三兄弟の系統樹   作:出来立て饅頭

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第十六話 ギデオン観光 クロス・アクアバレーの場合

  ◇  【風術師(ウィンドメイジ)】クロス・アクアバレー

 

 

俺水谷 流ことクロス・アクアバレーはデンドロにログインして決闘都市ギデオンを観光していた。最近は直前の<UBM>の討伐するためにいろいろ動き回ったから、しばらくの間のんびりすることに決めたのだ。

 

何せこのギデオンは観光するのには最適な場所だ。決闘施設が中央大闘技場と小型の決闘場が十二棟もあり、決闘または何かしらのイベントを行っている場合があり、それに参加したり見学したりができる。

 

他にも小型の決闘場の場所を区画分けされており、商業区画や温泉区画に生産区画などを見て回るだけでも面白い。

 

ギデオンに来るまでのモンスターのドロップ品は売って現在の所持金は23万リル少々。観光するなら十分な所持金だ。

 

まずは温泉区画にでも行って、ゆっくりするかと足を向けた時に・・・

 

「だ、誰か~!ひったくりよ!」

「おらどけ!」

 

俺の後方で身なりのいいご婦人のアイテムボックスを《強奪》した者が居たようだ。よく見るとその者は<マスター>の様で足に<エンブリオ>らしきローラーブーツを履いている。

 

さすがに見て見ぬふりはいかがな物かと思い、その者の前に立ち塞がる。ところが・・・

 

「《我が道はどこにでも(イダテン)!》」

 

ひったくり犯がスキル名を叫ぶと、空中を滑り出し俺の頭上を通り過ぎて行った。

 

「あ!?」

「はっはっは!じゃあな!」

 

そのままひったくり犯が姿を消すかに思えた瞬間、人ごみの中から誰かが跳躍してひったくり犯に蹴りを入れた。

 

『ふん!』

「げは!?」

 

その瞬間はあたかも未だにリアルで人気がある特撮番組のヒーローの様だった。蹴りを放った人の格好もその考えを増長させているのだが。

 

その人は先ほど想像した特撮ヒーローに酷似した格好をしているからだ。仮面のようなフルヘルムを被り、装備品もどこか意識した物っぽいし。

 

俺はとりあえず蹴りを入れられて地面に転がっている相手を拘束する。

 

「とりあえず、大人しくしろよ?変なことをしたら攻撃するからな」

「く、くそ!」

 

俺程度のステータスで拘束できることを考えると、こいつはAGI特化型かもな?あと、先ほどのスキルはクールタイムの影響か使う気配がない。

 

拘束中の俺に、先ほどひったくり犯に蹴りを入れた恐らくは<マスター>が話しかけてきた。

 

『拘束感謝する。それと先ほどもこいつの前に立ちはだかっていたな?』

「すぐに突破されましたけどね」

『いや、君のおかげでこいつの隙を突くことが出来たんだ。お手柄だよ』

 

そんな話をしていると、先ほどのご婦人が駆けつけてお礼を言い始めた。

 

「ありがとうございます!おかげさまで盗られた物が取り戻せそうです!」

「どういたしまして」

『礼には及びませんよご婦人』

「まぁ!よく見ればあなた様はライザー殿では?」

 

うん?ご婦人はこのひったくり犯を撃退した人をご存じなのか?

 

「あ!確かに!」

「”仮面騎兵”マスクド・ライザーだ!」

「決闘ランキング四位の!」

 

ご婦人の言葉をきっかけに周りの人たちも騒ぎ始めた。ひょっとして有名人? などと考えていたら人のざわめきがさらに増して奥からまた誰かがやってきた。

 

「ライザー。ようやく捕まえたか?」

『ええオーナー。こちらの彼の協力のおかげで』

「それはすまないな。おかげで助かった」

「いや、たまたま近くに居たので」

 

正直な話、ライザーと呼ばれた人が居なかったら逃げられていたから礼を言われるのは背中がむず痒くなる。

 

「フォルテスラだ!」

「おお、決闘ランキング三位の!」

「きゃああ!こっち向いてください!」

 

何やら騒がしいのが最高潮になりつつあるな? そんな様子に目の前の二人は苦笑している。

 

「これ以上騒がしくなると収拾がつかないな」

『騎士団詰所にこのひったくり犯を連れて行きましょう』

「そうだな。ご婦人もどうか一緒に。盗まれた物が帰ってきますよ」

「はい。ありがとうございます」

「よければ君も一緒に。お礼がしたい」

「はぁ?わかりました」

 

温泉に入ってゆっくりするつもりがなんか予想外のことになったな?

