フドウさんのような巨体ならともかく、彼らの小さな体では瞬く間に砂に飲み込まれて消えてしまう。

当然、それに間に合わせるために私は、本来防御に回すための闘気も意識も、全て加速のためだけに充てることとなった。

 

「手を、取ってっっ!!」

 

そして流砂に消えようとしていた一人目の少年を拾い上げ懐に抱き込んだ、その瞬間。

 

 

「つっうっぐ、ぅう!!」

 

一、二、三……四本の矢が私の肩口から腕にかけて突き刺さる。

 

抱えた少年に当てないだけで精一杯だった私を穿ったそれは、考えるまでも無くヒルカの部下達の攻撃だ。

 

原作の似た場面で子どもをかばったケンシロウさんにも通じたとおり、如何に北斗神拳使いといえど闘気を介さず身体に直撃したならば、ただの矢も相応の脅威になる。

しかし今、私の身体に刺さったものは四本のみで、刺さった箇所のいずれも致命傷には程遠いもの。

 

これは、予行演習だ。

ここで一斉に放たなかったのは間違いなく、もうひとりの少年を助けるために私が限界ぎりぎりまで闘気を使った瞬間に、確実に仕留めるためだろう。

 

そして私は彼らの狙い、策略が分かっていたとしても、行かないという選択肢が存在しない。

 

 

予感がある。

 

もし仮にここでもう一人の少年の命を諦め、五体満足でヒルカ達を倒すことが出来たとして。

この状況で私がその犠牲を出し、心にヒビを入れたという事実がある限り。

拳王ラオウに勝てる可能性は万に一つも無くなるだろう、と。

 

無論、そんな先を見据えた打算が無くとも、この犠牲を良しとすることなど。

フドウさんが、他の誰が許そうが、これまで生きてきた私としての道のりが許さない、許すはずがない。

 

────まだラオウとの戦いですらないのに。

 

(……こんなところで、こんなところで犠牲なんて、絶対に出してたまるか……っ!!)

 

 

吹き出る痛みと焦燥を噛み殺し、流砂の底から飛龍により無理矢理外へと飛び出す。

 

そこで私が目にしたのは案の定、一斉にもう一人の少年がいる流砂に矢を構える拳王軍と、恐怖と絶望に涙し今にもその姿を砂に埋もれさせようとしている少年。

 

ぎりぃっ、と歯を食いしばりながら、私はほとんど思考を介さないままにその死地に身を投げ出そうとする。

仮に少年に手が届いたとしても、その瞬間放たれた矢は今度こそ、私の全身を覆い尽くすだろう。

 

それでも私は、やらなければならない。

 

どれだけ危険に思えても、ラオウと戦うことに比べれば、と自分を鼓舞しながら。

 

たとえ今、幾千の矢に貫かれようと。

子どものために、自分のために、そしてその先の未来のために。

極限の生を掴み取ろうと、私は流砂の底に身を疾走(はし)らせ────

 

 

「────へっ?」

 

 

ぽんっと。

 

唐突に肩に置かれた、場違いなほど温かい手の感触に、ほんの一瞬思考の空白が生まれると。

 

拳王軍配下の中から躍り出た一人の人物が、代わりにその流砂へと身を投げ出す光景を目にしたのだった。

 

 

「な、なんだ!? 誰だッ!!?」

 

 

当然、そんな事態を想定しているはずがないヒルカは驚愕の声を上げ、弓矢を構えた配下達は誰を狙えばいいのかとただ狼狽える。

 

北斗神拳の使い手たる女や、規格外の体格を持つ山のフドウならばともかく、そうでない男が飛び込んだだけで時間稼ぎにもならない、ただの自殺でしか無い、と。

ヒルカや、他の誰もがそう考えたのも、当然のことだろう。

 

だが、私は。

流砂に飛び込んでいった"彼"のあの眼と視線を交わした私は。

 

「────ははっ」

 

そう、力なく笑い……そして、息をつきながらぺたん、と座り込んだのだった。

 

 

もう、安心だろう。

 

 

そして、迷いなく流砂へと飛び込んだ男。

彼はまっすぐ伸ばしたその手を沈みかけた少年……ではなく、あえて流砂の方にあてがったと思うと。

 

