【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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第五十二話

★★★★★★★

 

本来辿る原作、北斗の兄弟達による最終決戦において。

ケンシロウとラオウは互いに無想転生に目覚めた上で、その雌雄を決する。

 

その際、お互いが全く同じ究極奥義を行使したことにより、それらは打ち消し合い……

そして最後には、無垢な子供の戦いと称されたような、そんな純粋な拳力の打ち合いのみとなった。

 

「オオォォォオオオオオオ────ッッ!!」

「せぇえああああああ────ッッ!!」

 

しかし今、この場においてはそうはならない。

 

元より極まった力を持ちながら、それをマコトへの対抗心で磨き上げ、最後に目覚めたラオウの無想転生。

心に巣食っていた全ての枷を取り払い、眠らせていた力を発揮する術を得て、最後にたどり着いたマコトの夢創転生。

 

究極奥義同士でありながら似て非なるものとして、それぞれの力を十全に押し付け合う。

それはあたかも、それぞれが歩んできたこれまでの道程全てをぶつけるかのような。

そんな、掛け値なしに全てを出し尽くさんとする、極限の戦いの様相を繰り広げることとなった。

 

 

「ぐ、うぅうッ!?」

 

 

はじめにその均衡を破ったのは、世紀末覇者拳王、ラオウの拳。

真っ直ぐに放たれた左拳は、桁外れの威力と、異常極まる精度を伴いマコトを捉えた。

 

即座に突かれた秘孔を外し、致命傷を免れながら後ろに跳ぶマコト。

彼女に対しラオウは、指を突きつけながらに口を開く。

 

「この極地で、無想転生にあらざる新たな答え……それを見つけ出した貴様の生き様、見事と言っておこう!! だが、しかし────」

 

「────ッ!!」

 

「この俺の無想転生に対するには、貴様の拳は、雑味(ざつみ)がすぎるわ────ッッ!!」

 

 

叫びと共に放たれる追撃は、どれも荒々しい言葉の迫力とは裏腹に、またも精微な……芸術的と言ってもいいほどの、迷いのない真っ直ぐな拳だった。

 

かろうじて直撃こそ避けたものの、その一撃一撃でマコトの肌は裂け、抉れる。

噴水のように吹き出した血しぶきに、後ろで見届けるバットやリンの顔も次第に青ざめ始めた。

 

 

……これまでの立ち合いでラオウが掴み、今突きつけた事実。

それは、互いが異なる答えにたどり着いたからこそ発生した、拳の特性の違いだ。

 

北斗神拳に代々伝わる究極奥義、無想転生。

 

強い哀しみにより目覚め、無より転じて生を拾うというこの奥義が持つ特性……それは、"純化"。

純粋な一つの感情により束ねられた無想の拳は、澄んだ蒼い闘気を纏い、そして狂いなく敵を打ち貫く。

 

この一つの感情のみが発揮する迷いのなさこそが今、極限をも超えた速度と練度をラオウの拳に乗せているのだ。

 

対してマコトが行き着いた、夢創転生。

 

それがもたらす闘気の虹色に表されるように、彼女が乗せる感情は一つだけではない。

 

故にマコトの夢創転生は、ラオウの無想転生のような完全な迷いのなさを持てず、純粋な拳速や拳圧で劣る。

 

この事実が今、究極奥義に目覚めたはずのマコトをも、一方的に不利たらしめていたのだ。

 

 

(────ははっ)

 

そして当然、これは戦うマコトもすでに痛感している。

たとえ自分が、当初すがっていた目論見通り無想転生に目覚めたとしても、ラオウを相手に楽な戦いができるなどとは思っていなかった。

 

ラオウがどれほどの力を持ち、どれほどの存在感にてこの世界に在るのか。

この世界において自分ほどそれを知る人間は居ない、と。

目覚めた当初からずっと、そううぬぼれていたから。

 

しかし、それでも、それにしても。

 

────本当に凄いな、と思う。

 

これほどの力を身に着けた自分でも、これだけあっさりと追い詰めてくれる、その厳しさ。

もしこの世にこれを持つ漢が、ラオウが居なければ。

自分がここまでたどり着くことなんて絶対に無かった、と確信を持って彼女は言う。

 

……だから。

 

(…………がんばろう)

 

もっと、もっと。

今の自分ならどこまでも行ける、と心に力を込める。

 

