三兄弟の系統樹   作:出来立て饅頭

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リアルで忙しかったり、風邪をひいたり、精神的に疲れたりで遅くなりました。


第四十四話 子供たちの宴

  ◇  【剛弓士(ストロング・アーチャー)】ウッド・アクアバレー

 

 

アルター王国の王都アルテアを旅立ってデンドロ時間で二日が経った。今日中にはカルチェラタン領にたどり着くはずだ。リオンやグリフの能力をフルに使えば一日で着くのだけど、旅は道中も楽しみたいしね?

 

ゆっくりとした馬車の旅では、休憩中に同じく旅をしている<マスター>とのたわいない会話やティアンの人たちの馬車がぬかるみにはまっているのを助けたり、時々襲ってくるモンスターを倒したりと最後のモンスターに襲われた以外は旅をしているって実感する。

 

モンスターに襲われても僕たちにとっては問題ないレベルだけどね? 僕や兄貴たちが馬車から降りることもなくグリフたちが倒してくれるからね。ドロップ品も持ってきてくれるからありがたいことこの上なし。

 

今日は野宿を経験して、朝早くから出発した。この分ならお昼前には目的地であるカルチェラタン領に着くと思う。

 

「野宿すると旅をしているって実感がするよな~」

「俺はあまり眠れなかったがな・・・」

「ゲイル兄貴って睡眠に関してはデリケートだよね?」

「まぁ、枕が変わると寝れないって程じゃないが睡眠の質を高めたいならベットか布団で寝たいな・・・」

 

そう言ってゲイル兄貴は欠伸をして、眠たそうに後ろ首を軽く叩いている。

 

「レジェンダリアには空間拡張の効果で中がキャンピングカー以上に広い馬車や竜車があるらしいが、手に入れてみるか?」

「本音を言えばほしいが・・・でも確かそれらの商品は最低一億リルするって話だろう?」

「最低価格はね。もっと性能がいいと桁も違うんじゃない?」

「旅を快適にしたい気持ちもあるが、それくらいだと考えてしまう。それに・・・」

「「それに?」」

「レジェンダリアに関する提示版を見ると行くことを躊躇するぞ」

「「あ~」」

 

レジェンダリアに関しては<マスター>の間で変態の国と言われ、ある意味恐れられている。PKとか野盗PCとはちょっと違う意味でだけど。

 

なんせあそこに属する<超級>ですら<エンブリオ>の効果が【装備をすべてはがされる】や【人を幼児にさせる】に【自身が最も嫌悪する生物にさせる】などなど、なにこれ?ってレベルなのだ。

 

ティアンもティアンでそう呼ばれてもおかしくないくらいに変らしいので僕たち兄弟の中でレジェンダリアに対する評価が駄々下がりなのだ。

 

「まぁ、その話に関しては日を改めてしよう。目的地が見えてきたぞ」

 

御者台に乗っていたクロス兄貴の言葉に僕たちは馬車から顔を出して、その光景を目にした。

 

「ほぉ~」

「すごいね・・・」

 

遠目にもはっきりと映る町は、数多くの緑と花が咲き誇っている美しいところだった。それだけ言えば派手だけど、見た目の印象は決して派手ではなくかなり上品に見える。そう計算して植えたのかもしれないね。

 

徐々に近づくと花々の香りが鼻に届いてとてもリラックスするね。それから僕たちは門を通り、町の中に入った。すると・・・

 

「そこの馬車の方々。少しお待ちを」

「「「ん?」」」

 

門をくぐり、そのまま町の中央に向かおうとすると呼び止められた。馬車を止めて声をした方に視線を向けると燕尾服を着た中年男性がきれいな姿勢で立っていた。そのまま中年男性は僕たちの馬車に近づいて・・・

 

「呼びとめて申し訳ありません。もしお時間があるようでしたらお話を聞いてくれないでしょうか?」

「特に急ぎの予定があるわけじゃないですし、かまいませんよ」

 

僕たちを代表してクロス兄貴が対応した。中年男性はお礼を言って、事情を説明し始めた。

 

中年男性はこのカルチェラタン領の領主である伯爵夫人に仕えている執事だという。今日この日伯爵邸では孤児院の子供たちを招いてお茶会をしているとのこと。

 