「────フンッッ!」

 

そんな気合とともに、彼特有の闘気を流し込んだ。

 

瞬間、全てを無慈悲に飲み込むはずだった死の流砂は。

 

 

その表面をまたたく間に"凍りつかせ"……活動を停止させることとなった。

 

 

「────すごいっ……!」

 

「ば、ばば、バカな、バカなぁッッ!! 何故貴様が、邪魔をぉッッ!?」

 

すぐさま少年を拾い上げ、ゆうゆうと凍りついた砂地に佇む一人の男。

その様に私が感嘆の声を上げると、ようやく正体を悟ったヒルカが、口の端から泡を飛ばし叫ぶ。

 

「無論、彼女たちの決戦に(けが)れた手を伸ばす……腐った枝を断ち切るためよ」

 

そう言いながら返した男の笑みに、宿命だけに縛られた悲壮感は欠片も見受けられない。

ひと目見た瞬間、私が安堵の息を漏らしたのも、当然だ。

 

今白目を剥きながら叫ぶ男、ヒルカ。

『拳王軍配下最強』を自称する彼に対しながら、慈愛と誇りに満ちた眼差しで、抱えた子どもの砂を払う彼の名は。

 

 

真なる拳王軍配下最強にして私の兄、泰山天狼拳のリュウガその人だったのだから。

 

 

 

 

「貴様、貴様リュウガ!! 何のマネだ、まさか拳王様を裏切ろうというのかああああッ!!」

 

激昂とともに彼が両手から放ったのは、泰山妖拳蛇咬帯と言う彼特有の拳法だ。

特殊な帯に闘気をまとわせ自在に操ることで、敵に絡みつかせ。

視界を、呼吸を、自由を奪い締め上げるという邪拳である。

 

元より頑丈な素材で作られた上、込められた闘気により手足の如く動く強靭な帯。

それに一度捕まったが最期、普通の人間では破ることも外すことも出来ず、暗闇の恐怖の中なすすべなく殺されることだろう。

 

……が。

 

「あ、な、ぁああ!?」

 

ヒルカが帯を放った相手……それは私でなく、その計画を破算させたためか怒りが向けられたリュウガ。

彼の構える手に絡みついた瞬間、彼の拠り所である帯はあっさりと凍結し、粉々となった身を地面に晒すこととなった。

 

……そりゃそうだ、と思う。

単純な拳法の相性差もあるが、元より拳法家としての練度が、格が違いすぎる。

 

一方私は、リュウガから子どもを手渡されると、抱えた二人を早々にフドウさんに返還。

うっぷんを晴らす……ではないがようやく得た自由を謳歌するかのように、手早く拳王軍配下を片付けていた。

 

今はそれも概ね終わり、ゆっくりとヒルカに歩み寄るリュウガを見守っている、という状況だ。

 

そして、前に立つリュウガに向けヒルカは拳王軍配下の立場から罵詈雑言を飛ばす。

彼からしてみれば、同じ配下のリュウガが自分の邪魔をするなど、当然許されることではないだろう。

 

「腐った枝は大木をも揺るがす! 拳王の配下に貴様のような者は必要ない!!」

 

 

そんな彼にリュウガが返した言葉……原作を知る私が半ば予想していた通りの答え。

それを受けヒルカは、発狂しながら全身から刃物を出して抵抗し────

 

ボゥッと。

風切り音とともに振るわれた、狼を模した神速の拳に身体を貫かれた。

 

「がっかッ…………ヒュッ……!」

 

……目前に迫った、どうしようもない死の恐怖。

穿たれたそれはすでに致命傷というべきものだったが。

それでもヒルカが宿す執念は、なんとか生き延びよう、逃れようとフラフラとおぼつかない足取りで駆け出す────が。

 

「────あっ、そこは……!」

 

私が思わず声を挟んだそこは、つい先程、彼自ら実子を投げ入れた、底なし流砂。

流れ落ちる砂に足を取られ、倒れ伏したヒルカは、泰山天狼拳を受けた者特有の寒気に身を震わせながら……滑り落ちる自らの身体を抱き力なく声を上げる。

 

