三兄弟の系統樹   作:出来立て饅頭

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第三十二話 デンドロ販売から一年たった

  ◇  【強弓騎兵(ヘビィ・ボウ・ライダー)】ウッド・アクアバレー

 

 

兄貴たちと今後の方針を話し合ってから、デンドロが発売されて一年がたった。僕たちがデンドロを始めてからは半年ぐらいだね。

 

その間、僕たち兄弟はリアルでのお仕事をしながらデンドロにもログインしていたんだけど、ゲイル兄貴と僕はお仕事が忙しくてなかなかログインできなかったよ。

 

一応、今のメインジョブはカンストまであと少しなんだけど、次のジョブをどうするか二人して悩んでるんだよね~

 

クロス兄貴の方は僕たちよりログインする機会は多くて、早々に【紋章剣士】をカンスト。奥義も含めたスキルも覚えて今は剣士系統派生下級職の【大剣士(バスターソードマン)】になってるよ。

 

【大剣士】は大剣の扱いに補正がある剣士系統でSTRの伸びがいい。クロス兄貴は【血晶甲剣 ディセンブル】を装備することを考えて選んだそうだ。

 

【ディセンブル】は大剣と片手剣の中間のサイズだから、両方のスキルが使える。装備スキルで刃だけ大剣サイズにもなれるから、相性はいいよね。

 

僕たちの近況としてはそんなところ。次にデンドロ全体の話については、結構いろいろなことが起きてるよ。

 

まず、<エンブリオ>が第七形態になった人が有名になったりしてるね。しかも、超級職も手に入れた人はどうしたって注目を集める。

 

アルター王国では、決闘王者である【猫神(ザ・リンクス)】トム・キャットをフィガロが倒し、闘士系統超級職【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】に就いた。その翌日には<エンブリオ>も第七形態になったとデンドロ内で発言している。

 

もっとも、フィガロという人の<エンブリオ>は詳細不明で能力はおろかTYPEすらわかっていないのだが。

 

決闘ランキングだけではなく、クランランキングのトップクラン<月世の会>オーナー扶桑月夜も【女教皇(ハイプリエステス)】に就き、第七形態になっているようだ。

 

ただ、<月世の会>についてはリアルに存在する宗教団体であり、プレイヤーたちから恐れられている。リアルばれしたら何されるかわからないといった理由からだ。

 

まぁ・・・僕たち兄弟はリアルのとある事情(・・・・・)で<月世の会>の実情を知っているので、怖がることはないのだが。<月世の会>のクランメンバーにリアルの知り合いも居たしね。

 

あと、正体不明の<マスター>で壊屋系統超級職【破壊王(キング・オブ・デストロイ)】に就いた人がいるらしい。この<マスター>に関しては詳細不明で、どんな人物かも碌にわかっていない。

 

各国にも超級職に就いた<マスター>や第七形態に到達した者が少ないが現れており、第七形態の<エンブリオ>を持つ者たちを<超級>と呼ぶようになった。

 

超級職が<マスター>たちも就ける人たちが現れてから、<マスター>の間で超級職の探求と捜索が激化した。というのも超級職の破格の能力が<マスター>たちの間で知れ渡ったからだ。

 

上級職以上のステータスアップ、ゲームバランスを壊しかねない強力なスキル、レベル限界という物が存在しない。これらが判明してから、今まであった強さを追求するビルド理論はほとんどが廃れて、超級職を探すのに躍起になった。

 

超級職は先着一名オンリー。さらに言えば自身の<エンブリオ>とシナジーすれば、または短所を補うことができれば更なる力を持つことが確認されている。端的に言えばティアンよりも強くなれる。

 

現在のデンドロでは自身の<エンブリオ>と相性のいい超級職を探し出すことこそ、最強への近道だとそんな雰囲気になりつつある。

 

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

デンドロの<マスター>たちが活躍するのは何もいいことばかりではない。<マスター>たちの中には。平然と犯罪行為をする者たちもいる。

 

まぁ、超級職の中には犯罪行為をしなくては就けないものもあるのでそれ目当てにやっている奴もいるだろう。もっとも、手に入れる前にティアンや<マスター>に捕まって”監獄”に送られているようだが。

 

それでも、実力や人数に用意周到な立ち回りで生き残っている者たちもいる。<マスター>同士のPKはティアンの法律外だから問題ないが、<マスター>がティアンを襲うようなケースもある。

