三兄弟の系統樹   作:出来立て饅頭

37 / 69
第三十七話 ザイマンたちのお礼

  ◇  【狩人(ハンター)】ウッド・アクアバレー

 

 

高次兄貴から電話でデスペナになったと聞いてから、デスペナ明けまで僕はデンドロにログインできなかった。いろいろやることが重なってしまい、時間が作れなかったんだよね。

 

時間ができてログインするころには、三人ともログインできるようになり、現在はゲイル兄貴から事情を詳しく聞いているところ。電話では軽く話をしただけだから。

 

「・・・と言うわけでザイマンたちを逃がすためにデスペナ覚悟で時間稼ぎをしたんだよ」

「兄貴も無茶するね?」

「そうだぞ? そのパーティメンバーの人たちはすごく心配してたぞ?」

 

クロス兄貴は電話で気になって少しだけログインして彼らに出会ったそうだ。

 

「あの時はベストな選択だと思ったが、ティアンの人たちと<マスター(俺たち)>とではそこら辺の価値観の違いはやっぱりあるか・・・」

「それはそうだろう」

「僕らにとってはゲームでもティアンの人たちは違うからね・・・」

 

彼らにとってはここでの生活は一生の人生そのものだ。死んだらそれまでだし、死んでも生き返る蘇生魔法なんてものはデンドロには存在しない。せいぜい死に瀕した状態からの復活くらいだ。完全に命が絶たれた場合はそれまでだ。

 

「彼らにはこの後にでも会うことにするよ」

「それがいいよ?」

「じゃあ、次はゲイルの装備を新調しなきゃな」

「ああ・・・はぁ~~」

 

クロス兄貴の言葉にゲイル兄貴は深い溜息を吐いた。彼らを守るためにデスペナになった代償はログイン制限だけではなかった。

 

戦闘で使った盾と【ボルックス】をガーディアン運用するときに使う全身鎧が壊れて、さらには予備の盾もいくつかデスペナの際のランダムドロップで失ったと言っていた。

 

【破岩盾 バルギグス】は特典武具なので無事だが、この盾より防御力が高く強力な装備スキルを持つ盾はそれなりにゲイル兄貴は持っていた。

 

【バルギグス】も強力ではあるんだけど、対人戦闘に特化してるからね。僕らも合計レベルは300に迫っているから、モンスター戦闘に有用な装備も充実してきた。

 

ゲイル兄貴は大量に失ったからそれをどうするかを今から話し合う。

 

「一度ギデオンに戻るか?」

「戻ったとしても、以前と同じくらい揃えるにはリルが足らん。今回のクエストの収入を足してもだ」

「収支マイナスになっちゃったわけね」

「<UBM>を倒したから、純竜級を甘く見てたわ。高い授業料になった・・・」

 

そう言ってゲイル兄貴は肩を落とす。それは仕方ないんじゃないかな? 相手は状態異常を使って相手を倒すタイプみたいだし、ゲイル兄貴とは相性が悪かったんだよ。

 

「とりあえず、このままじゃレベル上げ出来ないから最低でも盾を手に入れたいところだ」

「じゃあ、武器屋でも行ってみるか」

「そうだね」

 

話し合いを切り上げて僕たちは武器屋へと向かおうとした。そんな僕たちに声を掛けてくる人たちが現れた。

 

「ゲイル! 探したぞ!」

「あいつがそうなのか?」

「はい」

 

声のした方に振り向くとそこには男性三人と女性二人がゲイル兄貴を見て、ほっとしている。ひょっとしてこの人たちが?

 

「ザイマンたちか。無事でよかったよ」

「ゲイルのおかげだ。君が時間稼ぎを自ら買って出てくれたからだ」

「その節はありがとうございます」

「あ、ありがとう・・・」

「・・・・おかげで助かった」

 

そう口々にゲイル兄貴に感謝する四人。なんか美人な女性はゲイル兄貴をちらちら見つつそわそわしている。むむ? この反応は・・・

 

なんて考えていると最後の一人である大男がゲイル兄貴に近づいた。

 

「ザイマンたちを助けてくれてありがとよ。俺の代役があんたでよかったぜ」

「ああ、もしかしてあなたが?」

「オウ、俺がこのパーティで壁役をしている【鎧巨人】のハンスだ。【風邪】で寝込んでたがやっと回復してな」

 

ハンスと言う男性はかなり大きく重圧な全身鎧を着こんでいる。今は顔が見えるのでヘルムはしていないけど。

 

