【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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最終話

ずっと、ずっと。

この世界で戦って生き抜こうと決めた時から。

ラオウの姿は、私の前にあった。

 

私がこの世界で目覚めた時には、ラオウは私に対しユリアの妹である、ということ以上の関心を向けることはきっとなかっただろう。

それでも、私はこの人に勝つために、この人を超えて生きていくために。

ずっと、ずっと、鍛え続けてきた。

 

そうして、身につけた私だけの拳────龍渦門鐘(りゅうかもんしょう)

長い、長い道のりを経て届いたそれは、ラオウの身体深くに突き刺さり。

 

「────────見事、だ」

 

戦いに、決着をつけたのだった。

 

 

……限界を超え続けたこの身体は、今すぐにでも倒れ込みたい、と私に悲鳴を発し続ける。

 

しかし、それでも私は何が何でも今はまだ倒れまい、倒れてはいけないと意地を張り続けた。

その理由はもちろん、目の前の漢が、ラオウが。決着がついた今も、倒れず私の前に在ったから。

 

「……哀しみではなく。全ての希望と、全ての夢を背負った、か……ガフッ! フ、お前は最後の最後まで……北斗の宿命などに収まるものではなかったのだな」

 

「…………」

 

全身を覆うであろう痛みを、苦悶を感じながらも、それでもこれまで話した中で最も穏やかな口調で、ラオウは私に声をかけ続ける。

 

「…………見せてくれ。このラオウを倒した女の、その顔を」

 

すっと、私の両頬に大きな手を当て、目を合わせるラオウ。

 

当然私がそれを拒否することなどなく、私は彼の、最期の。

 

 

その心意気、に沿う……よう、に……って……

 

 

────────あれ?

 

 

「……あっ、わっ。ちょ、ちょっと待って、すみ……ずび、まぜん、待って…………!」

 

 

瞬間、私の両目から流れ出したもの。

 

それは、この世界で目覚めてから、ケンシロウさん達が死の灰に蝕まれたあの悲劇の日以来。

ただの一度も流すことがなかった……いや、流さないと決めていたはずの。

 

 

とめどなく溢れる、大粒の涙だった。

 

 

ああ、ダメだ。これは、ダメだ。

 

私は、この最高に強い漢と正面から戦って、勝つことが出来た。

 

ならば、当然、それを見送るときも強くあらねばならないと。

それこそが彼の矜持を守ることになると。

そう思って今も、立ち続けていたはずなのだ。

 

「う……ぶ、……ぐじゅっ……ちが、ぢがう……! ちがうんです、ごん、な…………!」

 

なのに、感情が溢れてきて止められない。

目に焼き付けようと決めた彼の顔が、涙で滲んでまるで見ることが出来ない。

 

……この世界で目覚めて修行を始めてから。

ずっと、ずっとラオウを超えるためにと想い、憧れ続けてきた。

 

そして今、それが成ったと同時……ラオウの、憑き物が落ちたかのような静かな口調を受け、心が理解したのだろう。

 

その憧れと……永遠の別れを告げる時が来たのだ、と。

 

『原作の流れ』など、もはや考えるまでもない。

全てを出し切り敗れたラオウは、もはや何の悔いもなく天に帰ることとなる。

それは、戦う前から分かっていたことだ。

 

ジャギやサウザーとは、違う。

私がここで彼の生存をいくら願ったとしても、それはラオウの救いにも何にもならない。

最後の最後まで悔いることなく覇道を貫き……そして敗れたならば散っていくからこそのラオウなのだから。

 

だから私はそれを、ちゃんと見届けなければならない、と。

そう頭で分かっているのに、心が止まってくれない。

 

(ダメだ……ダメだ……! 最期なのに、最期なのに顔すらちゃんと見られないなんて、そんなの……!)

