グランバニア王女異時空旅行記 作:ティムアル
「そういえば、料金とかは?」
「んー、今回は友人としてサービスってことでタダでいいわ」
「ほんとに!?」
「うそうそ。というかお金は一切もらわないことにしてるのよ。あくまで慈善事業だし。グランバニアに観光客を呼び込むためでもあるし」
「あー……じゃあこれ知らないのひょっとして私くらい?」
グランバニアに来る前にヘンリーおじさんも教えてくれればいいのに自分の目で確かめてこいなんて言うからなあ。
先程まで嘆いていた付き添いの二人は思いの外復活が早く姫様のご決断ならば有無を言わずついていくのみ! とか言って意気込んでいる。
なんか、責任感じちゃうなぁ。
そうして私達はグランバニアを発つことにした。『悟り』のようないい経験もできたし、やり残したことはない。
出発する前に姉さんから一国の王女がふらふらしているのは危ないとのことで、髪の色くらい変えるようにと助言を受けた。
なんとなく青か黒が似合いそうと言われたので目立ちにくい黒を選んだ。お父さんと同じ色っていうのもある。
そうしたら『黒髪の悟り』を開くなどと言って祈りを込めて私の髪色を変えてしまった。
そんなことまでできるんだと、悟りの汎用性の高さに舌を巻かざるを得ない。
所変わって、火山地帯の近隣に存在する何とも危険な街サラボナ。
兵士と行動しているなんていかにも怪しいのでピピンを本格的に神官っぽくコーディネートしている時。
「ちょっとあんた」
ふいに呼び止められる。突然のことに私のことかわからず戸惑っているとその人はじっと数秒見つめてきてこう言った。
「やっぱりなんでもないわ。呼び止めて悪かったわね」
ボリュームたっぷりにカールした黒髪の綺麗な女性は、かつて母と共に父を争ったというデボラさんだった。
「あ、あの……」
「何? あ、もしかして知り合いだった? どこかで会ったことある気がしたのよね」
「えっと……」
どうやら向こうに明確な面識はないみたいだ。ここはどう出るべきか。
「よかったら上がっていく? 私の家、すぐそこだから」
「あ、はい。お邪魔します」
私の知ってる彼女とは違い、少し物柔らかな印象を受ける。そのせいか、つい誘いを受けてしまった。
「ポピー姫、よろしいのですか?」
ピピンが小声で聞いてくる。
「うん。きっと心配ないよ」
私の身元が知られたら少し面倒なことになりそうだけど、それでも弁解の余地はあると思う。
「……で、名前は何ていうの?」
「ポピレアです」
「ポピレア、ねぇ。アルカパ辺りの子かしら」
「いえ、辺境の生まれですので」
「ああ、孤島の集落の所ね。一度しか訪れなかったから顔までは覚えていなかったわ。ごめんなさいね」
「あ、いえ……」
なんだか勘違いをしてくれているので、話を合わせておけば誤魔化すことができそうだ。デボラさんは「それにしても……」と私を上から下まで眺め回す。
「なんだか他人とは思えないわ。例えるなら……将来生まれるはずの娘、みたいな感じかしら」
「わしが来た途端に孫の話をして、どういう嫌がらせだ? お前が早く相手を決めねば孫の顔は生涯見られないというのに……」
奥から現れた男性は彼女の父であるルドマンさん。人間界きっての大富豪の彼はラフな部屋着姿で怪訝そうに果実酒の入ったグラスを傾ける。
「孫なら今にフローラが頑張ってくれるはずよ。たぶん」
「あれは旦那の方に問題があるからな……先が思いやられる」
そしてそのまま、彼らは話に没頭してしまう。
未だに孫の姿を拝めないことを嘆くルドマンさん。
デボラさんの候補は引く手数多だそうが、肝心な本人の選り好みする性格は健在で、進展はないとか。しかし性格のせいで誰も寄り付かないあのデボラさんよりはマシなのではないだろうか。
次女の家庭は二人の時間を大切にしたいだとかで十数年。両親は心を揉むばかりだが、いつまでも変わらない二人の関係、それも素敵な愛の形かなと子供ながらに思ったり。
「……ああ、放ったらかしにしてしまったわね」
「大丈夫です!」
私、待つのには慣れてるから。待つだけじゃなく、根気強く探すのもね。
