◇ 【
俺は現在、ミニガンをぶっ放している大男から離れて狼のガードナーを従えている女性と戦っている最中だ。
「ヒートランス!」
目の前で噛みつきそうだった狼を魔法で倒し、背後から襲いくる狼に剣で頭を切り飛ばした。これで五体の狼をすべて倒したが・・・
「《猟犬は死なず》」
女性がスキルを宣言すると、女性の影から新たな五体の狼が出現。これで三回目だ。先ほどから倒しては復活を繰り返している。
「再生に特化したガードナーか」
「それだけじゃあないけどね? 気付いているだろう?」
まぁな。先ほどから復活した狼たちは以前の狼よりもわずかに強くなっている。再生を繰り返すほどに強くなるのか。
最初はあの女性を倒せばこちらの勝ちと思い、魔法で狙ったが狼たちが身を挺して庇った。その直後に復活して、こちらを襲い始めたので今度は剣で五体すべてを斬り伏せたがすぐに復活。
女性も時折鞭で攻撃してくるので油断できない。どうもあの鞭はスキルで射程が伸びている様だしな。
(おそらく目の前の女性は【従魔師】に就いているはず。《魔物強化》のスキルでガードナーの戦闘力を強化。もしかしたら上級職で別の配下強化スキルを持っているかもな)
現状は苦戦もしていないが、善戦もしていない。俺の【ガルドラボーグ】のスキルを使って一気に攻めてもいいが、もう少し情報を手に入れたい・・・・
「さて、どう攻めるか・・・」
「こないならこっちから行くよ!」
そう言うと女性は鞭を地面に叩きつけて、狼たちをこちらにけしかけた。俺は狼たちを倒さない様に剣で防ぎつつ魔法を牽制で放ちながら戦い続ける。
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鞭持つ女性ナナリの<エンブリオ>は【再生闘狼 アセナ】と言う名でその名の通り再生能力に特化したガードナーである。
倒されてもナナリのSPを消費して、影から復活する。おまけで身体能力の微増した状態で。現在の【アセナ】の形態は第三。第一形態時は三匹の子狼で再生能力以外は特筆すべき点はなかった。
しかし、進化することでまずは中型犬くらいのサイズになり、第三形態になった時は五体に増え再生時に身体能力が微増する能力が追加された。
SP消費は戦闘時限定だが燃費が良く、コストパフォーマンスに優れていた。ただし、戦闘能力が低く第一形態時の子狼では初心者狩場のモンスターと同程度の実力だった。
これは<エンブリオ>の能力が再生と数にリソースの大半を割いているためであり当然のデメリットであった。
それを理解したナナリはまずは【従魔師】に就いて《魔物強化》スキルを手に入れて戦闘能力の底上げを図った。さらに、子狼がすべてメスであることを確認した後は【従魔師】をカンストした後に【
その後は自身の戦闘力を上げる意味と上級職のために【
【魔獣使い】はモンスター種族である魔獣に特化した【従魔師】であり、魔獣を倒すことにも長けているジョブだ。【魔獣使い】のスキルには《魔獣強化》と言う魔獣限定の強化スキルがあり、限定されているがゆえに強化値が高いスキルだ。
これらのスキルを手に入れたことで【アセナ】の戦闘力は飛躍的に上がった。その戦闘力はクロスと言う<マスター>に弱いと認識させない程度には高まった。
その後は野盗まがいのプレイスタイルで同じような<マスター>と徒党を組み、同じLv帯の二人とパーティを組んだ。
Lv上げの途中で<UBM>を発見。大半の者が特典武具欲しさに挑戦したがナナリは割に合わないと考えて、騒ぎを聞きつけてやってくる者たちを狩ることを選んだ。そしてLv上げの邪魔をした<マスター>相手に戦っている最中と言うわけだ。
戦闘の状況は今のところはどちらも相手の手札を見切ろうと様子見の段階だ。とは言えこのままの状況が続けば有利なのはナナリの方だ。
ナナリの【アセナ】は長期戦に向いたガードナー。いくら倒すと再生して身体能力が上がるからと言って、倒さずにいるのは難しい。
五体の連携攻撃を防いで時折攻撃するナナリも注意しないといけないこの状況は集中力を保つことができないと一気に瓦解する。
ナナリはそのチャンスを待っているのだ。もっとも、チャンスを待っているのはクロスも同じだが。
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ナナリは【アセナ】に襲われながら、防御に徹している<マスター>に時折鞭で攻撃しながら、ある切り札を切るチャンスを狙っていた。
(目の前のこいつは魔法を使いながら剣で戦っているところを見ると魔法剣士系のジョブだね。<エンブリオ>を未だに使う様子がないのは気になるけど。スキルがこの状況にあってないのか、それとも使うタイミングを待っているのか)
