<Infinite Dendrogram>ではPKには3種類居ると言われている。
1つ目は<マスター>を専門に狙うPK。<Infinite Dendrogram>では<マスター>同士のいざこざはティアンの法律対象外なのだ。よって<マスター>のPKが同じ<マスター>を殺しても何のお咎めもない。このルールがあるので<マスター>のみを狙うPKはそれなりに居る。
2つ目は上記とある意味同じだが、性質が異なるPK・・・デスペナルティー前提の真剣勝負がしたくて<マスター>相手に死合いを申し込むのだ。要は戦闘狂とか呼ばれる人種がやる野試合である。のちに<マスター>の間で【修羅の国】と呼ばれる天地に多く生息するPKだ。
そして・・・3つ目なのだが、このPKは人によっては信じられないと思うような奴らである。すなわち<マスター>だけでなくティアンまでも襲うPK・・・強盗プレイヤーや野盗プレイヤーと言われている<マスター>たちだ。
リアルなゲームである<Infinite Dendrogram>で人と間違うような受け答えをするNPC・・・ティアンすらも襲い殺害する。そんなPKが存在するのである。
無論、これにはかなりのデメリットが存在する。<マスター>同士のいざこざはティアンの法律対象外だが<マスター>がティアンに対して犯罪行為を行い、それが露見すれば国から指名手配されセーブポイントが使えなくなるのだ。
セープポイントが使えない状態でデスペナルティーになれば、<マスター>は監獄と呼ばれる場所でしかログインできない。強盗や野盗プレイヤーはこの監獄で犯罪の刑期を過ごすこととなる。
しかし、この様なデメリットがあるにもかかわらずティアンを襲う<マスター>はそれなりに居る。彼らが何を考えてリアルなゲームで犯罪や殺人をしているのかは、当事者や同じことをしている者にしか理解できないのかもしれない・・・・
◇ 【
「《マジック・アブソープション》展開!」
相手の魔法攻撃に対して、俺は一度も使っていない<エンブリオ>のスキルを宣言した。これによって俺の範囲2mに魔法を吸収する結界が構築される。幸いゲイルもウッドもこの範囲内に居るので二人がダメージを受けることはない!
展開された結界に相手が発動した魔法が触れると、魔法は消え去り代わりに青白い光が俺の【ガルドラボーク】に吸い取られ、何枚かのページが黒く染まった。
「なに!?」
「なんだその<エンブリオ>は!?」
格下である初心者に魔法攻撃を無力化されて、PKたちは驚いている。その隙をついてゲイルは持っている円形盾を魔法を使った<マスター>向けてフリスピーのように投げた!
「なぁ!?」
これで終わりだと思っていた攻撃が無効化され、棒立ちになっていた<マスター>にはこの攻撃を回避できずに首にクリーンヒット!
「・・・・!?」
「やば!?こいつ【骨折】と【呼吸困難】の状態異常になった!?」
「格下の攻撃くらい避けろよ!」
仲間に対して心配するでもなく、むしろ何やっているんだと言いたげに言葉を放つPKたち。デンドロの状態異常はかなりの種類があり、全部の対策を取るのはそう言う能力の<エンブリオ>でなければ不可能と言われている。
とりあえず、俺は魔法使いに止めを刺すために覚えたばかりのスキルを使う。
「《マナ・ブレード》!・・・・あれ?」
発動したスキルはそのまま青白い光となり、【ガルドラボーク】に吸収された・・・・
「敵味方の区別しないのかよこのスキル!?」
一度も使っていなかったからこんなデメリットがあるとは知らなかった。
「ウッド!追撃してくれ!」
「わ、わかった!」
仕方なく俺以外に遠距離攻撃手段があるウッドに追撃を頼む。その間に俺はスキルを解除して結界を解く。また魔法攻撃してきたら発動すればいいし、今の敵は魔法を発動できないだろうしな。
◇ 【
クロス兄貴の咄嗟の行動で全滅は免れた。相手のPKはこっちより格上だろうし、クロス兄貴はともかくゲイル兄貴と僕は各上の魔法攻撃を喰らえば倒されていただろうし。
さらにゲイル兄貴は相手の隙をついて持っていた円形盾を投げて、魔法を使ったPKにダメージを与えた。格下に反撃されるとは思ってなかったようで相手は混乱している。
その隙にクロス兄貴がスキルを使って追撃を放つが、兄貴のスキルも魔法攻撃のため【ガルドラボーク】に吸収された。あのスキル敵味方問わずに問答無用で吸収するのか・・・
「ウッド!追撃してくれ!」
「わ、わかった!」
クロス兄貴の指示に従い、僕は矢を放つ。その矢は魔法使いのPKの脳天にヒットして光の粒子となる。
「今度は【脳損傷】で即死になったか・・・」
「運の悪い奴だぜ!」
仲間が倒されデスペナルティーになったのにPKたちには僕たちに対する怒りも浮かばず、むしろ仲間を責めるような言葉を吐く。
『・・・仲間が死んだってのにえらく冷めてるな?』
「ふん!単純に目的が一緒だからつるんでいただけだ。それにあいつはここのところ調子に乗っていたからちょうどいい」
「分け前を多く寄越すように言っていた。正直イライラしてたんだ」
この人達いろんな意味で最悪だと思う。僕だけでなく兄貴たちも同じだろう。
「<エンブリオ>の能力であいつは倒せたようだが。ここからは油断しねえぞ?」
「こっちの方が強いのは明白・・・」
『・・・今の状況だと負け犬の遠吠えにしか聞こえんな』
「同感」
兄貴たちの言葉にPK二人は頭に来たのか、大斧を持った人はゲイル兄貴に接近し爪を装備した人はクロス兄貴に爪を振りかぶった。
『ウッドは兄貴を援護しろ!』
「わかった!」
ゲイル兄貴は剣を構えて大斧を振りかぶるPKを迎え撃つ。ゲイル兄貴は心配だけど俺達の中で一番戦闘力が高いからね。あの爪のPKをすぐに倒してやる!
