「お預かりしたポケモンは元気になりました。またのご利用をお待ちしております」
「ありがとうございましたー」
初夏特有のむさ苦しい日差しが涼しい室内から出たばかりの俺を蝕んでいく。暑い...あまりにも暑い。風があればまだ良いのだろうけれど、生憎今日のコトキタウンは無風だ。
「プー...」
ミシロタウンを後にした俺は、
マップは基本的にはゲームと変わらなかったが、新たに獣道やら何やらが追加されていた。気になって奥へと進んでみたが、そこは大通りよりも遥かに
「お前が強力な技を覚えて無かったら危なかったな...」
「プン」
全くだ、とでも言わんばかりに胸を張る風魔。実際そうだから何も言えないのが悔しい...いつか見返してやりてぇ。
風魔が覚えている"すなかぜ"と"だいせいちょう"、この2つは強力な技だ。威力は推測だけれど、どちらも100はあると見ていい。俺の
技の詳細を説明すると、前者は風を起こして地面の砂を巻き上げ、断続的に砂の塊を相手にぶつける技。威力は無いが、砂の塊だけでなく風も相手に当たるため相手の行動を制限できるようだった。ポッポやムックルに効かなかった辺り、地面タイプの技だろう。ムックルがホウエンにいる事実は最初は戸惑ったが、オダマキ博士の話にあった通り分布の変化の影響だろう。後者は地面から樹木を出す技。見た目的に草タイプの技だ。それなりに樹木を操れるようだが、その間風魔は一切動くことが出来なかった。これは特訓次第では技の発動と同時に動けるのだろうか...因みにどちらも範囲攻撃だ。
そしてあと一つ知らない技"めまわし"これは変化技だった。対戦用語で言うなら『積み技』だろう。素早さが上がったような感じがしたのと、相手の攻撃が当たらなくなったことから、回避と素早さを上げる技だと思う。自分の攻撃も外れ始めたから、恐らく命中ダウンのデメリットもありそうだが...これは後で博士に聞いてみるか。
「さてと...そろそろ行くか。103番道路」
「リプン」
RS時代通りなら、ミドリちゃんは未だ炎ポケ単騎の筈。タイプ相性は不利だけれども、こっちには"すなかぜ"があるからな。ま、それ使うとヌルゲーになるから縛っておくか?
ポケモンセンターを出てから5分足らずでコトキタウンの北部に着いた。丁度103番道路が見える...のだが、113番道路の様な感じで火山灰が積もっており、そして今も尚激しく降り続いているようだ。灰に足を取られて上手く歩けないし、更に風向きは北、即ち向かい風。走って行くのは得策じゃ無さそうだ。
「...灰が目に入りそうだ」
「プ?」
コイツ...!人が腕で顔の一部を覆ってるのに葉っぱで自身全体を覆うとは...ゆ゛る゛さ゛ん゛!
「俺にもそのデカい葉っぱ寄越っブッフォ!ゲホッ...灰が口に...」
「ププ」
「コノヤロ...!」
「...何してるの?」
俺と風魔が取っ組み合いの喧嘩になりそうなところで、ミドリちゃんと出会してしまった。凄く恥ずかしい。ノートを脇に挟んでるところから察するに、既にお手伝いは終わったとこのようだな。
「あぁ、オダマキ博士に『ミドリにトレーナーがどんなものか教えてもらうといい!』...って言われてな」
「へぇ...そのリープンは叔父さんから?」
「あぁ」
「そう...じゃあポケモン勝負しよっか。叔父さんから言われたんだよね?トレーナーがどんなものなのかって。私まだ手持ちは一匹だし
「お、おぉ...いいぜ」
叔父さん譲りのゴリ押しだなこりゃ。随分と戦闘狂な事で...少し口角が上がってきた感覚がする。あっちも、こっちも。
「よし、じゃあファマー!ゴー!」
「ファマ!」
ミドリちゃんが繰り出して来たのは、コイルやビリリダマの様な丸い体をした単眼で赤い球体のポケモン───ファマー───というポケモンだ。どこか鉄の様な硬さを思わせるが、鋼タイプも入っているのだろうか。
「まぁいい。出番だぜ風魔。行け!」
「プー!」
気合い充分って感じだな。もちろん俺もだ。行くぜ?
