◇ 橘 静雄
僕が<Infinite Dendrogram>と言うフルダイブVBMMOをやりだしたのは特にこれと言った理由はない。たまたま、親戚のゲーマーが一緒にやろうと誘ってきたのがきっかけだった。
その親戚は発売までろくな情報がなかったゲームを一人でやるのが怖くて僕を誘った。事前情報も何もなく発売された時に明かされた情報は普通であれば嘘と断言されてしまう。実際に僕はそう思った。
ただ、嘘だったとしても専用ハードとソフト込みで一万円と言う商売する気あるの?と疑問が浮かぶ値段だったし、気に入らなければやらなくてもいいと言われ、物は試しにとゲームをしてみることに。
そして、最初のチュートリアルでこれが本物であることを知った。僕のチュートリアルを担当したのは管理AI一号のアリスと言う幼女だったが、あまりにリアルすぎてすぐに言葉が出てこなかった。
そんな僕にニコニコ顔で待っていたアリスは、思考が復活した僕の言葉を丁寧に回答してくれた。さすがに落ち着いた後は謝ったが、そんな僕をニコニコ顔で対応する幼女に助けられたよ。
それからはアリスの言葉に従い、チュートリアルをこなしてゆく。描画選択はリアルに。プレイヤーネームは悩んだが、日本のような国もあると言われたので、鬼崎 信玄とした。
容姿に関しては、リアルの身長はあるが細すぎる身体を違和感がない程度に筋肉質にしてもらった。その後は髪を長くしてポニーテールに。肌も多少黒くした。
その後はアイテムボックスをもらい注意点の説明と最初の路銀をいただいて、初心者装備は外見に合う和服と模造刀にした。
そして説明はこのゲームオリジナル要素の<エンブリオ>に移った。それを一通り聞いた僕は久しぶりに高揚した。ゲームをやりそれに魅了された者はオンリーワン要素に大なり小なり興奮するものだ。
説明が終わり、僕が高揚しているうちに左手にその<エンブリオ>が移植された。それを眺めて僕にはどんなのが生まれるのか楽しみで仕方なかった。
最後の所属する国に関しては悩んで天地にすることにした。黄河とも悩んだが、国は近いからいつか行ってみることもできると判断して選んだ。最後にアリスが・・・・
「これから先あなたたちは自由にしていいわよ? 悪人になるのも善人なるのもゲームを続けるのもゲームを去るのもすべてあなたたちの意思で選んで。私たちはあなたの来訪を歓迎するわ」
そう言い終わった直後に、チュートリアルのログハウスの部屋が消えてなくなり、俺は空中に放り出された。
まさかゲームで初めてのパラシュートなしの空中降下を体験することになるとは・・・ドキドキしながら僕は目の前にある和風の門をくぐり、その光景に圧倒された。
桜舞う和風の町並みと遠くに見える京都にあるような大きな屋敷。圧倒されながら僕は恐る恐る歩を進める。お上りさんのようにきょろきょろしながら町を眺めながら進むが、早々に何をすればいいのかわからないことにどうしようかと立ち止まる。
そこで醤油の焦げたいい匂いの屋台のお兄さんに思い切って聞いてみることにした。商品は焼き鳥だったので一本注文するときに緊張しながら聞いてみた。
「この国に来たばかりなんですが、最初は何をすればいいかな?」
俺の質問になに言ってんだこいつは?と言いたげな顔をするお兄さん。すると、俺の左手にある<エンブリオ>を見て納得したのか次のようなことを述べてくれた。
「あんちゃん<マスター>だったのか? そう言えば今日だったな~大勢の<マスター>が来るって言われてたの。てぇことはあんちゃんジョブにも就いてねえのか?」
屋台のお兄さんが言うには僕のように<エンブリオ>持ちのPCはここでは<マスター>と呼ばれ、今日この日に大勢の<マスター>が来るだろうと町の代表者から通達があったと言う。
さらにジョブについても教えてくれて、この世界ではいくつものジョブの中から選んでジョブに就いてレベルを上げるんだとか。ジョブも本当に千差万別で戦闘職から生産職に下級職に上級職まであるんだとか。
詳しく知りたいのなら冒険者ギルドに行くといいと助言をくれて、僕はお礼と追加注文としてもう二本焼き鳥を頼み、それらを受け取りお金を払い助言に従い冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに辿り着いた僕はさっそく受付嬢に今日この世界に初めて来た<マスター>だが、ジョブについて詳しく教えてほしいと言ってみた。
