夢の守り人の人理修復   作:クウキ

2 / 3
初投稿から時間かかった挙句、今回あまり話進んでなくてすみません。
時間確保出来たので、今度こそは近いうちに投稿出来るかと思われます。


2話 新たな出会い

 冬木市。

 周りを山地と海に囲われているその土地は、時期が時期ならとてものどかで過ごしやすい場所だったのだろう。

 ──現在、その町は目を覆う様な災害に襲われていた。

 

 

 

 

「フォーウ? フォウ、フォーウ!」

「……またこのパターンかよ」

 

 頰に伝う、覚えのある感触と呼び声に意識を引き戻される。

 瞼を擦りながら、倒れていた男──乾巧は起き上がった。

 

 何となく辺りを見回す。

 そこは先ほどまで居た火の海に包まれた一室ではない、完全なる外界──尤も、火の海、という点では同じだった。

 

 元はどこかの街だったのだろう。

 だが、街を形作っていたであろう街並みは今や見るも無残な姿となっている。

 

 街一帯を覆う炎はとどまる事を知らずに燃え続け、電柱やビルはまるで大地震でも来たかの様に倒壊している。

 

「暑っ……」

 

 今更ながらに、巧は自分の格好を自覚する。

 厚手の黒いコートにセーター。明らかに周りで火が燃え盛っている今の気温──というか、温度環境に適してはいない。

 どうりで蒸し暑く感じるわけだ、と巧はコートを脱ぐとそれをもういらんと言わんばかりに放り投げ──様とする手を直前で止め、少し形を整えた後に左手に掛け直した。

 

「マシュは、一緒じゃなかったのか?」

「フォーウ……」

 

 何を考えるにしても、いの一番に気になったのはマシュの事だった。

 しかし、巧の問いにフォウはか細い鳴き声と共に首を横に振る。

 

「……そうか」

 

 あの怪我では助からないというのは素人の巧にも明白だ。

 覚悟していた事ではあった。

 あったにしても──乾巧にとって、それは耐えきれない事だった。

 

「どこかにマシュがいるかもしれねぇ」

 

 それでも、ここで立ち止まりたくない。

 そう決意した巧はフォウと共に、荒れ果てた街の中にへと進んでいく。

 

 

 ──のだが。

 

 

 最初に感じ取ったのは、一定のリズムを保って鳴っている軽快な音か、それともそのあまりにも異質すぎる光景か。

 巧の前方、数十メートル先にそれはいた。

 赤黒い骨「だけ」で形作られている人型のそれが数匹。

 群れをなし、巧の方へ向かってきているのだ。

 

「んだよ、あれ……」

 

 申し訳程度に羽織っている布切れの隙間から見える「中身」は、明らかに骨だけ。

 骸骨の群れは、ケタケタと笑いながら巧達を囲っている。

 

 生に足掻く自分達を笑っているのだろうか。

 そんな事を考える余裕がある自分に対して巧は内心驚いていた。

 

「……なんだ、この感じ」

 

 明らかに常軌を逸した存在。だというのに、巧はどこか冷静にそれらを受け入れていた。

 そう、まるでそんな異常事態に慣れているかの様に。

 

 むしろ、自分はそんな異常を打ち倒す存在だったのではないかとまで思えてくる。

 

「って、んな訳ねえか──とにかく逃げるぞ!」

「フォウ!」

 

 直感的に感じたそれを妄想と切り捨て、来た道を走って戻る。

 明らかに危険な存在に、巧は戦闘ではなく逃走を選んだ。

 

 当然だ、危険な相手にわざわざ戦いを挑む道理はない。

 当然なのだが、何分相手が悪かった。

 

「なっ」

 

 巧の耳に風を切る音が届いた刹那、右腿に激痛が走る。

 

「クソ、痛ぇ……!」

 

 体勢を崩し、走っていた勢いのままに身体が地面を滑った。

 痛い、痛い。熱い鉄棒を当てられているかの様な感覚。

 