「先行どうぞ」
「ん...じゃあ遠慮なく行くぜ。風魔、先ずは"めまわし"だ!」
脳内で戦闘BGMが掛かった気分だ。曲名は「戦闘!ポケモントレーナー」第三世代リメイク版だ。
風魔はその場で回転すると、千鳥足になりながらも体勢を整えようとする。これで素早さと回避が上がった筈だ。
「ファマー、"げきとつ"!」
「躱せ!」
よく分からんがとりあえず躱してもらう。ファマーは体当たりの要領...いやそれ以上の攻撃力で突っ込んで来たが、技自体の命中率が悪いのかとんでもない方向へ飛んで行ってしまった。
これってもしかして高威力技か...?風魔の耐久はお世辞にも高いとは言えない。前言撤回だ。"すなかぜ"は使わせてもらう。
「ファマー!体勢を立て直してもう1回突っ込んで!」
「"すなかぜ"だ!」
距離は離れていて、尚且つ"げきとつ"とやらは直接攻撃。素早さも速くないようだし、遠距離攻撃が無難だろう。
風魔の起こした風には砂の塊だけでなく、火山灰も混じりながら飛んで行く。地面技は効果は抜群。チェックメイトだ!!
「なっ...落ちた!?」
だけれど攻撃は落ちた...何故?何故届かない...?飛距離充分。前と変わらない筈。風の威力も変わらない筈。風の威力、風、風向き......
風上は向こう...!?
「プー!」
「なっ、風魔!!」
「バトル中に考え事?ちゃんと見てなきゃ倒しちゃうよ?」
チッ、やらかした。101番道路は無風だから違和感は無かったが、風向きによって威力が変わるのか。そりゃそうだよな...
違う。
前を向け。風魔は吹き飛ばされている。攻撃が当たったのだろう。葉っぱを杖替わりにして立ち上がってはいるが、膝が笑ってるのが後ろから丸見えだ。アイツの為にも、あまり時間を掛けるべきではない。さっさとけりを付ける。
「トドメの"ひのこ"!」
「ファマ!」
「"かまいたち"」
「え!?」
...通常ならここは回避の指示を出すべきなのだろう。攻撃を喰らわせたくは無いからな。もし仮に攻撃を指示するとしたら、溜めが必要な"かまいたち"は悪手だ。
「紫電一閃。全てを斬り裂け風の刃」
だけれども俺には見えた。世界がスローモーションになり、風に揺らめく火の玉がゆっくりと。その軌道さえも。
風向きは向こう。確かにそうかもしれない。だけれども自然は気紛れ。風向きは微かに変わった。火の玉は風魔を逸れて地面へ落ちるのが視えた。
これは━━━━━━━━確定事項だ。
「嘘っ!外れた!?も、もう一回!」
"ひのこ"は僅かに軌道をずらして地面に命中した。もう一回?残念だけどなミドリちゃん。
「もう遅い!放て!!」
「プー!!!」
限界まで溜め込んでいた風の刃は、鋭い音を立てながら一直線にファマーへと飛んで行く。風向きで威力は軽減されるだろうが、それを差し引いてもこの風は止められない!!
「マッ!?」
悲鳴を上げたが外傷は無い。威力は申し分ない事を考えるとあいつ硬すぎだろ...
「"すなかぜ"を乗せろ!」
風魔は"すなかぜ"を起こす構えを取り、風の刃に乗せてそれを撃ち放った。急いで砂を掻き集めた為か、本来よりも砂の塊は少ない。だが地面タイプの技である事には変わり無く、効果は抜群だ。更にダメージを負わせられる。
思い出せ。風魔の命中率は下がっている可能性がある。このチャンス、掴んで離すな!
「"だいせいちょう"で拘束!離すんじゃねぇぞ!!」
「よ、避けて!!」
風魔の操る樹木が、地中から急スピードで生えてファマーに向かって伸びる。この速度ならファマーよりも速い。
「捕らえた!行け!!」
「マッ!!」
「ファマー!!?」
追い討ちを掛けるように"すなかぜ"と"かまいたち"のコンビ技がファマーに炸裂した。身動きが取れないファマーは去なすことすら出来ず、大ダメージを負って力無く倒れてしまった。つまりこれは...
「俺達の...勝ちだ」
「プー」
おっと...勝利後にツンとするのは良いけど、フラつくとカッコつかねぇな。倒れそうになった風魔を直ぐに支えに行った俺ってかなり優しい人なのでは...?
