◇ 【
現在、俺はアークさんの機体造りのために素材集めをしている<叡智の三角>のメンバーの護衛をしている。素材集めの場所はドライフに来る時に通ったバルバロス領の山岳地帯。
ここはドライフでも数が少ない鉱石発掘場で採掘した鉱石を三割ほど治める領主に渡せば残りは採掘者がとっていいことになっているとのこと。
もちろんそんなルールになっているのには理由がある。それはモンスターが多いから。
『ふん!』
「VAMOOOO!」
今も移動している俺たちを見つけた【
そんな亜竜が二匹現れて襲ってきた。おそらく番いなのだろうが、襲ってくるのならばこちらとしても黙っているわけにはいかない。
俺と一緒に護衛をしていたアキラは互いに一匹を相手することになり、現在奮闘中。
『おぉりゃあぁぁ!!』
『VAMOー!?』
アキラの方も突撃してきた相手を受け止めて角を抱えて、己を中心に円を描きながら振り回している。そしてそのまま投げ飛ばす。
『《バースト・ジェット》!!』
とどめに<エンブリオ>の固有スキルで相手は爆散。そのまま光の粒子となりドロップアイテムを残す。一方の俺は・・・・
『V、VAMO!?』
突撃を受け止めてから角で連続攻撃していた相手の動きが鈍りだした。よしよし、効果が出てきたな。この現象の原因は俺の【ボルックス】の固有スキル《サンダーコーティング》の効果だ。
《サンダーコーティング》は武器に雷撃を纏わせて、相手に固定ダメージと低確率で【麻痺】の異常状態を罹らせるもの。武器と言えば俺の場合は剣やメイスに銃などを想像するが、デンドロでは盾も武器扱いなのだ。
その為俺はもっぱらこのスキルを盾に使用して防御と同時に攻撃していると言うわけだ。ただ、固定ダメージは毎回与えるのだが、【麻痺】に関しては運が良ければと言う感じだが。
【麻痺】の発生確率は俺のLUCと相手のENDの数値で決まり、さらには相手の大きさにも左右されるようなのだ。まぁ、【ボルックス】限定かもしれないが。そのスキルだけに特化してるわけでもないしな?
とは言え、連続攻撃してくる相手に何度も盾で受けていればいつかはなる。動きの鈍った相手に俺はメイスを《瞬間装備》で杭打機の【ZVGギガント・アンカー】にかえてとどめを刺した。
ドロップ品を回収して、再び護衛に戻った俺とアキラ。やがて採掘場所に着いたので俺たち二人以外は、素材集めをしている。中でも圧巻の光景を生み出しているのが・・・
『よっしゃー!どんどん掘るぜー!!』
大きな掘削機とも言うべき機械の乗り物に乗って目の前の岩を掘り、しばらくすれば中に保存された鉱石系のアイテム以外の物を出してからまた作業する。
採掘作業をしている一人の<マスター>の<エンブリオ>である【発掘尖機 ノーム】である。能力特性は見ての通りの採掘特化。採掘した物体から自動で鉱石を選別し、鉱石系のアイテム限定で無限に入るアイテムボックス能力を持っている。
まぁ、それ以外のアイテムも保存できるがそちらは限界量があるからちょくちょく捨てる必要があるようだが、それを差し引いても普通に採掘するよりははるかに効率的だ。
他の人たちはひと固まりで普通に採掘しているが、採掘した物全部手に入らないため採掘特化の<エンブリオ>を持つ者が選ばれたんだろうな。
そんな光景をもながら俺とアキラは周囲を警戒しつつ世間話をするのだった。
◇ 【
相変わらずな派手な【ノーム】の採掘作業に視線を向けて苦笑した俺は、周囲を警戒しながらゲイルと世間話をしている。
『しかし、ここは本当にモンスターが多いな? これだけ多いのに採掘アイテムが豊富ならティアンは危険で来れないな』
『まぁな。もっともここの採掘条件に関して言えば国と揉めたそうだが』
『そうなのか?』
『ああ。だが、結局はモンスターが多いこととティアンでは護衛できるほどの猛者が少なかったことで国の方が折れたらしいがな』