 足に目をやると、履いていたズボンの一部を破られ、そこから流血している。

 後方を見てみれば、構えていた弓を下ろしている骸骨の姿が見られる。おそらくその個体の弓によるものなのだろう。

 

「ッ、くそ……!」

 

 その隙を見逃す相手でもなく、骨人形達は巧との距離をジリジリと詰めてきている。

 わざわざ弓を使わずに近付いてくる辺り、本当に悪趣味な奴らである、と巧は思う。

 

 立ち上がろうにも、激痛からうまく足を動かす事も出来そうにない。

 逃走はおろか抵抗することまで難しいだろう。

 

 ──ここで死ぬ。

 そんな予感が、巧の脳裏をよぎった。

 

「フー……!」

「馬鹿、早く逃げろ!」

 

 巧の一歩前に出て、フォウが威嚇する。

 それを制止させる巧だが既に時遅し。

 

 近付いてきた骸骨の一体がフォウに対して剣を振るい──

 

「──ご無事ですか! 先輩、フォウさん!」

 

 ガキィン、と。

 明らかに生物を斬る音ではない、金属同士が擦れる音を響かせ。

 骨人形と巧達の間に、割り込んだ存在がいた。

 

 所々を露出させているものの、ほぼ全身を覆っている濃紫の鎧。

 それを纏った「彼女」は、華奢で小柄な身体には似合わない大盾を構えている。

 

 巧にはその武装は見覚えがなくとも、彼女の髪色には見覚えがあった。

 忘れる筈もない。

 つい先程まで共にいた彼女と同じものだったのだから。

 

「お前……マシュ、か?」

「はい、ですが説明は後ほど。マシュ・キリエライト、これよりマスター・乾巧の救助に入ります!」

 

 平然とした様子で答えながら、襲いかかってきた骸骨に勢いよく盾を激突させる事で逆に跳ね返す。

 

 見た目からでも相当の重量を備えているであろうそれを、まるで中身をパンパンに詰めたバッグを振り回しているその光景。

 

 先ほどまでの弱々しかったマシュと、今のマシュとのあまりにも乖離している光景。

 脳が錯覚を起こしていると言われても、今なら納得できるだろう。

 

「ふっ! やあっ!」

 

 一騎当千。その戦闘を一言で表すならそれだ。

 

 骨人形の振るう剣を軽々と盾で押し返し、隙を作ったところですかさず盾を振るって粉砕。

 

 遠くから弓を構える骨人形に対しては、脚力のみで詰め寄り、勢いを乗せた盾の一撃でまた粉砕。

 

 まだ動きに拙さはあるものの、身体能力のスペック差が勝敗を物語っていた。

 隊列を組む知性もない、ただ群がっていた骨人形達は、為す術なくその身体を粉々にされるだけだ。

 

「これで、最後!!」

 

 そうして最後の骨人形にトドメを刺し、戦闘は終わりを迎える。

 初の戦闘が無事に終わった事に安心して一息付いた後、マシュは巧の方へと向き直った。

 

「先輩、お怪我はありませんか?」

「……それ、お前にも言えることだろ」

 

 なんともない様に立ち上がりながら、巧が言う。

 そう。マシュはあの不気味な骸骨達と果敢に戦っていた。

 先ほどまで瓦礫の下敷きになっていた彼女が、だ。

 

「それは──」

『ああ、やっと繋がった! もしもし、こちらカルデア管制室だ! 聞こえているかい!?』

「……ロマニ?」

 

 自分の身に起こった出来事について説明しようとしたマシュの声を遮ったのは、巧にとっても聞き覚えのある声だった。

 突然空中に浮かび上がった映像に、先程出会ったドクター・ロマニが映し出される。

 

「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。現在、特異点Fにシフト完了しました。

 同伴者は乾巧1名、心身共に異常はありません。

 レイシフト適応、マスター適応ともに良好。彼を正式な調査員として登録してください」

『……やはり巧くんもレイシフトに巻き込まれていたのか。コフィンなしでよく意味消失に耐えてくれた。それは嬉しい』

 

 レイシフトという単語はギリギリ脳内に引っかかる程度には記憶に残っていたが、それ以外の専門的な単語はもう巧にチンプンカンプンだった。

 

『しかし、マシュ……君が無事なのも嬉しいんだけど、その格好はどういうコトなんだい!? 

