【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

9 / 53
荒野の悪党ども編
第九話


「おぉ~なんだこりゃ?小さな村のくせにやけに活気があらぁ」

 

サザンクロスを後にした私達。

彼から聞かされた姉さん、ユリアの死……といっても私だけは、原作の知識とシンの最後の反応から、姉さんが生きていることをほぼ確信しているが。

 

……今の所、姉さんの生存に関してケンシロウさん達に言うつもりは、無い。

本来知っているはずのない情報な上、まだ未熟なこの時点で急いで会ったところで、それがどのような悪影響をもたらすかまるで予測ができないからだ。

なにより、会うべきだと姉さんが考えていれば、すでに姉さんの方から五車星を通じて接触してきているだろう。

つまり、『今はまだその時ではない』のだ。

 

 

ともかく、シンを倒し姉さんを取り戻す、という旅の目的が無くなったあとでも、私達は生きていかなければならない。

 

差し当たってたどり着いたのが、今私達が居る場所……オアシスだ。

 

水があり、人が集まり、物々交換も盛んに行われているここならば、まとまった食料の確保も出来るかもしれない。

そんな期待を込めて村……いや街といっていいそこを散策する。

 

 

いかに北斗神拳の使い手といっても、人間飲まず食わずでは要られないから。

 

 

 

途中、食事処あるいはバーのマスターと思わしき住人が、巨漢の男に暴行を振るわれている場面に遭遇する。

見るやいなや待ってましたとばかりに飛び出して、マスターと交渉を始めるバットくん。

そうして、この男を退治する代わりに食料を提供する、という形で話をつけてくれた。実にありがたい話だ。

 

一応口でも説得をしようとしたが、女ということもあり舐めきった態度でこちらに掴みかかる男。

あっさり撃退すると、私達はマスターの店に案内されたのだった。

 

……ちなみに、原作でケンシロウさんが使った技『北斗鋼筋分断脚』は私は使えないので、普通に力任せに片腕をへし折った。

ずっと一般人並に筋力を落とされるか、激痛とともにしばらく片腕が使えなくなるか……どちらが彼にとっての幸せだったかはわからない。

出来ることは、彼が強く誠実に生きることを願うのみだ。

 

 

そして、マスターから約束の食料を受け取る。……ぎりぎりまで抑えたその量は、この世紀末でたくましく商売の道を生きる彼の強かさを感じさせられた。

あわせてその時、今の食料と交換するのはどうだい、と酒を出しながら提案される。

 

……そういえば、今は世紀末だし現代のような未成年禁酒法などの概念は無いのだろうか。

私やバットくんはもちろんとして……そういえばケンシロウさんも、今の時点では18だか19だかの年齢のはず。

 

────今はまだその気はないが、いつか余裕ができたら……試しに皆と飲んでみるのも『この世紀末を楽しむ』うちに入って良いかもしれない。

そんな風に私は考えていた。

 

 

ただし、その時の私の耳に入ったのは。

 

 

「うっ!!」

 

 

酒を飲んだ直後に隣の男が鳴らしたドタァッという派手な転倒音と、それを見たマスターの他人事のようなその言葉。

 

 

「ありゃ……メチルアルコールって飲めねえのか」

 

 

…………どちらにせよ、この店で酒を飲むことは絶対にないな。

 

 

 

 

「それより、この近くで大きな街は無いかな。三人の食料一か月分くらいを稼げるような」

 

気を取り直してマスターに質問をするのはケンシロウさんだ。

これからも旅を続けることを考えると、食料の確保は再優先事項となる。

 

「ないない、そんなものは。どこへいってもにたりよったり……いや、あるにはあるがあそこは一度入ったら抜け出せねぇしな……」

 

む、この情報は。

 

「どういうことですか? 資源が豊富な街が近くにあると?」

「う……いや、それは……特にあんたみたいな女の人だとちょっと……」

 

マスターが言いよどむのと同時。

 

扉を開ける乱暴な音と共に、軍服に身を包んだ複数の男たちが乗り込んできた。

 

