◇ 【
現在僕はグリフに乗ってカルチェラタンの町の防壁上空に待機中。兄貴たち二人から僕とグリフは主に籠城戦をしている人たちを支援してほしいと頼まれた。
籠城戦をするうえで僕のように空中戦力があるのとないのでは、時間稼ぎできる時間に大きな差が出る。僕としては兄貴たち二人も心配だけど、この戦いは時間稼ぎが主な目的だから反対意見はない。
「グル!」
「来たみたいだね・・・」
グリフが気付いて僕も地上の先で徐々にやってきているモンスターを視認した。武器である弓をメインに使うジョブでは視力関係のスキルである【視力強化】の効果で遠くでも見渡せる。
見える範囲では戦闘の一団は【スケイルリザード・ソルジャー】が横に隊列を組んでこちらへと移動している。その手には片手で持てる斧や槌、さらには大型のそれらも持っているのがちらほらいるね?
さらにその背後には弓を持った【スケイルリザード・アーチャー】が居る。ちなみに武器はああいう人型のモンスターにはレアで生産スキル持ちが居たりするから、それが居るんだろうね。まぁ、さすがにジョブスキルよりは格落ちするようだけど。
「さて・・・いつまで時間稼ぎできるかな?」
現在のカルチェラタンの門は閉めて、さらに町中側を土や岩などで物理的に塞いでいる。この作業は地属性魔法を持つグランや土を操作する<エンブリオ>持ちに【土術師】に就いているティアンが行った。
作業を終えた人たちは僕とグリフが防壁へと運んで、その後は時間稼ぎ用の作戦の準備に追われた。敵にどこまで通用するかは不明だけど、やらないなんて選択肢はない。
考えていると城壁から合図である旗が振られた。敵が防壁へと近づく前に遠距離攻撃で先制するためだ。この攻撃はすべて<マスター>が行う。さて、やりますか・・・
スキルの準備をし、合図である旗が振り下ろされるのを待つ。やがて敵がどんどんとこちらへと向かってくる。そして・・・
「今だ!」
旗が振り下ろされ、<マスター>の一斉攻撃が放たれる!
「《チャージ・アロー》!」
「グルー!」
「《スパイラル・アロー》!」
「《バースト・ランチャー》!」
僕以外では同じく【弓士】関係のジョブに就いている<マスター>に<エンブリオ>が腕に装着するタイプの大砲で【砲士】のスキルを強化し飛距離も伸びると言っていた。おかげで本来なら遠距離攻撃に向かないスキルもかなり距離が伸びている。
まず初めに敵に命中したのはグリフの《ウィンドブレス》だ。進化して強化された結果遠距離にも対応した。着弾した攻撃は二体の【ソルジャー】を吹き飛ばし、周りにもダメージを与えた。だが、他の攻撃は・・・
「アタシたちの攻撃は効果がないよ! 弾かれた!」
僕と同じ【弓士】系統の<マスター>が叫ぶ。僕も見えた。グリフの攻撃に続いて到達した僕と彼女の攻撃は弾かれ、続く【砲士】の攻撃は爆発したが、相手は吹き飛ばずダメージのみだった。
「事前の情報通りかてぇな!」
「だが、爆発の火属性追加ダメージでは防御力を抜けるようだ」
「と言うことは物理手段よりも魔法攻撃や精神系状態異常で攻めたほうがいいわけか・・・」
「さすがにそれをできるメンバーが少ないよ」
さすがに硬いだけであるなら攻略法はいくつかあるが、ここに居るメンバーではそれができる者は三人しかいない。
「ならば、その三人を主軸に攻める! 他の者たちは彼らのサポートを! 君たちはその三人を主に守ってほしい」
指揮を執る騎士がそう指示を出し、それを聞いたこの場に居る者はすぐさま陣形を整える。さらに騎士はアークさんの残したクマのぬいぐるみ2体にも指示を出して、彼らはうなずく。