 ハレンチすぎる、僕はそんな子に育てた覚えはないぞ!?』

「……これは、変身したのです。カルデアの制服では先輩を守れなかったので」

『変身……? 何言ってるんだマシュ。

 頭でも打ったのか? それとも、やっぱりさっきので──』

「──ドクター・ロマン。ちょっと、黙って」

 

 一見コントの様なやり取りだが、どうやら大真面目に言っているらしいマシュの怒気を込めた冷徹な言葉。

 効果はてきめんだった様で、一瞬で口を塞いだロマニを確認してマシュが話し始めた。

 

「わたしの状態をチェックしてみて下さい。それで──」

 

 マシュとロマニの横で、巧は瓦礫に腰掛けて物思いにふけっていた。

 

 先程の会話でマシュが何気なく発してた「変身」という言葉。

 それが妙に聞き覚えのある「懐かしい言葉」だった気がして、しかし何故そう思ったのかは巧にも理解が出来なかった。

 

 

 

 次の瞬間、巧の脳内をいくつかの声が反響する。

 

 

 ──変身

 

 

 最初に聞こえた声に聞き覚えはない。

 弱虫な自分を着飾り、強く見せている男の声──な、気がした。

 直感的に浮かんだイメージは、煌びやかな宝石。

 

 

 

 

『英霊と人間の融合……デミ・サーヴァント。カルデア六つ目の実験だ』

 

 

 ──レッツ、変身! 

 次に聞こえた声にも聞き覚えがない。

 周りをからかう事もあるお調子者だが、家族の事をとても思いやる男の声──な、気がした。

 また直感的に浮かんだイメージは、赤いラインが入った白のマフラー。

 

 

「……いえ、彼は私に戦闘能力を残して消滅しました」

 

 

 ──変身……! 

 次に聞こえた声には、どこか聞き覚えがあった。

 何となく好きになれない、何かに対する強い執念を感じさせる声。前の二人よりそのイメージははっきりとしていて。

 浮かんだイメージは──どこか見覚えのある女性だった。

 

 

『巧!』

 

 

 彼女は屈託のない笑顔で名前を呼んでいて──

 咄嗟に彼女の名前を呼びたくなって。

 それでも喉から声を発することの出来ない事が、どうしようもなくもどかしかった。

 

『──おい、巧くん?』

 

 ドクターの一声で、巧は現実に引き戻された。

 

「っ、どうした?」

「どうしたも何も、先程からドクターが呼んでいましたが……大丈夫ですか?」

「……なんでもない。ボーッとしちまってただけだ」

 

 嘘である。

 明らかに相談すべき事柄だったが、今の状況を考えれば余計な心配をかけるわけにはいかない。

 

 それに、今のは明らかに自分の記憶に関わる事である、と巧は確信している。

 自分の事なのだから、誰かに手伝ってもらうわけにもいかないだろう。

 

「そうですか? それならよろしいのですが……」

 

 巧の嘘に一先ずマシュは納得する。

 ロマニもどうやら納得した様で、ゴホンとわざとらしく咳をした後に続けて喋った。

 

『とにかく、そちらに無事シフトできたのは巧くんだけのようだ。

 そしてすまない、何も事情を説明しないままこんな事になってしまって。分からない事だらけだと思うが、どうか心配しないでほしい。

 キミには既に強力な武器がある。マシュという、人類最強の兵器がね』

「……兵器というのは、どうかと。たぶん言い過ぎです」

 

 武器、兵器という呼び方に不服があったのだろうマシュは拗ねた様子を見せる。

 先程の人ならざるモノを蹂躙する光景を考えれば、マシュの事を兵器と称するのも納得できる部分はあるのも事実である。

 だからといって、巧にはマシュとの接し方を変えるつもりはないが。

 

『まあまあ、サーヴァントはそういうものだって巧くんに納得してもらえればいいんだって』

 