もっと、もっと。

どこまでも偉大な、"大好きな漢"に、並び立つに相応しい力を。

 

……元より、対峙する相手に純粋なフィジカルで劣るなんて、いつものことだった。

 

それを覆してきたのは、いつだって。

前世で得た知識も、今世で得た想いも、自分に出来る何もかもをぶつけて、生き抜いてきたから。

 

だから私は今も、これからもずっと変わらず、そうあり続けるだけだ、と。

 

 

目の前に迫りくる、この世紀末最強の拳を前に、深く身体を沈み込ませると────

 

「ヌゥッ!?」

 

余人では残像すらも追えない速度と"切れ味"を以て、ラオウの身体を斬り裂いた。

 

世紀末に存在するいかなる刃物も、闘気を全開に纏った今のラオウの身体を裂くことは出来ない。

それを成したのは当然、マコトが磨き上げてきた拳……その手刀。

そして、振るったその拳の名は────

 

「南斗、水鳥拳────レイか!!」

 

開手した構えで静かに佇むマコトに、今もこの世紀末で健在なはずの漢、レイの姿が重なる。

しかしラオウはそれにも一切の動揺を見せず、幻影を振り払うかのようにマコトに拳を振り上げると。

 

────ふわり、と流されカウンターの痛撃を受けることとなった。

 

極まったラオウの剛拳すらも完全に受け流し、一方的に攻撃を返す技巧。

その神技を振るう存在……そんな者、今マコトに重なった影をラオウが見るまでもない。

 

「…………トキッ……!!」

 

マコトが振るった、これまで関わってきた者たちが持つ拳。

 

それは、今の完璧な柔拳といい、先程たやすくラオウの肉を裂いた南斗水鳥拳の切れ味といい。

本人に劣らぬ……どころか、今のマコトの拳力に準じた高さに至っているかもしれない、と。

ラオウは実際に対峙した手応えから推察する。

 

元よりマコトと出会う前は、最もラオウを追い詰め得る存在であった実弟、トキ。

稀代の才能を持つ彼の拳を身に宿しながらマコトは、ゆらり、とラオウの元へと近づく。

当然、ラオウと相性がいい柔拳にてこのまま押し通すためだ。

 

 

────そして、ラオウは。

 

 

「────────それが、どうしたぁあアアアァッッッッ!!!!」

 

「────ッッ!!?」

 

 

すかさず右掌に圧縮した闘気を地面に放出。

互いの両脚がついていた硬い大地をたやすく砕き、揺らした。

 

()()()()、想定内よ!!」

 

一寸の狂いも許されない、至高の技術を求められるからこそ。

突然大地の踏ん張りが効かなくなったことで柔拳は狂わされ、マコトは瞠目した。

全てを薙ぎ払う横殴りの拳をかろうじて後ろに跳んでかわすと、息をつきながら彼女は感嘆する。

 

(……あっさりと、対処してきた)

 

何を繰り出してくるかわからない相手、それがマコトである、と。

十全に認めた上で鍛え直し、この決戦に臨んだラオウ。

彼のその想定はマコトの夢創転生による、これまで学んだ拳法のほぼ完全な再現という絶技を目の当たりにしてなお、精神を揺らすには至らないものだった。

 

 

「オオォォオアアアッッ!!!」

 

そして、ラオウの勢いは止まらない。

 

元より、この世紀末で……いや、これまでの過去全てを含めた歴史の中でも、今のこの自分こそが最強の存在と信じるラオウに取って。

今、マコトが宿す漢達の拳、想いなど全て蹴散らせて然るべきものだからだ。

 

紫電が如き速力で突きこまれる貫き手を捌く。

阿修羅を思わせる手数でなだれ込む拳撃を打ち払う。

十字の軌跡からなる万物を裂く極星の拳を突き貫く。

 

ラオウにも覚えのある彼らの拳。

それを振るうマコトの力は、なるほど確かにこの世紀末で覇権を握るに相応しいものである。

 

しかしそれも、もはや世紀末覇者でも拳王でも無い、ただ一人の、世紀末最強の存在となったラオウという漢が居なければの話なのだ。

 

 

そうして、ラオウが知る漢達。

 

マコトに宿るように見えた彼らの幻影を退けた上で。

 

ラオウは一際力を込めた、必殺の拳を叩き込もうと闘気を込め────────

 

「────ッッ!?」

 

瞬間、ニコッと。

この極限の戦いと、負ったダメージにはいかにも似つかわしくない、無垢な……

思わず漏れ出てしまったような、そんなマコトの笑みが視界に入ると。

 

 

(────風……ッ!?)

