拙作の最終話投稿から4年半ほど深海の底に沈んでいましたが、そろそろ色々やるようです。
手始めに、おまけですがなんか投稿します。
もしこの作品を覚えておられる方がいましたら、ほどほどにお楽しみいただけると幸いです。
少年少女の世紀末 前編
「っふぅ、はぁあッ!!」
この日、私が向かい合う相手の顔面に向け放ったのは、右拳に握り込んだ闘気を、
殺傷力こそ無いものの、小さなショットガンのように同時に炸裂する闘気弾は、視界を塞ぎながら体勢を崩すには十分な一撃のはず。
ひとまず
「っ、ほぉぁあああ!!」
「ぐぉぇぇっ……」
普通に目を閉じ顔面で受けながら、最速で迷いなく返された一撃を食らい……あっさりと前に倒れ込んだ。
そんな私の姿を残心の姿勢のままに見下ろした相手……ケンシロウさんは、大きな息切れも見せず口を開く。
「今日は俺の勝ちだ」
「……はい……ありがとう、ございましたっ……」
端的に決着を告げた組手相手に、倒れ伏しながらなんとか頭だけかくん、と地面に擦り付けるように下げた私は、内心で軽く歯噛みした。
(ふぐぐ……今日もダメだった……しかも昨日よりひどいって……)
「ふふ、お疲れ様、ふたりとも」
そんな私とケンシロウさんに、微笑みながら水を差し出すのは姉さん、ユリアだ。
水を置くかたわら、姉さんがかけてくれた
……んまい。
ラオウとの戦いが終わって、少しばかり時間が流れた。
本来の原作の流れでは、ラオウを倒したケンシロウさんは姉さんの残り短い余生を共にするために、バットくん達を置いて旅立った。
が、当然諸々の問題が解決した今、そのようなことをする必要もない。
そんなわけで、相変わらず私達はマミヤさんの村でお世話になりながら、平穏な日常を謳歌していた。
……平穏といってもそこは世紀末。
まだまだ悪党が小さな問題を起こしたり、ということは枚挙にいとまがないが。
そして私は、そんな日常を迎えても修行をサボってダラダラする、という選択肢はなかった。
マミヤさんやリンちゃんあたりからは、私に普通の女の子として生きるのも良いんじゃないかなんて声も何度かかけられたものだが。
少なくとも私がまだうっすら覚えている限りでも、元斗の……ええっとそうだ、皇帝軍とか修羅の国の羅将とかいった強敵が控えているはず。
だからこそ私は、今もまだケンシロウさん達と修行を続けることを選択したのだ。
死の病もすでに完治したケンシロウさんの技は、ますますキレを見せている。
夢想転生なしでの対ケンシロウさんの戦績は勝ったり負けたりというところで、さすがケンシロウさん……なんて。
憧れた人の強さに、無邪気に喜んでいられたのも最初だけ。
勝ち、負け、勝ち、勝ち、負け、負けぐらいで始まった戦績は、最近では負け、負け、勝ち、負け、相打ち、今日の負け、と続いている。
当然、これではいけないと新しい技を開発したりと対策を考えているが、中々結果には結びついていないのが現状だ。
闘気を足で打ち出し空中で軌道を変える既存の技、飛龍。
これを応用し壁のない場所でも三角飛びで蹴りかかる『鷹爪三角脚・朧』なんてものも前に試したが、当たり前のように避けられて裏拳を打ち込まれた。
ケンシロウさんが一瞬無想転生を纏いそうなぐらい哀しい目をしているように見えたのは、気のせいだと思いたい。
「アミバ参考もだめ、ジャギの目潰し参考もイマイチ……むぅ……
どうしたらもっと勝てるかな……ケンシロウさん個別の対策とかしたほうが……」
そんな私のつぶやきを拾った姉さんが、少し考え込んでから私に提案する。
「……横から戦ってる姿を見てみるとか? ……私も、ケンと戦ってマコトに見せてみたりしたほうが良いのかしら」
「えぇ……いや、それは……うーん、どうだろ……」
……今でもあの姉さんが拳法を身に着け、あまつさえこのようなことを言い出すようになった、という事実にもどうにも慣れることができない。
結局苦笑いで濁すことしか出来なかった私は、気持ちだけ受け取ってひとまずその場を後にした。
★
実のところ、こうなった原因自体についての推測は、おおよそ出来てはいた。
