グランバニア王女異時空旅行記   作:ティムアル

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旅行前記5

 私達は祖父に連れられ、さらにさらに北上し川を越えてうす暗い洞窟へとやってきた。

 

 ここは確か、以前にお父さんと訪れた場所だ。最奥には古ぼけてはいたがこの上なく上質なマントが納められていたのを覚えている。

 しかし中は既に魔物の根城となっており、お父さんでさえ苦戦を強いられるような精強なモンスター達が跋扈していた。

 

 魔物がいるのはここでも同じようだが、外でもそうだったように弱い者ばかりしか見受けられない。嵐の前の静けさとは、こういうことなのだろうか。

 

 で、ここに来た理由は奥にある勇者の武具を取りにきたためだとおじいちゃん。

 勇者の到来を待ち望んでいたらしい祖父は、その人物を探す私達の存在に内心歓喜したようだ。顔には出てないけど。

 

 そして私達には道中の魔物の掃討を頼むと言われた。しかし悟りの副作用か、こと戦闘では動きが鈍くなる今の私達では却って祖父の邪魔になってしまう。おじいちゃんなら一撃でここらの魔物を葬れるだろうし。

 

 そう返したらなんと祖父も「戦士」の悟りを開いていたらしく、本調子を出せず困っているのだという。

 

「どうも胡散臭い話だったが、彼女の言葉は私の心理を突いたものだったのでな」

 

 仕方なしに引き受ければ今の体に。しかしこうして初心に帰ることも鍛錬になると剣を振るう祖父の堅実さには頭が下がるばかりだ。

 私は彼に倣いメラをそこらで走り回るアルミラージに放っていく。素早く捉えにくいが、火球を三発ほど当ててやればすぐに動かなくなった。

 

 しかし数が多いな。これだけ魔物が部屋を埋め尽くしていたら一人で対処するのは大変だっただろう。

 

「姫、お怪我を……!」

 

「これくらい平気だよっ」

 

 ピピンが脚の擦り傷を見つけて気遣ってくれるが、この程度本当になんでもない。魔界ではもっと大変だったから。

 しかし見兼ねたのか慣れないホイミで治療をしてくれるピピン。お礼は言っておくけど、魔力の節約はちゃんとしてね。

 

 

 体を動かしている内に、段々と魔法の使い方を理解してきた。まあ魔法を使うだけなら前もできたけど、今度のは閃きに近いというか、その型を理解しているというか、不思議な感覚だ。

 

 これも悟りによるものだろうか、そんなことを自分の発したメラミが着弾するのを見届けながら考える。

 すると物陰から現れたベビーパンサーが土煙に紛れて私に襲いかかる。身を屈むよりも前に私の口から呪文が出た。放たれるは眠りの魔法。

 

 ラリホーはすぐに効果を示したが、ベビーパンサーの勢いは収まらない。まあ、空中だったしね。

 

「むぐっ!」

 

 私の顔に程よく柔らかい腹が当たる。ふかふかだ。

 

 すぐに心配して駆け寄るピピンたち。私は無事だよ、倒れて後頭部を強打したのと爪があたって怪我したのを除けばね。

 

 

「いてて……ホイミじゃ痛みまでは引かないみたいだね」

 

「力及ばず、申し訳ありません。しかしあの憎き獣は私が仕留めてみせます。しばしお待ちを!」

 

 そう言ってピピンは地に横たわるベビーパンサーへ向けて「ザラキ!」と勢いよく唱えていく。それを受けた豹の子は死の眠りへと誘われていったようだ。

 

「ピピンはさっきからそればっかり使ってるよね」

 

「敵を手っ取り早く片付けることで姫……いえ、皆さんに危害が及ぶ危険性を減らしているのです」

 

「へえ……」

 

 ピピンなりに考えての行動だったんだなぁ。……どう見ても楽しんでるみたいだけど。

 

 そうして、なみいる魔物の群れを祖父と共になぎ倒していくピピンを眺めながら、私達は奥へ奥へと進んでいく。

 

 

 進むほど魔物は強くなっていくようで、戦闘の勘を取り戻しつつあるとはいえ私達は苦戦を強いられていた。

 

 広範囲に撒き散らせるようになった火炎の魔法で徒党を組むマドハンドを対処しながら、隙あればおじいちゃんやピピンと対峙する屈強なボストロールへ火球を投げつける。

 

 ここまでくるといよいよ息が上がってきた。ベネットお爺ちゃんは私達の間で休憩中だし。

 

 そしてよくよく聞くとこの管理体制は祖父が祖母の協力を得ながら作ったとのことらしい。

 

「……え、魔物が勇者の武具を守ってるの!?」

 

「うむ。これだけの数ならば安々と賊を撃退できるだろう。それに侵入者がいればマーサに連絡がいき、すぐさま私が駆けつけられるようになっているのだ」

 

「ふーん、よく出来てるんだなぁ……」

 

