【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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番外編は毎回予定の話数にならない


少年少女の世紀末 中編

 

「────と、いう感じで来たんですが……どうですかね、ジャギ」

「お前が来るときは大体何か頼みに来るときだな……まあ、それぐらい構わねえがよ」

 

バットくん達が私にぶつけた「北斗神拳を教えてくれ」という願い。

それをどこまで叶えるべきか、バットくん達のためになることは何か、を改めて見つめ直すため、次に私たちが向かったのはバットくんの故郷の村。

正確には、歪んだ執念や憎悪から解放され、今はこの村の守り手として過ごしている北斗の三男ジャギに、彼が求めた強さを尋ねに来たのだ。

 

そしてそんな彼は、どこか不満そうな気がする雰囲気を一瞬だけ覗かせるも、頼み自体は特に問題なく受け入れてくれた。

気のせいかな、と私が深く考える間もなく、彼は解答を始める。

 

「つってもお前らが期待してるようなキレイなもんじゃねえぞ? 俺は自分のために拳を振るってただけなんだからな」

「自分のため……」

 

自嘲気味に語ったジャギの言葉を、反芻するようにバットくんが呟くと、ジャギはそうだ、と続けた。

 

「自分がもっと美味しい思いをしたい。もっと良い目で見られたい。…………見てほしい相手に、見せつけて認められたい。

そのための手段として強さを選んだだけで、俺に必要なのは結果だ。

だから質問に答えるなら……"結果のために手段を選ばない強さ"、が求めた強さになるな」

 

……あまり接点も無いバットくん達だけと話すのはお互い気まずいだろう、と今回は離席をしていない私が見ているとはいえ。

ここまで深いところまで語ってくれるとは思わなかった私は、思わず目を丸くする。

そんな私をよそに、今の話で特に引っかかりを覚えたらしい箇所に、バットくんは言及した。

 

「……見てほしい相手って……」

「そ、それは良いじゃないですか、プライベートなことですよ」

 

思わず変な方向からフォローを入れてしまう私に、ジャギはヘルメットの下で気まずそうに苦笑いする。

ただ、バットくんはバットくんでチラリ、と隣のリンちゃんを意識しながらだったので、幸い不自然さに気づかれることはなかった。

 

(……ただ、そうか)

 

本来たどる世界では、その全てに手が届かないまま苦悶の死を迎えたジャギの姿と、今ここにある姿を想うと、改めてこみ上げるものがある。

 

この村に着いて用件に移る前に、私たちは村のみんなに現況を伺った。

ラオウとの決戦前に顔を見せた時、ジャギは彼に憧れる村の子ども達に拳法を教えるという話になっていたが、今も順調に子ども達の絆は育まれているようだ。

 

最初、小さなジャギのヘルメットをつけている子どもを見た時はぎょっとしたが、それも話を聞いてみると。

弟子同士で実力を競い、最もいい成績を修めたものだけが、ジャギヘルメット(小)をつける権利が与えられる、なんて微笑ましいルールが子ども達で浸透しているらしい。

 

……ジャギは複雑そうな表情もしていたが、彼が最初に求めたモノがなんだったか、を考えると悪い気をしているはずもなく。

話を終えたことを嗅ぎつけた子ども達が集っているジャギに、私は目を細める。

そして改めて……答えの分かっている質問を口にした。

 

「ジャギ。…………今、あなたは幸せでいてくれてますか?」

 

私の問いかけにしばらく無言で固まった彼は。

はんっ、と。

一度だけ、息を吐くように笑った。

 

 

 

 

次に訪ねようとしていたのはレイさんだったが、彼はマミヤさんとどこかに出ている、と聞かされる。

会えなかったのは残念だが、彼らが仲良く平和に過ごせている、ということは私にとって何よりのニュースだ。

なんで無駄足に終わったのにニヤニヤしてんだよ、なんてバットくんのツッコミももらいつつ、私達は次の目的地にたどり着いた。

 

「おお~……」

「うお、すげえ……」

 