ここに居るクマのぬいぐるみは全部で6体。そのうちの2体が防御能力特化らしく、背中に大きな盾を背負っている。他のぬいぐるみたちは投擲特化とのこと。
アークさんから指揮官である騎士と僕の指示に従ってほしいとお願いされているので指示も聞いてくれる。準備を進めていると、敵も遠距離攻撃の射程に入ったようでこちらを攻撃してきた。
「攻撃が飛んでくるよ!」
「全員警戒! 絶対に頭には当たるなよ!」
「僕たちがある程度落とします!」
「グルー!」
飛んでくる矢に対して警戒するメンバーのすこしでも助けになればとグリフに《ウィンドブレス》を指示。さらに僕もアクティブスキルで数が少ない範囲攻撃の《ハウリングアロー》を放ち援護する。このスキルは矢が何かに当たるか狙ったターゲットに近づいた時衝撃を発生させる。
それと僕たちの横を飛んでいるスオウもいくつかの矢を羽で乱したり、爪で叩き落すがさすがに全部は処理できずいくつかは防壁に到達する。
防壁の上まで到達した攻撃はわずかだったのが幸いした。その到達した攻撃も全員が避けるかクマのぬいぐるみが構えた大きな盾に阻まれた。でも敵は徐々に近づいており、だんだんと防壁の上に到達する攻撃が増えてきた。
「やべぇぞ! このままだと奴らが防壁に到達するぞ!」
「ウッド殿は我々の援護より、敵の妨害に集中してくれ! 彼の妨害で乱れた隙に総攻撃だ!」
指揮官である騎士から指示が飛び、僕は言われた通り飛んでくる矢の対処をやめて妨害するためにスオウを残して敵の上空へと飛んで行く。
◇ 【
敵の【スケイルリザード】が現れてから戦闘が始まり、その様子を俺たちは隠れている場所から見ている。現状は何とか耐えていると言ったところか? それも敵が防壁に接近すれば逆転されるだろうが・・・
それを阻止または時間を稼ぐために町に残った者たちが懸命に抗っている。今も俺の視線の先で防壁の上から矢や魔法に砲弾が飛び、敵の上空ではウッドが敵の妨害をしている。
だが、そろそろ体力がきつくなってくるころだ。そろそろ俺たちも加勢したほうがいいだろう。実際、俺とゲイルにアークさんは準備をしているのだが・・・
「お前たちは何をのんびりしてるんだ?」
「「「あ?」」」
ここに隠れることを可能にした<エンブリオ>を持つ者を加えた三人組は準備もせずに何かを探している。十中八九<UBM>を探しているんだろうが、そんなことをする暇があるのなら打って出るために消費アイテムの確認でもしやがれ。
「お前ら打って出るつもりか?」
「がんばるねぇ~」
「それはまかせるからよぉ? 俺たちはボス狙いでまだ隠れているわ」
「その前に防壁が突破されてもか?」
俺の言葉に三人は何を言ってんだと言う感じで・・・
「烏合の衆なんだからボスを倒せば終わりだろう?」
「あんな数相手にしても損しかねぇよ」
「そう言うことだよ?」
などと当然のように言った。さすがに腹を立てて感情のままに言葉を荒らげようとする俺だが、寸前でゲイルに止められた。
「兄貴よしな。こいつらは遊戯派の<マスター>だ。言ったところで理解しないし話が平行線のままだ」
ゲイルの言葉に俺はイラつきながらも三人に背を向けて離れる。そんな俺を三人はおかしなものを見る目で見送る。アークさんと合流し、俺は深い溜息をこぼす。
「はぁ~。ゲイルすまなかったな」
「気にしないでくれ。俺自身もあいつらに思うことはあるが、ここがどんなにリアルでも俺たちにはゲームだからな。感情的になる奴もいれば、ゲームなんだしっで終わらせる奴もいる」
「そうなんだよな・・・」
「僕はどちらかと言えば世界派ですし、周りの人たちも世界派よりでしたからあんな人たちがいるのはちょっと信じられませんね・・・」