 ロマニはマシュの事を兵器扱いしていたわけではなく、サーヴァントなる物の存在を理解してほしかっただけらしい。

 察するにサーヴァントとはマシュの事を指している単語の様だが、その定義はよく分からないままだ。

 ──何か特別な力を持つ人間、という事なのだろうか。

 

 

『ただしサーヴァントは頼れる味方であると同時に、弱点もある。魔力の供給源……マスターがいなければ消えてしまう、という点だ。

 それはつまり、巧くんの命はマシュに、そしてマシュの命は巧くんに預けられた、という事だ』

「マスターとか魔力だとか……さっきのおとぎ話の続きかよ」

『うん、困惑するのも無理はない。キミにはマスターとサーヴァントの関係も、そもそも魔術という概念すら説明していなかったからね。

 いい機会だ、ここで軽く説明してしまおう。まず魔術とはだが──』

 

 と、ロマニによる講義が始まろうとした所でその映像が急激に乱れ始める。

 

「ドクター、通信が乱れています。通信途絶まで、あと十秒」

『むっ、予備電源に替えたばかりでシバの出力が安定していないのか。仕方ない、説明は後ほど。

 とにかく、そこから2キロ程移動した先に霊脈の強いポイントがある。何とかそこに辿り着いてくれ、そうすればこちらからの通信も安定する。いいか、くれぐれも無茶な行動は控える様に。こっちも出来る限り早く電力を──』

 

 ブツリ、とそこで通信は完全に途絶えた。

 

「……ったく。行くか」

「はい。頼もしいです、先輩。実はものすごく怖かったので、助かります」

 

 そんなマシュの弱音に驚き、巧は別の事にも気が付いた。

 体が僅かに震えているのだ。巧のではなく、マシュの体が。

 

「お前、怖いのに何でさっき戦ったんだよ」

「それは……私の機密事項です。いくら先輩相手でも、これは言えません」

 

 そう告げるマシュの顔が少し朱に染まっているのが少し気になったが、巧はそれ以上詮索するのは無粋だと判断する。

 

「まあいいけどよ、言わなくても」

「はい。それと……先程、手を握って頂きありがとうございました」

 

 そう言って、マシュは礼儀正しくぺこりと頭を下げた。

 

「……んなことかよ」

「はい。あの時のそんな事だけで、私は救われたのです」

 

 巧の目を真っ直ぐと見つめる、マシュの透き通る様な眼差し。

 呆れたのか、それとも別の理由か。一度大きくため息をついた後に巧はそっぽを向いて歩き出した。

 

「──どうでもいいんだよ、んな事。さっさと行くぞ」

「はい。あの、先輩」

「今度はなんだよ」

「そちらは逆の方向です」

「……」

 

 顔に充血していく感覚に、羞恥心を感じる巧だった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「タイムスリップ、か。ここは何年なんだ?」

「記録によれば、ここは2004年の日本、フユキと呼ばれる地方都市だそうです。無論、こんな大火災が起きたという記録は存在しません」

 

 マシュからの補足を頭に入れつつ、改めて巧は街の惨状に目を向ける。

 街一帯を覆う様な災害が本来の歴史に記されてないのは明らかに不自然でしかない。ロマニが語っていた人類史の歪みとは、この事を指していたのだろうか。

 

「夢……じゃないんだよな」

「ええ。ここは紛れもない現実です」

 

 夢だと思いたい状況から無意識に呟きが零れ、それをマシュに指摘される。

 街を未だに覆う炎に巻き込まれた人々がどれだけいたのかは、都市部であるというのに全く人気を感じさせない事から何となくは想像できた。

 ──だからこそ、揺らめく炎を尻目に、巧の握られた拳に力が篭る。

 

 ────キャアアアア!? 