ナナリはこの状況を冷静に考察していた。パーティを組んでいる仲間の中で一番戦闘力が低いのがナナリなので状況判断を任されることが多いのだ。もっとも、他二人がそう言うのに向いていないのが最大の理由だが。
(どちらにしろ使わないうちにさっさと始末しちまうか? 速攻でHPを削りきれば問題ないさね)
ナナリの切り札であればそれができる。彼女はそう考えて目の前の<マスター>の隙を逃さないように観察に集中した。そして・・・
「く!?」
相手が【アセナ】の噛みつきを剣で防御したのを見てナナリは決断した。切り札を切るなら今だと。
「《バーサーク・ビースト》!」
スキル宣言をすると、【アセナ】達5頭は突然真っ赤なオーラが体から噴出し、凶暴な顔となった。この変化に相手は剣に噛みついていた【アセナ】を斬り伏せた。だが・・・
「「「「ガァ!!」」」」
残りの狼たちがそれまでとは段違いのスピードとパワーで襲いかかってきたのだ。
《バーサーク・ビースト》 このスキルは自身の従属キャパシティ内で運用している魔獣に【狂化】の状態異常を付与する物だ。これにより魔獣のステータスは倍加し、闘争本能も刺激されより攻撃的になる。
ただしデメリットは制御不能であり、【狂化】した魔獣は自身の近くにいる相手を攻撃する。その攻撃対象は主も例外ではないし、【狂化】が解除されるとステータスも半減する。
この問題をナナリは自分の武器を攻撃する時に長さが伸びるスキル付の鞭にすることでクリアした。さらに言えば、制御不能のデメリットは倒されれば再生する【アセナ】にとってはそれほど問題がない。再生すれば【狂化】は解除されるし、一度倒されて再生するのでステータス半減もない。
事実、スキル発動直後に倒された【アセナ】はナナリの傍で待機している。今攻撃に加われば味方に攻撃されるからだ。
「く!?」
ステータスが倍加された【アセナ】に相手は目に見えて対処できなくなっていた。噛みつきは何とか回避したり迎撃しているが、爪による攻撃を受けることが多くなった。さらにナナリは追撃を加える。
「そこだよ!」
鞭による攻撃で相手の剣に巻き付け動きを封じたのだ。しかし、相手の方が上手だった。相手は不利を自覚しすぐに剣を手放した。代わりの武器を《瞬間装備》で取り出して。
だが、手にした武器はそれほど強い武器ではなかった。少なくとも手放した武器よりも二回りほど性能が低い。それをナナリは《鑑定眼》で把握。すぐさま巻き付けてあった剣を自分の元へ引き寄せ近くに突き刺した。
遠くへと捨てる選択肢もあったが、ナナリは自身の近くに置いておき相手が武器を取り戻す隙を付けるのではと考えたのだ。
ナナリはこの時点で自身の勝利を半ば確信していた。このまま時間が過ぎれば相手はなすすべなく【アセナ】にやられることは明白。
この時、ナナリはあることを忘れていた。相手が<エンブリオ>を使っている様子がなかったことを。そして、その忘却は致命的な隙を晒すことに。
クロスはナナリが剣を突き刺したと同時にバックステップを2回行った。それにより、【アセナ】が彼を追い駆けてちょうど<エンブリオ>とナナリが視界に入る立ち位置になり、クロスは自身の手札を切った。
「《オーバー・マジック》 《サイクロンスラスト》!」
クロスがスキル宣言した直後、ナナリに巨大な螺旋が呑み込み広範囲にありとあらゆる物を吹き飛ばした。
◇ 【
俺の【ガルドラボーグ】のスキルを使い強化したジョブスキルで戦っていた相手を吹き飛ばしたのだが、やり過ぎたな。込めるMPはもう少し少なくてもよかった。
「強力だがさじ加減が難しいな。今後の課題だな」
使ったのは《サイクロンスラスト》と言う本来なら突き攻撃と多少の範囲を攻撃できる竜巻を刃から放出する技なのだが、魔法剣士系のスキルは魔法攻撃扱いでもあるので、《オーバー・マジック》の対象になる。
以前に実験で試しにやってみたら予想以上の攻撃になり呆然となった。
「一応、倒したんだよな?」
辺り一帯を吹き飛ばしたので相手のランダムドロップも確認できず、いろいろ吹き飛んでいたので倒せたのかどうかが不明だ。ならばこうするか・・・
「おい! もし生きているならこれ以上の戦闘を望む場合は姿を現せ! 戦闘を望まないと言うならばそのまま立ち去れ! 俺は追うつもりはない!」
大声で辺りに聞こえるように言葉を発した後はしばらく様子を見ていたが、姿を現さない所を見ると倒したか戦闘を望まないかのどちらかだろう。
一応警戒はしておくか。さて、二人の応援に行くことにしよう。
なんとなく私が考えるエンブリオは能力控えめかな? 読者の皆さんはどう思いますか?