 

「ガッハァアッッ!!!!」

 

鋭い風が自身を撫でた感覚と同時────その全身を、強烈無比な打撃の嵐が覆い尽くした。

 

そして、それを為したマコトはすでに、ラオウとすれ違うように後ろに回り込んでいる。

血を吹き出しながらも、かろうじて振り向き様に拳を差し込んだことで、追撃は免れることは出来たものの。

今の彼女がもたらした攻撃、その脅威にラオウは大きな衝撃を受けていた。

 

(────なんという、疾風(はや)さ……!! 今の拳は、一体……!?)

 

動揺に揺れかけた心を鎮めながら、ラオウは考える。

 

……自分が知る北斗神拳に当然、このような技は存在しない。

 

そうなると考えられるのは、未だマコトが隠し持っていた技か。

いや、風といえば南斗五車星にそれを操るものが居た。

その男自身の技は自分に通じるものではないが、それを今のマコトが使うに足る領域まで引き上げたなら。

こうなる可能性もありえないわけではないのか、と。

 

そう考えればやはり、先程見せられたトキの柔拳で感じたとおりだ。

自身の無想転生に比べ純粋たる力で劣る、マコトの夢創転生が持つ特性とは。

マコトが知るこの世界に生きる漢の拳を、今のマコトの実力相応に引き上げ使いこなすことにあるのだろう。

 

すなわち、今自身の目の前に立ち塞がるのは。

紛れもなくマコトがこれまで歩んだ、この世紀末の道程そのものになるのだ、と。

 

「フ、ハハハハハ!!!」

 

上等だ。

それでこそ世紀末で天を掴み取る男に、このラオウに相応しい相手だ、と。

 

ラオウは笑い、再び闘気をみなぎらせながらマコトに向かい────

 

 

────────()()()()

 

 

瞬間、ゾワリッと。

高揚したはずの戦意に冷や水を浴びせられたような。

そんな、降って湧いたとてつもなく不吉な予感に、歩みを鈍らされることになった。

 

それをもたらしたのは、これまでも幾度となくラオウの窮地に働いてきた、彼だけが持つ神がかり的な直感、戦闘センス。

 

それは、理屈も根拠もまるで足りないはずのこの状況にありながら、それでもなお声を大にして叫ぶ。

 

────これまで、数え切れないほど想定を覆してきたこの女が今、浮かべた笑みの意味はそれで間違いないのか。

 

────今目の前に立つ存在は、本当に"その程度"のものなのか、と。

 

 

「……彼、がした、ように……ぜひゅっ、『もう葬っている』とは……流石に、ふぅ、いきませんね」

 

 

ラオウの警戒を察したわけではないだろうが、息を切らせながらにボソリ、とマコトが自嘲気味に呟いた言葉。

それもまた、ラオウには意味がわからない言葉ではあったが、にも拘らず"それ"は爆発的に膨れ上がっていく。

 

それとは、つまり。

 

……今自分が相手にしているものは、彼女のこれまでの道程全てなんてものよりも、もっと、ずっと、遥かに……致命的に恐ろしい何かなのではないか、という危機感。

 

かといって、当然ラオウがそれで止まるはずもなく。

 

彼女と出会ってからこれまでに至るまでの、最大といっていいほどの警戒をしながらも。

彼の拳は依然、迷いなくマコトを襲う。

 

 

そして、そんなラオウに対しマコトが放った次なる拳。

 

────それは、例えるならば光の蛇。

 

不規則な軌道でえぐるように放たれた拳は、あたかも一本の線となり。

 

「グっウゥ!?」

 

後ほんの僅か前に居たなら、たちまち致命打になっていたかもしれない、と。

ラオウをしてそう思わせるほどに、彼の身体に深い傷跡を刻みつけた。

 

しかし、その時。

ラオウを本当に驚愕に叩き込み、叫び声をあげさせたのは、その拳自体ではない。

 

「────なん、だ…………()()()()()()ッッ!?」

 