ただ、お茶会だけでは子供たちも退屈だろう伯爵夫人は考えており旅人や手配した芸を見せる者も段取りをしていたのだが、招待していた旅人が風邪で寝込んでしまったという。

 

そこで急遽、別の旅人を探していたところ執事さんが珍しい馬型モンスターで馬車を牽いている僕たちに声を掛けたというわけだ。

 

「つまり子供たちにこのリオンと触れ合ってもらいたいということですか」

「はい。お願いできませんでしょうか? もちろん報酬もお支払いします」

「ちょっと相談させてください」

「いや、クロス兄貴。俺は反対しないぞ? リオンも人懐っこいし気分転換になるしな」

「BURU」

 

クロス兄貴にゲイル兄貴はそう答えた。リオンもどこか嬉しそうに鳴き声を上げる。

 

「僕も反対しませんよ。グリフも参加したいでしょうしね」

 

子供の相手はギデオンのイベントで経験してるし、グリフにとってもいい気分転換になるだろうしね。

 

「・・・と言うわけで参加させてください。あと、俺たちの報酬は金銭ではなくおすすめの宿屋を教えてくれるだけでいいですよ?」

 

クロス兄貴は「意見言うのが早えよ!?」と言いたげな沈黙の後にそう答えた。報酬に関しても特に反対する理由はないね。

 

その後の執事さんの話し合いで最終的な報酬は伯爵夫人と相談してからと言うことになったが、特に問題ないだろうとのこと。むしろそれだけではこちらが申し訳ないので、町に滞在する間の宿代を払うと言ってくれた。

 

こっちとしてはそれほど長く滞在するつもりはないので、あちらの顔を立てて受け入れることに。それから僕たちは馬車を大容量アイテムボックスに入れて執事さんの案内で伯爵邸に向かう。

 

 

 

 

  ◇  【紅蓮術師(バイロマンサー)】クロス・アクアバレー

 

 

カルチェラタン領の町について早々にクエストを依頼された俺たちだったが、かなりほのぼのとした依頼だし、リオンやグリフの気分転換にもなるからとゲイルやウッドが反対しなかったので、現在執事さんの案内で伯爵邸に向かっている。

 

町を進むと色とりどりの花や草木が植えられていて、目にも鼻にも楽しませてくれる。リアルではあんまり花とかアロマセラピーとかに興味がない俺だが、こういう場所を歩くとリラックスするなぁ~

 

「植物が多くてなんだかリラックスできる場所ですね」

「ありがとうございます。私どもの主である伯爵夫人がガーデニングをたしなんでいるので、町の人々も興味を持ってくれたのですよ」

 

その結果がこの町なら伯爵夫人はよほど町の人から信頼されているんだろうな。嫌いな人や興味のない人のやっていることには注目なんてしないし。

 

などと考えていると、伯爵邸が見えてきた。その館を見た俺たちの反応はと言うと・・・

 

「「「すご・・・」」」

 

館自体は大きく豪華ではあるのだが、ギデオンで遠目に確認したギデオン伯爵邸に比べると言っては何だが少々ランクが下がるだろう。

 

しかし、それを補って余りあるほど草木や花の美しさが目を楽しませた。上品な配置に色とりどりの花たちのバランスが美しく、無意識の言葉が出るほどだった。

 

そんな反応をしている俺たちを見ている執事さんもどこか嬉しそうだった。やはり仕える主の成果をほめてもらえるのはうれしいのかね?

 

感動している俺たちは執事さんに促されて、館へと足を踏み入れた。そのまま庭まで案内されると子供たちの笑い声が聞こえてきたが、庭に着いた俺たちの第一声はと言うと・・・

 

「「「なにこれ?」」」

 

そこには予想外の光景があった。お茶やお菓子を食べている子供たちは予想通りなのだが、子供たちとお世話をしている使用人たちやメイドさん以外に謎の物体が子供たちと遊んでいるのだ。

 

いや、謎の物体とは言えないが。なぜならそれは大きなクマのぬいぐるみだったからだ。ごくたまにおもちゃ屋で見かける成人と変わらない大きさのぬいぐるみ。ただし、動き回っている。

 

かなりデフォルメチックな外見であり、好きな人はかなりの数いるであろうクマのぬいぐるみが複数体いるのだ。

 

子供たちと追いかけっこする緑色のクマに、メイドさんと一緒に子供たちの世話をする水色のクマや、子供たちにモフモフされている薄茶色と赤茶色のクマだ。

 

庭の見事な草木のガーデニングと合わせるとどこぞのアニメ映画のように見えるが。ちなみにクマたちのお腹だけは白色で統一されていた。いやマジでナニコレ?

