◇ 【
『一人と<エンブリオ>がやられたか・・・』
着ぐるみさんことシュウ・スターリングは彼らの戦いを遠くから望遠鏡で見ていた。なぜそうしているのか?
無論、これは彼にとって不本意な行動だ。護衛対象である商隊を送り届けて、彼は全速力で元の場所に戻り参戦する気だった。
にもかかわらず、こんな場所で彼らのことを見ているだけなのは・・・
「古代伝説級の<UBM>を倒したのですから、それくらいの犠牲でなしたのなら上出来では?」
隣にいる男が原因だ。その男は特徴という物を持たない。容姿に関しては普通と評されるような男だった。黒髪で短髪、太っているわけでも痩せているわけでもない。
あえて特徴を上げるのなら眼鏡をしているのが、印象的か。正直な話人畜無害を体現したような男だ。
しかし、シュウは知っている。隣の男が現デンドロ内で最も名が知れた犯罪者であることを。最初に知り合ってから何度もこの男がやった犯罪行為に巻き込まれているのだから。
『そういう問題じゃねぇ。そもそもお前が俺を止めなければ、少なくともどちらかはやられずにすんだかもしれないんだぞ。わかって言っているだろうゼクス・・・』
怒気を込めた言葉を口に出しながら、普段のひょうきんな雰囲気も代名詞である語尾もせずに、隣の男に視線を向けるシュウ。そんなシュウの態度にも顔色一つ変えずに微笑している男
隣の男は【
「そうですね。ですが、あくまでももしかしてです。だからこそ、その可能性をこの私はつぶしたわけですが」
『・・・・』
シュウがクロスたちに合流しようとしたところで、ゼクスが現れてこう宣言したのだ。
「このままシュウが彼らに合流するのなら、この私も敵に回りまずは彼らを殺しますが、よろしいですか?」
シュウはこの言葉を聞いた時、舌打ちを隠さなかった。ゼクスの戦闘力は厄介なんてレベルではない。<エンブリオ>能力などはシュウが知る中では一、二を争うほどの能力だ。
古代伝説級の<UBM>を相手にしている中にゼクスが参戦し敵になるなど、最悪中の最悪である。よってシュウは彼らと合流できなくなり、遠くから見守ることしかできなかった。
『<UBM>が現れてからなかなか討伐できないのは不思議に思っていたが、お前が邪魔してたんだな?』
「ええ。たまには犯罪者らしく隠れて犯罪をしようかと思いまして。戦闘をしていた<マスター>たちに気づかれないように妨害していました。<UBM>には気づかれていたようですが」
そもそも、いくら古代伝説級の<UBM>だからと言って<マスター>が数多く討伐に乗り出していた状況で生き残れるかと言えば答えは否である。
<マスター>には<エンブリオ>というオンリーワンの要素がある。その能力によっては格上であっても楽に倒せる可能性があるのだ。デンドロにおいて相性差というのは戦闘で最も重要と言ってもいい。
そんな<マスター>たちを隠れて妨害、または殺害していたのがゼクスだ。これにより<UBM>が討伐できずにギデオンは被害を受け続けた。
『普段は隠すことなんてしないくせに・・・』
「この私としてはそのほうが都合がいいもので。ですが、それは犯罪者らしくないとふと思いまして」
『お前が普通の犯罪者なわけないだろう』
シュウは知っていた。【犯罪王】なのに、この男はほかの特にティアンの犯罪者連中から化け物のごとく恐れられているのを。【犯罪王】なのに。大事なことなので二度思った。
というのも、ゼクスは自分がやる犯罪行為を隠すことがない。むしろばれる前提でやる。その時点で普通の犯罪者からしたら「何やってんの!?」と言葉にする。
