【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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全国1800万人のダイヤ様・クラブ様ファンの方々には申し訳ございません。
原作とやってることも死に様も変わらない罪によりカットです。


第七話

その後、スペードから得た情報をもとにし私達はKINGの支配圏を潰して回った。

 

その道中で非道をはたらくダイヤ、クラブを撃破する。

その所業は邪悪そのものだが、実力のほどはこれから戦う相手とは比べるにも値しないものだ。

 

そしてその過程……村で老若男女問わず当てられる焼きごて────

血の十字架(ブラッディークロス)をかたどったそれを烙印される光景を目のあたりにし、ケンシロウさんはKINGの正体に核心を得たのだった。

 

「…………マコトよ」

「…………シン、ですね。悪趣味な街を作ったものです」

 

部下たちが行っていた所業の悪辣さ……それだけを見ても被害者から見たシンは明確な悪だ。

 

……しかし、私は知っている。

後に明かされた事実で、姉さん……ユリアの命を投げうっての献身の末に、あえてユリア殺しの汚名を被り役割に殉じようとしている哀しき覚悟を。

 

もちろん、この世界でも全く同じ展開となっている確証は何もない。

もしかしたら、今でも姉さんはシンの元で囚われている可能性もあるし、五車星に助けられず命を落としている可能性も……覚悟、している。

 

ただ、いずれにしても。

 

(────話し合いの余地は、もしかしたらあるかもしれない)

 

そんな一握りの可能性を心におさめ、私達はシンの居城に向かったのだった。

 

…………この時の自分では気づかなかった、それ以上に昂ぶる気持ちも胸に秘めながら。

 

 

 

 

「────────」

 

 

サザンクロスに在るシンの居城、その最上階。

長い階段の上からこちらを見下ろすその男の目を見た瞬間、私は直前まで抱えていた甘い考えの一切を投げ捨てさせられた。

 

(────あの目は)

 

愛に、役割に殉じている……ただそれだけなら、それが向かう先を説得で変えることが出来た……もしかしたら、そんな未来もあったのかも知れない。

しかし。

 

(────彼はもう……愛に"殉じ終わっている"んだ)

 

愛に狂い、姉さんを奪い、道を誤り、姉さんの心をつかめず、それでも止まることが出来ず……

果ては姉さんを一度は目の前で失い、自ら姉さんを諦める決断をし、その先に残ったものは何の価値も無い自身が治める街にして愛の墓標、サザンクロス。

 

…………そして、自分がもたらした因縁への決着の想いだけだ。

 

彼は、明確に自分の死に場所をここに定めている。

 

それは、原作の知識があるからこそ伝わる機微。

 

ならば私が取る選択は────

 

「久しぶりだなケンシロウ、そしてユリアの妹よ」

「────シン! てめぇに会うために、地獄の底からはい戻ったぜ!!」

 

これまでに無いほどの怒気を発するケンシロウさん。

私も昂ぶる気持ちはある。が、それ以上に今確認しなければならないことは。

 

「…………姉さんは?」

「フン……そんなに会いたいなら会わせてやろう。見るがいい!」

 

そう言って奥の椅子を指し示すシン。

そこに座っていたモノは、紛れもなく。

 

「ユ……ユリア! 俺だ! ケンシロウだ!」

「………………」

 

……反応は無い。

 

「…………ユリア……」

「フッ、お前たちのことなど完全に忘れたとさ」

 

シンのその言葉を受けても。

つぅ、と流れる涙と共に、生きていてくれただけでいい、とケンシロウさんは漏らす。

 

……そして、それをよそに。

その時の私が感じたものは、底冷えしたかのような、そんな震え。

 

 

(なんて恐ろしく……哀しいまでに精巧に出来ているんだ)

 

なにも知らないケンシロウさんが本人と見誤るのも無理はない。

それは、遠目からとはいえ原作の知識があってようやく、辛うじて分かる程度というほど精美に作り込まれた、人形。

 

これほどのものを、ケンシロウさんと私へのこの一瞬の嫌がらせのために用意した? 当然、そんなはずがない。

 

この人形の出来が指し示すのは、シンのあまりにも深く強すぎる愛……そして、それを失ったことによる哀しみだ。

 

(────終わらせなければ、ならない)

 

決意とともにケンシロウさんと二人、階段を昇ろうとする。

が、ここでケンシロウさんがいち早くその気配……割って入らんとする悪意に気づいた。

 

