グランバニア王女異時空旅行記   作:ティムアル

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旅行前記6

 キラーマシンは、ひとしきり目から火を吹いたあと休息とばかりにその場で動かなくなった。

 しかしどうやら力を蓄えているような雰囲気で、機能を停止したわけではなさそうだ。

 

 次の手が来る前に、倒すか頭部を破壊するかしなければ全滅もあり得るだろう。だが、エネルギー切れかと思えばその機械兵は強襲した祖父の剣を今も難なく捌いているため、好機が来たわけではなさそうだった。

 

 さらに祖父が一撃加える間に相手は二度曲刀を振り下ろすため、戦闘能力は上がっているようだ。

 

 しかし向こうが剣にだけ集中しているのならば、私もやりやすい。

 

 少しだけ、深呼吸をする。魔力はあまり戻っていないけど、やるしかない。

 

「ルカニ!」

 

 今度はキラーマシンの右腕の関節部分を軟化させる。あれだけ激しく動いていればそれだけで自壊してくれるに違いない。あるいは、

 

「はあぁッ!」

 

 おじいちゃんの剣が相手の得物に激しくぶつかれば、そこから伝わった衝撃がそこに大きな負荷を与えてくれるはずだ。

 

 そして祖父の猛攻の末、音を立ててキラーマシンの腕は崩れ落ちた。残るは目だけだ。

 

 祖父もそう思ったのか、剣を突き出してキラーマシンの頭部を狙う。が、キラーマシンは予備動作なく、目から細い光線を放って彼の肩を撃った。

 

「うっ……」

 

 祖父の手から剣がこぼれ落ち、カランと金属音が響く。何らかのチャージが必要だと思い込んでいたあの攻撃に小出しするような使い方があったとは、機械兵の狡猾な一手に歯噛みするばかりだ。

 そして続けて膝も負傷させた戦士を前にキラーマシンは、どこか余裕を含んだ動作で目に光を集めていく。

 

 このままでは祖父が撃たれてしまう。私は必死でメラミを放つも、あまり効果を為していないようで、炎は金属の体に弾かれる。

 

 どうすれば、奴を止められる?

 

 走って助けに行こうにも、私が何かできるわけでもなければ足場は先の熱線でボロボロだ。とても走れる環境じゃない。

 無事なのは勇者の武具から向こう側の床と壁のみである。

 

「……? そういえばどうしてあそこだけ……」

 

 そう呟いて理解した。理解してすぐ走り出した。先程は走れる環境じゃないと称したが訂正する。無理しなければ(・・・・・・・)走れる環境じゃない。

 

 私はその途中で、何度も転んだ。赤々と熱された地面が私の腕や足を焼いたが、構わず走った。目標は兜。その裏が安全ということは、その防御力を考えても確信を持てるだろう。

 

 そこへ祖父を連れ出せれば、今回は無事でいられるだろう。

 

 しかし私が兜の元へ辿り着く寸前、発射間近だったキラーマシンがこちらを振り向く。

 

「ギラ」

 

 放った小さな火炎がキラーマシンの頭部に纏わりつき、視界を遮る。それにより野太い光線が直後にあらぬ方向へと飛んでいく。

 

「まあ、仮にも守護してるんだし、そういう行動に出るよね」

 

 勇者の武具が無傷で、明らかに意図的にそれらを避けて攻撃していたところを見ると、この機械兵は守るべき対象を認識している。

 ならばその対象が狙われたときの対応は、一つしかないはずだ。

 

 私は光線が収まるのを待ち、止んだ瞬間にすかさず杖の先端をキラーマシンの目に叩きつける。カツ、と軽い音がなる。

 

「通っ……れっ!」

 

 杖を押し込んでいき、ルカニをかけてやれば僅かにヒビが入る。

 

「もう少し……!」

 

 その目からまたしても光線が発射され、私の頬を掠める。大丈夫、射線はある程度私が操作できる。

 

「これで……終わりっ!」

 

 私は体に残っていた魔力をかき集め、何とか練り上げると、キラーマシンの後頭部めがけて爆裂魔法を放った。

 

「イオっ!」

 

 がくんと衝撃が伝われば、痛みに耐えなければならないのはどうやら私らしかった。焼けた腕に走る激しい疼痛を無視しながら二度目の爆発に合わせて杖を押し込む。

 

 パキ、と割れる音が聞こえればキラーマシンは活動を止め、膝から崩れ落ちた。

 