ドライフはただでさえ成長限界があるティアンがお国柄で生産職のジョブに偏ってるからな。戦闘系のジョブ適性があるティアンも居ないわけではないが、他の国と比べた場合だと下の方から数えたほうが早い。
『それに国と揉めた理由としてはここに遺跡がある可能性も考えたからだろうしな』
『遺跡?』
『最近、ここと言うかバルバロス領では遺跡発見が続いてるんだ。ドライフで発見される遺跡のほとんどは先々期文明時代の機械関係の物だから、国としては無視できないんだ』
『遺跡ねぇ? アルター王国ではほとんど聞かなかったな』
『隣国だからないわけではないと思うぜ? もっとも発見したとしても中身次第では利用できるかどうか分かれるだろうが』
有用だった場合はこの国の王族もしゃしゃり出るだろうしな? 自国の王族だけどなんというかいろいろ強引なとこがあるんだよな? 一部の王族はそうでもないんだけど。
『お? アキラお客さんだ』
『またかよ! 今日はなんかモンスターの遭遇率が高いぞ!』
俺が文句を言いながらゲイルの示した方向を見ると、確かにお客だ。あれは確か狂暴性がかなり高い純竜クラスの地竜でティラノサウルスに酷似した【グラトニー・ファング・ドラゴン】だったか。
『気を付けろ。あれは純竜クラスのドラゴンだ』
『純竜クラスにはいい思い出がないな。油断せずに戦おう』
軽い打ち合わせで俺がやつの正面で戦い、ゲイルが遊撃することになった。さらに手数を増やすと言ってゲイルの機械式甲冑である【ボルックス】をガーディアン状態にして、代わりの蒼い騎士甲冑を装備した。
正直な話羨ましいスキルだ。俺も<エンブリオ>が戦っているところを見たい。進化すればこういうことできるかね? 関係ない考えを振り払い俺たちは戦いを開始する。
◇ 【
地竜種の純竜【グラトニー・ファング・ドラゴン】と戦い始めて、数十分が経ったが体感時間としては倍も掛かってる感じだ。と言うのもこの地竜が手ごわいのだ。
『また回復したぞ!』
『厄介なスキルを持っていやがるな!?』
と言うのもこのドラゴンこちらがダメージを与えてもすぐに回復するんだ。どうやら今までに食べた物を限界以上貯めこみダメージを受けたら、瞬時に回復する《ストマック・ヒルディング》と言うスキルを持っているらしい。
俺たちと出会う前に相当のモンスターと戦ったのか未だに回復している。そんな奴を相手にするには【大盾騎士】ではキツイと判断して、早々に使い捨てアイテムである【ジョブクリスタル】ですべてのスキルが使える【重厚騎士】に変えた。
俺は取り回しがしやすいように左手には普通サイズの盾を装備し、右手には棘付き鉄球のメイスを装備している。【ボルックス】は片手に杭打機をもう片方には片手剣を装備して隙があれば杭打機を打ち込むように指示している。
しかし、相手のドラゴンはダメージを受けたらすぐに回復しステータスも高いらしく動きに隙がない。ダメージを与えて隙を作ろうにもすぐに回復してしまう。
『こうなったら賭けに出る!』
『どうするんだゲイル!』
『こうするんだ!』
俺は盾を【瞬間装備】のスキルで杭打機へと変え、メイスはアイテムボックスにしまい代わりに装備するのはこれまた杭打機だ。
『おいおい! ダブルで打ち込む気か!?』
『アキラは俺が撃ち込んだら、攻撃を続けてくれ! その後は【ボルックス】も続けて攻撃だ!』
『了解だ!』
アキラの了承と【ボルックス】からもOKの感情が伝わってきた。そのまま戦闘を続け、アキラの【オーパーツ】にドラゴンが噛みつこうとしたが、アキラは上あごと下あごを両手で抑えた。
『今だ!』
『おおぉ!!』
俺は気合を入れるために叫びながら突っ込みドラゴンの右側の腹目掛けて杭打機を打ち込む!
『GIYAAAAAA!!??』
さすがにこの攻撃は大ダメージを受けたらしく、ドラゴンは初めて苦痛の叫びをあげた。一方の俺はさすがに威力が高い杭打機をダブルで使用したことで、ドラゴンから吹っ飛んでしまった。
『おっしゃぁ!!』
その隙にアキラは相手の口に両腕を突っ込んだ!
