◇ 【
<ノズ森林>に来る前にシルク、タタン、ガルドとパーティを組むこととなり、現在【ティールウルフ】4匹と戦闘中だ。
彼らにはこちらの目的であるジョブクエストの内容は教えてあるし、あちらのクエストに協力する代わりにこちらのクエストにも協力してもらうことは了承済みである。しかし・・・
「おらおら!これでも喰らいやがれー!」
ガルド君が一人で【ティールウルフ】4匹に対して<エンブリオ>である片刃の大剣を振り回している。その大剣は刀身がオレンジ色に輝いて熱を帯びているのが分かる。おそらく何かのスキルだろう。振り回す前に《クリムゾンセイバー》なんて叫んでいたし。
「ちょっとガルド!今は六人で行動しているのよ!もっと立ち回りを考えて!」
「俺のレーヴァテインが当たればここら辺のモンスターは一発で倒せるんだから問題ないだろう!」
「問題大有りだって言ってんのよ!!」
シルク君はパーティ戦という物をよくわかっている様だ。ガルド君が大剣を振り回している間は俺とクロス兄貴は危なくてモンスターに攻撃できない。このデンドロはリアルだから仲間の攻撃だって当たればダメージになる。
クロス兄貴は《マナ・バレット》などで攻撃することはできるが、俺は攻撃手段が現状では皆無だ。
「す、すいません皆さん」
「GOGOGO」
タタン君なども自分の<エンブリオ>である【タロス】と共に何もできずにいた。タタン君の【タロス】機械式ゴーレムのガードナーにも遠距離の攻撃手段は今はないらしい。
「タタン君が謝る必要はないよ。これは彼自身が謝ることだぞ?」
「そ、そうですよね・・・」
タタン君の言葉にクロス兄貴はそう答えた。どうも、彼らは前衛をガルド君に【タロス】が担当してシルク君とタタン君はその援護と言う戦闘スタイルのようだが、今まで上手くいっていたのでガルド君は調子に乗っている様だ。
現在はフルパーティを組んで彼や【タロス】以外にも前衛が居ると言うことを理解していない。ついでに言えばウッドも援護しにくそうだ。好き勝手暴れているだけだから下手すると彼に矢が当たりかねないのだ。
今忙しそうにしているのは暴れているガルド君以外では彼を回復しているシルク君くらいだろう。ガルド君は攻撃はしているが一向に攻撃が当たらず、反対にモンスターの攻撃は当たりまくっているので回復役のシルク君は忙しいのだ。
しかもその現状が彼を苛立たせて、攻撃はさらに精彩に欠ける。これではいつまでたっても当たるわけがない。
『やれやれ、仕方なしかな・・・』
俺は有る決断をして、ガルド君へと近づき・・・
「こなくそ~!雑魚モンスターのくせにっておわ!?」
ガルド君の背後から防具を掴み、思いっ切り俺の背後へ引っ張った。そのままガルド君は尻餅をつく。
「何すんだよ!?」
『それはこちらのセリフだ。ただ武器を振り回しているだけのお遊びならよそでやれ』
「なぁ!?」
ガルド君が俺の突然の行動に文句を言っている間にも、モンスターは俺に攻撃してくるが、今の俺なら【ティールウルフ】の攻撃ではダメージを与えられない。
あと、俺の行動にシルク君やタタン君も驚いている。もっとも兄貴とウッドは俺の行動の理由を察して【ティールウルフ】を攻撃しているが。
「誰がお遊びだって!?」
『モンスターに攻撃が当たらないのに何を言っている?しかも、モンスターの攻撃は君に当たりまくりじゃないか。これではシルク君のMPもすぐになくなる』
「その前に倒せたさ!」
『説得力のかけらもない。そもそも前衛は君だけではないんだ。それも考えずに大剣を振り回されてははっきり言って邪魔だな』
「あ・・・」
俺の言葉に今気づいたと言うような呟きを口にするガルド君。その間に兄貴とウッドが【ティールウルフ】を倒し切る。
『理解できたなら、これからは武器を闇雲に振り回すなよ?味方の攻撃でダメージを貰うなど恥かしいからな』
「~!!わかったよ!」
ガルド君は顔を真っ赤にして立ち上がり早足で<ノズ森林>を奥へと向かう。俺達もあとに続く。
「嫌われ役、お疲れ様」
「悪いな。嫌な役させてしまって」
兄貴とウッドが俺に話しかけてきたのでフルヘルムの中で苦笑する。ガルド君には普通に注意したんじゃ聞いてくれないと思いわざと挑発的な言葉で教えたのだ。
このままじゃクエストもクリアできそうにないと判断しての決断だ。彼には嫌われるだろうがそれもやむなしだ。これで少しはマシになるといいが・・・
◇ 【