「あ、やばい! 今話したところのやつらですよ! あんた、隠れたほうが」

 

と、マスターの心配の声もつかの間、私達を視認した男たちがズカズカとこちらに歩み寄る。

 

 

「ほう……今日は女が居るじゃないか。それも上玉といっていい」

「……どうも、ありがとうございます。何かご用ですか?」

「喜べ、女。お前は神の国-ゴッドランド-に移住する権利を得たのだ。我々と共に来てもらおう」

 

……なるほど、彼らはこうして女を勧誘……いや、拉致しているのか。

「お、おいマコト……」とバットくんが心配そうにこちらを見るが、今はあえて気にせず続ける。

 

「その前に、神の国-ゴッドランド-とは何でしょうか? 何分この街には来たばかりなものなので、よろしければ無知な私どもにご教示いただきたく」

 

下手に出る(戦利品)の態度に気を良くしたか、フンッいいだろう、と鼻を鳴らしたかと思うと、恍惚とした表情で彼は語る。

 

 

それは、聞くに堪えない妄執の産物。

曰く、自分たちGOLANは神に選ばれた存在。故にこの世界を治めるための、自分たちの国……すなわち神の国-ゴッドランド-を建国する。

そして、そのために近隣の村々から女をさらい、自分たちの子を産ます。

それは年頃の娘や大人は当然、年端もいかない少女ですらも例外ではない。

女がこれに選ばれるのは神に選ばれるも同じ。極めて名誉なことであるこの選別に、万が一抵抗する者共がいるならば、神の裁きを下す……つまり殺してでも奪い取る、といった具合だ。

 

 

威圧感たっぷりに、こちらを脅かすのような口調で語られたその全容。

話の途中でケンシロウさんが何度か始末しそうになっていた方がよほど怖かったが、必死のアイコンタクトでなんとかそれを制止する。

ともかく聞きたいことは、仲間との情報の共有は出来た。

 

 

その上で、私が選んだ答えは。

 

 

「……その国には食料が潤沢にある、と伺いましたが……付いていけば、もう飢えることは無いのでしょうか?」

「む……フフフ! その通りだ! 我らが神の国-ゴッドランド-には全てがある! 水も! 食料も! そして力も権力もだ!」

 

「────素敵ですね。……わかりました。是非、私を連れて行ってください」

「うぇぇ!? 嘘だろ、マコト!?」

 

信じられない、とばかりに声を張り上げ止めようとするバットくん。が、GOLANの兵士達にジロリ、と睨まれるとそのまま小さくなってしまった。

 

……流れによるものとはいえ、相談をせずに心配をかけてしまって悪いとは思う。

が、おそらくケンシロウさんには先程のアイコンタクトで私の真意は伝わっている……はず。

 

 

真意といっても別に深遠なる智謀やら何やらがあるわけでは無い。

単に『せっかくなので向こうに案内させてさっさと潰してしまおう』というだけだ。

 

……こんな思想の下に作られる国など、百害あって一利も無いだろう。

 

 

もちろん、そんな内心は露とも知らない兵士は、諸手を挙げて歓迎する。

 

「素晴らしい! お前は、誰も犠牲にならない正しい選択をしたと言えよう。さあ、付いてくるがいい」

 

そう言うと、表に停めてあった護送車に取り付けられている檻に私を押し込む。

入る前に念の為、檻の素材や耐久性を確認しておいたが、これなら破るのは容易いだろう。

 

あとはこのまま神の国-ゴッドランド-に案内をしてもらい、着いたところで戦闘開始といこう。

 

 

思えば、この世界に来てから女の身体として記憶が目覚めて以来、戸惑うこと、侮られることこそあれど、優位にことが運ぶことはあまり無かった。

しかし今、初めてそれが活かされようとしている。

そのことに私は妙な満足感を覚えていた。

 

(女装して食料を巻き上げていたレイさんの例もあるし、もうちょっと積極的に活かすのもありかもしれない)

 