 じゃあ管理者用に抜け道とかないのかと聞いたが、万が一利用されても困るので無いと即時に返された。

 本当だったら一人でこれだけの数を相手して進むつもりだったのか、流石だ。

 

 

 そして最終層と言われ辿り着いた先にいたのは一体の機械兵と祭壇に刺さる剣、それから防具一式だった。

 

「キラーマシン!? 魔界の魔物までいるんだ?」

 

「ザラキ!」

 

 ピピンが前に出て死の呪文を唱える。見たところ何も起こっていないようだけど。

 

「効かないよ、ピピン……」

 

「まだまだっ、ザラキ!」

 

 しかしなおもキラーマシンに変化は見られない。そして三度目のザラキでようやくピピンも「そんな……」と状況を理解したようだ。

 むしろ即死の魔法がこんな重要な立ち位置の番人に効いたときの危険性を考えてほしいよ。

 

「ピピピ、ガーッ!」

 

 天空の守護者ことキラーマシンは既に私達をターゲットと捉えたようで、攻撃の体勢に入ってしまった。

 

 キラーマシンの左腕から矢が弾き出されて足元に突き刺さる。続けて矢が数本放たれるが、おじいちゃんが剣で全て叩き折ってしまった。すごい。

 

 そのまま斬りかかっていく祖父に合わせてキラーマシンも曲刀のような得物を振り下ろす。鍔迫り合いの最中、クロスボウ状になった左腕を祖父の腹に向けてキリキリと弦を張る。

 

「このっ!」

 

 すかさずピピンが槍を腕に突き刺して上に逸らした。暴発した矢が天井にぶち当たって石の破片が落ちてくる。凄まじい威力だ。

 

 そして攻撃を妨げられ激昂したらしいキラーマシンは弓を連続で引き辺り一帯を破壊し始める。

 

「うぐっ……」

 

「ピピン!」

 

 流れ弾から私とベネットさんを守るためにピピンが庇ってくれたが、肩と太ももに矢を受けてしまった。深々と抉られた傷は、見ているだけでも痛い。

 

「私のことは構わずパパス殿を……!」

 

 彼の言葉に祖父を見れば、攻勢の激しい敵に対して防戦一方な姿が映った。私達を庇うために矢を素手で掴んではその手を血塗れにしている。

 私、完全に足手まといになってる。

 

「これ以上は……」

 

 おじいちゃん一人に任せるわけにはいかない。私は立ち上がり、杖を前に掲げた。

 

「おじいちゃんっ!」

 

 私の声に、祖父は視線を僅かにこちらへ向けると横へ跳んだ。そして唱えるのはメラゾーマ。熱量の高い火球は着弾とともに大きな音を立て火柱を上げる。

 

 しかしキラーマシンはいとも容易くそれを躱し、ボウガンを引き絞る。そうはさせまいと私は続けざまにベギラゴンを唱え魔物を火の海に放り込む。

 

 それでもキラーマシンは余裕を見せるように、炎の中から矢を放ってきた。だがベネットさんのヒャドがそれを阻む。

 

「ありがとう!」

 

 彼のおかげで、次の呪文にすぐさま移ることができる。ベネットお爺ちゃんは矢一本しか防げないことを恥じていたが、十分だ。ヒャドを攻撃以外で使うなんて発想も私からしては目から鱗だし。

 

「ルカナン!」

 

 軟化の魔法をキラーマシンに、特に左肩辺りを中心にかける。途端に硬そうだった金属部分が緩む様子が見える。

 その反撃とばかりにキラーマシンはボウガンを私に向けた。

 

 しかし流石にもう、魔力が尽きた。

 道中もそうだが、今の連発は結構堪えたな。

 ベネットさんもすぐにはヒャドを放てないようだし、矢を防ぐ術がない。

 

 放たれた矢は、私目掛けて飛ぶ。

 

 時間の流れが、遅く感じる。矢がゆっくりと私との距離を近づけていく。

 

 そして……

 そして矢は私の、足元へと落ちた。

 

「ガッ!」

 

 機械兵の左肩から下は、背後から襲った祖父によって切り落とされ、切断部から火花を散らしていた。

 

「無事かっ! ポピー王女!」

 

「うん、間一髪ね……」

 

 内心、死ぬかと思った。おじいちゃんがもう少し遅ければどうなっていたか分からない。

 

 しかしこれで、キラーマシンは凶悪な武器を一つ失った。これでぐっと戦いやすくなる、そう思った矢先、

 

「ガーッ! ピッ! ガガッ!」

 

 突然キラーマシンは上半身部分を高速で回転させ、奇怪な音を発する。守護者が暴走って管理どうなってるの!

 

 そして一番の脅威はキラーマシンのその目から熱線が放たれたことだ。当てられた地面は焼き切られ、切り口が赤々と熱を放っている。

 

 今も暴走を続ける殺人兵器は、やけに明るくなった室内で憤りを滲ませるように赤い目を光らせた。




インフレーションの末…

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