ゲイル兄貴がガルド君に嫌われ役になる覚悟で注意をしてからは、フルパーティとして機能し始めた。
「【タロス】!そのまま敵を引き付けるんだ!」
「GOGOGO」
『俺は右から攻撃する!』
「俺は左からだ!」
現在ボスモンスターである【ビッグフォレストベアー】と戦っている最中だ。前衛にはタタン君の【タロス】が真正面で戦い、ゲイル兄貴とガルド君が左右から攻撃している。
「《ツインアロー》!」
「《ストレングス・アップ》!《エンデュランス・アップ》!」
「《ヒール》!」
後衛ではグリフに乗った僕は遠距離攻撃をタタン君にシルク君が魔法で【タロス】援護している。普通なら機械式ゴーレムには回復魔法は意味がないのだけど、【タロス】には効果があるんだよね。多分、そう言う固有スキルを持っているんだね。
「GOGOGO!」
「GAU!?」
「《マナ・ブレード》!」
【タロス】のパンチでバランスを崩したボスに遊撃をしていたクロス兄貴が真後ろから《マナ・ブレード》で止めを刺す。これでボスの【宝櫃】は4個目だ。やっぱりフルパーティは戦闘効率が桁違いだね。
おかげで僕たちのLvは24になり新たなスキルを覚えた。クロス兄貴は《スティンガーソード》。ゲイル兄貴は《ダメージ軽減》に《怪魚斬り》。僕は《インパクトアロー》。
シルク君たちもLvは上がって喜んでいる様だしそろそろいいかもね?
「そろそろ、<ノズ森林>の奥に行って【ブラストファングタイガー】を探そうか?」
クロス兄貴がそう尋ねると・・・
「そうですね・・・今のLvなら大丈夫そうです」
「み、皆さんも強いですしいけるかと・・・」
「俺が止めは貰うけどな!」
ガルド君はともかく残る二人はLvが上がりフルパーティ戦を経験したことで自信が付いたようだ。
『では、奥に向かうとするか』
「・・・ふん」
ゲイル兄貴がそう言うとガルド君はそっぷを向き先に行ってしまう。やはり嫌われてしまったようだ。
「す、すいませんゲイルさん」
『シルク君が謝ることじゃないよ。こちらのせいでもあるし』
「で、でもおかげで戦闘効率は上がりましたし、ガルド君にも問題はありましたから」
シルク君とタタン君はどうもゲイル兄貴がわざとああ言うことを言ったと分ってくれたらしい。ちょっと不安要素はあるけど、僕たちは初の亜竜クラスモンスターと戦うために奥へと向かう。
◇ 【
ガルドとゲイルの奴は必要だったとはいえ、ああいう形になっちまったことに不安要素があるが、俺達は<ノズ森林>の奥に到達した。
現在は目的のモンスター【ブラストファングタイガー】を探しているところだ。ちなみにこのモンスターの外見は牙が長い紅い色をしたトラだとか。
<ノズ森林>の奥はこのモンスターの縄張りらしく、他のモンスターは出てこない。それはありがたいが森林奥のこの場所は木の密度が高く、暗いので戦闘がしにくそうだ。
俺達は先頭にゲイルと【タロス】のENDが高い者たちが警戒し、真ん中にシルク君とタタン君が。その後ろを俺とガルド君が警戒して殿をウッドが警戒している。なお、ウッドはグリフに騎乗してはいるが地上を歩いている。
先ほど言ったこの場所の特徴を考えると、飛ぶのは危険と判断してやめさせたのだ。
周りの警戒しながら進む俺達だが、中々目的のモンスターを見つけることも出会うこともない。歩き疲れた俺達は近くに有った切り株の周囲で休憩することにした。
「なかなかいないな。虎・・・」
『他の<マスター>に狩り尽くされたってことは無いよな?』
「普通ならあり得ないって言う所だが、デンドロだしな・・・」
ウッド、ゲイル、俺はそんな言葉を漏らす。どうもデンドロはモンスターの生態すらリアルで繁殖を行い増えていると言う。つまり何も考えず狩りだけやっているとモンスターは絶滅することがあるらしい。
例外は一部のダンジョンだけであり、初期のころは貴重なモンスターが危うく絶滅しかけて何人もの<マスター>が【従魔師】ギルド関係者に怒られたそうだ。
「どうしようか?」
「ク、クエスト失敗の場合は罰金が・・・」
「む~どこに居るんだよ~トラ~」
シルク君たちも不安になっている様だ。俺たちの方はジョブクエストはすべて達成している。彼らのクエストに協力したいのは山々だが、肝心のモンスターが見つからないのはな・・・
『まぁ、まだ日は高いし夜まで探索するぐっは!?』
ゲイルが立ち上がり言葉の途中でいきなり吹き飛び近くの木に激突した!