「おら!」
「く!?」
たが、援護しようにも相手はこちらより格段にAGIが高いようで矢を放とうとしても狙いが定まらない!クロス兄貴は俺よりAGIが高いから攻撃を少しはガードしているが両腕に爪を装備している相手とは手数が違う!徐々にHPが減っている。
「はっはっは!これだよこれ!弱者をいたぶるのは最高に気分がいいぜ!」
そう言ってPKはいったん離れる。その顔には心底楽しいと言うように気持ち悪い笑顔を張り付いている。
「・・・そんなに楽しいか?弱い者いじめは?」
「ああ、最高だぜ!俺に対して何もできずに傷だけが増えていく相手をいたぶるのはな!!」
「そうかい。でも弱者だからって油断しちゃいけないよな?」
「はぁ?何言って・・・ぐは!?」
PKは兄貴の言葉に答えようとして途中で吹き飛ばされた。そのPKの後ろには空中にグリフが居て《ウィンドブレス》をPKに使ったところだ。
目に見えてダメージを受けたPK。多分ジョブがAGI特化なのだろう。グリフの弱い魔法攻撃でもダメージを与えられたのだから。
吹き飛ぶ先には剣を上段に構えているクロス兄貴。
「はっ!お前の攻撃ならAGI特化な俺でも耐えてやる!」
「それはどうかな?《マナ・ブレード》!」
「は?」
PKが見たのは大きくてとても速い三日月状の斬撃だった。それを無防備にくらったPKは真っ二つになり光の粒子となって消えた。ちょっとグロい物が見えたけど・・・
「ば、ばかな・・・」
『はぁ~どうする?あとはお前さんだけだが?』
残ったPKとその攻撃になんとか耐えていたゲイル兄貴はそう口にするが・・・
『と言っても謝ったって許さないけどな?』
「当然だな」
「因果応報って奴です」
この状況では彼に勝ち目はないも同然だった。
◇ 【
いきなり始まった対人戦闘のPK戦は俺達の勝利だ。と言ってもこの勝利は相手がお馬鹿さんだったから勝てたのだが。こちらの<エンブリオ>が何かも調べないのもそうだし、こちらが格下だからと油断もしていた。
相手がもっと狡猾で俺達の<エンブリオ>の能力を調べていたら普通に負けていただろう。多分だがあいつらは自分の<エンブリオ>の能力だよりの力押しで今まではやれていたのだろう。
実際、俺が戦ったPKの<エンブリオ>能力は予想ではあるが【防御力無視】かそれに近い能力だろう。一撃受けて俺のHPが100以上は減ったからな。俺がHP高めの【騎士】で<エンブリオ>の補正が高くなかったら耐えられなかっただろうな。
ついでに言えば格上と言ってもせいぜい下級職3つで合計Lv100超えたくらいだろう。ぶっちゃけ初心者に毛が生えた程度の実力だと思う。
まぁ、それでも勝ちは勝ちなので俺達のLvはちょっと多めに上がった。全員がLv9になった。逆に言えばLv9しか上がらなかったからやっぱり格上と言ってもその程度だったと言うべきか?
スキルは全員が2つ覚えた。俺は《応急処置》と《植物斬り》 《応急処置》はHPを微量回復するアクティブスキルだ。数字にすると50くらいだ。《植物斬り》はモンスター種族:エレメンタルの植物タイプに対してダメージ増する。
クロス兄貴は《魔力強化》に《クロス・ブレード》 《魔力強化》はMP増加スキルで《クロス・ブレード》はバツ印の2連撃を放つ物理攻撃スキルだ。これはSP消費だな。
ウッドは《弓技能》に《ツインアロー》 《弓技能》は弓の攻撃力が上がり、弓の扱いが上手くなるセンススキルと呼ばれる物らしい。《ツインアロー》は矢を2連射する攻撃スキルだ。
さらにPKたちを倒したことで連中が持っていた所持金とアイテムが一部落ちていた。俺達はそれをすべて回収して王都へと戻った。ついでに門番さんに連中のことを訪ねてみた。
それによるとあいつらは最近になって<イースター平原>で活動する<マスター>に対してああいうことを繰り返していたらしい。ティアンの被害は重傷者のみで殺害には至っていないが、指名手配はされているらしく後で騎士団詰所に来てくれと言われた。
今まで逃げていたことを考えると、そう言う能力に特化した<エンブリオ>があったのかもしれないな。騎士団詰所に行く前に、PKたちからドロップしたものを三人で分けることに。まず所持金は全部で15万リルあったので5万リルづつに。
そしてアイテムに関しては回復アイテムは俺達で使うことにして他の装備品などは売ることに。ジョブギルドで教えてもらったお勧めのお店でモンスターのドロップ品合わせて9000リルになった。これも3000リルずつに分ける。
その後は門番さんの言われた騎士団詰所を訪れて、事情を説明。それからは相手の嘘を見抜く《真偽判定》のスキル持ちの職員さんの質問にいくつか答えて、連中を討伐したことが認められ懸賞金10万リルを手に入れた。
これも3万リルを山分けして残りの1万リルは回復アイテム購入に使うことに決まった。その後は一度ログアウトしてお昼を食べることに。今日と明日は仕事は休みなのでお昼を食べたらまたログインすることを約束して、俺達は近くログアウトした。