「でだ。今日あんたを探していたのはお礼がしたくてな? 何か困っていることはないか? 俺たちで力になれるかどうかはわからんがザイマンたちを助けてくれたんだ。協力させてくれ」

 

ハンスの言葉にその後ろのパーティメンバー全員がうなずいた。

 

「だったら、教えてほしいことがあるんだ」

「お? なんだ?」

「実は、【ドラグヴァイパー】との戦闘で装備のほとんどを失ってしまってな。この町で盾と全身鎧が手に入る店はないだろうか? ここが生活基盤の君たちなら詳しいと思うが」

 

ゲイル兄貴がハンスさんにそう聞いている。なるほど。地元民なら詳しいかもしれないし、聞いてみるのはありだね。

 

「それなら、腕の確かな【高位鎧職人】がいるぜ! サブで【鍛冶師】にも就いていて鎧のほかに盾も作っている防具の専門家だ! 案内するから付いて来てくれ!」

 

そう言うハンスさんが大股で歩き出したので僕たちは慌ててついていくことに。

 

 

 

  ◇  【重厚騎士(ソリッド・ナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

ハンスさんの案内で町を進んでいるのだが、先ほどから進む場所は中心街から外れて路地裏と言うべき場所を進んでいる。

 

「こんなところに職人がいるのか?」

「本人曰く、中心街だと騒がしくて作業に集中できんそうだ」

「俺たちも世話になっている人だが、変わり者なんだ」

「ご本人も常々変人だなんておっしゃってますね。それ以外にも理由はあって、工房と店が一緒で中心街や住宅密集地だとご近所に迷惑になりますからね」

 

ああ、なるほど。それは確かに問題だな。

 

「まぁ! 本人は頑なに認めてねえけどな! お! ついたぜ。ここがブルバスさんの工房兼店だ」

 

ハンスさんが指し示して所には家二軒つなげたような店があり、入り口に防具専門店と書かれている看板があった。

 

「ブルバス親方! 客を連れてきたが、今いるか!」

「そんな大きな声を出すんじゃない! いつも言っとるだろうが!」

 

ハンスさんの大声に文句の声で答えた人は店の入り口から出てきた。その人はハンスさんより一回り小さいが全身が筋肉でガッチガチであり、それほど小さいという印象がなかった。ついでに、頭は丸坊主。剥げているわけではない。

 

「で、客を連れてきたというがどこのどいつだ?」

「ああ、彼だ。俺が【風邪】で寝込んでいる間パーティに入って、仲間の窮地を救ってくれたんだ」

「ほう?」

「どうも、初めまして」

 

とりあえず俺は初対面なので挨拶して頭を下げた。そんな俺をブルバスさんは興味深そうに見ていた。結構こわもての顔だから睨まれていると勘違いしそうだが。

 

「なるほど、町で噂になっとったモンスター大量発生とその原因の純竜級の発見で活躍したと言う<マスター>がいたと聞いたが、お前さんか」

「モンスターの報告とザイマンたちを逃がすのに殿をしたのは確かですが・・・」

「なぜ、そんな真似をした? <マスター>が死んでも三日後にはこの世界に来れることは知っとるが、だからと言ってノーリスクではあるまい?」

「仲間を助けることがそんなに不思議なことですか?」

 

俺の言葉を聞いて、ブルバスさんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。しばらくすると・・・・

 

「はっはっは!! なるほど。どうやらお前さんはこれまで来た<マスター>とは違うようだ。気に入った! 店に入れ! わしの作品を売ってやる!」

 

何やら気に入られたようだ。何はともあれ、店へと入り、飾られている商品を見ることに。

 

「へぇ~!」

「すごい」

「見事だね・・・」

 

そこに飾ってある全身鎧や盾は《鑑定眼》がなくとも、一級品だとわかるようなものばかりだった。と言うか、立派すぎて装備可能レベルが心配だな・・・

 

「何でも好きなものを選んでくれ。払いは俺たちが持つ」

「それなら、半額にしといてやるぞ? 町を救ってくれたお礼とザイマンたちを命がけで助けてくれた礼だ」

 

悪いと思ったが、彼らにしてみれば命を助けたお礼なのだし断るのはもっと悪いと考えて、言葉に甘えることにした。

 

いくつか物色して、俺は二つの盾を選んだ。性能としてはこんな感じ。

 

 