その村に入った私達の目を特に惹きつけたのは、整然と並べられた子ども達が、突きや蹴りといった基礎動作の素振りをしている姿だ。

掛け声に合わせ、一糸乱れぬとばかりに揃えられたタイミングで繰り出される様は、ジャギが居た村の緩い光景とも違う、確かな秩序と締まりを感じさせるものだった。

かといって、無理やりやらされている悲愴感のようなものは彼らには欠片もない。

誰も彼もが、この行動がより良い未来につながっているという、そんな力強い確信のもとに汗を流していた。

 

そして今、この世紀末で特異な環境を作り出した一人の傑物。

この来訪の目的でもある彼に、私は声を掛ける。

 

「息災のようですね、サウザー」

「貴様か。……そうか、拳王は、ラオウは天に還ったか」

 

ジャギと同じく、ラオウとの決戦前以来に会った私の無事な姿を見て、少しだけ感慨深げに目を瞑りながら、サウザーは呟いた。

 

深すぎる愛ゆえに、この世紀末で一度愛を捨て去り、暴虐の皇帝として道を踏み外し……そして再び、愛を拾い集める道を手探りで歩み始めた男。

その一つの形である光景を見て、私は心からの賛辞を伝える。

 

「この世紀末で、こんな光景が見られるなんて……私も、多分シュウさんも、ここまで上手くいくなんて思ってませんでしたよ」

 

今を生きるのに精一杯な人が殆どで、未来に目を向けることだって簡単じゃなかった、この世紀末。

そんな中にあって短時間で形作ったものとしては、この修行場はすでに異様と言えるほどの完成度を誇っていた。

 

……ただ、考えてみれば当然だ。

恐怖で縛り付け、野卑な配下にも管理させていた状況でなお、子ども達の力で聖帝十字陵ほどの建物を作り上げた実績を持つ彼。

そんな彼が未来に目を向け、自身の力とカリスマを十全に発揮し子ども達を支えればなるほど、成功ははじめから約束されているようなものだったのかもしれない。

 

「ふん……もの好きが集まっているだけだ。俺が犯した罪の精算に使われるこいつらも、哀れなものだ」

 

そう(うそぶ)きながらも、サウザーが子ども達を見る目に険はなく、どこまでも温かいもの。

これを見られただけで来た甲斐があったな、と思った私は、満足しきってしまう前に先程までと同じ質問を、彼に投げつける。

 

「俺が求めた強さをこいつらに教える、だと?」

 

サウザーの過去を思えば、かなり言いづらい話題であることは間違いないので、難色を示したなら大人しく諦めようとは思う。

ただ、重く、苦しい判断であったならなお、バットくん達にとっての価値ある金言になるはずだ。

 

「……いいだろう。貴様には借りがある」

 

そんな私の期待に応えるように、サウザーは少し考えながらも受諾してくれた。

三人揃って頭を下げながら礼を言う私達に、彼は続ける。

 

「俺は……以前貴様に語った通りだ。我が師オウガイに拾われ、向けられた愛情に応えるための強さを欲し、磨き続けた。

そして、南斗鳳凰拳伝承の儀により、師を手に掛ける事となった俺は……愛のために手にした強さのせいで、愛を失った事実に耐えきれなかった。

ゆえに、これまでとは正反対の生き方をし、その上で師オウガイの墓標を作り上げ、そこに愛を永久に捨て去ろうとしたのだ」

「…………」

 

「ならば、俺が求めた強さは……"今ある幸福を守る強さ"……そしてその後は、"失った幸福と決別する強さ"になるだろう。

……お前達が目指すべき強さとなるとは、到底思えんがな」

 

確かにサウザーが語った通り、彼の強さを支えるのは我が身を省みないような、制圧前進の鋭さだ。

基本的に構えが無く、攻撃のみに特化するというのは南斗鳳凰拳自体が持つ特性ではあるが、それをここまで使いこなし南斗最強の男にまで至った理由は。

彼が持っていたこの心の影響が、やはり大きかったように思える。

 

サウザーが語ってくれた言葉の重みに、バットくん達も思うところがあったか、神妙な顔で頷いては考え込んでいる。

その様に私も満足げに頷き、改めてサウザーにお礼を伝えた。

 

そうして概ね用事も済んだ私達だったが、今度は不満げな顔のサウザーから、私に指摘が入る。

 

「しかし貴様、俺が言うのもなんだが以前見たときよりも覇気が薄いぞ。そんなことでは当代伝承者としては不安と言わざるを得ないな」

「う……すみません、ちょっとスランプ気味です。……しかしさすがサウザー、一目でわかりますか」

 