『《バースト・ジェット》!』
そのまま【オーパーツ】の固有スキルを放ち、すぐさま両腕を口から離した。その直後に爆発! ドラゴンは下あごが皮一枚でつながった状態となったが、それでもまだ生きていた。それどころか徐々に体が回復している。
しかし、二度の大ダメージを受けたことに変わりはなくドラゴンはその場から動こうとしない。その隙を見逃さずに【ボルックス】は後ろからドラゴンに飛び乗り、尻尾や体を伝い頭に杭打機を狙いすましてとどめの一撃をお見舞いした。
何とか辛勝した俺たちは相手のドロップ品である【暴食純竜の宝櫃】を開けて出てきた素材アイテムは過金してから二人で半々にすることに決めた。
「しかし、きつい戦いだったな?」
「お互いジョブも<エンブリオ>も攻撃能力が高くないからなぁ・・・」
さすがに少々疲労を感じてきたので俺は騎士甲冑を脱いで、アキラも【オーパーツ】から降りている。周囲の警戒は【ボルックス】に頼んでいる。
特に俺はダブル杭打機の吹っ飛んだ時に意外とダメージも受けてしまったので回復アイテムを飲んでいるところだ。
「そろそろ進化してくれないかね? 前の進化から時間たってるんだが」
「だったら進化してるかもしれないぞ?」
俺が愚痴を口にするとステータス画面を開いていたアキラからそんな言葉が。
「どういう意味だ?」
「さっきの戦闘で俺の【オーパーツ】は第四形態に進化したんだよ」
「ほんとか! そりゃおめでとう!」
「ありがとうな。ゲイルも確認してみろよ? 俺の<エンブリオ>が進化するほどの経験をしたんだ。進化してるかもだぜ?」
「そうだな。確認する」
アキラの言葉に従い、俺のステータス画面を開いてみる。【ボルックス】の方は変化は見当たらないがスキルの方が変わったかもしれないしな。
「え~っと・・・やった! 【ボルックス】も進化してる! これで第五形態だ!」
「おめでとう!」
「ありがとう!」
二人で祝福しあい満面の笑みを浮かべる。やっと進化したからな。これは素直に嬉しいぞ。
「【ボルックス】はどんな進化をしたんだ?」
「まず、防具としての性能がかなり上がったな。今の防御力は890もあるぞ? あと固有スキルのレベルも爆上がりだ」
《アクセル・スカウター》はLv2から4まで上がり、AGIのステータスが400もプラスされる。俺のAGIはまだまだ4桁に達していないから、固定の数値で上がるのは地味にありがたい。
《サンダーコーティング》もLv1から3にまで上がり固定ダメージが1400になった。ステータス補正は上がってないが、十分な進化だな。
「他にも固有スキルが新たに増えたな」
「それは楽しみだな」
「ああ、説明文を見た感じ攻撃力不足が解消されるかもしれない」
「マジか? かなり強力なスキルみたいだな?」
ああ、かなり強力だろう。すぐに効果が表れる類のスキルではないが、俺の場合は長期戦なら望むところだしな。
「そっちはどんな進化をしたんだ?」
「ふふふ、それはだな・・・」
「うわ! 何だここは!?」
アキラが言葉の続きを口にする前に採掘作業班から叫び声がした。俺は《瞬間装着》で【BAA】を装備して採掘班の元へと向かう。アキラもすぐそばで待機させていた【オーパーツ】に乗り込んでいる。
『どうかしたのか!』
「ああ、すまん。別にモンスターが出たとかそんなんじゃないんだ」
「むしろ、いい土産になる嬉しいものが出たんだよ」
そう言って採掘班の人たちは、採掘していたと思わしく岩場に目を向ける。そこには地面が崩れて階段とその奥には金属製のメカメカしい扉があった。
『これは・・・?』
「多分未発見の遺跡だな。見た感じ状態はいいようだ」
「むしろ、ところどころに電気が通っているからまだ動いてるぞ?」
「中には何があるんだろうな? 誰か機械干渉ができる<エンブリオ>持ちが居たよな? 開けてみろよ」
「オウ、任せろ!」
そう言って採掘班は嬉々として遺跡の扉を調べだした。
『おいおい・・・危険はないのかよ?』
『諦めろゲイル。楽しんでいるあの人たちは梃子でも動かん』
そう言って俺の後ろに【オーパーツ】に乗ったアキラが深いため息とともにそんな言葉を口にした。なんか実体験したみたいだな?
【研究施設の干渉を検知・・・侵入者と判断】
【研究施設破棄のための自爆システム起動・・・・エラー】
【迎撃用にプロトタイプ機械化モンスター一号の封印処理解除・・・・エラー】
【続いて二号の封印処理解除・・・・エラー】
【続いて三号の封印処理解除・・・・実行終了】
【続いて四号の封印処理解除・・・・実行終了】
【三号、四号共に侵入者撃退のため三番七番の格納エレベータで施設外へと運搬実行】
【(<
【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】
【(<UBM>担当管理AIより承諾を通知)】
【(対象二体を<UBM>に認定)】
【(対象二体に能力増強・死後特典化機能を付与)】
【(対象を逸話級――【螺旋機竜 スパイドロン】と命名します)】
【(対象を逸話級――【剛爆機竜 カノンボルス】と命名します)】
なお、二体の<UBM>ネーミングの漢字の部分ですが、本編に【骸竜機】が出ましたが、あれは竜を模した機械なのでこちらは機械とモンスターの融合なので【機竜】にしました。