  【城壁盾 ランパート】

  ブルバス作の大盾。持ち主を覆い隠すほどの巨大な大盾。

  盾で攻撃を受けた時ダメージ軽減の効果がある。

 

  ・装備補正

 

   防御力+560

 

  ・装備スキル

 

  《ダメージ軽減》

  《破損耐性》

 

  ※装備制限: 合計Lv280以上 STR値 1500以上

 

  【騎士盾 ナイツオール】

  ブルバス作の盾。騎士系統に就いた者にふさわしい盾

  盾スキル限定でSP消費減の効果がある。

 

  ・装備補正

 

   防御力+420

 

  ・装備スキル

 

  《シールド・チャージャー》

  《破損耐性》

 

  ※装備制限: 合計Lv240以上

 

 

【ランパート】には盾で攻撃を受けた時にダメージを200減算するスキルが。【ナイツオール】には盾スキル限定でSP消費を三割減するスキルが付いている。あと両方に《破損耐性》があるのは地味だが、ありがたい。

 

盾はどうしても攻撃を受け止めるのものだから耐久値が減りやすく壊れやすい。《破損耐性》があればある程度は長持ちする。

 

これらの購入額は二つ合わせて半額の30万リルだそうだ。ザイマンたちがお金を出し合っている間に、クロス兄貴とウッドが俺に質問をしてきた。

 

「全身鎧は買わないのか?」

「盾以上に必要じゃない?」

「さすがに高い。それをザイマンたちに払ってもらうには悪いからな」

 

なんせ、最低でも80万リルだからな。半額で40万だが、盾も買えばかなりの出費だ。さすがにこれを払ってもらうわけにはいかない。

 

「ついでに言えば【シルベスタ】みたいに気に入る物もなかったしな」

「お前さん、今【シルベスタ】と言ったか?」

 

俺たちの言葉が聞こえたらしく、ブルバスさんが聞き返してきた。

 

「ええ、ギデオンの店で偶然見つけまして。気に入っていたんですが、彼らを逃がす戦闘で溶けて無くなりましたよ」

「なんと・・・こんな偶然があるんじゃな・・・」

「どうしました?」

「その【シルベスタ】は若いころにわしが作ったんじゃよ」

 

あれ? そうなの?

 

「まさか、わしが作った鎧を選んだ者と出会うとはな・・・それにザイマンたちを助けるのに一役買うとはな。人生わからんもんじゃ」

 

そう言って、ブルバスさんはどこか昔を懐かしんでいるようだ。その後に職人の顔になると俺にあることを提案してきた。

 

「全身鎧も必要なんだな?」

「ええ」

「よし。素材さえそちらが用意するのならオーダーメイドで作ってやるぞ。どうだ?」

「いいんですか?」

「無論じゃ。お前さんが嘘を言っていないのは《真偽判定》で確認済みじゃ。【シルベスタ】以上の鎧をこしらえてやるぞ」

 

何やらやる気を出しているブルバスさんに、俺たちは素材を集めることを約束した。さて、Lv上げに素材集めと忙しくなるぞ。




作中設定余談。

 ブルバス
【高位鎧職人】としては王国でもトップクラスの職人。特に防具全般の生産では有名人。そのため何人かの<マスター>が彼の防具欲しさに尋ねたが、態度と実力が不満で<マスター>を信用していいのか悩んでいた。
今回は生まれ故郷のルヘトを守ってくれて、長年の付き合いがあるザイマンたちを仲間だと自然に口にしたゲイルを気に入り自身の作品を売ることに。
また、自身がまだ半人前だったころの作品である防具をゲイルが持っていたことに不思議なものを感じて、オーダーメイドで防具を作ることを決意。
蛇足だが、彼のオーダーメイドの全身鎧は【重厚騎士】や【鎧巨人】に就いた者からしたら是が非でも欲しい品。


【鎧巨人】と【重厚騎士】の違い。

【鎧巨人】はスキル特化でステータス補正が上級職では低め。代わりにスキルが強力で自身の防御力を爆上げする物や各種属性耐性を上げるスキルも覚える。
【重厚騎士】はステータスはバランス型のENDより。スキルも自身のステータスを上げるものを覚え、癖の強い攻撃用アクティブスキルや全身鎧の強化スキルを覚えるが、最後の強化スキルは【鎧巨人】のものより効果は低め。
【鎧巨人】は自身の防御能力を強化することに特化し、【重厚騎士】はパーティ戦での立ち回りを重視している。
※ あくまで作中での区別のために設定しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。