攻撃の刹那、マコトに宿るように見えた人物。

それは"全く見覚えの無い"、だけどどこかケンシロウに似た雰囲気を持つ一人の青年だ。

 

これまでの流れから、今の恐るべき拳の使い手であることは間違いない。

しかし、ラオウは知らない。こんな男のことなど、知るはずもない。

 

マコトがこれまで歩んだ道のりの中で、様々な拳法家と戦う機会があったのは、おかしなことではない。

しかし、こんな力を持った拳法が、それも自分が知る北斗神拳でも南斗聖拳でも無いこんなものが、おいそれと存在していいはずがない。

 

故に、ラオウは叫んだ。

一体何が起こっているのか、一体自分は何と戦っているのだ、と。

 

 

……ラオウの見立ては、そう間違ったものではなかった。

 

マコトが至った究極奥義、夢創転生が持つ特性。

それは確かに、彼女が知る拳法を彼女のスペック相応のものとして再現する、というものではあった。

 

だが、彼女が知るのは。

彼女が見ているものは。

これまで歩んで来た過去であり、掴み取った今であり。

 

そして、未だ不確かな、それでいて常に彼女とともにあった……"ありえざる未来"。

 

……立て続けにマコトが放った拳を、ラオウが知らないのは当然だ。

 

魔舞紅躁(まぶこうそう)。そして、擾摩光掌(じょうまこうしょう)

 

彼女が使った技は未だ彼女が出会うことも無く、それでいて、遠い先で出会うことになるかもしれない漢達……

すなわち、北斗の兄弟にも劣らぬ実力を持つ二人の羅将、その奥義を再現したものなのだから。

 

 

────無論、使える技は、彼らのものだけではない。

 

 

「ガァアアアア────────!!」

 

 

湧き上がった危機感は十全に感じつつも、無想転生に至ったラオウが恐怖に臆すことは無い。

自分が預かり知らぬ拳をいくら放たれようが、自分が知らぬ強者がどれほどこの世にいようが。

最終的に自分の拳がそれに勝っていればいい、と。

 

ラオウは未だ衰えぬ、どころか最大限まで高めた闘気を一つの技────

すなわち、ラオウ最大の奥義、天将奔烈(てんしょうほうれつ)を以てマコトにぶつけようと足を踏み出す。

 

そして、それを前にマコトは。

 

そんな脅威を目にしても、その場から脚を動かすことなく……ただ、両手を合わせ拝むような姿勢を取った。

 

瞬間、マコトに宿った漢の影。

それを目にしたラオウは、これまでとはまた別の驚愕が漏れ出ることになる。

 

「────ケン、シロウ……ッッ!?」

 

それは、ラオウがよく知る。

それでいて、ラオウが知るはずもない、今以上の気迫と力に満ち充ちた末弟の姿だった。

 

北斗神拳創始者の生涯に触れ、北斗宗家の秘拳を会得し真なる世紀末最強の存在となった漢、ケンシロウ。

 

今はもう、決してありえることが無くなったその未来を恋患(おも)うように。

マコトは自らの闘気を消し、祈り、そして────

 

「────────喝ッ!!」

「────ッ!?」

 

拳盗捨断(けんとうしゃだん)ッッ!!」

 

極めて強大、それでいて静謐な闘気とともに、圧倒的な気迫をラオウに叩きつける。

それと同時、フオッと上段から振るわれたのは左の手刀。

 

その軌跡は一筋の光となって、気迫により防御に回されたラオウの両腕を、まるですり抜けたかのように通過すると。

 

「グ、ゥアアアアアアッッ────!!!!」

 

世紀末覇者の拳を。

神域に至った世紀末最強の拳を。

破壊しつくしていたのだった。

 

 

「ぐ……うぅ……!! ふ~~、ふぅ~~ッ!!」

 

かつてない激痛がラオウを襲う。

この世紀末で生きるにあたり、全ての拠り所となっていた自分の、最強の拳が壊された感覚に、全身から汗が吹き出た。

 

しかし。

それでもなお。

北斗の長兄、ラオウは倒れず。

 

激烈な痛みとそれ以上の混乱に頭を埋められながらも、世紀末覇者としての彼の矜持は、依然折れずに勝利を求め続ける。

 

そして、見上げたその視線の先にあったものは。

 

「う……ぜひゅっ……! げっほ、ぐ、ぶ、うぅ…………! まだ、ま、だぁ……っ!!」

 

そんなラオウと遜色無いほどに。

今にも倒れそうなほどに消耗しきっている、血まみれのマコトの姿だった。

 

(勝機っ……!!)