普通の犯罪者ならどうやって犯行を隠すまたは自分がやったという証拠を残さないようにするものだ。ついでに言えば、ゼクスが犯した犯罪は重度すぎてほかの犯罪者すら躊躇するようなものばかりだ。最初に起こした事件が王国の第三王女殺害未遂という時点で相当である。
「この私もそう思います。ですからこれからはこの私らしく二度と隠しません」
『・・・・』
【犯罪王】なのにそのセリフもどうなんだと疑問に思ったが、口にはしなかった。
「ではこれで失礼しますよ。ああ、彼らに伝えてもらえますか? 討伐おめでとうと」
『皮肉か? 絶対に伝えねぇからな』
「残念です」
討伐に合流しようとしたシュウを邪魔しといてこのセリフである。そのままゼクスはカルディナ方面へと去って行った。今度はカルディナで奴が起こす犯罪が騒動を呼ぶだろう。
ともかく、ゼクスが去った今シュウはクロスたちに合流するために急ぐのだった。
◇ 【
俺たちが【ディセンブル】を運よく倒した直後に気絶してから、30分前後経った。その間に俺たちは着ぐるみさんに運ばれて、ギデオンの病院のベットの上だった。
着ぐるみさんの<エンブリオ>【バルドル】は第五形態まで進化しているらしく、その形態はなんと軽巡洋艦サイズの陸上戦艦という。
なんともド派手な<エンブリオ>だと思ったな。ともかく、その陸上戦艦に俺たちを乗せ、急いでギデオン近くまで運んでくれたのだ。
その後は【気絶】、【重度疲労】、【体力枯渇】などの多重状態異常になっていた俺たちを回復するために、病院に事情を説明。その後、人手を集めて俺たちを運び治療したというわけだ。
病院の【医者】の治療で何とかまともに動けるようになった俺たちは、今日は一切の戦闘禁止だと言われた。まぁ、言われなくとも今日はもう戦闘したくなかったが。
なお、治療費は着ぐるみさんが出してくれた。彼曰く・・・・
『みんなには頑張ってもらったからガル。これくらいはさせてほしいガル』
と言っていたので、お言葉に甘えた形だ。その後は冒険者ギルドに行き、クエスト報酬を受け取った。一人20万リルとなかなかおいしい依頼だ。あんな戦いがなければ。
ゲイルの報酬は俺とウッドが受け取り、もう一つの用事を済ますことに。【ディセンブル】討伐報告と討伐報酬の受け取りだ。
これに関しては俺が持っていた【血晶甲剣 ディセンブル】を見せたことで楽に終わった。討伐報酬はなんと600万リルもの大金だ。
これほどの大金は相手が古代伝説級なのとなかなか討伐されなかったことを踏まえて、ギデオン伯爵が上乗せし続けた結果らしい。この説明を聞いていた時、着ぐるみさんの雰囲気が変わったような気がしたが、気のせいかね?
とりあえずは、報酬を受け取り山分けするために話し合うことに。なお、着ぐるみさんはこの報酬の受け取りは拒否した。理由としては戦ってすらいないし、討伐したのは間違いなく俺たちだからだと。
「では、一人100万リルで分けるといいかな?」
「こ、こんな大金受け取っていいんでしょうか!?」
「すげーよな!」
「き、緊張するよ~」
「なぁ? 俺も受け取るのか?」
大金を手に入れたことに興奮と戸惑いを浮かべているシルク君たちとウッドに俺は疑問を口にした。
『何か不満でもあるガル?』
「いや、特典武具まで手に入れたのにこんな大金も受け取っていいのかと・・・」
「クロス兄貴、ゲイル兄貴と同じこと言っているよ?」
うん自覚してる。だが、特典武具を手に入れてゲイルの気持ちがよく分かった。こんなの手に入ったらお金まで受け取るのは考えちまうぞ?