「ブタを飼っているのか?」

 

直前まで見せていた感傷からは考えられないほどの、身も蓋もない辛辣な罵声だ。

愛する人とそれを奪った敵を目の当たりにして、普段以上に張り詰めているのかもしれない。

 

…………いや、これに関しては割といつものことだった。ケンシロウさんは基本的に悪党相手に口が悪い。

 

「ブヒ、ブヒヒヒヒヒ……君が北斗神拳とかを使う男かね!? 人をブタ扱いするとはいい度胸じゃないか!」

「やはりブタか……ブタはブタ小屋へ行け!」

 

その様子を見下ろしながら、お前たちが使う北斗神拳ではその男には勝てない、と言い放つシン。

……確かにこの男、ハートはこれまで倒してきた幹部……スペード、ダイヤ、クラブとは格が違う。

 

「……ケンシロウさん、気をつけてください。この男……自分の肉体に妙な自信を持っているように思えます」

「わかっている」

 

 

「というわけなのですみません、その男は任せますね」

 

 

言葉と同時、ダンッという激しい音を伴い私は跳躍する。そのまま一気に階段を跳び上がり────

 

 

「なにぃっ!?」

「疾っっぃいぃ!!」

 

 

その勢いのままシンに渾身の飛び回し蹴りを放つ。

 

部下のハートに対し私達がどう戦うか……その力の見極めばかりを考えていたのだろう、突然の奇襲に面食らい回避が遅れるシン。

しかしそこはさすがの南斗六聖拳というべきか、当たる寸前のところで腕を挟まれ、クリーンヒットには至らなかった。

 

────が、この奇襲の目論見自体は成功だ。

 

固い鉄の塊同士が高速でぶつかりあったかのような音が空間に大きく響き渡り、私とシンが間近で視線を交わし合う。

 

「ぐぅっ!? きさ、まぁ!」

「姉さんも見ているんでしょう? ……やるのなら、さっさとやりましょう」

 

 

北斗神拳の使い手が二対一をすることはない────ならば私とケンシロウさんのどちらがシンと戦うか。

 

姉さん、ユリアとの関係を考えるとどちらが戦うことにも正当性はある。

ゆえにこれに関しては流れ次第、という形で予め話し合いをしていたのだ。

 

私の動機としては……姉さんを奪ったことへの怒りや、その背景に対しての憂いを始めとして数えきれないほどの理由や感情はある、が。

この時おそらくもっとも強く私を動かしたのはそのどれでもなく、この世紀末に転生し鍛え上げていた時から溜まり続けていた"ほとばしり"。

 

思えば、あの修行を終えて以来の……いや、修行はあくまで修行。

純然たる命のやり取り────実戦という意味ではこれがこの世界に来て初めてとなるのだろう。

 

…………これまでの相手で油断や手抜きをしていたわけではない。

ただ単に、使う必要に迫られる前に終わる相手としか戦っていなかっただけだ。

 

南斗六聖拳の一人にして姉さんを奪い、ケンシロウさんを傷つけ、そして今は自らの終わりを求める哀しき男、シン。

心の、執念の力が全てを決める世界だと言うのなら、私が────マコトが初めに心を燃やし尽くす相手として、これ以上はいるまい。

 

だからこそ、これが最初の……ある意味マコトという存在のデビュー戦であるといえる。

 

 

すなわち、今から行うのは、初めての。

 

 

「────本気で、いきます」

 

 

自分の……100%の力を出しての戦いだ。

 

 

★★★★★★★

 

 

────自分は一体、ナニと戦っているのだ。

 

南斗孤鷲拳を極め南斗六聖拳の一角として数えられ、圧倒的な暴力を以て自身が支配する街を作るにまで至った男、シン。

その男は今、女……マコトとの何合かの攻防の後に、そう戦慄する心の声を止めることが出来なかった。

 

「ゲフぅっっ!?」

 

いや、攻防と呼ぶには、それはあまりにも天秤が片側に傾きすぎていた。

 

まともに顔面を捉えたその一撃を契機として、追撃の手が迫る。

拳撃が、掌底が、打突が、足刀が、刺突が、矢継ぎ早に繰り出される。

 

一撃一撃は必殺の威力が込められたものではない。

ただ恐るべきはその早さと手数の多さ……そして、対処の困難さ。

 

(こい、つ────北斗神拳、だけではない!)