「ヒ、ッヒ……さ、寒い……! 嫌だ、怖い、ああ、誰か、誰か助────」

 

まだ生き残りの配下は幾人か残っているが。

そんな彼の声に応えるものは、助けられる者は当然、居ない。

 

「あぁ……あぁ……ひ、いやだ……いや……だ……」

 

そのまま彼はゆっくりとゆっくりと、孤独な寒さに怯えながら、独り砂の中に消えようとし────

 

 

ドンッドンッドンッ、と。

 

同時に、私が放った天破活殺により突かれた秘孔。

 

その効果……有情抱朐夢(ほうきょうむ)によりもたらされたまどろみの中、果てていったのだった。

 

 

「────っ!! あぁ……あった、かい……気持ち、いい…………」

 

 

「ごめ……ん……ごめん……なぁ……たん………ろ」

 

 

(…………っ)

 

 

……別に私は、死にゆく敵に唐突に同情心を覚えたわけではない、はずだ。

そうだとしたならば、私は倒した敵全てに有情拳を突いて回っているはずだから。

 

原作のケンシロウさんが彼を倒す際に放った「そんな技を持ったばかりに鬼に堕ちたか」という言葉。

仮にそれがどのような意味を持つものであれ、今実際に彼がしたことに同情の余地は無い。

 

だから私が今したことは……それでも、どうしようもなく血のつながった子どもで、今も複雑な表情で佇むタンジくん、ジロくんの二人に。

苦悶に震えながら死ぬ実父の最期を見せたくなかった……と。

 

多分、きっと。それだけだろう。

 

 

それだけでいい。

 

 

 

 

「────図らずも、我々が出会った時と同じ形となったな」

 

 

ヒルカ達を撃破し、一息ついた私にそう声をかけたのは、リュウガだ。

確かにあのときは、私がトドメを刺し損ね苦しめる形となったウイグル獄長をリュウガが介錯したのだった。

役割は違うにしろ、状況としては当時の再現のような形になったと言えるだろう。

 

とはいえ、その先の展開まで前と同じになることは無い……無いよね?

 

「マコトも、あなた方も身構える必要はない。俺が出向いた目的は先程告げたとおりだ」

 

……それだ。

確かに原作でも初めてケンシロウさんとリュウガが邂逅した際。

魔狼として無辜の人々に手をかける前の彼がしていたことは、拳王の権力をかさに外道を働く配下を"間引く"というものだった。

 

その意味で今回彼がしたことは、一見原作の行動と同じものと言える……が、そうではない。

 

(……多分、半分は嘘だ)

 

ヒルカ達が取った手段が外道なのは間違いない。

が、しかし原作で彼が間引いた、村の住人に面白半分に非道を働く配下と違い。

今回ヒルカ達が行っていたのはれっきとした作戦行動だ。

 

事実、私はそれによりかなり危険な状況に追い込まれざるを得なかった。

彼の行動を非道として処分するにしろ、配下としての立場を考えると拳王と敵対する私を助けてまで妨害する必要は無かったはず。

だからこそ、ヒルカもリュウガに対し裏切ったのかと怨嗟の声を上げていたのだ。

 

天狼星が見出した、世を統べる資格を持つ両雄、ということから、私とラオウの決着に横槍を入れたくなかった……と。

それもまあ、理由としてはあるかも知れない。

が、それはそれでじゃあラオウと戦ってる五車星は止めなくていいの? となるわけで。

 

だから結局、どんな建前で飾り立てようとも。

彼がわざわざこんなところまで来て、拳を振るった理由は……宿命でも使命でもなんでも無く、ただ。

 

「…………ありがとう、兄さん」

 

ただ一人の、妹を心配する兄として動いただけなんだろう、と。

私は彼に、万感の想いを込めお礼を伝えたのだった。

 

私が彼の心根に気づき、かけたこのお礼。

それを受けたリュウガはほんの一瞬苦笑を見せると。

 

ぽんっと私の頭に手を乗せ、撫でながら言った。

 

「マコトよ……ラオウと、決着をつけるのだな」

「……はい」

 