遊戯派と世界派。このデンドロの世界をあくまでゲームととらえるかそれとももう一つの世界ととらえるかは<マスター>一人一人が判断することなんだが、両者の考え方は真逆であるため、ゲーム内でもリアルでも時々対立することがある。
遊戯派はゲームであると割り切り、従来のゲームのように効率や利益優先で動く。そのせいで野盗まがいの行為やティアンを命ある者として扱わない者が多い。それこそ国から指名手配されることも構わずにティアンの殺害を実行する者すらいる。
反対に世界派はこの世界をもう一つのリアルと考え、ティアンも命ある者として接する。リアルと同じく友として時に反発したりバカ騒ぎをしたり、噂ではティアンと結婚した者もいるとか。
そんな二つの考えが対立するのは至極当然なんだろうが、いざ現実にそんな考えを持つ奴を現れるとショックを受けるな。
「とりあえずあいつらは好きにやらせよう。俺たちは予定通り奇襲だ」
「そうだな」
「アークさんはどうします?」
「僕もそろそろ別の子達を出します。僕の護衛はその子たちにしてもらいますから、僕のことは気にせずに攻撃に専念してください」
そう言ってアークさんが右腕のジュエルから一体のモンスターを出すのだが、それを見た俺たちは・・・
「これはすごいな・・・」
「あ~なるほど。これらもモンスター化できるのなら強いな・・・」
「納得していただけました?」
俺たちはうなずいた。アークさん専用じゃなきゃほしいっていう奴はめちゃくちゃいるだろうなぁ・・・
「とは言っても、自分自身の戦力にしているので商売はほとんどしてないんですよね。おかげで常に金欠です・・・」
「「ああ~」」
なるほど。生産職なら自分で集めた素材は自分で使っちまうわな・・・そう考えるとけっこうきついか?
「と、ともかくアークさんの身の安全はある程度は心配ないみたいだし、そろそろ行くか」
「そ、そうだな」
「では、先制攻撃は僕の子達がやりますね」
「よろしく頼みます」
「俺もやります」
さて、俺とアークさんたちの攻撃でどのくらいのダメージになるかね?
◇ 【
これから奇襲するために俺はリオンを呼び、背に乗って突撃槍と以前三人と交換し合ったガチャの景品の一つである【オリハルコン・バトルシールド】を装備した。リオンに乗っている時は横に大きい盾は邪魔になるからな。防具は当然【ポルックス】
準備ができたので俺は段取りを確認する。まずはアークさんの戦力で先制攻撃。続けてクロス兄貴が各スキルで強化した範囲魔法攻撃を行う。それから俺とリオンがヒット&ウェイを行いながら相手にダメージを与える。
「準備はいいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
『始めてください』
アークさんの確認の言葉に俺とクロス兄貴は問題ないと答えて、俺たち三人は隠れている結界外へと出る。町へと攻撃している【スケイルリザード】の群れはまだ気づかない。
「みんな出番だよ。<喚起―【クリムゾン】 【ブレイブ】 【アルファ】 【ベータ】>」
アークさんが右手のジュエルを掲げて、モンスターを呼び出す。呼び出されたモンスターは今町を守っている6体のクマのぬいぐるみと同じく、【ツクモガミ】で誕生した彼専用のモンスター。だが、今呼び出したのはぬいぐるみではない。
それは鎧。呼び出された四体は鎧のモンスターだ。最初の二体は紅とオレンジが目立つ全身鎧。最後の二体は灰色と黒色が目立つ機械式甲冑。モンスターとしてはリビングアーマーに近い。
それから続けてアークさんはいくつか持っていたアイテムボックスを彼らに渡し、その手に武具が装備される。全身鎧の二体にはバズーカが両手に。機械式甲冑には回転式弾倉のグレランが。