……元男としての意識もある、自分の羞恥心その他諸々にさえ目を瞑れれば、だが。

 

 

また、この場でこの檻に入ることには、もう一つほど意味がある。

檻に入ると同時、先に入れられている女達の中から、おそらく居るであろうその娘を探す。

 

 

────居た。

 

 

「リンちゃん!」

「え……ウソ、マコト、さん!? どうして……?」

 

やはり捕まって、この檻に入れられていたようだ。

 

「どうしてはこっちのセリフですよ……村から飛び出したのですか? 無茶をしますね」

「う……ごめんなさい。どうしてもケン達が心配で」

 

……バットくんといいこの世界は子供からしてバイタリティに溢れすぎている。

とはいえ、彼女がとても怖い思いをしていたのは事実。

安心させるために、頭を撫でながら一際声を小さくして、簡潔明瞭に彼女に言い聞かせる。

 

 

「もう大丈夫です。私は今わざと捕まっているので心配いりません。後ほど彼らを打ち倒します」

と。

 

それを聞くと、安心したとばかりに再会して以来初めての笑顔を見せるリンちゃん。

 

────うん、リンちゃんはやはり笑顔でいるのが一番だ。

 

あとは、このまま帰りの道順だけ頑張って覚えて、神の国-ゴッドランド-に着くのを待てばいいだろう。

 

 

(……しかし、何か忘れているような)

 

 

と、考えたのもつかの間。

護送車が突然急停止し、檻の中の何人かが小さく悲鳴をあげる。

 

何事か、と人垣をかいくぐり檻の一番前まで行く。

そこにあったのは、矢や刀剣で武装をした男の集団が、怒りをあらわにしながら護送車を取り囲んでいる光景だ。

 

それを見たGOLAN兵士の一人が鼻を鳴らす。

 

「フッ……ゲス共が。大方、自分の女を取り返しに来たのであろう」

 

(しまった、いかんいかん)

 

……そうだ、これがあった。

すっかり忘れていた。確かここから起こる殺戮劇のさなかにケンシロウさんが駆けつけてリンちゃんと再会したのだ。

 

そして、このまま見ているだけでは、間違いなくこの人たちという犠牲は生まれてしまう。

 

 

…………仕方ない、少しプラン変更だ。

 

 

「俺の妻を返せ―っ!」

「俺の恋人もだー!」

 

口々に叫びながら矢を射る男たち。

しかし、その矢はGOLANの兵士 ……そのリーダー格と思わしき男が持つ警棒のような武器の一振りであっさりと防がれる。

 

そして他の兵士たちに合図をすると、兵士たちは隠し持っていたナイフを今にも投擲せんとする。

このままでは男たちは彼女らの眼の前でナイフに貫かれ、その屍を晒すことになるだろう。

これは、そうした殺戮を見せつけることで過去を捨てさせ、より女たちを従順にすることを狙ったパフォーマンスでもあるのだ。

 

 

────が、そうはさせない。

 

 

(闘気はもう、"練り終わっている")

 

 

ここからだと少々狙いづらいが、射線はちゃんと通っている。

ならばあとは全力で撃ち出すだけだ。

 

 

「────天破活殺!!!」

 

 

正確には多人数相手に撃ち出す変形技だが。

 

ともかく、まさか背後の檻の中から突然攻撃をされることなど、全く考えていなかったであろう兵士達。

無防備な背中を撃ち抜かれた彼らは、悲鳴を上げる間も無く崩れ落ちる。

それを確認した私は檻を破ると、リーダー格の男の前に立ったのだった。

 

 

「……貴様……何をしたかは知らんが、やってくれたじゃないか」

 

男はビンッビンッと手に持った糸を張りながら、低く唸るように声を上げる。

 

……部下達がやられ、戦利品扱いしかしていなかった女の反逆を受けて、なお冷静さは失わないあたり相応の訓練を積んでいることが伺えた。

手にする武器の切れ味にも相当自信を持っているようだ。

証拠とばかりに、これ見よがしに糸を掲げ、挑発の声を上げる。

 