もちろん、病を克服したケンシロウさんが取り戻した力が凄まじいとか、私の戦い方がどちらかというと小細工や初見殺しのような動きに偏っているから、というのもある。
ただ、一番の大きな原因は私の心の
この世界で目覚めて、自分のせいでケンシロウさんが死の灰を受けた、という罪悪感から始まって。
その後はやりたいこと、やるべきことのために全速力で駆け抜けてここまできた。
そうしてひとまず戦いに区切りがつき、差し迫っての目標が無くなったことで、この世界で最も大きな原動力である、心の力が弱まったのだ。
今も修行を続けているように、この先の戦いのことを忘れているわけではないし、自分では必死に鍛錬を積んでるつもりではいる。
ただ、そうと分かってはいても、だ。
(次に何か起こるのって……確か10年後とかそれぐらいの話だったような……)
少なくとも、少年少女だったバットくん、リンちゃんが青年と呼んで良い姿になるまでの時間は過ぎている。
10年、10年だ。
目の前のことに必死だった私が突然目を向けるには、さすがにこれまでの生き方とのギャップがありすぎた。
この世紀末で、一番未来にこだわって生きてきたつもりだけに、いきなりそれが見通せなくなった現状に、心が追いついていないのだ。
(それは……勝て無くもなってくるよなあ……)
そんな感じで、再び心を燃やすため。
色々考えてはああでもない、こうでもないと試行錯誤する日々が続いている、というのが私の現状だ。
問題は分かっているのに対処法がわからない、という状況は、中々にもどかしいものがある。
そうして今日もまた、むんむん唸りながら一人歩いている、と。
私と全く同じようなポーズでうんうん唸りながら歩いているバットくんと、同じく難しい顔をしながら寄り添うリンちゃんが。
正面から歩いてくるのを、私は目にした。
「こんにちは、バットくん、リンちゃん。集中されてるようですが、何か考え事ですか?」
「っうおっ!? マコトか、びっくりしたぁ~」
「あ……こんにちは、マコトさん」
声をかけられてはじめて私に気づいたほどに、深く考え込んでいた二人。
何事だろうかと興味が移った私は、自分の悩みを一旦置いて伺ってみることにした。
「ぅ……まあ、その……いや、でも、ちょうどいいのか……?」
「バット…………」
私の問いかけに、しばらく私とリンちゃんの顔を交互に見ては、話すべきかと迷う少年。
表情や声色から、特に悪い方向の話、というわけではなさそうだが。
普段からスパッとモノを言う彼のためらいっぷりに話題の重さを感じ取り、知らず私は姿勢を正す。
「よ、よし、言うぞ。いいな、リン」
リンちゃんにそう声をかけると、少し目を瞑って息を吸い込み、意を決したように口を開いた。
「マコト! その、オレに……いや、オレたちに! 北斗神拳を教えてくれッ!」
「────────っ」
★
しっかり考えながら話したのだろう。
彼が所々言葉をつまらせながらも、一度口に出したからには、と迷いなく語った想いをまとめると、こうだ。
この世紀末で、たくさんの強者を見てきた。最初は化け物としか見ていなかったが、だんだんとあんな風になりたい、と憧れるようになってきた。
特に比較的近い年代の私が戦っているのを見て、自分は後ろで何をやってるんだ、という思いがどんどん強くなってきた。
だから、差し迫った問題が無い今、もし私が許すなら稽古をつけてほしい、ということだ。
そしてリンちゃんはリンちゃんで、女性……特に、リンちゃんと少しタイプが似ている姉さん、ユリアすら拳法を用いたことに衝撃を受け。
バットくんの熱にも当てられる形で、同じ願いにたどり着いたらしい。
「む……むむ……むむむむ…………」
そんな、彼らの願いを聞かされた私は当然二つ返事で了承する、なんてことあるはずもなく。
これまで抱えていた悩みが、どうでもいいと思えるぐらいの深刻さで唸ることとなった。
まず、もちろん私の気持ちとしては彼らが振り絞った勇気に応えたいし、是非叶えさせてほしい。
ただ、それだけを理由に教えるには、北斗神拳という拳法は修羅の道に過ぎるというのもまた事実だ。
一子相伝