 

……当然だ。

如何に心の力で鍛えてきたとはいえ。

全ての枷を解かれて深奥の力を発揮したとはいえ。

それを宿す身体は、まだまだ成長途上のもの。

 

この先を生きた漢達の究極奥義を再現するために、彼女の身体に無理を強いていないはずが無かったのだ。

 

全ては、純粋な拳力で勝るラオウに立ち向かうため。

マコトもまた、極限状態なのである。

 

「ぐ、か……うぅうううおおおオオォオ…………!!」

 

「ふ、ぎ……うぅううううううウゥウウ…………!!」

 

方や、粉々に砕かれた拳を無理矢理握り、今こそ最大の強敵から天を勝ち取るために。

方や、バラバラに千切れそうな全身を無理矢理奮い立たせ、今こそ長きの憧れに決着をつけるために。

 

砕けんばかりに歯を食いしばり、崩折れそうな脚を大地に踏みしめ。

 

そして、ほぼ同時に。

 

動いた。

 

 

「あああぁぁアアアッッッ!!」

 

ほんの僅か先に届いたのは、絞り出すような気迫とともにマコトが繰り出した、前蹴り上げ。

 

虹色の軌跡を描きまっすぐに差し込まれた一撃は、ラオウの顎を跳ね上げ刹那、その巨体にたたらを踏ませる。

 

それと同時、ラオウが目にした、マコトに宿る"最後の影"。

それは、今度こそラオウもよく知る……間違えるはずもない、一人の漢だった。

 

 

繰り出されたのは、無数の拳撃。

 

その影、その漢。ケンシロウを追い求め歩み始めた、マコトの拳は。

 

この最後の場面で、彼の物語の原初ともいえる、たった一つの奥義を選んだのだった。

 

 

────奥義の名は、北斗百裂拳。

 

 

「だぁあああああああ、り、ああああああ!!!!」

 

十、二十、三十。一撃一撃に必倒の気迫が込められた北斗の拳が、ラオウの全身に叩きつけられる。

 

「ぬ、う、ぐ、オオオオォオ~~ッッ!!」

 

四十、五十、六十。致命となる秘孔を瀬戸際で防ぎながら、ラオウは死力を尽くして耐え続ける。マコトはすでに限界を超えている。ならばこれを凌いだ先にあるのは紛れもなく、渇望し続けた勝利なのだから。

 

「────────~~~~っっっっ!!!!」

 

七十、八十、九十。もはや、気合の叫びも枯れ尽くした全身全霊。埒外の負荷に全身の血管が切れ、血を吹き出させる。それでもなお、マコトが拳を止めることは無い。

 

 

そして────百。

 

 

拳は、止まった。

 

 

「…………ッッ!!」

 

「最後、だ……!!」

 

北斗の奥義を出し尽くし、虹の闘気も失せ果てふらり、と力なくグラつくマコト。

 

彼女を前に、同じく蒼の闘気を失いながらも。

未だ両の脚でしかと大地に立ち、意識を繋いだラオウは。

 

倒れ伏す彼女を看取るのではなく、自らの拳で最後の決着をつけるため。

 

 

これまでで最も静かな、最も純粋な。

そんな、幼き頃に帰ったような拳を彼女に差し込むと────

 

 

────ぎゅるりっ、と。

 

 

"本当の最後となる、彼女自身の拳"。その動作を目にすることとなった。

 

 

「────────フッ……!」

 

 

マコトは、グラつき流れた身体をそのまま遠心力にあてると。

回転動作のさなか秘孔を突き、右拳に最後の力を宿す。

 

 

これまでの全ては、この時、この一撃のために。

 

最大の強敵を倒すために、最高の憧れを超えるために。

 

この世界でも無く、ここじゃない世界でも無く。

 

どこに生きる誰のものでもない、マコトだけが身につけた、マコトだけの拳が。

 

 

龍が、轟いた。

 

 

「────────龍渦門鐘(りゅうかもんしょう)ッッッッ!!!!」

 

 

★★★★★★★




薄々お気づきかもしれませんが、次回最終話です

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