【血晶甲剣 ディセンブル】
<
戦を求め、自らの血液を纏う誇り高い武人の概念が具現化した至宝。
装備した者の肉体を強化する力と、あらゆる刃を作る能力を持つ。
※譲渡・売却不可アイテム
※装備レベル制限なし
・装備補正
STR+40%
END+40%
攻撃力+670
防御力+240
・装備スキル
《血晶操刃》
《晶毒》
《血晶操刃》 アクティブスキル
装備者のMPとSPを消費して刃に血晶を纏わせ刃であればどんな形にもなる。
《晶毒》 パッシブスキル
上記のスキルで刃を作った場合、切りつけた相手を【毒】にすることがある。
いや、古代伝説級がかなり強い特典武具になるとは聞いていたが、さすがにこの性能はやりすぎではないか? 俺が使っていた武器より数倍攻撃力があるし、ランクが一つ下のゲイルが持っている特典武具よりも強すぎだろう。
この剣は種類としてはバスターソードと呼ばれる大剣と片手剣の中間の剣だ。刃の部分は真っ赤で持ち手の部分は艶のない黒だ。持ち手部分も長くてツーハンドソードっと言ってもいいかもな?
「確かにすごい性能ですね・・・」
「かっこいいよな!」
「あれだけ強かったから納得の性能ですね・・・」
シルク君たちもこの武具の性能と外見を持て驚愕したり興奮したりと忙しい。
『基本特典武具はMVPになった奴の能力を調べて、足りない能力やほしい能力を<UBM>の特徴を参考にして決まるからな』
「そうなんですか?」
『ああ。珍しい特典武具では装備補正特化やスキル特化なんて例もあるガル。まぁ、後者のスキル特化はかなりのレアケースだが』
「「「へぇ~」」」
特典武具もいろいろあるらしい。というか着ぐるみさん詳しいですね?
「なぁなぁ? なんでそんなに詳しいんだ?」
『ふふふ。何を隠そうこの着ぐるみも特典武具だガル』
「「「えぇ!?」」」
つまりその外見みたいなカンガルーの<UBM>居たのか? というかなんで特典武具が着ぐるみ?
「ほ、ほかにも特典武具があるんですか!?」
『・・・・』
「着ぐるみさん?」
『あるにはあるが・・・他のも全部着ぐるみガル・・・』
「「「・・・・えぇ?」」」
先ほどとは違う意味の声を発する三人。特典武具全部着ぐるみってある意味これもレアケースなのか?
最後にオチがついたが、ともかく着ぐるみさんを除く六人で討伐報酬を分けることに。ゲイルの報酬は俺たちが預かることにして全員ログアウトすることに。
疲れたからな・・・リアルに戻ったらとりあえず仮眠しよう・・・
はい、ゼクスライムさんの登場回でした。あとはガルド君とタタン君にシルク君の<エンブリオ>を簡単に紹介します。
【炎熱剣 レーヴァテイン】TYPE:アームズ
能力特性: 炎熱攻撃&防御力半減
ダメージ計算時に防御力を半減した数値で計算を行う能力。ENDステータスが高い敵や防御力が高い敵には天敵。ただし、あくまで数値を半減する能力なのでスキルによる防御には弱い。
【生動機人 タロス】TYPE:ガードナー
能力特性: 戦闘力&魔法効果アップ
3メートル越えの機械式ゴーレム型<エンブリオ>シンプルに戦闘力が高く、ステータス補正は低め。他に自身が受ける魔法効果を上げる能力があり、そのおかげで回復魔法による回復が可能。ただし、デメリットとして魔法攻撃やデパフの効果も上げてしまう。それを補う形で魔法を受けたらステータスを上げるスキルもある。
【癒光杖 べレヌス】TYPE:アームズ
能力特性: 回復魔法強化&回復効果
シルク君の本編でスポットが当たらなかった不遇の<エンブリオ> 能力は回復魔法強化と回復効果のあるスキルを持っている。戦闘力は皆無だが、それを補って余りあるほど優秀。回復特化な<エンブリオ>であり、パーティメンバーのMPやSPを自動回復するスキルやHPが半分以上減っているパーティメンバーを完全回復させ、ステータスをアップさせるスキルを持つ。デメリットは能力が完全に回復特化であるため、本人の戦闘力が皆無でパーティプレイ必須な点。最初から三人で行動するつもりだったからこの<エンブリオ>が生まれたともいえるが。