そして、その辺りを置いておくとしても、生半可に決めるべき話でないのは間違いない。
(……私の時はどうしたっけ)
ここでモデルケースとして考えるべきは、やはり最も直近に北斗神拳を学び、またバットくん達の動機にも深く食い込んでいる私自身だろう。
未熟な身の私が、曲がりなりにも修行について行けたのは、執念ともいえる心の力……言いかえれば、明確な目的意識があったからだ。
数年の間にケンシロウさんの役目を果たせるぐらい強くなって、代わりを務めなければ……結果的にその考えは正されたとはいえ、この執念が無茶な修行に耐える力となったのは間違いない。
ならば。
「お二人の気持ちは、わかりました。……ただ、はじめる前に、一つ質問をさせてください」
私は、ハラハラと心配そうに見つめるバットくんたちに対し、問いかけてみることにした。
「────あなた達は、どういった強さを、身につけたいのですか?」
「────っ」
「……えっと……その……」
……私の場合は、"ケンシロウさんと全く同じ強さ"から始まり。
その後は"この世紀末で、拾えるモノを拾える強さ"を求めた。
そうした心の熱に後押しされて、天破活殺を始めとした闘気の扱いを特に重点的に磨いた。
人質を取ってくる悪党を相手取ったり、私が助けたいと思った手を差し伸べるために、この力が絶対に必要だと感じたからだ。
もちろん、普通に拳法を学ぶだけなら、『ただ強くなりたい』とふわっとした気持ちだけで始めるのもいいことだとは思う。
ただ、教えるものが彼らの願い通り、北斗神拳となるなら、きっとこれだけでは不足する、と。
私はこれまでの経験から感じ取っていた。
質問に言葉を詰まらせた二人の様子を見るに、まだその辺りが固まっているわけではなさそうだ。
すぐに返せなかったことで、修行に不適格だ、と私に判断されることを心配しているのか、どんどん気まずそうな顔になってしまっている。
当然、そんなつもりは無い私は出来るだけ安心させるため、と。
にっこりと笑いながら、彼らに一つの提案をした。
「ふふ、それなら……そうですね。今日は時間もあるので、この機会に改めて考え直してみましょうか」
「そ、そんなこと言ってもよぉ。どんな強さがいい、だなんていきなり言われても、どう考えたらいいのかわかんねえよ」
「ええ、簡単な問題じゃない、と私も思います。なので……」
「一人で分からないことは、みんなに聞いてみましょう」
★
「どういう強さを、か」
「なるほど、マコトさんらしいな」
バットくん達を連れて最初に向かった先は、とある村の診療所。
目当てはもちろん北斗の兄弟トキさんと、ちょうど一緒に居たケンシロウさんだ。
そもそも今の質問に答えが返せたとして、北斗神拳を教えていいのか問題に対しての確認も取りたかったところ。
そちらに関してはケンシロウさんの「お前が決めろ」の一言であっさりと通された。ですよね。
「あぁ、それでみんなにも聞いてまわろう、なんてマコトが言い出してよ。ケンやトキはどういう強さを身に着けたいって思ったんだ?」
ぶっきらぼうな口調ながら真剣さを滲ませるバットくんの問いかけに、少し思案してから先にトキさんが口を開く。
「私は……そうだな、以前にもケンシロウたちに一度語ったが、この北斗神拳を人のために役立てたい。傷つき、病に倒れた人の助けに使いたい、と。そう願っている」
「…………」
これは私が知る通りの、トキさんの"今"の原動力だ。
ラオウとの戦いを終えた私と姉さんの癒やしの力-ヒーリング-で死の病が完治した今も、トキさんは人を治す村医者として、穏やかに生き続けている。
「ただ、それはあとになって……北斗神拳を修めてから改めて持つようになった夢。本当の最初は兄、ラオウの修行の様子に憧れて……そして」
「……そして?」
「『道を誤ったときは、お前がオレを止めろ』と。ラオウと交わしたあの約束を果たすため、彼の全てを目指した。……結局のところ、私は"誰かのための強さ"を求めたのだろうな」
「誰かの、ため…………」
感慨深げに語ってくれたトキさんを前に、刻み込むように小さく、リンちゃんが呟いたのが聞こえた。