 

危険な秘孔を狙う北斗神拳を使ったかと思えば、突然そうでない別の拳法と思わしき動きが混ざる。

なまじ過去、ケンシロウと修行をしたことがあり、ある程度北斗神拳の知識を持っているということも、この場合においては逆風だった。

 

(攻撃が、読めん!!)

 

秘孔を狙った打突に対し刺突で迎撃しようとすれば、突然軌道が変わり裏拳で顎をかちあげられる。

あらわになった喉元を貫き穿つ勢いで迫る貫手を、半ば勘で手を差し込み辛うじて防ぐ。

意識が上部に向いたのを見計らったか、股間に対し容赦のない蹴り上げが行われる。

これまでの戦いの中でも最大規模で覚えた危機感に、反射的に手で受けようと下ろした瞬間、またも軌道が変わった脚がそのまま無防備な顔面を薙ぎ払う。

無理やり形勢を変えるために被弾覚悟で剛の拳を振るえば、突然静水のごとき動きを持って受け流され、泳いだ身体に連撃が突き刺さる。

おまけに距離を取って体勢を整えようにも、拳が届かない距離になったとみるや謎の見えない衝撃が弾幕として矢継ぎ早に撃ち出される。

 

「オォォォ!!」

 

一瞬の攻撃の切れ目に振り抜いた指が女の体を捉えた。

普通の人間ならただの引っ掻きにしかならないそれも、南斗孤鷲拳の使い手が振るうならば、あたかも四本の刀で同時に袈裟斬りにされたに等しい。

 

致命傷には至らないまでも服は破れ、肉は抉れ、鮮血が吹き出す。

これまで倒してきた屈強な身体を持つ男たちでも、激痛にのたうち回り許しを乞うには十分すぎる一撃。

 

────が、止まらない。

攻撃をされたことに怒りを感じるでもなく、苦痛に対してひるむでもなく、出血に焦り決着を急ぐでもない。

ただただ静かに、だが激しく攻撃を続け、その上で突かれた隙に対しては修正を取る。

 

 

戦いにおける心の有り様が、これまで蹂躙してきた相手とは違う、違いすぎる。

たった二年で、一体何があれば人がここまで変われるのだ。

 

ユリアをさらったあの日あの時点でのマコトは取るに足らない小娘……

いや、ユリアの妹ということもあってか、シンから見ても器量は上々といっていいものではあった。

 

が、それだけだ。

 

部下の報告で、ケンシロウと共にいる女マコトが北斗神拳と思わしきものを使っているというのは上がってきていた。

しかし、短い期間で身につけたにわか拳法など自分の前では児戯に等しい。

そのマコトがケンシロウを差し置いて飛びかかってきたときは、無粋な横槍を、と怒りすら覚えたほどだ。

 

それが蓋を開ければこれだ。

変幻自在に襲いかかる攻撃の数々にまるで対応の手が追いつかない。

 

途中、控えていた部下に背後から奇襲もかけさせたが、振り向きすらせず頭を打ち砕いていた。

こちらの取れる手段を一つ一つ潰していくこの女を前に、シンは明確に追い詰められつつあると感じていた。

 

……ここまで化けたことに。

化けるほどに執念を燃やしたことに理由があるとすれば、思い当たるのはたった一つ。

 

それならば、とシンが取った行動は。

 

「た、確かに貴様の執念を見た! ……ならば、その執念の元を絶ってやろう」

 

そう言うと、直ぐ側で静かに座る、マコトにとっての戦う動機であり最愛の姉ユリア

……正確には、それを精巧に模して作られた人形。

 

その胸を、無造作に突き貫くことだった。

 

衝撃に力なく崩れ落ちる人形……その顔をこれ見よがしにマコトに晒し、挑発する。

 

「フッ……フフフ……美しい死に顔じゃないか……ファハハハ! 俺を倒してもユリアはもういない! これで貴様の執念も目的も半減したというわけだ!!」

 

絶望し戦意を失うか、はたまた激高のあまり冷静さを欠いて荒れ狂うか……どちらにせよこの強さの拠り所が心にあるならば、これにより戦局が大いに変わる。

シンはそう確信し高笑いをする。

 

────が。

 

 

「それなら、私も手伝いますよ」

 

 