「終わった……」

 

 急激に襲ってきた脱力感から私はその場で座り込んでしまう。今まで私がいかに人に頼って戦いをこなしてきたか思い知った。

 

 それから私はおもむろに袋から青色の石を取り出して祈りを込める。ほんの少しだが、疲労と傷が回復したように感じる。

 賢者の石は念じればそれを触媒に身体の内側から肉が再生していく優れ物だが、過去へ行くため色々準備している中の荷物に入っていたようだ。

 

「どうにか片付いたようだな」

 

「おじいちゃん、平気?」

 

「うむ。その石が私の傷をも癒やしてくれたようだ」

 

 傷がないことを確認するように肩を押さえる祖父。彼だけでなく、ピピンも無事だったようだ。しかしその側には人間大の気になる箱が一つ存在した。

 

「えっと、その棺桶は?」

 

「ベネット殿が私を庇い、息絶えてしまわれましたが聖なる加護による処置はどうにか間に合いました。これならば教会にて魂を喚び戻してもらえるはずです」

 

 ピピンの話によれば、人は死ぬとその肉体を急激に風化させてしまうらしいが、その前に外界の影響を受けなくなるという神聖な棺桶に入れてしまえば、還魂の処置により生き返らせることが可能だという。

 

 人はすぐに屍になる。そうなってからでは魂が戻るべき場所を失い、二度と還ってくることはないのだ。

 

「さて、もはや気づいてはいるだろうが、そこにあるのがかつて勇者が身に纏いし武具たちだ」

 

 思わず会話に花を咲かせてしまった私達を遮り、おじいちゃんが祭壇の上を指し示す。

 

「当然ではあるが、これらは勇者にしか身につけることができない。故に特定の人物を探すにこれほど優れた道具はあるまい。この装備があれば四手に分かれて人探しが出来よう」

 

「なるほど」

 

 お父さんも勇者の剣を携えて勇者探しのために各地を旅していたらしいし、理には適っているのだろうか。

 

 その後魔力の回復した私は洞窟から帰還する魔法を唱え、村へ飛んで帰ってきた。ベネットお爺ちゃんもきちんと蘇生してもらっている。

 

「大変だったねポピー。後でゆっくり休むといい」

 

「う、うん」

 

 このお父さん、優しさは変わらないけどなんか変な感じ。私をどういう対象で見ているかによってちょっと雰囲気が変わるみたいだ。

 

「それで、これからは僕、サンチョ、父さん、それと君達の四つに分かれて勇者を探すことになったよ。ああ、サラボナの占い師って人を数えると五つかな」

 

「こんなに協力してもらっちゃって……ありがとう、お父さん」

 

「うん。僕には他にも探すものがあるし、気にしないで」

 

 頭の上にポンと手を置かれる。急にお父さんらしく振る舞わなくても……なんだかもどかしい気持ちだ。

 

 

 体の疲労感が限界まで達し、その場で眠りに落ちてしまった私。目を覚ましてブランケットがかけられていることに気づく。横ではお父さんが微笑みを交わして祖父と話をしていた。

 

 ふと、サンチョの姿がないことを疑問に思うと、街へ出かけていったと教えてくれた。

 なんでもこれからの旅に船がどうしても必要になってくるとの話で、そのための資金を単独で稼ぎに行ったらしい。

 

 商人の悟りを開いたらしいサンチョは、武器商を展開して稼ぎ込むのだという。ここのところずっと商売をしたい欲に駆られていた彼は、客の中に勇者がいないか探しながら居座るつもりとのこと。

 

 船を買うだなんてかなり時間がかかるのではないかと訊くと、倒した魔物が落とした鉄の槍やら兜が大量に保管してあるそうで、船の方も造船関係の知り合いがいるらしく資金面はある程度抑えが利くらしい。

 

 旅先で魔物から戦利品を得ることもあるだろうから、サンチョに渡せば利益のある程度を貰い路銀に充てることができる。良い関係性だ。

 薬や羽でも構わないが、魔物が力を増しいていく中で住民の防衛の意識が高まる今が武器屋の儲け時、らしい。

 

 しかし船が用意できるまではやはり少しかかりそうなので、一度フローラさん達の元へ訪れてみようと私は早速ルーラを唱えた。

 

 そこには、まるで祭りが行われる前の喧騒が響いていた。




魔物達にこんな酷なことをさせるのは誰なんですかねぇ…(すっとぼけ)

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