 

そう、焦れば焦るほど、最期という現実をますます意識してしまい。

これまでずっと耐え続けてきた、期間の長さに比例するかのように……とめどなく涙が溢れ続ける。

 

 

……そして、そんな。

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているであろう私と向かい合うと。

 

ラオウはフッ、と苦笑したように少しだけ目を細め……言った。

 

 

「そう……だな……聞かせてくれぬか、マコト。お前がこれまで潜り抜けた戦いを。……歩んできた、道のりを」

 

 

────と。

 

 

「…………へ……?」

 

 

 

 

私は話した。全部話した。

 

……途中、ラオウからも一つだけ。

自分には生き別れた兄が居るということ。

彼もまた今は哀しみに、狂気に沈み……やがてそれが膨らんだまま、私達の前に立ちふさがることがあるかもしれないことを、語ってくれた。

 

でも、それ以外はずっとずっと、私が話し続けていた。

 

思えば、戦いという形以外で、直接関わったことなどほとんど無かったラオウに対し。

私がどういう想いで強くなろうとし、どういう想いで敵と戦い……そして、どういう想いで"彼ら"と関わってきたのか。

 

無論原作知識なんてものは言えるはずもなく、おまけに嗚咽を漏らしながらに辿々しく語ったそれは。

聞くに堪えないような稚拙な演説だったかも知れない。

だが、ラオウは黙って、ただ聞き続けてくれた。

 

私には、分かる。

 

この世紀末を拳で生き抜いてきた根っからの武人である漢、ラオウは。

こんな言葉などを介さずとも、あの全てを出し尽くすような戦いで、彼が知りたいことは全部知ることが出来たはずだ。

 

にも拘らず今、わざわざこんな時間を取ってまで。

これまで生きた軌跡を話してほしい、と頼んだのは。

 

間違いなく自分のためでなく……私のため。

 

そして。

 

「────────見事だ、妹よ!!」

 

「────────っはい……っ!」

 

全てを聞き終えた彼が言ってくれた言葉通り……北斗神拳使いである妹を想う、兄としての……愛なのだろう、と。

 

「…………っ」

 

彼の心意気のおかげで。

ようやく涙を収めることが出来た、それでも真っ赤に腫らしたであろう目で、改めて。

どこまでも強く、そして優しい一人の漢と、視線を交わす。

 

今度こそ、大丈夫だと。

最強の漢を破ったものとして、胸を張って生き続けると。

そう、目に言葉を乗せ、ラオウに伝えた。

 

あなたのおかげでここまで来れたと、あなたのおかげでここからも生きていける、と。

そう、ラオウに伝えることが出来た。

 

 

「…………ユリアのことも、気づいているのだろうな」

 

「……はい。あなたが姉さんにくれた命に感謝します。……絶対に無駄にはしません」

 

「そうか……」

 

 

ならば、もはやこれ以上私達の間に言葉は不要だ。

 

同じく悟ったラオウは、最後に振り返ると……この場にいる中から一人。

一人の漢にだけ、たった一言をかける。

 

 

「────ケンシロウ。もう、こやつを……泣かせるでないぞ」

 

「────あぁ、兄さん」

 

 

ケンシロウさんも頷いたとおり。

私が流す涙は、きっとこれが最後のもので……

そして、最後に背負う哀しみになるだろう。

 

 

フッ、と。満足そうにラオウは笑うと、一人高台へと向かう。

 

 

振るうべき拳は、尽くした。

 

果たすべき野望は、潰えた。

 

かけるべき言葉は、交わした。

 

 

心残り(カイオウ)のことも話し、もはや彼が未来に憂うことなど何一つ無い。

 

 

ならば、彼が放つ最後の叫びは…………決まっている。

 

 

「────このラオウ、天へ帰るに人の手は借りぬ!!」

 

 

ズッ、と。

自ら秘孔を刺すと。

 

闘気……いや、ラオウの身体に残った生命力そのものが、ラオウの右拳に集められ、束ねられる。

 

 

そして。

 

 

掲げた拳からその全てを放出し…………見事な立ち姿のまま、彼は逝った。

 

 

(…………本当に、ありがとうございました…………兄さん)

 

 

「我が生涯に一片の悔いなし────────ッッ!!」

 

 

★★★★★★★

 

 

巨星は堕ち。戦いは、終わった。

 

「ああ……! マコトさん、ユリアさんが、目を……!」

 

それと同時、ユリアの様子を見ていたリンが、彼女が目を覚ましたことを告げる。

 

ラオウは結局、ユリアを殺さなかった。

それどころか、彼が知る秘孔の効果により一時的に病状を停止させることを選んだのだ。

 

これにより数ヶ月と無かった余命は、今しばらくの猶予を手にすることとなる。

 

……最期まで、多くのものを遺してくれた漢に向け、マコトは今一度、頭を下げる。

だが、今に至った彼女は当然、この結果だけに満足することはない。

 