 

「あの~あの動く大きなぬいぐるみたちはいったい?」

「今日のために手配した<マスター>の方の<エンブリオ>の能力で生み出した魔法生物と聞いております。噂を聞いた伯爵夫人が隣国のドライフから招いた方です」

 

正直、話を聞くまで着ぐるみさんが大量に出てきたかなどと馬鹿な考えが浮かんだが、ゲイルの質問に対して執事さんから答えを聞かされた。

 

「<エンブリオ>の能力か・・・」

「面白い能力だな」

「なんかファンがいっぱいいそう・・・」

 

そんな感想が浮かぶ中、俺たちに近づく子供たちと一人の男性が居た。

 

「執事さん。その方たちもお招きしたんですか?」

 

男性の質問に執事さんが答えている。男性の左腕には列を作る数々の物体の紋章がある。もしかしたらあのぬいぐるみたちを作り出した<エンブリオ>の持ち主か?

 

執事さんと話し終えた男性は、俺たちに近づいて挨拶をしてくれた。

 

「初めまして。僕はドライフ皇国所属の<マスター>でアーク・ランブルと言います。あのぬいぐるみたちは僕の<エンブリオ>である【産形核命 ツクモガミ】で生み出した魔法生物です」

 

 

 

  ◇  【大盾騎士(タワーシールドナイト)】ゲイル・アクアバレー

 

 

アークの自己紹介の後に俺たちも挨拶をして、ここに来た目的であるリオンとグリフをこの場に出現させた。その結果は・・・

 

「きれいなおうまさ~ん!」

「すごいね~」

「BURU♪」

 

リオンの美しさに感動した子供たちがまとわりついて優しくなでている。リオンも嬉しそうだ。

 

「すご~い! 飛んでるよ!」

「わ~い!」

「グル!」

 

子供を二人ほど乗せてその場で飛んだグリフ。移動は安全を考えてしない方針だが、子供たちははしゃいでいるな。なお、順番を守って並んでいる子供たちの横には子供が落ちた時にかばえるようにぬいぐるみが二人?程待機中だ。

 

俺たちはアークと一緒に軽食を食べながら眺めている。ていうかこのクッキーうまいな? 素朴ながら飽きない味で何個でも食べられそうだ。子供がいるので食べすぎに注意だな。

 

「良かった。子供たちもグリフたちも喜んでるね」

「たまにはこういう時間もいいもんだ」

 

ウッドとクロス兄貴もお茶を飲んでくつろいでいる。今までが戦闘ばっかりで殺伐としてたからな。今度眺めがいい秘境の奥地でも行ってみようかね?

 

「馬ですか・・・ぬいぐるみで造れるかな? あの大きさの再現は無理でもポニーサイズなら何とか・・・」

 

アークは何やらリオンを見て考え込んでいる。聞こえた声を聴く限りリオンを見て作品のインスピレーションが湧いたのかね?

 

「また動くぬいぐるみが増えるのか?」

「造ってみないと何とも言えませんが、いつかは試してみようかと」

 

馬以外にも増える可能性があるのかね?

 

「ところでアークさんの【ツクモガミ】でしたっけ? どんな<エンブリオ>なんですか?」

「いやいや、<エンブリオ>の情報は話してくれるわけないだろう!」

 

ウッドの言葉にクロス兄貴が否定する。<エンブリオ>の情報は切り札にもなるから話すことはないだろうな。

 

「いえ、話しても構いませんよ?」

「「「え?」」」

 

だが、アークはあっけらかんとそんな言葉を口にした。いいのか?

 

「ただし、あくまでも<エンブリオ>の能力だけですけどね? あの子たちの戦闘力は黙秘させていただきます」

 

そうアークは言うのだが、あのぬいぐるみたちに戦闘力あるのか? 戦う姿を想像すると完全にコメディー映画みたいだが・・・

 

とりあえずはアークの説明を聞くことにしよう。




【産形核命 ツクモガミ】については次回の本文で説明する予定です。

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