グランバニア王女異時空旅行記   作:ティムアル

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旅行前記2

 私は原因究明のためにまずは実情を把握しようと思った。話では祖父と父の境遇を大幅に変えてしまったそうだから、調べれば他にも世界に変化はあるだろうと踏んでのことだ。

 

 始めに、グランバニアへ訪れることにした。祖父の弟であるオジロン王と、父の従兄弟にあたるドリス姉さんは相変わらず健在のようで、特に姉さんは私を見ると久々に会いに来た孫のように可愛がってくれた。

 

 今の私とは血縁関係がないはずだけど、面倒見の良さが表れてまさに姉さんという呼称が相応しい。

 

「ポピー、なんだか雰囲気変わったんじゃない?」

 

「そうかな?」

 

 本当は「そうなの?」と聞きたいところだが、変に訝しまれても困るので誤魔化すまでに留める。

 

「そうよ。なんかこう、大雑把な感じになったわ」

 

 ああ、そうか。きっとこっちの私はもっと上品な感じなんだ。なんと言ってもあのマリアさんの娘だからね。

 

「ドリス姉様……?」

 

 ふと悪戯心が湧き上がったので、それっぽく言ってみる。

 するとドリス姉さんは少し唸って、

 

「こんなこと言うのもなんだけど、似合ってはないわね。いつものポピーではあるけど、無理してるって感じで」

 

 うーん、環境というものはこうも変化を与えてしまうのか。きっと纏う雰囲気からして大違いなんだろう。

 

「どういう心境の変化かしらないけど、歓迎するわ。ようこそ堕落の世界へ」

 

「堕落って言うより、ただ脱力して生きているように見えるけど」

 

 ドリス姉さんは王女なのにかなりフランクだ。きらびやかな生活を送りたいという思いとは裏腹に、窮屈さからは解き放たれたいという意志を持っているためだろうか。

 少なくとも私の知っている姉さんはそうだったはずだ。

 

「……それで、そろそろ触れた方がいいのかな、姉さんのその格好について」

 

 全身を覆うローブに、筒状に伸びた円帽子。赤で統一されたその装束はある種鮮やかと言えたが、装飾などの一切ないところを見ると素朴さがやや前に出る。

 その姿はまるで、聖職者のようだった。

 

「ああごめん、今仕事の休憩中だから」

 

「仕事? 姉さんって王女なんだよね?」

 

「あれ、言ってなかったっけ? 私、神官やってるんだ。その片手間で王女やってるって感じ」

 

 そう語る姉さん。グランバニアの王族ってそんなに暇してたっけ? と記憶を辿ってみるが、私と言えば小さい頃から両親を探すやら魔王を倒すやらで戦いに明け暮れてたからちゃんと王族として認められている気がしない。

 

 まあきっと、グランバニアでは許される話なのだろう。そう思うことにした。

 

 そして姉さんは「ついでだから見ていく?」と軽く誘って私を一階の住民フロアを抜けて、奥の祭壇へ連れ出した。

 

「っと、ようこそ悟りの地へ。大昔はダーマ神殿って場所で行われてたらしいけど、流石に城をそれ用に仕立て上げるわけにもいかないからね」

 

 石畳に余計なアクセントを加えない雰囲気はそのままに、鏡ややたらに大きな燭台が複数置かれて以前の教会とは違い物々しい感じがする。

 

「悟りの地?」

 

「えっとね、人には得手不得手ってものがあるじゃない? 何気なしに生きていればそれに引っ張られてしまうけど、ここではその境界線を取っ払って一つのことに専念して鍛錬を行えるようにするの。それを悟りって呼んでるのよ」

 

「へえ……よくわかんないけど」

 

「物は試し。ポピーも悟りを開いてみない?」

 

「うん。ちょっとやってみようかな、興味あるし」

 

「お待ちください!」

 

 乗り気になった私を遮ったのは、兵士の男性と魔法使い風のお爺さんだった。ああ、この人達のこと完全に忘れてた。

 

「ポピー、誰?」

 

 姉さんが私に顔を向けて指をさす。

 

「ラインハットから付き添いとしてお父さんにつけてもらった人達。兵士のピピンに、魔法研究の顧問ベネットさん」

 

 ピピンはともかく、ベネットお爺さんがラインハットにいたのは驚きだった。見向きもされていなかった彼の研究はここでは偉大なものとして評され、王国に引き抜かれるまでに至っていたのだ。

 年齢を考えると成果が実るのが遅すぎるとも考えられるが。

 

「ポピー姫にそのような怪しい秘術、むざむざ受けさせるわけには行きません!」

 

「まずはわしらに安全か確かめさせてもらうわい」

 

「えーっと……ポピーはそれでいいのかしら?」

 

「うん、なんかややこしくしてごめんね」

 

 二人とも過保護なんだよなぁ。前のポピーが何をしたのか知らないけど、私が旅に出るといったら真っ先に名乗り出たのが彼らだったんだよね。

 

 他にも立候補者はいたけど、行軍するわけじゃあるまいし、最終的に早い者勝ちってことで二人に決めた。

 

「じゃあ、始めるわね。……目を閉じて、心を鎮めてください。自ずと内に秘める炎が見えてくるでしょう。それがあなた自身。今からあなたは内なる自分と向き合い、新しいあなたに気づくのです」