 

「おい、今のは!」

「ええ、どう考えても悲鳴です。急ぎましょう!」

 

 突然聞こえた女性の悲鳴。

 聞こえた方向に巧達が駆けつけると、先程と同じ骸骨達が、腰を抜かした白髪の女性を襲っている場面に出会した。

 

「マシュ、いけるか!」

「はい! マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!」

 

 巧の声に応え、マシュが飛び出す。

 女性を囲んでいた骸骨の一部を軽々と蹴散らすと女性を庇う様にして立ち塞がった。

 

「所長、ご無事ですか!」

「あ、あなた……マシュ!?」

「ええ、マシュ・キリエライトです。話は後ほど!」

 

 

 

 

 

 その戦いの結果は言うまでもない。

 先程の戦闘と同じように、マシュが骸骨の群れを軽々と薙ぎ払う事で戦闘は終了した。

 いくらマシュが戦闘慣れしていないとはいえ、相手はただの骸骨。硬質な金属で出来た盾と、その重量をものともせずに振り回せる筋力を兼ね備えた相手ではどう足掻いても勝ち目はない。

 

「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか、所長?」

「………………どういうこと?」

 

「所長? ああ、わたしの状況ですね。信じがたい事だとは思いますが、実は──」

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見れば分かるわよ。わたしが聞きたいのは、どうして今になって成功したかって事! 

 いいえ、それ以上に貴方! 私の説明会に顔も出さなかった一般人!」

「……はぁ?」

「なんでマスターになってるの!? サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ! 

 アンタなんかがマスターになれる筈ないじゃない! その子にどんな乱暴を働いて言いなりにしたの!?」

 

 急にヒステリックになったかと思えば、今度は巧にへとその矛先を向け始めたのは、マシュに所長と呼ばれた女性。

 見下している様な態度に、浴びせられる罵詈雑言。当然言われっぱなしのままにしておく巧ではない。

 

「あんた、会っていきなり何だよ? 乱暴なんか働いてねーよ、馬鹿か」

「はぁ!? ば、馬鹿ですって!? ただの一般人枠が、名門中の名門「アニムスフィア家」の当主たるこの私に、馬鹿ですって!?」

「二回も言うなよ。馬鹿、馬鹿、ばーか」

「──な、ん、で、す、っ、て!!」

「二人とも、いい加減に……!」

 

 二人の喧嘩を止めようとするマシュだが、エスカレートしていく口喧嘩を止める方法を彼女が知るはずもない。

「ばか」「あほ」「ガキ」の飛び交うそれは、まるで小学生の喧嘩。

 

 結局、二人の喧嘩をマシュが力付くで引き剥がし、状況説明に入るまでに数分がかかった。

 

 

 

 

 

 

「おーおー、お熱いというか何というか……ま、とりあえずは様子見かね」

 

 ケタケタと軽快に笑いながら、彼らの様子を伺う男が一人。といっても、彼がいるのは巧達から十数キロは離れた地点、倒壊しかけているボロボロのビルの屋上。

 サーヴァントである彼ならば、この程度の距離を監視するのは容易い事だった。

 

「セイバーの野郎は様子見、アーチャーの野郎はそのお守り、他の奴らは自由奔放──そして、最後にあいつらか」

 

 真紅の瞳が、街の一角に向けられる。

 そこにいたのは、全身を灰色に染めた異形の怪物。

 一つ一つの個体で形が異なるそれらは、何かを探している様に街中を徘徊している。

 英霊である彼が、この場に現れる為の依代の一つ──聖杯に与えられた知識の内、どれにも該当しない。

 であればそれは、今の時代には存在しない筈の未知なる生物。

 

「あいつらどっから出てきたんだか──こいつも含めて、だけどな」

 

 彼の横に置かれた、銀色のアタッシュケース。

 開かれているそれに入っていた物は、機械に詳しくない彼にも、現在の技術を凌駕したものだと理解できる。

 ──用途は不明だが、それは戦う為の道具である。彼の戦士としての勘が、そう告げていた。

 

「こいつはどうするべきかねぇ……分かる奴でもいれば、話は別なんだが」

 

 

「見ても分からんもんを考えても仕方ない」と、開かれていたケースを閉じると、再び彼はこの世界にやってきた「漂流者」達の観察に戻る。

 

 ケースの側面には、特徴的なロゴと共に英語でこう書かれていた。

 ──『SMART BRAIN』と。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。