◇ 【
あれからデンドロ内時間で二日が過ぎた。その間は特に何かが起こることもなく穏やかに過ごした。三人で温泉を堪能したり、お茶会で知り合った子供たちのリクエストでリオンとグリフと触れ合い、体を洗ったりと実に平和だった。
そう平和だった。事態は三日目で急変したのだ。
「リザードマン?」
「正確に言えば【スケイルリザート・ソルジャー】だけどな? 人間範疇生物にリザードマンが居るらしいからな」
兄貴たちがそう言っているのは、ここカルチェラタン領から離れた森林の中にモンスターの群れを発見した。そのモンスターがリザードマンに酷似している正式名称【スケイルリザード・ソルジャー】
ゴブリンと同じ人型に近いモンスターだ。リザードマンと違うのはゲイル兄貴の言う通り黄河とレジャンダリアにティアンとしてリザードマンと言うべき姿形をしたものが居るから、区別するためだ。
ティアンのリザードマンは蜥蜴頭で鱗がある蜥蜴人間的な外見で、モンスターはそれよりも蜥蜴が二足歩行できたような姿とのこと。ティアンが人間ベースで、モンスターが蜥蜴ベースと考えるといいかもね?
「結構な群れなの?」
「らしいな。ほおっておくと【スケイルリザード・キング】っていう厄介な純竜クラスのモンスターが生まれるかもしれないから、冒険者ギルドから緊急依頼が出てたぞ」
「俺たちも受けたほうがいいか?」
僕の質問に対してゲイル兄貴が答えた後にクロス兄貴が質問する。確かに厄介ごとになるなら早めに対処したいね。そんな風に考えていたがゲイル兄貴は全く違うことを言った。
「いや、もう結構な数の<マスター>が受けている。この町の騎士団の半数も参加するっていうし、攻め手は足りているんだが・・・」
「何か問題が?」
「その後の町の防衛の数が足りないらしい。こっちの依頼は受ける<マスター>が少なく、信頼できる者でないと受けられないらしい」
「「ああ~」」
ゲイル兄貴の言葉に僕とクロス兄貴は納得した。町の防衛を任せるのならある程度の信頼か信用は要るだろうね。出ないと、火事場泥棒する奴が出てくるかもしれないしね?
「だから、もし俺たちが受けられるのなら防衛の方を受けたいんだが、かまわないか?」
「そうだね。その方がいいね」
「俺たちは三人で他の戦力に従魔が三匹にグリフもいるからな。攻め手が足りてるのなら、防衛に回ればいいだろう」
そうと決まれば一応戦闘準備をして、僕たち全員宿を出て冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドへ着いたが、ここに向かう途中で攻めの依頼を受けた<マスター>や念のために避難場所へと向かうティアンの人たちとすれ違った。
前者は戦闘の準備をし突発的なイベントを楽しんでいる様子だ。反対にティアン人たちはひどく不安そうだ。<マスター>にとっては遊びでしかなく、ティアンにとっては明日を迎えれるかどうかの瀬戸際。
そんな考えの差がはっきりと感じる光景だった。僕たちも<マスター>だけど、両親に引っ張られてこれからどうなるのかを理解していない子供を見ると守りたいという気持ちの方が強い。同じ光景に視線を向けていた兄貴たち二人も同じ気持ちだろう。
そんなことを考えながら受付に向かう・・・
◇ 【
念の為メインジョブを変更して冒険者ギルドの受付で防衛に参加したいことを伝えると驚くほどあっさりと許可された。どうやら子供たちと一緒に遊び世話を焼いていたのがいい方向に向いたらしい。
他にもここカルチェラタンをホームにしている<マスター>が参加し、ある程度の防衛戦力は確保された。その中には見知った顔が居た。
「アークさんも受けてたんですね?」
「ええ。僕は一応戦力は持っていますし、防衛ならお役に立てるので」
顔なじみになったアーク・ランブルさんも防衛に参加した<マスター>の一人だ。戦闘スタイルについてはよくは知らんが、【ツクモガミ】のことを考えると戦える戦力は保持しているようだしな。
「ちなみにですが、戦力はどのくらい持っていますか?」
「戦闘能力が高いのが5体ほど。あとぬいぐるみたちも防衛ならできます」
「「「え? あのぬいぐるみ戦えるの?」」」
アークさんのセリフに俺たち兄弟が口をそろえて答えてしまった。あのクマのぬいぐるみが戦う・・・全然想像つかないな。
「息ぴったりですね。一応はですけどね? 戦う能力は一点特化になってますので防衛しかできないのが難点ですが」
「いやいや! それでも戦力があるって時点で助かるでしょう!」
クロス兄貴が思わずっという感じでツッコミを入れた。俺とウッドもうなずいてしまったよ。
「それに今は違う用途で助かってるしな」