(…………また、忙しくなるな)

 

そう、長きの憧れに決着をつけたからといって、休んでいる暇など無い。

これからはユリアと、そしてケンシロウとトキの病を治すために、身を粉にすることとなるのだ。

 

しかし、これまでと違い、その道を歩む彼女の目に、不安の色は無い。

 

常に医療という形で北斗神拳を振るってきたトキの知識は当然、この戦いで得た南斗の人々との縁もある。

何より、夢創転生という形で無限の夢を、未来を、可能性を宿した自分は。

 

どのような困難があろうともそれを乗り越えるのは……そう、もはや『既定路線』なのだから。

 

……だから、マコトはその未来に想いを馳せながらも。

 

 

まず今、この時だけは、と目覚めた姉に声をかけたのだった。

 

 

「姉さん……! あーもう、こんな無茶して……泥だらけじゃないですか、ひどい怪我とかしてませんよね?」

 

咎めるような口調と裏腹の、柔らかい笑顔で姉に、手を差し伸べるマコト。

 

「無茶も怪我も、コホッ、あなたの、方よ……! 本当に、今までどれだけの苦労を……」

 

かけられた言葉に返しながら、傷ついたマコトの手を取るユリア。

 

 

どちらからも、言いたいこと、伝えたいこと、労いたいことが山のようにある。

 

でも、何よりもまずは今。

この傷ついた、疲れきった身体に、ほんの少しでもやすらぎが届きますように、と。

 

そうして、彼女たち二人は、当然のように。

 

最愛の姉妹のため、"お互いが"ごく自然に癒しの力を込め、手を取り合った。

 

 

────その時、だった。

 

 

「────────っ、これはっ!?」

 

「────あ、熱っつっ!? ふぁっな、なに!?」

 

 

彼女達が感じたものは、火傷をしたかと一瞬錯覚を起こすほどの異様で、激しい……だけど優しい熱。

 

 

そして、その熱が引いたあと。

少し離れた場所で見守るケンシロウも、何事かと覗き込むバットやリンの姿も、目に入らないほど一心に。

 

ただ、じくじくと熱い感触を宿す、自身の拳を見つめたマコトは。

 

「────────あっ……は……ふ、ふふ、ふっ」

 

「……マコト……?」

 

 

「ふふ、ふ、ははは、あははははは…………っ!!」

 

 

死闘により刻まれていた大量の傷が、痛みが。

"今のほんの一瞬で、きれいさっぱり消えていた"、という現実を認識し。

 

 

ただ、笑った。

 

 

「ふふ、なんだ……もう、ずっと、ずっと。ずっと、ずっと悩んでたっていうのに。……答えはここに、最初から……あったんじゃないかっ……!!」

 

「だ、大丈夫、マコト……きゃっ!?」

 

 

同時にぽすん、と。

心配そうな声をあげるユリアの……これまでずっと守るべき、救うべき存在とばかり見ていた、頼もしい姉のもとへと飛び込んだマコト。

彼女は、その身体に……正確には、ユリアの胸のあたりにすっと優しく手を乗せると。

 

 

「────────」

 

 

あえて、言葉は発さず。

見上げる形でただ、ユリアと視線を交わした。

 

…………離れていた時間は長くとも。

姉妹には、それだけで十分だった。

 

 

「マコトっ……えぇ、……うんっ……!」

 

 

ユリアはうなずき、それを見たマコトはすぅっと目を閉じ。

 

そして、全く同時に。

 

それぞれが持つ癒しの力を……全力でユリアの身体に注ぎ込んだ。

 

 

────────北斗と南斗が一つとなる時、乱世は平定される……奇跡が、起こる。

 

 

瞬間。世紀末を、極光(オーロラ)が包んだ。

 

 

………………

…………

……

 

 

「…………! ああ、マコトっ……ケン……っ! 私、私……っ……!」

 

 

光がやんだと同時、そう彼女が発した歓喜の声に釣られるように。

マコト達は、ユリアの……その姿を見た。

 

 

そこにあったのは、以前までのような美しくもどこか儚く、青白かった……そんな顔色など見る影もない、いっそ現金なまでに血色の良くなった肌。

 

妹、マコトと比べ長く伸ばされた、太陽の光に照らされまばゆく艶めく黒髪。

 