「「ゲイルさん!」」
「敵襲!周囲警戒!」
吹き飛んだゲイルにすぐさま駆け寄ろうとするシルク君とタタン君を止める意味でも、俺は敵が近くにいることを知らせた。
何せゲイルを不意打ちしたと言う事実がすでにヤバい。ゲイルの【ボルックス】には攻撃察知機能が付いているのにだ。<マスター>の不意打ちすら察知した機能が役に立たなかったのだ。
「で、でもゲイルさんが!」
『お、俺は大丈夫だ!それよりもどこかに敵がいるから気を付けるんだ!』
ゲイルもダメージを受けた直後の体を動かして、周囲を警戒する。全員が周囲を警戒する中、もう隠れる意味はないとでも考えたのか、そいつは姿を現した。
紅い体毛と黒い縞模様が特徴の長い牙持つそいつは俺達が探していた【ブラストファングタイガー】であろう。ただ、そいつは片目に大きな傷跡がありなんというか歴戦の強者と言う雰囲気を醸し出していた。
ゲイルの俺達に近づいて目の前に現れたボスを警戒する。すると目の前のトラが近くの木に飛び移り、そのまま【タロス】に飛び掛かった!
「GAA!」
「GO!?」
「【タロス】!?」
「「『速い!?』」」
どうやら俺以外にはトラの動きが見えなかったようだ。虎はそのまま【タロス】を押し倒すとまたも木に飛び移り速さで俺達を翻弄する。そして・・・
『ぐは!?』
今度も何かの攻撃を受けてゲイルがダメージを受けた。今度は吹き飛ばされることはなかったが、それでもかなりのダメージを受けている様だ。
「《マナ・バレット》!」
唯一トラを動きが分かる俺がスキルで一番早さがある《マナ・バレット》を使っているが、なかなか当たらない。
「クルー!」
いや、もう一体動きが分かる奴がいた。グリフである。しかしグリフの唯一の攻撃スキル《ウィンドブレス》も当たってはいないようだ。
まさか亜竜クラスモンスターがこれほどとは思わなかったな。戦闘スタイルが今の俺達からすると最悪に近い。どうしたものか・・・
『ウッド。グリフに指示をして今から俺の言う通りの場所に《ウィンドブレス》をしてくれ』
「ゲイル兄貴。何か考えがあるの?」
『とりあえず試してみたいことがある』
ゲイルの提案を聞き、確かにやる価値はあると判断できる物だな。ハマれば状況を打破できる可能性がある・・・
◇ 【ブラストファングタイガー】
我の縄張りにまたしても左手に妙な物が描かれている者たちがやってきた。今度の者たちは幼い者たち三名に大人が三人。あとは妙な気配のよくわからない物が二体・・・
二体のうち一体は我と同じ獣の匂いがするが、気配が妙だ・・・まぁいい。考えるより明確な事がある。奴らは敵だ。我と我の大切な者を奪いかねない敵だ。
これまで同様、敵なら倒すまでだ・・・
いつものようにまずは気配を消しての先制攻撃。我の得意な攻撃である【
先制攻撃なら高い確率で当たれば吹き飛ぶ。運がよければどこかにぶつかり骨が折れる。しかし・・・今回はそれは起こらなかった様だ・・・・
少々残念だが、先制攻撃が成功しただけでも良しとしよう。攻撃されたことで奴らは周囲を警戒しだした。こやつら前にやってきた者たちよりも優秀であるな・・・
ならばこちらも姿を現した方が良いな。こういう者たちは真正面から戦った方が良い・・・
奴らの目の前に出て行き、しばらく睨み合った直後に得意な木々を利用した跳躍攻撃でまずは妙な気配の大きい鉄の塊の匂いがする者を押し倒す。
これでしばらくは立ち上れないであろう。あとは跳躍しながら【
などと考えながら跳躍していると、先ほどから我に当てようとしている攻撃している者たちの片割れが奇妙なことをした。
「クルー!」
我を攻撃していた技を地面に向かって撃ち出したのだ。その祭に土煙が周囲に充満する。なるほど・・・これではうかつに攻撃できんな・・・
などと考えると思うか? 我くらいならば匂いと気配で見分けがつくわ。おそらく敵は我が攻撃してこないと油断しているはず。ならば敵の一人を葬るチャンスだ。首筋に牙を喰いこませてくれる。
二つの鉄の匂いがするが、一つはまだ倒れたままだ。ならばもう一つが先ほどから攻撃している者。今が好機!