すると受付嬢は驚いて、ベテランの職員を大声で呼び出した。どうもこの子は受付の担当になってから日が浅いらしく<マスター>である僕に驚いたらしい
その後にベテランの男性職員に別室へと案内されて、取引を持ちかけられた。こちらが知りたいことは教えるのでそちらのことも教えてほしいと。
その前に彼らが持っている<マスター>に関することを知りたいと言うと以下のことを教えてもらった。
一つ。<マスター>は600年以上前から確認されており、伝説として語り継がれている。
二つ。<マスター>は<エンブリオ>と言う特別な力を持ち、この世界で死んでも三日後に復活する。
三つ。<マスター>はティアンと違い、ジョブに就く際才能に左右されずに500レベルカンストする。
どうも、<マスター>と言う存在は以前からも確認されているらしく、この世界の歴史において何度か現れているようだ。
恐らくはαテスターかβテスターだと思うが、それよりも600年以上も歴史があるほうが驚きだが、個人がどうこうできる話ではないので棚上げする。
さらに<マスター>はたとえ死んだとしても三日後にセーブポイントと呼ばれるところで復活すると言う。これに関してはアリスからも確認していることだ。デスペナルティ―が24時間のログイン制限と聞いた時は驚いたが。
それとこの世界ではNPCのことはティアンと言うらしく、彼らはジョブに就く場合個人の才能に左右されてジョブに就ける数はその才能しだいだとか。
<マスター>の場合はその才能と言う縛りがなく、下級職と上級職の上限である六つと二つであるレベル上限の500に誰でもなれると言う。
いくつか教えてもらったので僕も知っている限りの<マスター>に関してのことと、個人的な考えを伝えることにした。
それから大変参考になったと言う男性職員のご厚意でクエスト扱いにしてもらえ、その報酬として冒険者ギルドが行っている初心者救済の講座に無料で参加してもらえることになった。
この講座は戦闘経験のない子達に戦闘の基礎を教え、さらにはその子達に適したジョブを探すことも行っている冒険者ギルドで定期的にやっているクエストだ。ちなみに参加料は3000リル。
この参加料には配布する武器や防具も値段込みであり、その武具は生産職になりたての者たちの作品で生産ギルドからの提供なんだとか。よく考えられたシステムだ。
早速15歳前後の子供たちに混ざり、僕もジョブを選ぶが・・・<エンブリオ>がまだ生まれていないことを考えて無難な【
【武者】は天地限定のジョブで特徴としてはオールマイティな戦闘職。各種武器を扱え、使い勝手のいい各種アクティブスキルも覚え、《乗馬》スキルで町から町への移動も楽な天地では定番のジョブだと言う。
それから武器も選ぶのだが、他の子達が刀や弓に斧を選ぶ中、僕は槍を選んだ。最初は刀と太刀をお勧めされたがどうもしっくりしないので試しに槍を選び基本動作を学ぶと不思議と手になじむ。
防具に関しては革鎧を選択。本当は鎧甲冑がよかったが、さすがにジョブに就いたばかりの初心者が装備できる物はないようだ。
講習が終わると子供たちと共に実戦を経験するために町を出てモンスターと戦うことに。町を出た直後に僕の<エンブリオ>が光を放ち生まれた。
誕生したのは【鬼族繁栄 ゴブリン】だった。緑色の肌をした周りの15歳前後の子達よりも低い身長の小鬼が5人。それを見た一部の子達に笑われた。
失礼な子供たちは無視して、僕は<エンブリオ>のステータスを確認する。残念ながらステータス補正は最低値だったが、スキルは二つある。
一つ目は《戦闘連携》 僕自身と【ゴブリン】たちや自身の手持ち戦力だけでパーティを組むと【ゴブリン】のステータスが上がると言うもの。
二つ目は《技巧習得》 スキル持ちから指導を受けると指導者の持っているスキルを習得できる。ただし、スキルレベルは《技巧習得》のレベルを超えることはないそうだ。さらに覚えられるスキル数もレベル依存だ。