「全員構え、目標【スケイルリザード】の群れ後方」
アークさんの指示に従い、彼らは銃口を群れに向け・・・
「発射!」
一斉にその武器は咆哮を上げる。まず、相手に着弾したのは全身鎧のバズーカ。まっすぐに飛んで行った弾は群れの一体に着弾し爆発。その周りにも炎熱ダメージを与える。
次に山なりに飛んで行ったグレランが群れ後方の真っただ中で大爆発。その火力をもって群れの何匹かを吹き飛ばし、炎熱ダメージも追加する。
それらが続けざまに放たれて、続々と吹き飛ばされる【リザードスケイル】 さすがにいきなりのことに混乱し町を攻めていた前方にも動揺を与えた。
その隙を逃さず、町の防衛していた者たちはすぐさま攻撃を開始。その攻撃で前方の【スケイルリザード】たちは何とか立ち直り、攻撃行動を再開する。
一方、後方の混乱の方も冷静な個体が何体かの味方を引き連れてアークさんたちに気付いて向かってきた。こちらも準備をしていたので次の行動も早くできたが。
「連鎖の爆炎よ! ことごとく轟我が敵を粉砕せよ! 《チェインエクスプロード》!」
クロス兄貴が各スキルで強化した範囲魔法を発動。その効果は凄まじく、こちらに向かってきた敵以外にも被害を与えた。とは言え、奇襲はこれが最後でさすがに群れ全体がこちらに気付く。
ちょうどアークさんの鎧たちも弾切れになり、別の装備をその手に持っていた。全身鎧の二体は大盾と剣に槍を。機械式甲冑の二体は大斧とハンマーを。
ここからが踏ん張りどころだろうと気合を入れなおした時、群れ後方の奥からさらに別の【スケイルリザード】たちが現れた。
それらは数が少なく五匹くらいだ。しかしその存在感は桁違いで群れの主力だと嫌でも理解させられる。特に中央に居る一番大きく黒い鱗に覆われている個体は目が離せないほどだ。
そんな奴の頭上には【鱗軍大将 リガゾルド】の文字が。その事実に動き出した者たちが居る。
「やっと出てきたな!」
「あいつは俺たちが仕留めるぞ!」
「俺がMVPだ!」
<UBM>を確認したことで隠れていた<マスター>三人が飛び出し、【リガゾルド】に向かってゆく。二人は地力で走り、最後の一人はモンスターに騎乗している。
あっという間に【リガゾルド】に急接近する三人だが、相手は冷静で【リガゾルド】本人が迎え撃つようで前に出て長い爪を構えている。
「「おらぁ!」」
地力で走っている二人は紋章から大斧とハンマーを取り出し、それらを【リガゾルド】に叩きつける。おそらく<エンブリオ>の攻撃でスキル込みのこの攻撃で終わらせる気だったのだろうが・・・
その攻撃は【リガゾルド】の体にはじき返された。
「「はぁ?」」
驚いた二人だが、その一瞬のスキをついて【リガゾルド】は爪を振るい二人の首を落とす。そのまま二人は即死。最後に残った一人はと言うと・・・
「隙あり!」
【リガゾルド】の後ろに突然現れた大きな狼がその牙で首をかみちぎらんとするが、またしてもその攻撃は【リガゾルド】にかすり傷一つつけることができずに、首を断ち切られた。
「はぁ! なんでだよ!?」
訳が分からないと言うように混乱する<マスター>だが、その答えが出る前に接近した他の四体の【スケイルリザード・ナイト】に攻撃されて、あっけなくデスペナに。
『本当に役に立たなかったな・・・』
それを見た俺の感想はこの一言に尽きる。もう少し根性見せろよも追加したい。
「GUGA!」
そんな中、【リガゾルド】がひと鳴きすると群れは町への攻撃を再開した。俺たちを無視して。祖の俺たちに向かって【リガゾルド】と他四体が向かってくる。
この騒動の最終局面が近い・・・