「ここへは観光へ来たの?」
「はい」
「おお、それならば存分に寛いでいくといい。温泉も水浴場も何でも揃っているからな」
温泉。そういえばこの街の外観がかなり変わっていたから、私の知らない施設があるのかもしれない。
「来たばかりだとここのことあまり知らないでしょ。良かったら案内するわ」
「ありがとうございます!」
さて、こうして街へ駆り出されたわけだが、サラボナは以前にも増して賑わいを見せていた。中には水着のままで歩く家族連れもいて何事かと思わせるほどだ。
「今ではこのサラボナそのものが、パパの手によって大型商業施設に生まれ変わってしまったわ」
「あー、あのやたら大きい建物ですか」
「ええ。そしてその実態は温泉と水浴場が一体になった今までにないレジャー施設よ。様々な環境と香りで温泉が楽しめ、水浴場には子供も楽しめるアトラクションが用意されているの。これによって幅広い年齢層から顧客を集めているわ」
ルドマンさんは豪商と聞くから、現実でもこれくらいしてもおかしくないだろう。
「屋内には雑貨や記念品も売ってるから帰り際に買っていけるし、あらゆる点で死角なしよ」
以前にカジノを大型船に建設する斬新な事業を行ったルドマンさんだが、今度は火山の地熱を利用することに目をつけたらしい。
「あらデボラ姉さん」
「おはようフローラ。今朝は騒がしいわね、どうかした?」
清らかな青い髪の女性が、急いだ様子で歩いてくる。彼女はその途中で姉の存在に気づき足を止めたようだ。
「はい。私の水晶玉に反応が」
「それは、勇者が近くにいるということかしら?」
「定かではありませんが……あら? その子は……」
視線が、私に向けられる。
「ポピレアといいます! デボラさんとは故郷でお世話になりました!」
「ポピレアちゃん……何か、不思議な力を感じます」
フローラさんは私から何かを感じ取るように、眉間にシワを寄せる。なんだと言うんだろう。
それに、勇者という言葉も気になる。兄さんのことではないのか。知られていないということは魔王すら存在しない世界だったのか。
「もしかして、ポピレアがー―」
「少し、違う気がします。ですが、探している人物ではあるかもしれません。後ろのお二人も」
「えっと、話が見えないんですが……」
「フローラ、説明が足りないわ」
「あっ、ごめんなさい。実は……勇者と導かれし7人の仲間を探せとのお告げがあったのです」
「勇者だなんて伝記じゃあるまいし何かの冗談だと思ったけど、生憎フローラの占いって外れたことないのよね」
勇者を探せ。昔お父さんも同じことを言われたことがあったらしい。それは魔界にいるおばあちゃんを救うために紡がれた言葉ではあったけど、事態の大本には魔王がいた。
勇者という言葉のその裏にあるのはやはり魔王か。
平和だと思ってたここは、魔王が討伐された後ではなくら未だに訪れていない世界だったのだろうか。
「勇者と7人の仲間……それを探してどうするんですか?」
「それは、勇者様のお力が必要になったかとしか……いずれ来る災厄に備えて強き意志の持ち主を探せ、と」
「でも肝心の勇者がどこにいるか検討もつかないのよね。そんな大事な勇者サマがぽっと湧き出るようなものでもないと思うから、どっかで隠れて暮らしてたりするのかしら」
災厄、それと居場所のわからない勇者。勇者が私の兄ならばまだ見つけやすいが……過去に行った私は一体何をしてきたんだ。
まるで脅威は去っていないじゃないか。
「……俯いちゃって、気分でも悪い?」
「いえ、勇者に少し心当たりが。場所まではわかりませんが」
「本当ですか! ……押し付けがましいですが、探すのを手伝っては下さいませんか? 私達二人では、どうにも手が足りなくて」
「分かりました。私も無関係ではないようですし、可能な限り協力させていただきます」
責任も、取らなければならないだろう。
「ありがとうございます。私にはこの水晶がありますので、手分けして探しましょう」
ティムアル兄さん、あの場所にいるといいけど。
観光旅行パート1