「面白い。さあ突いてこい! 突いてきた瞬間お前の手首は宙に舞う。……さあどうしたかかってこい~。フフ、おじけづいたか?」

「────ッ」

 

絶対の自信を持つらしい構えを取って調子が出てきたのか、ニタニタと笑う男。

彼を前に、さてどう戦うべきか、と私は考える。

正面から最速で殴ってもおそらくは勝てるだろうが、確実に隙を作ってから戦うのもいいだろう。

 

(周りに守るべき人も多いし……うん、やはりここは慎重に────)

 

「フフ、お前のような活きのいい女こそ最高の手土産になるだろう。安心しろ、例え腕や脚の一本や二本、無くなったとして胎さえ残れば神の子は産」

 

 

ボッ、と。

その言葉が言い終わる前に起こったものは、炸裂音。

 

それと同時、私の足が男のお大事様(股間)にめり込み、その尊厳を。その未来を。

 

破壊し尽くしていた。

 

 

────さらば、神の子。

 

 

「…………????」

 

 

男は一瞬、何があったのかわからずに呆けた顔で自分の下腹部を見やる。

そして、そこで起こっている惨劇を視認、自覚すると、まるでスローモーションで再生したかのようにゆっくりと顔が歪みだす。

 

「ぴょ…………!? オ、ゲッ……?! えっギッィィア、アァアアアァァ」

「あ、すみません」

 

生理的反射で思わずやってしまったが、叫ぶ男が見せたあまりの苦悶の表情っぷりにいたたまれなくなったので、すぐに秘孔を突いて爆散させた。

 

少々惨いことをしたと思うが、仕方がなかったとも思う。

 

…………今日は予定が崩れてばっかりだ。

 

 

ともあれこうして、住人に被害を出すことも無く、GOLANの尖兵は壊滅させられたのだった。

 

……捕まっていた女たちはともかく、助かったはずの男達が、股間を押さえながら恐ろしいナニかを見る目でこちらを見ていたのは気になったが。

 

元男としても気持ちは大変良くわかるので、特に何も言わないでおこう。

 

 

 

 

そして、駆けつけてきたケンシロウさん達と合流する。

 

私達の無事を確認し、一瞬喜ぶ顔を見せたバットくんだったが、すぐさまぎょっとした表情になり、慌てた様子で私に声を掛ける。

 

バットくんが慌てた理由、それは私が右手に持った戦利品……もとい生き残ったGOLANの一人の兵士だろう。

 

「お、おいマコト。なんでまだそんなやつ持ってるんだ……!? また拷問でもするのか?」

 

また拷問、という言葉を聞いてヒィッと震える男。

いつの間にか拷問系女子(?)というイメージを持たれていたのは心外だが、スペードにしたアレを見られていた以上文句も言えない。

 

それに、この男に関しては少し違う。

 

「いえ、彼にはこのまま神の国-ゴッドランド-まで案内をしていただこうと思いまして」

 

そう、彼はこの護送車を運転していた兵士である。

彼らの本拠地がどこに、どれくらいの距離にあるのかが不明ということで、当初の予定とは少し違ったが案内をしてもらうため、手を出さずにおいたのだ。

 

これは原作でケンシロウさんがよくさせていた手法でもある。

……修羅の国の『この地おさめる修羅』のように、完全にとばっちりで殺された上に、結局ケンシロウさんが一人で目的地にたどり着いたなんてひどい例もあるが。

 

「というわけでちょっと行ってきますので、皆さんはここで待っていてください」

 

そう言って護送車に乗り込む私と、当然後を続こうとするケンシロウさん。

 

 

────そして、そんな彼に振り向いて、私は言う。

 

 

「……すみませんケンシロウさん。一つ、ワガママを言っていいですか?」

「む」

 

 

……これは、この街に着いたときから密かに考えていたこと。

 

 

「今回は、私一人だけで行きたいと思うんです」

 




リマくんは生き残ったパパと幸せに暮らしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。