 

 姉さんの指示に従いピピンは目を閉じて心を落ち着かせている。その間、姉さんは暇そうに欠伸をかいて「この口調やっぱ疲れるわねー」と呟いている。

 それでいいのか神官。

 

「さあ、もういいわよ。目を開けて」

 

「……何か見えた気がしますが、はっきりとは」

 

「本人は別にそれでいいのよ、私が全部見たから。えー、あなたは兵士なだけに誰かを守れる存在でありたいと願っている。今は特に特定の人物を」

 

 ピピンが一瞬びくっとする。「別にバラしたりしないから大丈夫よ」と姉さんが宥めれば彼は落ち着きを取り戻す。

 

「でも力だけでは大切な人を守りきれない。あなたは行き詰まりをも感じている」

 

 見抜かれたというように、ピピンの目が見開かれる。

 

「傷を癒やすこともまた守ること、そして時に非情に敵と相対せねばならない時もあるでしょう。だからあなたには治癒の魔法と、死の魔法が必要ね」

 

「死の、魔法……」

 

「それをどう使うかはあなた次第よ。じゃあ悟りを開くわね」

 

 祈りを捧げ始めた姉さんに呼応するように、ピピンの心臓辺りから光が放たれ、やがて天を衝くほどに輝きは増していった。

 

 暫くしてその光は細い一線に収束すると、次に瞬けばもう途切れてしまった。

 

「これであなたは『神官』として修練を積むことができるわ。それを存分に活かして守りたい人を守ってね」

 

 ドリス姉さんが最後にウインクをする。その行為は、王族としても神官としてもいかんのではないだろうか。とはいえ、

 

「姉さんって結構凄い人だったんだ」

 

「失礼ね。私だってダーマ神官になるために必死に頑張ったのよ。おかげで受け継がれてきた技術を潰えさせずに済んだし、世への貢献もばっちりじゃないかしら」

 

 いや、神官とかではなく、半ば人生相談みたいになってたし溢れる庇護のようなものは一体どのような頑張りで身につくものなのか。

 

「さて、次はそのお爺ちゃんね」

 

 ベネットさんも同様に事が進められる。

 

「魔法研究を行う上で、自身も魔法が使えた方が何かと捗るんじゃないかしら。これからは、『魔法使い』を名乗れるように祈っとくわ」

 

 見た目に変化はないが、二人の顔を見ていると内側で何かしらの変化があったことは想像できる。さて、最後は私の番か。

 

「姫は当然、『武闘家』ですよね」

 

「いつも鍛錬に励むのを見てますじゃ。しかしそれが実らないのが不憫で不憫で」

 

 まて、ここの私は武闘派なのか? いや、まだ志望の段階か。

 しかしおしとやかな癖に心の中は穏やかではないのか、暗雲立ち込めてるな。

 

「あ、やんないやんない! 直接殴るとか私無理だよ! えっと、そう! 諦めがついたんだっ」

 

「ご無理をなされて……このベネット、姫様の望みを直接叶えて差し上げられず不甲斐ない」

 

「無理してるとかじゃないよ、ほんとに! 魔法とかのが興味あるし!」

 

「姫はこんな時にもお優しい。しかしもう少し自分のことを大事になさってもいいのですよ」

 

「ああもうきりがない! 姉さん、ちゃちゃっと見ちゃって!」

 

「わ、わかったわ……」

 

 そして私はドリス姉さんの前に立ち、目を閉じた。

 

 しばらく心を落ち着かせているとふと、体が温かい海の中にいることにいることに気がついた。

 

 しかし真っ暗だ。

 ここはどこ。

 何か、明かりは。

 

 ぽっ、と炎が灯る音がする。

 

 青白く光るそれは儚く揺れて、でも力強くて。

 

(これが、私自身……)

 

 炎に手を伸ばした、その瞬間。何か記憶のようなものが私に流れ込んできた。

 

 私は理解した。いや思い出した。この事態に陥った経緯さえ全て。

 

 しかし目を開けるとぼんやりとして、記憶は曖昧になってしまった。全部、わかったのに。

 

「うん、ポピーは中々に魔法が得意みたいね。そして魔物や動物とも心を通わせることができる。自然と同調できるということは、魔法を扱うことにも同等の感性を持っているわ」

 

「うん」

 

 確かに鳥とかとよく話をすることもある。魔法だけなら、戦うこともできるし。

 

「でもそれ故に、繊細さがほしいところね。もちろん魔法に対してのよ」

 

 姉さんは「性格に関しては直しようがなさそうだから」と続ける。余計なお世話だ。

 

「ここは一からやり直して『魔法使い』なんてどうかしら。修了の頃にはきっと今以上に魔法が洗練されているはずよ」

 

 そう聞いて私は思わず振り返って「ほらね!」と示すが「そんなはずは……」「おいたわしや……」と取り合ってもらえない。おいたわしくはないよ。

 

「念の為に聞いておくんだけど、私の希望も叶えてくれたりするの? 例えば『武闘家』になりたいとか」

 

「できるわよ。やっとく?」

 

「ううん、『魔法使い』でいいや」

 

 二人にはなんとなく申し訳ないけど、武術を極めた私なんて想像できないからね。




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