私の言葉に当然だ、と返すサウザー。

すでに多くの子どもの才覚を見出し、指導の実績を積んでいる彼の目は、私に対しても遺憾なく発揮されるようだ。

 

(さすがだなあ……ああ、本当に良かった)

 

 

南斗最強の実力を持ち、魔道に落ちていた心を取り戻し、さらに元来持っていた深い愛で、他者を読み取る力に長けた男、サウザー。

 

彼の行く道を、この世紀末の未来の明るさを改めて確認した私は、晴れやかな気分でその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

あの後も、バットくんやリンちゃんは少しだけ残ってサウザーと話をしていたらしい。

どうやら、彼らの持つ才覚を見抜いたサウザーが、ありがたいことに一言二言アドバイスを送ってくれたそうだ。

 

モチベーションも上がったのか、村を離れた後もふんす、とやる気を見せている二人に対し、私は問いかけてみる。

 

 

「いかがでしたか、二人とも。何人かに聞いて回ってなにか思うことはありましたか?」

「思うこと……そうだな、うん」

「────っ」

 

バットくんが自分の言葉をまとめるためか考えていると、先にリンちゃんが静かに手を挙げる。

その姿に彼女が奥底に持つ意志の強さを感じ取りながら、私は「はい、リンちゃんどうぞ」と促した。

 

「その、思ったの。つよい人達がいっぱいいて、だけどみんな違うつよさというか、違う願いを持ってたりして。

だから、その……どういうつよさを求めるべきか、ということは、もしかしてそんなに大事なことじゃないんじゃないかって」

 

リンちゃんの言葉に得心を深めたらしいバットくんも、引き継ぐように続ける。

 

「そう、そうだよな! みんな言ってることがバラバラで、共通点とか無いように見えるんだけど、それも違って。

……そう、なんていうか、みんな違うんだけど、"どういう強さを求めてきたかは、みんな迷いなく答えてる"んだ」

 

「────はい、私もそう思います。大事なのは自分が何をするための力なのか、確たる答えを持っていること。

その心の力が、辛い修行に耐え抜くための芯となるのでしょう…………さて」

 

 

「その上でもう一度うかがいます。あなた達は今、どんな強さを身に着けたい、と思いますか?」

 

 

私が問いかけた、その言葉。

それに対し先に一歩、前に出て力強く口を開いたのは、リンちゃんだった。

 

「────わたしは……まだ小さくて弱いから。

悪い人に狙われたり、助けてもらってばかりで、自分では何もできてないのが、くやしいの。

だから……まず自分を守れて、そして他の人も守れる……そんな力がほしい。……マコトさんや、ユリアさんみたいに、つよくなりたい」

 

「リンちゃん……っ」

 

彼女が見せた意志の強さと、内面で抱えていた悩みに。

ぐっ、と湧き上がりそうな情動を堪えながら、私は次のバットくんの発言を待つ。

 

が、迷いなく表明したリンちゃんと違い、バットくんは中々口を開こうとしない。

まだ時間がかかるのも仕方ないか、と一瞬思ったが、よくよく見るとバットくんは隣をチラチラと気にしている。

 

……どうやら彼が迷っているのは答えの方ではないようだ、と察した私は。

理由をつけてリンちゃんに先に修行場に向かってもらい二人きりになると、改めてバットくんの答えを聞いた。

 

「……いろんな強いやつを見てきて、今日聞いて回って……あらためて思った。

オレは……オレはマコトやケンに会わなきゃそのまま野垂れ死んでたような、チンケなコソ泥だ。

マコトみたいに出会うやつみんな救ったり、倒したりなんてきっとできねえと思う」

 

自分にできること、できないことを口にしながら。

神妙な表情のバットくんは続ける。

 

「ただ……隣にいるやつは……リンだけは絶対守って生きていく力がほしいんだ。

……こんな理由じゃ、ダメかな、マコト? オレ、ちゃんと強くなれるかな?」

 

話しているうちに、自分の願いがちっぽけなものなんじゃないか、と自信が無くなってきたのだろう。

最後に不安げに呟いたバットくんに、私は大丈夫、と。

力強く肯定の声をかけた。

 