俺はそう言うと周りに視線を向ける。俺たちが今いるのはカルチェラタン夫人の屋敷でここも避難所として夫人が開放している。さらに言えばここには主に戦闘力のない子供やその家族が多い。
子供たちも初めはなんでここに来たのかわからなかったようだが、大人たちの不安な気持ちが伝わったのかだんだんと心細くなったようで目に涙を浮かべるようになった。
そんな子供たちを安心させようと俺たちはリオンとグリフこの場に呼び、子供たちと触れ合わせた。さらにはアークさんもクマのぬいぐるみたちをジュエルから呼び出して、一気に場が騒がしくなった。
それでも子供たちの家族やカルチェラタン夫人からは感謝された。さすがに子供が泣きだすとより不安な雰囲気となり、この場が重くなるところだったと夫人自らお礼を言いに来たほどだ。
「それでなくとも子供が泣くと言うのは悲しい気持ちになります。しかし楽しげな声を聴くとこちらも心だけは落ち着けます」
「確かにおっしゃる通りです」
「しかし、本当によく懐いていますね? アークさん、せめてあのぬいぐるみたちをお譲りいただくわけにはいきませんか?」
「あ~申し訳ありません。彼らがモンスターとして生きられるのは僕の従属キャパシティー以内に収めるか、パーティ枠を使う必要があるので完全に僕専用なんですよ。他の人に渡した瞬間にアイテムに戻ってしまいます」
そうなのか。まぁ<エンブリオ>の能力でモンスター化しているわけだから離れたら効力が失われるのは当然のデメリットか。
「そうですか・・・それは残念です」
「ただの大きなぬいぐるみでよければいくつか持っていますしお譲りできますよ?」
その言葉を聞いて夫人はこの事態が終わった後にでも詳しくお話ししたいと言って、俺たちから離れた。
「そろそろ討伐隊が出発するころか・・・」
「何事もなければいいがな」
俺とクロス兄貴は時間を確認して、そう呟く。まぁ、今回はどうにかなるだろうと俺たちは楽観視していた。
◇ 【
おかしい。あれから何時間も経ったが未だに群れの討伐報告が来ない。<マスター>が二十人以上は参加していたはずなのにこれは明らかにおかしい。
俺たちはこの場をアークさんに頼み、カルチェラタン夫人を探しに行こうとした。するとこの場に騎士の一人が現れて夫人が俺たちの呼んでいると伝えに来た。
アークさんも呼んでいるらしく、俺たちはこの場をメイドさんたちにお願いして足早に進む騎士に付いて行く。たどり着いたのは屋敷の玄関でそこには息も絶え絶えな軽装のティアンの戦士に夫人が重い雰囲気で待っていた。
「何かありましたか?」
「はい。今しがたこの町で活動している冒険者の方が戦況を知らせに来てくれました」
夫人から聞かされた話は悪い知らせだ。討伐隊が出発してから数十分で目的地にたどり着き、群れを包囲しそのまま戦闘を開始。ところが戦闘を始めた瞬間から異常なことに気付いた。
相手が異様に硬いのだ。<マスター>の中で手数重視や速さ重視の戦いをする者たちの攻撃が全く意味をなさないほどに。攻撃力が高い武器やSTRが高い者の攻撃は通るが、HPが思ったほど減らないらしい。
しかも相手は連携がうまく、包囲網の薄い場所を突破して討伐隊を町へと戻れないようにするなどの戦術的な戦いを行っているという。その後は自分たちから攻めるような真似はせずに持久戦を行っているという。
討伐隊を指揮する熟練の騎士はこの事態にすでに【スケイルリザード・キング】がどこかに潜んでいる可能性を危惧し、速さ自慢のティアンに町へ報告しに行くように指示。何人かの<マスター>の協力と<エンブリオ>能力のおかげで町へと戻ってこれたと言う。
「この方の報告を聞いてすぐに町周辺の索敵させています。討伐隊が足止めをされているならば・・・」
「別動隊がここを襲うかもしれないと言うわけですね?」
別動隊と表現したが、正確にはここを襲うのが本隊だろうな。キングもその本隊に居るだろう。などと考えていると別の騎士がここへとやってきた。
報告かと思い彼の言葉を待っているのだが、かなり慌てて来たらしく呼吸が落ち着かない。その時に執事さんが水を渡して、一気に飲み干す。
「も、申し訳ありません」
「構いませんよ。その様子では悪い予感が当たったようですね?」
「いえ! それよりももっと状況が悪くなりました!」
「どういう意味ですか?」
「スケイルリザードの群れがこの町に近づいているのですが、それを率いているのが名称【鱗軍大将 リガゾルド】と言う名の<UBM>なのです!」
この状況において最悪と言っていい報告がされた。
これからも更新頻度は遅いと思いますが、続けたいと思っています。気長にお付き合いしてくださるとありがたいです。