 

そういう者たちは野盗プレイヤーや強盗プレイヤーと呼ばれている。ご丁寧にジョブにも【強盗】とか【山賊】に【海賊】なんてのもあるしな。

 

それにこの話は<マスター>だけのものではない。ティアンにだって犯罪行為をする者はいる。中には超級職に就いて犯罪を繰り返す輩や、確かな実力を持ったうえで私利私欲のために犯罪に手を染めるティアンも居て、そういう者たちは懸賞金がかかっている。

 

幸い俺たちはそういう連中には出会っていないが、各国を旅してまわるのならそういう輩とのトラブルもあるだろうな。

 

そう言えば、<マスター>の中で犯罪行為を行っている奴で最も有名な奴がいたっけな? 確か・・・【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルって名前だったはず。

 

犯した犯罪も王国第三王女誘拐殺人未遂などの他の犯罪者であれば躊躇するような重度の犯罪行為を繰り返している。そいつも確か<超級>って噂だが、できれは会いたくないな・・・

 

さて、デンドロの最近の流れを確認したところで今度は俺の次のジョブを考えなくてはな。リアルで忙しかったが短い時間のログインを繰り返してやっと【重厚騎士】はカンストしたぜ。

 

スキルも全部覚えて、現在騎士団の訓練所にてステータス画面とにらめっこしている。知り合いの【重厚騎士】に就いているティアンに戦技指導の訓練を依頼して、現在休憩中。

 

【従魔師】はこの訓練が終われば、【騎兵】に変更するつもりなのだが、残りのジョブを【冒険家】と【銃騎士】で本当にいいのかと悩んでいる。そんな時・・・

 

「どうしたゲイル? 何かに悩んでいるような顔だが?」

 

俺に声を掛けてきた人がいた。その人はスキンヘッドで屈強な体に灰色の騎士甲冑を装備し、背中に大きな長方形の盾と腰に戦棍を掛けている。

 

「ハーケンさん」

 

この人はハーケン・ベルスカッシュ。俺が訓練を依頼した人でありギデオンの騎士団副団長でもある人だ。もともとは王都の防衛専門の第三騎士団に居た人だが、年齢と長年の戦闘で体が衰え始めて第三騎士団からギデオンの騎士団に移動した。

 

今では、新人騎士の育成や訓練指導などを主にやっているとのこと。俺とは王都の知り合いのティアンに紹介状を書いてもらい、ギデオンに来てから訓練を時々依頼している。それ以来の付き合いでたまに飲みに行ったりもしている。

 

「悩みがあるのなら相談に乗るぞ? 一人で悩むよりはもしかしたら解決するかもしれんぞ?」

「・・・そうですね。では、話を聞いてもらいますか?」

「ああ」

 

俺は、ハーケンさんに現在のビルドで悩み下級職をどうするかを打ち明けた。

 

「なるほどな。ジョブのことで悩んでいたのか」

「俺たちの方針としてはこれから実力が付けば、各国を旅したいと思いまして。そのためにも下級職をどうするかで悩んでいるんです」

「<マスター>は全員がカンストまでジョブに就けるから羨ましいもんだ。俺だって合計Lv400が限界なんだぜ? それだってティアンからしたら高い方だが」

 

ティアンの場合はジョブに就けるための合計Lvが個々で決まっている。ティアンの人たちはこれを才能の限界と呼び、ハーケンさんの場合は下級職四つに上級職二つの合計Lv400が限界だ。

 

「ちなみにゲイルは候補として何を考えている?」

「とりあえずは今就いている【従魔師】を【騎兵】に変更して、残りの下級職は【冒険家】と【銃騎士】を考えています」

「上級職は? お前さんはまだもう一つの上級職に就けるだろう?」

「それは【大盾騎士】を考えていますね」

「ふむ・・・」

 

ハーケンさんは俺の言葉を聞いた後に腕を組み考え始めた。しばらく経ち・・・

 

「まずは【従魔師】を【騎兵】に変更するのは賛成だ。【従魔師】もHPとSPが上がるのは悪くないが、戦闘力という意味では【騎兵】に劣るからな」

「やはり、そうですか」

「どちらもモンスターとともに戦うが、あり方は異なる。お前さんの戦闘スタイルだと、【騎兵】の方が相性いいと思うぞ?」

 

熟練の戦闘職であるハーケンさんが言うのなら、【騎兵】は決まりかな?