これは慰めでも強がりでもない、私の心からの太鼓判だ。

 

(この世界で……愛のために生きる漢が、弱いはずなんてないんだから)

 

 

そうして、修行の日々が始まった。

 

 

 

 

「リンちゃん! 手の位置が下がってきています! 疲れた時こそ基本の構えを忘れずに!」

「バットくんはもっと相手の動きに集中! 常に相手が何を狙ってるか、考え続けて戦って!」

 

「ぜはぁ~ぜはぁ~! き、きついッ……!」

「う……うん……」

 

修行メニューのうちの一つが終わったタイミングで、息も絶え絶えになりながら吐き出すバットくんに、リンちゃんが同意する。

 

「こ、これでまだ北斗神拳の段階じゃない基礎って、ウソだろ……? マコト、こんなことしてたのか……?」

 

そう、バットくんが言った通り、修業に入ったといってもまだ北斗神拳を教えているわけではない。

今はまだ、基礎となる体力や身体の動かし方を身につけている、という段階だ。

その過程で、それぞれの体質に合った戦い方、ひいては流派を見つける、というのが私の構想である。

 

……優れた強者がたくさん生き残っているこの世紀末で。

彼らが強くなる手段として、必ずしも北斗神拳を選ばなければならない理由はない。

場合によっては彼らにも頼って、みんなでバットくん達を育て上げるのもいいだろう。

世紀末史上最強の弟子バットくん達ってやつだ。

 

(……ふふ)

 

そんな未来に思いを馳せ、スランプ気味だった自身も刺激をもらいながら。

私は、自分の修行と並行して彼らを見る日々を続けた。

 

 

 

 

そして、さらにしばらくの月日が流れ。

 

「よっしゃ、できた! どうだマコト! 今のは良かったんじゃね!?」

「おお~~……!」

 

バットくんが初めて、まだ多くない量とはいえ闘気を使った足運びを成功させたことに、喜色をたたえた声を上げる。

この世界において、闘気の扱いはどの武術を志すにしても大事な基礎となる。

まだ小さな身で、早くもその技術が身につき始めた彼に、私も密かにグッと拳を握った。

 

私が持っているこの世界と前世の知識、そして彼らの身体の稼働限界ギリギリを見極める観察力。

そして、実際に自分が行った辛い修行の経験は、誰かを鍛える際にも非常に役立っているようだ。

彼らの伸び方は彼ら自身の頑張りもあり、私の想定以上のものとなっていた。

 

これなら、と私は事前に仕込んでいた、とある修行を開始することを選んだ。

 

 

「おぉ~い! マコトさん、大変だ、村が、村が"また"野盗達に!」

「む……っ!」

「え……?」

 

その日、突如駆け込んできた男に、私達は急事を告げられた。

 

「修行中にすまない、だが、かなり強いやつも混じってるみたいで、俺達だけじゃ……!」

「それは……っ、わかりました、すぐに向かいます。すみません二人とも、今日も二人はここで修行を続けていてください」

 

私に告げられた二人が頷く姿を見届けると、疾風のように駆け出す。

一連の流れは、どこから見ても突発的に起こった深刻なトラブルそのものだ。

 

(…………よし、これくらいで)

 

そして、ある程度離れたあとは完全に気配を消して、遠目で二人を確認できる場所へ舞い戻る。

こうして、バットくん達の認識では私が居ない、という状況を作ることに成功した。

 

…………もちろん、こんなことをいきなりやっただけでは、バットくん達にはドッキリだとか修行の一環ぐらいに疑われる可能性はあるだろう。

だから私は、これまでにも何度か同じように野盗が襲ってきた、という報で隠れては、その間彼らは通常通り修行を続ける、という予行演習を何度か行っていた。

ゆえに"また"野盗がという言い方で疑いを持たれない状況になったのだ。

 

さらに、ここしばらくは野盗の動きが活発化している、という噂も仕込みを通じてバットくん達の耳に入れている。

さらにさらに、自分の修行のかたわら協力者とともに、大根演技にならないよう演技の練習すら重ねてきた。

ここまでやってさすがに、今回だけはドッキリだ、とバットくん達が勘付く可能性は低いだろう。

 