ステータスを確認し終えて、笑っていた一部の子供たちが僕たちとは恥ずかしいから一緒に戦闘したくないと言い他の子達を強引に連れて行ってしまった。
まぁ、スキル的にちょうどいいので文句はない。文句はないが、笑われたことに落ち込んでいる【ゴブリン】たちが気になり、まずは励ますことに。
僕の励ましである一緒に強くなろうと言う言葉に力強く頷いた【ゴブリン】たち。その後はモンスターを狩り続けている。順調ではあるのだが、ゴブリンたちは腰布以外は何も装備していないので、基本は殴る蹴るを行う。
ドロップ品を売ってまずは彼らの防具を買うかそれとも武器を買うか休憩中に悩んでいると、先ほどの【ゴブリン】たちを見て笑った二人の子供が全速力で町へと走っていった。
他の子供たちはおらず、彼らの何かから逃げている様子から嫌な予感がしたので【ゴブリン】たちに声を掛けて彼らの走り去った逆方向へと向かう。
すると残りの子供たちが必死になって大きな蜥蜴と戦っていた。蜥蜴の銘は【堅鱗蜥蜴】と言いこの狩場ではかなり強いモンスターなのだろう。実際に蜥蜴の正面で斧で攻撃している子供の攻撃はあまり効いていないようだ。
それよりも正面で戦っている子は必死になって後衛で矢を放っている子達を守っていた。しかしながら、たった一人で正面で戦っているのでもはや満身創痍。息も激しくこのままでは持たないことは明白だった。
僕は急いで蜥蜴の側面に回り、足の付け根に槍を付きこんだ。いきなりの攻撃に蜥蜴は驚いて乱入者の俺を睨みつけた。
その隙に前もって指示しておいた【ゴブリン】たちが子供たちを下がらせる。後衛の子達は急いで支給された回復薬を満身創痍の子に飲ませてあげる。
それからは蜥蜴の相手は僕と【ゴブリン】2体が相手をしているが、【ゴブリン】たちの攻撃では全く歯が立たず、早々に蜥蜴は彼らを無視して僕を集中的に攻撃しだした。
これまでの狩りで上がったステータスと槍さばきで何とか躱しているが、このままでは先ほどの子達と変わらない。決定力が不足していた。そんな時・・・
1体の【ゴブリン】が斧を担いで蜥蜴の背中を駆けあがった。その斧は後衛の子達を守っていた子が持っていたもので【ゴブリン】はそれを握り、【ゴブリン】を無視している敵を逆手に取り、背中を駆けあがったのだ。
そのまま脳天に勢いをつけて振り下ろす! さすがに全く気にしていなかった相手からの予想外の攻撃に蜥蜴は脳が揺さぶられ、口を大きく開けてしまった。
僕はその隙を逃さずに全速力で駆けて、勢いそのままに槍を口に突き出した。さすがにのどを貫かれたこの攻撃はそのまま背中側を貫通し、蜥蜴は光の粒子となった。
その後は子供たちの回復を待ち町へと帰還した。あのトカゲのドロップ品は僕がもらうことになり、子供たちは助けられたことに対してお礼を言い、【ゴブリン】たちを褒めてくれた。
特に斧で脳天を攻撃した【ゴブリン】と斧持ちの子が仲良くなり、笑いあっていた。ちなみに僕が目撃したあの子供二人は、蜥蜴と戦い攻撃が効かないと知るとさっさと逃げ出したそうだ。
町へと帰り、冒険者ギルドでそのことを報告すると職員さんはすぐさま行動し、逃げ出した子達は捕まりお説教と罰として冒険者ギルドの雑用を三か月無償で行うことになった。
まぁ、仲間をほおって逃げた罰としては軽い方だろう。これが大人だったらこの程度で済むはずがない。
なお、俺は職員に大変感謝され、追加の報酬をもらうことになりその内容はギルドが持っている初心者用の武具を好きなだけ持って行っていいことになった。
ありがたい報酬に僕はさっそく【ゴブリン】たちに武具を選ばせた。最終的に防具は革鎧一式と武器はそれぞれ刀に盾と棍棒それと太刀に弓と矢で落ち着いた。
その後は助けた子供たちに改めてお礼と今度一緒に狩りをしようと約束し、ログアウトした。僕はこれからもこのゲームを続けるだろう。
なお、僕を誘った親戚のゲーマーはリアリティーに感動し、町を出て走り回っていたところモンスターに囲まれて死に戻ったとか。しかもそのことがトラウマになり早々にゲームを転売し儲けたと言っていた。
【鬼族繁栄 ゴブリン】はTYPE:ガードナーであり、最初の段階から五体いることもわかる通り、最終的にレギオンになります。
三兄弟が天地に向かうまでは閑話と言う形で彼の活躍を描いていきます~