そうして、語り終えてくれたトキさんに私たちはお礼を伝えると、次にケンシロウさんに目を向ける、が。
「……あ、今の気配、誰か来られたかもしれませんね。ちょっと私見てくるので気にせず話していてください」
私は来客があったかも、とその場を立つと、少し困惑するバットくんたちを置いて、そそくさと外に出た。
(少しわざとらしかったかな……)
私があの場から退出した理由は、一つ。
それは、次に聞かれるだろうケンシロウさんが求めた強さに、察しがついていたからだ。
この世界での彼と関わり、何度も手合わせし……特に、ラオウとの決戦前の戦いで改めて感じた強さの動機。
多分それが、"私のために、先に在る強さ"だ、と認識していた私は。
張本人がいる前でケンシロウさんが語るのは多分嫌だろうな、と思ったわけだ。
私の代わりになるように死の灰を被ったことに対し、私が感じていた罪悪感を打ち壊すかのように強く在り続けた、本来の救世主。
寡黙で、成果を誇ったり人に恩を着せるような言い草を一切しない彼の語りに、私の存在は邪魔になるだけだろう。
(なんて、ただの自意識過剰かもしれないけど)
そんなふうに考えながらぷらぷらと足を揺らしていると、話を終えたらしいバットくんたちが合流してきた。
バットくんがにやにやと何事か言いたそうに、リンちゃんがちょっと微笑ましそうに、それぞれ私に向けた表情を見て。
私は、ほら見ろ、と少し熱を持った顔を背ける。
……一番の退出理由は、目の前でそれを口に出された場合、単に私が恥ずかしくていたたまれなかっただけかもしれない、と。
私は、遅れて気付いた。
★
「しっかし、ケンのやつも他人のためだったなんてな」
次の質問相手のところへと向かう道中、両手を頭の後ろで組みながらバットくんが漏らしたつぶやきに、私は反応する。
「意外でしたか?」
「いやー……まあ考えてみれば、仏頂面だけどガキには特に優しかったりするし、言われてみればって気もするかな」
この言い方の場合私もガキに入りそうだ、なんて思いつつ。
確かにケンシロウさんが特に激情をあらわにするのは、子どもに被害が出たときが多かったな、と思い当たる。
「人のためってんなら道場を作ったり、スポーツを教えたりするのも向いてんじゃねえ? ケンだってトキさんみたいな職業はあったほうがいいだろ」
「う……うーん……それは、そうなんですが……」
バットくんの言には一理ある気もしたが、実際に寡黙な彼のもとであの厳しい北斗神拳の修行を、ズタボロになりながら受けた身からすると、こう。
「ケンシロウさんが子どもや他の人に、積極的に優しく指導する……ちょっと……中々想像つかないですね」
「いやいや、ああ見えて意外に面倒見がいい、おもしろお兄さんみたいになったりするかもしれないぜぇ?」
そう、にやっと笑いながらからかい口調で続けるバットくんに、思わずおかしくなって私も乗っかってしまう。
「あははは! もう、バットくんたら、さすがにそんなタイプでは無いですよ、ケンシロウさんは!」
「わからねえぜ? いざ一般人に教え始めたら、簡単なことを覚える度に『いいぞ』『よくやった』『かっこいいぞ』なんて褒めてくるケン、マコトは見たくねえ?」
「……ふふ」
「あははははは、ちょ、やめ、ふぇ、やめてくださいっ、おなかいたいっ。もう、冗談、ばっかりっ、そんなことあるわけないじゃないですか」
「ええ~、無いかなあやっぱ」
「ないない、ここまで見てきた私が言うんだから間違いありません」
不満半分同意半分で口をとがらせるバットくんに、私は目尻を拭うと、腰に手をあてながら断言した。
「もしそんなことが起こったら、逆立ちで聖帝十字陵積み上げますよ私は」
モノマネまで混じえて茶化すバットくんに、つい羽目を外して笑ってしまったが、目的の場所が近づいてきたことで気を取り直す。
次に伺う相手はラオウとの決戦前以来に会う彼だ。
特に事件の報せなども入っていないから大丈夫だとは思うが、元気にしていたらいいな、と。
私達はバットくんの故郷の村に、足を踏み入れた。
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