 

 

 

その後、騎士団詰所で事情説明。ご婦人の証言と《真偽判定》のスキルでひったくり犯は騎士に連れてゆかれる。その後は余罪をはっきりさせて監獄に送られるだろう。

 

用事が終わり、ご婦人からも改めてお礼を言われ、そのまま別れた。二人とも別れることになるかと思ったんだが。

 

「俺は【剣聖(ソードマスター)】のフォルテスラだ」

『自分は【疾風騎兵(ゲイル・ライダー)】のマスクド・ライザーだ』

「俺は【風術師】のクロス・アクアバレーです」

「お礼もかねて食事をおごらせてくれないか?」

 

そう言われたので断るのも悪いと考えて、受け入れた。現在、二人のおすすめの食事処で席についた所だ。繁盛しているらしく他の客相手に店員が忙しくしている。

 

「なぁ、あれって」

「”仮面騎兵”と”凌駕剣”か!」

「いっしょに居る奴誰だ?」

 

二人は決闘ランキング三位と四位らしくそんな有名人と一緒に居る俺も注目されている。

 

ついでに決闘ランキングに付いては、簡単に説明すると決闘者のランク付けだ。決闘を繰り返し勝ち続けるとランキングに名が刻まれる。

 

目の前の両名はこのアルター王国で決闘において三番目と四番目に強い<マスター>と言う事だ。それは騒がれるわ。

 

「なんでも頼んでくれ。ここの払いは俺とライザーが払う」

「いや、さすがにそこまでしてもらうのは・・・」

『そんなことはない。君が捕まえるのに協力してくれたあのひったくり犯は常習犯でな?ティアンと<マスター>合わせると20人以上も被害にあっている』

「そんなに!?」

 

20人越えの被害者とは驚くと同時に、呆れるわ。デンドロで何やってんだよ。あのひったくり犯。

 

「どうもビルドをそれに特化させて<エンブリオ>もそれに合わせて進化したようだ。最近のギデオンでは奴による被害が多発していたので俺達のクランの何人かでパトロールをしていたんだ」

「クラン?」

『もしかして初心者かい? オーナーの<バビロニア戦闘団>はクランランキング二位でもあるんだよ』

「あ~すいません。やり始めてリアルでまだ二か月くらいなので」

 

合計Lvが低いし、ランキング関係の情報はまだ早いと判断してチェックしていなかったからな。

 

「それなら知らないのも無理ないか」

『団長!納得しないの!』

 

突然の女性の声に驚くと同時に、フォルテスラさんの左手の紋章が輝いた後には隣に女子が立っていた。

 

「団長はアルター王国で三番目に強い<マスター>なんだよ!そんな人と一緒できるんだからもっと驚きなよ!」

「ネイ。失礼だぞ?」

「む~!」

 

突然出てきた女子は俺を睨みながら、開いていたフォルテスラさんの隣に座った。

 

「あの、その子は?」

「ああ、この子は・・・」

「あたしは団長の<エンブリオ>!TYPE:メイデンwithエルダーアームズのネイリングだよ!」

「メイデン・・・初めて見た」

 

<エンブリオ>TYPE:メイデン それはチュートリアルでは説明されなかった<エンブリオ>のレアカテゴリー。

 

<エンブリオ>自体が意思を持ち人間となんら変わらない受け答えをする。まぁ、これに関してはガードナーでも似たようなことが確認されている。悪魔型とか天使型で話ができるのもいるらしいし。

 

その後、注文を聞きに来た店員にネイリングも追加でそれぞれ注文した。俺はそれほど高くない物を。ここで遠慮なく高い物を頼むのは気が引ける。かと言って一番安い物を頼めば二人が気にするだろうし、これがベストな選択だろう。

 

食事は楽しかった。二人のこれまでの決闘の話やモンスターとの激闘など聞いていて随分と興奮した物だ。ちなみにフォルテスラさんが注文したのはステーキで、ネイリングも同じのを頼んでいた。

 

フォルテスラさんが豪快に大き目の肉を頬張っていたのに対して、ネイリングは一口サイズにカットして口に運んでいたのは対照的で面白かった。ライザーさんはスムージーを頼みヘルムの間からストローで飲んでいた。ヘルム脱がないんですね。

 

その後は食事を終え、店の前で別れの挨拶をしていた。

 

「今日はご馳走様でした」

『何、こちらこそ今日はありがとう』

「ああ、気にしないでくれ」

「あと、渡したチケットで見にきなよ!」

「ああ、絶対に行くよ」

 

食事をしている途中でネイリングから今日の午後からやるフォルステラさんの決闘のチケットを貰っていた。彼女曰くそれを見て団長の凄さを確認しなさいだそうだ。

 