「……今、あの男は俺の想像を遥かに飛び越え……紛れもなく、この世紀末を統べるに相応しい、圧倒的な力を手にしている。……もしかしたら……いや、きっとお前よりも、だ」

「…………はい」

 

間近でラオウを見続け、そして今の私を見た上で、それでも冷静に冷徹に告げられた彼我の力量差。

彼の言葉は、重い。

 

「お前も、もちろんラオウも。どちらが勝って乱世を平定したとしても、天狼星の宿命に背くことは無いだろう……だが」

 

だが。

 

 

「俺はあえてこう言おう。…………頑張れ、お前が勝て、マコト! 他ならぬお前が勝って、必ず生きて帰ってくるんだ!!」

 

 

────これが、私の兄。リュウガが選んだ、その在り方、その誇り。

 

 

使命を、宿命を重んじ生きて、生きて。

そして最後に、兄としての愛を叫んだ、この世界に生きる一人の漢。

 

「────────っ」

 

ああ、心が沸き立つ。勇気が吹き出る。

 

突き刺された矢傷がもたらす熱など、今私の心に灯る熱さに比べれば如何ほどのものだろうか。

 

 

「……はい……うん……っ!」

 

熱とともに湧き出そうになった何かをこらえる、歪んだ顔。

それを見られることを避けるように、私はほんの少しの間だけ。

 

北斗神拳伝承者でなく、ただの一人の妹として、彼の胸元に顔を伏せることを選んだのだった。

 

 

 

 

その後、リュウガは私達に着いてくる……のではなく。

保護された子ども達とともに、フドウさん配下の案内のもと、フドウさんの村へと向かうこととなった。

 

フドウさんからすれば、これで安心して本来の役目である将のもとへの案内が出来る。

タンジくんやジロくんも助けてくれたリュウガに懐いているようなので、願ったりだろう。

 

……そしてそれ以上に。

 

(────よし……っ)

 

私は内心で、心配事の一つが大きく解決に近づいた、その手応えに拳を握ったのだった。

 

何故なら、本来の流れではフドウさんがここでケンシロウさんと別れ彼の村へと行ったことで。

ケンシロウさんへの恐怖を払拭するため、と突如強襲してきたラオウの手にかけられ、フドウさんは子どもたちの前で死を迎えることになるからだ。

 

この先どういう展開を辿るにしても、フドウさんが眼の届かない範囲で殺される危険性は、これで大きく下がったと言えるだろう。

村のリスクを承知で無理矢理フドウさんを連れ出すか、それともラオウから目を離さないよう立ち回るか……

そんな選択で悩んでいた私にとって、リュウガの存在はその意味でもありがたいものだった。

 

 

そして、私が覚えている限り、将の下へたどり着く障害は……これで全て取り除かれたはず。

 

ならば、あとは。

 

 

「…………ふぅ~~…………」

 

「行きましょう、マコトさん」

 

 

南斗最後の将が待つ居城で……ラオウと、決着をつけるだけだ。

 

そして、それはすなわち。

いよいよユリア……姉さんと再会を果たすということ。

 

間近に迫ったその瞬間に、本懐を遂げられたフドウさんは満足感をあらわにし、バットくんやリンちゃんも安堵の顔を浮かべる。

 

 

そして、そんな彼らの表情に私は。

 

釣られて笑うということなど、"当然無く"。

 

(…………っ)

 

先程リュウガによって灯された暖かさ。

それも吹き飛ぶほどの、かきむしりたくなるような焦燥感に……胸を締め付けられていた。

 

焦燥の理由はもちろん、最後の将に会えるか分からないからでも、控えたラオウとの決戦に臆したわけでも無い。

 

そんなことよりもっと、もっと根底から。

私がこの世界で生きることを決めた後も、常に心の奥底に巣食っていた……最後の最後に残った現実。

それに、向き合わなければならない時が来たからだ。

 

 

────向き合う現実の名は、死。

 

 

これから会う私の最愛の姉、ユリアは。

 

ラオウを倒すことが出来た本来の流れでもなお、避けることが出来なかった……

 

死の病に、身体を蝕まれているのだ。

 




『闘気で砂地を凍結させる』は原作要素です
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