 

「下級職の【銃騎士】と上級職【大盾騎士】も選択は悪くない。特に【大盾騎士】はお前さんの戦闘スタイルにマッチしている。【銃騎士】の方は遠距離攻撃という短所を補うという意味では悪くないぞ。しいて不安を上げるのならアルター王国では強力な銃が手に入りにくい点か」

「ドライフには行く予定ですからそこで手に入れますよ」

「それなら問題ないな」

 

【銃騎士】と【大盾騎士】についても太鼓判を押された。さて、あとの【冒険家】については?

 

「最後に【冒険家】についてだが・・・悩ましいな・・・」

「どうかしましたか?」

「いやなに、【冒険家】は旅をするなら確かに就いた方がいいジョブだ。《殺気感知》や《危険感知》などの汎用スキルは旅には必須と言っていい。ただ、戦闘職というよりは便利職だからな。戦闘力という意味では弱い」

 

確かにそれは気になる。しかし、そこはほかのジョブや最悪【ボルックス】の進化に期待するしかないと思っている。

 

「そこでだ。俺がおすすめするのは【流浪騎士(ストレンジャーナイト)】だ」

「【流浪騎士】?」

「【流浪騎士】は【冒険家】との混合派生職だ。このジョブを簡単に説明すれば、戦闘力のある【冒険家】だ。武器技能スキルを低レベルではあるが覚えて、汎用スキルも覚える。ステータスも【冒険家】よりは高い」

「それだと【戦士】との違いがないような気が?」

「【戦士】は戦闘万能職だから、【流浪騎士】との違いはスキルLvの限界値だな。【戦士】は戦闘スキルメインだが、【流浪騎士】は汎用スキルメインだ。さすがに【冒険家】よりは低いがな」

 

詳しく聞くと【戦士】が覚える汎用スキルは数が少なく、普通にレベル上げをしただけではすべてを覚えることは不可能。反面【流浪騎士】は【冒険家】が覚えた汎用スキルをそのまま低レベルで使える。

 

詳しい数字の差は【戦士】の例えば《看破》のスキルLvは2までだが、【流浪騎士】なら3までアップする。一つしか違わないが、その一つの差はでかい。

 

ステータスも高いみたいだし悩み続けるわけにもいかないからこれに就いてみるか。

 

「相談ありがとうございました。【流浪騎士】に就いてみます」

「そうか。それはありがたいな。俺も【流浪騎士】に就いてるんだが、他に就いている奴はなかなかいなくてな? 同じジョブに就いた者が増えるのはうれしいものだ」

 

なるほど。自分が就いていて有用性を確認済みなのか。その後に俺はハーケンさんと訓練を再開。訓練が終わった後に俺は【冒険家】に転職し、その後に騎士団詰め所にあるクリスタルで【流浪騎士】に就いた。

 

そのまま、セーブポイントの中央闘技場の噴水で【冒険家】をジョブからリセット。しばらくは【流浪騎士】をレベル上げだな。

 




ちなみに三兄弟はアニバーサリーイベントはちょっと参加しただけです。ゲームイベントにリアルの用事が重なることはよくあることです。

あと、前話で説明できなかった【銃騎士】について。

【銃騎士】は【騎士】と【銃士】に就いて初めてなれる混合職。ステータスはSTRの代わりにDEXが伸びます。銃を扱う関係上ね。

【流浪騎士】も【騎士】と【冒険家】に就いてなれる混合職。【戦士】との違いは戦闘重視か汎用スキル重視かの違い。【流浪騎士】は《剣技能》などのスキルを覚えるけど、アクティブスキルは覚えず技能スキルも低レベルで、【冒険家】よりちょっとは戦えるって程度。

【銃騎士】も【流浪騎士】も作者が考えたジョブです。一応上級職も考えていて、【銃騎士】は【銃剣騎士(ガンソード・ナイト)】 【流浪騎士】は【自由騎士(フリー・ナイト)

上級職は一応考えているだけで本編に出るかはわからない。あと、【自由騎士】のルビはフリーダム・ナイトと悩んだけど、どこぞの機動戦士のイメージが強すぎるのでNG

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