マコトは顔色一つ変えないままにそう言い放つと、最愛のはずのユリアの顔面に躊躇なく回し蹴りを放った。

 

本人を模したことで細い作りとなっている首はあっさりとその衝撃に屈し、首から上、頭部だけが宙を舞いシンのもとへ飛び掛かる。

 

「な、なんだとぉおっ!!?」

 

これに平静でいられなかったのはシンの方だ。

今、目的のため自ら破壊したとはいえ、それでも長い間愛で続けてきた心の拠り所。

こちらに高速で飛んでくるそれと目と目が合った瞬間、シンは破壊すべきか受け止めるべきかの選択を迫られ、ほんの一瞬とはいえ身体が硬直する。

 

────そしてマコトは、その隙を見逃さない。

 

「おおおおぉお!!」

 

研ぎ澄まされた連撃……今度は必殺の意が込められたそれがシンの全身を打ち叩く。

為す術無く吹き飛ばされたシンは、そのまま近くにあった柱に叩きつけられ、倒れ込んだのだった。

 

 

★★★★★★★

 

 

────やはり、か。

 

かつてケンシロウさんが為す術もなく敗れ、自身は戦う土俵にすら上がれなかった因縁の相手、シン。

その男との戦いを続ければ続けるほどに、事前に想定……いや、半ば確信していた推測の正しさを悟る。

 

確かに私は強くなったのだろう。

純粋な力や潜在能力の使い方ではケンシロウさんに及ばないまでも、天破活殺を始めとした闘気の放出などには適性があったようで、彼とはまた違う方面での戦闘能力を手にしている。

 

トキさんには遠く及ばない練度とはいえ、大振りな攻撃に対してカウンターを入れる静の拳。これもトキさんとの修行を得た今では使えないわけではない。

それ以外にも身につけた様々な、いわゆる初見殺しに近い技術があれば、シンを追い詰めること自体はもとより不可能では無いと思っていた。

 

しかし、それら全てを差し引いてもなおあまりに一方的なこの戦況。

いや、本来辿るケンシロウさんとの戦いではこれ以上だったかもしれない。

それをもたらしたものの心当たりは、一つ。

 

(おそらくあの時より……姉さんをさらった時より、弱くなっている)

 

姉さんを手中に収めるために、愛のために心を燃やしていた当時と、その全てを失った今。

心の強さが力の大本となるこの世界で、この差がもたらすものは大きく、それが今の戦況に繋がっているのだ。

 

(それでも……いや、だからこそ躊躇をしてはいけない)

 

彼の……シン本来の強さの名誉のためにも、残骸となった心のまま振るう今の力には負けたくないと、そう強く思った。

 

だからこそ、彼が自らの人形を破壊し私の動揺を誘った時も……

正直、姉さんへの彼の愛を考えると躊躇う心はあったが、それすらも戦局のために利用することを決断出来た。

 

そして今、血まみれで私の前に倒れるシン。

もはや彼にもこれ以上戦う意志は無いようだ。

 

それと同時、ハートを撃退したケンシロウさんもこちらに合流し、その光景を目撃する。

 

 

決着は、ついた。

 

 

「ご、ふ……ここまで、とはな……俺の命は、あとどれくらいだ」

「1……いえ、あと2分です。……言い遺すことがあるならば……聞きます」

 

フッ、と険が取れた顔で笑い、シンはつぶやく。

 

「お前、は……気づいて、いたのだな……それが、人形だと言うことに」

「人形…………では、ユリアはどうしたのだ、シン!」

 

ケンシロウさんが詰め寄ると同時、静かにシンの両頬を伝わるのは、涙。

 

 

「いない……ユリアはもう、いないんだ」

 

 

そして、シンは語る。

 

あの後、姉さんに対して与えうるもの全てを与えるために、略奪と殺戮を繰り返したこと。

宝石、ドレス……いかに絢爛豪華な服飾を与えても姉さんは決してなびかなかったこと。

やり方を変えることが出来ず、しゃにむに走り続けた結果、一つの街を支配するまでの権力を得て、それを捧げたこと。

……そして姉さんは、そのために罪のない人間が脅かされ続けることに耐えられなくなり、最後は自ら身を投げだしたこと。

 

「泣いた……生まれて初めて、俺は泣いた……最後まで、とうとう最後までユリアの心を掴むことが出来なかった…………ユリアの中には、いつでもお前たちがいたからだろう」

 