「ふっ...」
「プ」
「痛っ!?んのやろ...!」
クソっ、思い切り葉っぱで叩きやがった。なんだよ全然動けるじゃねぇかよ。んな事ならさっさとボールに戻せば良かった。
「...凄いね、ヤテツ君」
顔を上げるとミドリちゃんがすぐ側まで寄ってきていた。
...握り締められたボールからは、悔しさが滲み出ているのが分かる。
「ん?あ〜いや。コイツがめっちゃ強い技覚えてたお陰だし、じゃなきゃ押し負けてたぞ?そっちのファマーだって硬いし攻撃力高いしで凄かったぜ」
「...そうなのかな」
「...とりあえず研究所に戻るか。帰るとこだったんだろ?」
「...うん。そうだね、帰ろっか」
そこから30分程度掛けて研究所へと戻って来た。途中ポケモンセンターに寄った事を考えると、実際は20分掛からない程度で行けるかもな。
「なるほど。初めてでミドリに勝つなんて凄いじゃないか!」
博士に戦闘の詳細を話すとかなり褒められた。久々に褒められた気がする...悪い気はしないな。
「いやー、コイツが強力な技を覚えてたお陰ですよ」
「まぁ、確かにその
ミドリちゃんの顔が曇っていくのが目に見えて分かる...頼む博士、それ以上はやめてくれ。俺の心が痛いんだ。
「よし、じゃあヤテツ君にもホウエンの新しいポケモン図鑑を上げよう!」
「ありがとうございます」
「私からもプレゼント...いや、賞金の代わりかな?はいこれ」
「ありがとな、ミドリちゃん」
モンスターボール5個か。これで手持ちを増やせるな。
「私もっと強くなって、次こそはヤテツ君に勝つね」
「おう、俺だって負けねぇぞ」
その後、一言二言ミドリちゃんと言葉を交わし、博士からポケモン図鑑を埋めて欲しい旨を伝えられてから研究所を後にした。やっぱ外暑い...
ミドリちゃんの目にはバトルの時に見た闘志が煮えたぎっていた。自信喪失...なんて事にはならなさそうだ。良かった良かった。
「待ちなさいヤテツ〜!!」
「ブフォッ!!」
どこからともなく母さんが"とびひざげり"を喰らわせて来た。うん待って。今絶対折れた。肋骨折れた。ゴキって言ったもん!!
「アンタどこで油売ってんの!挨拶するだけらなら10分も掛からないでしょうがぁあ!!」
お願いしますお母様...どうか私奴の体に乗らないでください痛い痛い痛い!!グリグリしないでやめてやめて!!
「えっと...赫赫然然で、博士にポケモンを捕まえて欲しいと言われて、それで旅に出たい所存でございます...」
「...............そう」
あ、退いてくれた。あーお腹痛い...
「ポケモンは?」
「貰った」
「...そう。とりあえず軍資金として3000円渡しとくわ。行ってらっしゃい」
...やけにすんなりと行かせてくれるのな。また暴力を奮われるかと思ったけど、これはこれで悲しいな。
「じゃあ、行ってきます」
「で、101番道路へとやって来た訳だけれども」
「プー」
灰の降る101番道路。その大通りから外れて獣道を進み、更に奥地へと進んだ場所へ俺達は来ていた。
「博士からポケモン図鑑を埋めるよう頼まれたからな。依頼は確りと熟すべきだと思うんだ」
「プー」
うん...人間一人で悲しい俺の言葉にちゃんと返してくれる風魔ちゃんマジ大好き。
「とりあえず、こんな場所だけれども俺の目標宣言したいと思いまーす!!」
「プー」
「一つ!ポケモン図鑑コンプリート!!」
「二つ!史実通りホウエンリーグクリア!!」
「三つ!打倒!未知の組織!!」
「四つ!楽しんで生きる!!!」
「んでもって最初の1歩として...」
ガサガサと草むらから音が聞こえる。目には見えないけれど、皮膚は感じ取っている。この敵意を。
さぁ...ショータイムだ!
「この101番道路の裏道に住まうポケモン、全種コンプリートだ...行くぜ、相棒」
「プッ」
短く鳴いたその声は、砂塵の刃に消え失せた。