「GAAAA!!」
最大速度で跳躍し、鉄の匂いのする者の首筋を狙う! 気付いて首を庇うために腕を防御に使うが、ならばその腕を戴くまで!
我の牙は鉄を貫き、奴の腕を喰いちぎらんと・・・!? おかしい! 肉の感触がない! どういうことだ!?
しかもこやつ! 噛みつかれたと言うのにそのまま我にしがみ付くではないか! 恐怖はないのか!?
そのまま鉄の匂いのする者は我の胴体に足を絡めて、しっかりと拘束したではないか!? それと同時にすさまじい重量が我の動きを阻害する!
何と言う重さだ! これを付けて戦闘をしていたのか! なんという力よ!
そのまま我は止まってしまい。周囲を敵六人と二体に囲まれて・・・まて、六人だと!? ならば我の動きを封じているこの鉄の匂いがする者はなんなのだ!?
我の疑問は次の瞬間に四人と二体の波状攻撃によって、無に帰した・・・・
◇ 【
俺達の目の前には【ブラストファングタイガー】のドロップ品である【衝撃牙虎の宝櫃】が転がり、片腕が粉々になった【ポルックス】ガードナー運用が直立していた。
「【ポルックス】ご苦労様だ。すまないな?無茶をさせた」
「・・・・」
ガードナー運用状態の【ポルックス】問題ないと言うようにヘルムを左右に振る。そのまま、ゲイルは礼を告げ紋章に【ポルックス】を戻した。
「ゲイルさんの<エンブリオ>はガードナーでもあるんですね」
「戦闘力は低いけどね」
それからこの【宝櫃】を彼らに渡そうとすると・・・
「それはお兄さんたちが貰ってください」
「ガルド?」
「ガルド君?」
ガルド君が意外なことを口にした。シルク君とタタン君も驚いている。
「あいつを倒せたのはお兄さんたちが居てくれたからだ。俺は何もできなかった・・・だから、それはお兄さんたちの物です」
「・・・ガルドの言う通りですね。私も同じ意見です」
「ぼ、僕も賛成です!」
三人がそう言うので、クエストクリアのためにこれを提出した後に貰うことで落ち着いた。
「あ、あとゲイルさん。迷惑をかけてすいませんでした!あと助言もありがとうございます!」
話し合いの後にガルド君はゲイルに謝り感謝を口にした。そんな彼に対して・・・
「いや、こちらこそ言い方が悪かった。すまなかったな」
「い、いえ!ああでも言わないと俺理解しなかったと思うし、問題ありません」
「そうか・・・よければクエストクリアを報告した後、フレンド登録してくれないか?もちろん二人も」
「は、ハイ!喜んで!」
「「お願します!」」
どうやらわだかまりもなくなりハッピーエンドかね?
「クル?」
「?どうかしたグリフ?」
そんな風に考えていると、グリフが何かに気付いたらしく戦闘の労いに撫でていたウッドから離れて茂みの中へと向かって行った。俺達はその後を追い、近くの木の根元を覗き込んでいるグリフが居た。覗き込んだ場所には・・・
「クル~」
「「「にゃ~」」」
三匹の赤い体毛の猫が居た。いやよく見れば薄い黒色の縞模様があるな? もしかして虎か?・・・なんかいやな予感がする。
「か、かわいい!」
「うわ~ちっちゃいなぁ~」
「おお!なんだこいつら!?」
シルクたち三人はトラたちの可愛さに喜んでいるが、俺はそんな考えはちっとも浮かばなかった。よく見ればゲイルとウッドも浮かない顔だ。どうやらこいつらがどういう立場かわかっている様だ。
「この子たちは生まれたばかりみたいですね?」
「親はどこに居るんだろう?」
「ってヤバくないか?親が来たら俺達襲われないか?」
三人は無邪気に虎の子供を構い、親が来ることを心配する。だが、それはありえんだろうな・・・
「その心配はないと思うぞ・・・」
「「「え?」」」
さすがにこれは伝えるべきだろう。先ほど嫌われ役をしたゲイルではなく、今度は俺が告げよう・・・残酷な事実を。
「多分・・・そいつらの親は俺達が倒したから」
「「「・・・・え?」」」
「「「にゃ~?」」」
三人の信じられない声と無邪気な虎の子供たちの鳴き声が空しく響いた・・・・
最後はちょっと悲しいお話ですね。この続きは次回です。