……それは事実だろう。

ただ、最後に姉さんが飛び降りたことに関しては、この犠牲により心変わりをしてくれれば……という他でもない、魔道を歩み続けるシンを案じる想いもあったように思う。

私が知っている姉さんは、そういう人だ。

しかしシンがこれでやり方を変えることが無かった以上、おそらく言う必要の無いことだろう。

 

「こんな、築いた街も富も名声も権力も……虚しいだけだった。俺が欲しかったものはたった一つ、ユリアだ!!」

 

それは、彼自身の魂の慟哭。

深すぎる愛がもたらした悲劇。

 

「だが…………フフッ、まさかケンシロウでなく、妹のお前が俺を……止める、とはな。よほど姉を奪われたのが、腹に据えかねた、か」

「────────」

 

そう自嘲気味につぶやきながらふらふらと立ち上がり、街を見下ろせる位置の柱に身体を預けるシン。

すでに話すべきことは話し終えたが、死ぬまでに私の言い分……つまり、怒りを、糾弾を。それら全てを聞こうという意志が態度から感じられた。

 

 

…………彼がしでかしたことを許すことは出来ない。

 

しかし、彼の言葉を、その愛と哀しみを。

……そして、おそらくそのさらに裏にあるだろう真実を思った時。

 

死にゆく漢に、最後に私がかけようと……かけたいと思った言葉は。

 

 

「…………っ」

 

 

────無言で、シンのもとに私は歩み寄る。

 

姉さんを死なせた事実を聞きとどめを刺そうとしている、と判断したのだろう。

シンは静かに目を閉じてそれを待った。

 

 

そして、側まで近づいた私は。

 

彼にだけ聞こえるように────

耳元で、ささやく。

 

 

これは、甘さだろうか。

 

それとも彼の覚悟に、使命に殉じたその在り様に、泥を塗るような非道の所業だろうか。

 

…………それでも最期の最期、これくらいは。

…………これくらいは、きっと許されてもいいだろう、と。

 

 

そう信じて。

 

 

 

「シン、さん────姉さんのことは、任せてください。私が、必ず────幸せを取り戻します」

 

 

 

「────ッ────お前、は────そうか……そう、か…………!」

 

 

目を見開きながらシンはかろうじてそう返す。

 

……そしてフッと吹き出したかと思えば、これまでで最も大きく、心底おかしそうに。

 

 

彼は、笑った。

 

 

「フハッフッハハハハハハハハハッ!! そうか、そうか! 最初から、俺が勝てる相手などでは無かったか!!」

 

『ケンシロウ!!』、と。

何事かと見ていたケンシロウさんに、シンは声を上げる。

 

「この女、この世紀末の世で! 決して死なせるんじゃないぞ! 何があってもだ!」

 

「────無論、だ」

 

……たとえ経緯も詳細もわからなくとも、漢同士それだけで通ずるものがあったのだろう。

 

ケンシロウさんの答えを聞くと、シンはそのまま外に……は行かずに、その場で大の字に倒れ込んだ。

それと同時、突いていた秘孔の効果によりシンの身体の崩壊がはじまる。

 

「お前がそうなら、()()()()()()ならば! 俺はこのままお前の拳によって死ぬとしよう! ────さらばだマコト、ケンシロウ!!」

 

しかし、彼はそれすらも笑って受け入れた。

 

高笑いが止み、辺りが静寂に包まれる頃には…………この混迷する時代において、最期まで愛と役割に殉じた漢、南斗六聖拳のシン。

 

その亡骸が、満足気な顔をしたままそこに眠っていた。

 

 

 

 

「なんでだよ、なんでそんな男のために墓を作ってやるんだよ」

 

おそらく、姉さんと別れることになったその場所で、シンのための墓を作る私とケンシロウさん。

その様子を見たバットくんが不思議そうに疑問を投げかける。

 

きっと、この旅を続けるうち、説明するまでもなく彼も分かるようになるだろう。

 

…………それでも今は、万感の思いを吐き出すかのように、私達は言葉を以てそれに応えた。

 

「同じ女を」 「最愛の姉を」

 

 

「愛した男だから」

 

 




全国1億5000万人のハート様ファンの方々には誠に申し訳ございません。
彼は行間でひでぶ処理されました。

3話時点で書き溜め尽きてここまで無理やり続けてたので、ここからはしばらく溜めてから投下するかもしれません。

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