これも全て、バットくん達だけで実戦を行うという修行をこなしてもらうための、水面下の努力だ。

修行を始めてしばらく経ったこのあたりは、どうしてもマンネリ化したり同じ相手に負け続けてばかりで、モチベーションが保ちづらい時期だ、ということは私も経験的に分かっている。

だからここで一度、実戦形式の修行で身を引き締めてもらうとともに、これまでの成果に自信をつけてもらおう、というのが今回の趣旨となる。

 

なお、野盗役の皆様はジャギの元部下達に報酬付きでお願いした。

ジャギとは別の村で警備隊として日々働き、十分な実力もつけており、かつバットくん達と面識の無い彼らにいい感じに稽古をつけてもらう、という寸法だ。

 

あとは、修行をしたバットくん達がやりすぎないかだけは少し心配だが。

まだ殺傷力のある技などは覚えていないし、元々強い協力者の彼らにも、念の為致命傷を避けるコツや防御術を仕込んでいるのでまず大丈夫、なはず。

 

 

(ふぅ……完璧すぎる。ふふ、バットくんリンちゃん、今日は一段といい修行ができるよ)

 

裏でコソコソと進めてきた仕込みに、長く時間をかけた分。

順調に運んでいる今に、珍しく自画自賛の気持ちも芽生えてくる。

 

協力者達の元ボスということで、事前に計画を話したジャギには、「こいつマジか」って顔をされたが些細なことだ。

この苦労でバットくん達の望みに少しでも近づけるなら、そんなに嬉しいことはない……っと、私は野盗役の出演を待ち続けた。

 

 

(────────ん?)

 

その時、最初に。

身を隠しながら、仕込みの成就に胸を弾ませていた私に違和感を報せたのは、嗅覚だった。

 

(血の、におい? そこまでリアルにやってくれてる? ……いや、でも)

 

北斗神拳使いとして鍛えられた感覚がほんの僅か拾った、生臭い鉄のようなにおい。

においの元をたどると、乱雑な歩行でまっすぐと修行場へと向かう気配を感じる。

協力者であるジャギの元部下に、それほど馴染みがあるわけでない私も、この気配が彼らのもので無いことは分かった。

 

何が起こっている、と。

そう思考する間も許さず、気配の主は修行場に殴り込んでくる。

 

バットくん達の前に現れたのは、一人の男。

見た目の特徴としてまず目につくのは、傷なのかデキモノなのか判別がつかない、歪な膨らみがそこかしこにあるスキンヘッドだ。

その表情は、ここからでもうかがい知れるほど邪悪かつ、油断ならない狡猾さを兼ね備えたもので、単純な実力だけではない危険性を見るもの全てに感じさせるもの。

着込まれた服からは左腕だけが出されており、腕についた返り血が先ほど私の鼻を刺したものなのだということは分かった。

 

 

(…………誰、だ?)

 

……当然、この世界に来てから知り合った人にこんな人物は居ない。

バットくんやリンちゃんの知り合いなはずもないだろう。

北斗や南斗の人物でもないことから、これまで私が相手取ったような強者というわけでもない。

佇まいやオーラを見ても、少なくとも私やケンシロウさんがまともに戦って、負ける相手ではまず無いはずだ。

 

……にもかかわらず、彼の姿を一目見たときから。

私は、自分の肌が粟立つような感覚を抑えることができなかった。

 

心を蝕むような、大事なものをついばまれるような、不快感を内包した危機意識。

それは特に、この男がバットくんの前に立っている、という今を直視すればするほど、私の奥底から湧いてくるような気がして。

 

「なんだ、誰だ!? 何しに来やがった!?」

「…………っ」

 

やはり、バットくんも何者なのか分からない、と困惑した声を上げる。

そばに控えるリンちゃんも本能的な危険を感じ取ったのか、ぎゅっとバットくんに寄り添った。

 

そして、そんなバットくんの焦る声を聞いて。

 

男は嬉しそうに、口を開いた。

 

 

「────あああ! やっと見つけたぞ、この世で最強と言われる北斗神拳使い、その仲間のガキだな!

貴様らには今から人質になってもらうぞ!! そうして伝承者とかいう女をおびき寄せ、首を取れれば────」

 

 

「そうすればこの、ボルゲ様が最強になる!!」

 

 

(───は…………?)

 

 

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