これまたマコトに比べると落ち着いた作りでありながら、今このときだけはまるで童女のように、屈託なく笑う笑顔。

 

 

「ユリ、ア……まさか……身体が……病、が……っ!?」

 

 

最初に、かろうじて震える声をかけたのは、この光景を後ろで……

いや、思えばマコトがマコトとして目覚めたあの日から。

ずっと、後ろから静かに見守ってきていた漢、ケンシロウ。

 

「う……おお、おおおお…………!」

 

救世主であると同時、まだ十代のいち男性でもある彼は今、初めて。

歳相応というべき表情のままに……ただ、目の当たりにした奇跡に、滂沱の涙を流したのだった。

 

 

────────癒しの力(ヒーリング)

 

 

この暴力が渦巻く世紀末において、ただ人を癒し、治すためにあり。

そして、本来辿る原作においても多くの漢の、身体のみならず心さえも暖め、抱きとめてきた……

そんな、ユリアだけが他者に使えたはずの、正真正銘の奇跡の力。

 

 

では、その癒しの力を振るえるものが、同時に二人存在したなら?

 

本来あるはずのないイレギュラー、ユリアの妹マコト。

 

旅路で目覚めた彼女の力と、元より圧倒的な素養を持ちながら、さらに修行により闘気の扱いまでもを学んだユリアの力。

一人分だけでも、これまで病の侵攻を抑え続けてこられたそれが。

今この場ではじめて姉妹で重なることで……二つ、合わさるようなことがあったなら。

 

その時、これまでずっと。

絶望の象徴として側に在り続けてきたもの……すなわち、死の病。

逃れ得なかったはずの、その運命が辿る結末とは?

 

 

…………そんなものは決まっている。

 

 

この話は、どこまでいっても、夢と希望の物語なのだから!!

 

 

「…………姉さんッ!!」

 

「…………マコトッ!!」

 

 

 

────────哀しみから始まった物語は今、全ての道程を糧に一つの結末に至る。

 

 

 

たとえこの先、どんな苦難が待ち受けようとも。

もう、彼女たちがうつむくことや、後ろを向くことは無いだろう。

 

 

 

高すぎるほどに熱を持った、未だ幼さ残る、柔らかく小さな手を取り合ったまま。

 

 

 

その手で勝ち取った、無限の未来へ向かい────────

咲き誇る花のような笑顔のままに、彼女たちは駆け出していった。

 

 

 

-完-

 

 




というわけでこの作品は一旦これで完結となります
長くのご愛読、誠にありがとうございました

当作品は元々自分用のRPG(R指定つくやつ)を作ろうとしたものの、まずキャラに何かを喋らせる方法が分からねえ!
とテキスト段階で哀しみを背負ったため、じゃあなんか一本ぐらい好きな作品で小説書いとくべ、と見切り発車してみたものとなります

そんな雑なスタートの当作をここまで続けられたのは、月並みな言葉ですが評価感想支援絵ブクマ閲覧誤字指摘その他諸々で支えてくださった皆様のおかげです(三話ぐらいで作品に死兆星落とす覚悟で書いてた)
……いやマジでずっと読み専だったのですが、作者にとってここまで反響が大事なものだったとは、海のリハクの目を持ってしても読めませんでした
ともかく、本当にありがとうございます

また、原作勢の方は「は? 二部やれや」とお思いかもしれません
実際ある程度の構想自体は無くも無いのですが、少なくとも原作通りの二部全部をやることは無いかと思います
理由は色々ありますが、第一はこの作品でやりたいテーマはほぼ全てやりきったということ、
あとは、続きをやるにしても多分原作と流れがあんまり変わらなくなってぶっちゃけ一部ほど書いてて面白くならn……

なのでもし仮にやるとしたら、ダイジェストというかEX話という感じで、構想してある美味しい部分だけをやる、という形になりそうです
読んでくださる方々と作者自身の需要やら何やら次第になりますが、あまり期待せずお待ちいただければ幸いです
「やっぱ無いな」と思ったらもしかしたら活動報告にダイジェストプロットだけ上げたりするかもしれません

今後は遠回りしていたゲーム作りに戻るか、別所でのオリジナル小説に挑戦するかのどちらかをぼんやり考えております
また会う機会がありましたら、何卒よろしくお願い申し上げます


TS原作沿い作品増えろ
 
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