彼らと別れ、俺は決闘まで時間があるので予定通り温泉へと向かうのだった。

 

 

それからしばらく経ち、俺はチケットを使い中央大決闘場へとやってきていた。このチケット結構いい席であるようで座って見られる場所だった。俺はチケットに書かれている席に来ると・・・

 

「へ?」

 

となりの客を見て素っ頓狂な声を上げてしまった。その客は着ぐるみだったのだ。多分動物のカンガルーの着ぐるみだろう。俺は《鑑定眼》なんてスキルは持っていないが、なんとなくこの着ぐるみは装備としては強い部類なのではと考えた。

 

『おや?』

 

着ぐるみも俺に気付いて、何やら声を上げた。

 

「すいません。驚いてしまって」

『気にして無いガル。大抵の人はそんな反応だガル』

 

何やら妙な語尾で話しているが、怒っていないならよかった。

 

『それより、座った方がいいガル。そろそろ始まるガル』

「そうですね」

 

この席は隣との間隔がかなり広めで着ぐるみが隣でもゆったりと座れる。

 

『会場の皆様! これよりランキングマッチを開催いたします!』

 

アナウンスで決闘開催が告げられ、観客から歓声が上がる。

 

「随分と熱気がありますね?」

『今日の決闘は人気カードだからガル。と言うより知らずに来たのかガル?』

「たまたま知り合った人からチケットを貰ったので」

『そりゃ、運がよかったガル』

 

なんとなくだが隣の着ぐるみと会話してしまった。あちらも会話がしたかったのか俺の言葉に答えてくれた。

 

『まずは東! 挑戦者、決闘ランキング第三位である【剣聖】フォルテスラァァァァ!』

 

東のゲートから今日知り合ったフォルステラさんが出てきた。その手には長剣が握られている。あれがネイリングのアームズ形態だろう。

 

『対する西は! 防衛者、決闘ランキング第二位! 【大闘士(グレイト・グラディエーター)】フィガロォォォ!』

 

西から出てきた人はなんと言うかちぐはぐな装備をしていた。簡単に説明すれば性能だけで装備選びました、コーディネートは二の次です。みたいな感じだ。

 

二人が決闘場の中央付近で対峙して、決闘のルール説明後二人はそれを承諾して結界が展開。

 

『それでは、試合開始!』

 

決闘が始まった。

 

 

 

結果はフィガロと言う人が勝った。しかし、内容的にはどちらが勝っても不思議ではなかった。それほどに高度な戦いが行われていた。

 

多種多様な装備を駆使して、相手を攻撃するフィガロ。それを剣一本で防ぎ肉薄して切り込むフォルテスラさん。<マスター>による上級者の戦いが俺の目の前で行われた。

 

大決闘場を出ても、観客は先ほどの戦いの話題でもちきりだ。

 

「いい物を見た・・・」

 

今はまだ実力が足りないが、俺もいつか決闘をしてみたいな。

 

『いい戦いだったガル』

 

俺の隣には席が隣だった着ぐるみが居た。この着ぐるみは決闘を始めて観る俺に対していろいろ解説をしてくれたのだ。

 

「解説ありがとう。おかげでよくわかったよ」

『いいガル。こっちも一人で見るより楽しかったガル』

 

そう言って着ぐるみは笑ったように見えた。

 

『ところでこれから予定はあるガル? せっかく知り合ったし食事でもどうガル?』

「ありがたいお誘いですが、そろそろログアウトしたいので」

『わかったガル。もしも次に出会った時にでも』

「はい。では・・・」

 

別れの挨拶をして、俺はログアウトした。今日は予定とは違ったが知り合いも増えていい物見れたしゆっくりとはできたな。

 

 

 

『まさか、こんなところで出会うとは分からんもんガル』

 

着ぐるみは先ほどログアウトした<マスター>を見送り、そんな言葉を口にした。

 

『シュウ、お待たせ』

 

その着ぐるみに声を掛ける別の着ぐるみが居た。新たに現れた着ぐるみは金色のライオンの様であった。

 

『おう、勝利おめでとうガル。今日は別に土産話もあるガル』

『土産話?』

『ギデオンで<UBM>の目撃情報が有ったろ? 数日前にたまたまそいつを討伐した<マスター>たちを見かけてな』

『へぇ、倒せたんだ。それはすごいね』

『詳しくは食事の時にでも』

『うん、楽しみだよ』

 

二人の着ぐるみはそう言ってなじみの店へと向かう。周りが妙に着ぐるみ二人に注目しているが、当人たちは気にせずに歩いていた。

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