次回以降はさすがにもう少し速く投稿出来るようになると思われます。
合流した三人は、霊脈を通じてカルデアとの通信を復旧。
そして、この特異点を調査すべく町を散策していた──のだが。
「ったく、ガキったらありゃしねえ」
「は!? どっちがガキよ、ガキ!」
再び始まる喧嘩に頭を悩ませる。
どちらかが喧嘩を売り、沸点の低いどちらかがそれを買ってしまう。そうして始まる口喧嘩。
先程からずっとこうだった。
「っ、二人とも静かに!」
しかし。マシュの一声で、その喧嘩は収まることとなる。
『全員、すぐにそこから逃げるんだ!
高速で近付いてくる反応──サーヴァントだ、近い!』
サーヴァント。魔術という概念をよく知らない巧だが、その言葉には聞き覚えがあった。
強化された肉体を手に入れたとされるマシュ。そんな彼女の事を、そう呼称していた。
──つまり今から来るのは、そんなマシュと同じような存在という事。
距離にすると数キロ──否、それより遥かに近く。
一行の正面から、それは迫ってきていた。
不自然なまでに黒く染まった体。
シルエットのみの異様な光景のナニカが、手にする杭を巧たちに向かって投げ飛ばしていた。
「防御を──!」
マシュ一人ならば何とか避けれるが、その後ろには巧とオルガマリーがいる。
故に、その一撃を受けざるを得なかった。
構えられた盾が、飛んできた杭とぶつかり合った。
金属がぶつかり合う鈍い音と共に、衝撃が電撃の如くマシュの全身を伝う。
しかし、何とか防げた。
マシュがそう確信した刹那、ナニカが放った蹴りにより、彼女の体は後方に吹き飛ばされていた。
「な──!」
「マシュ!」
勢いよく瓦礫に身体をぶつけるマシュ。
しかし、痛みに苦しむ暇もない。再び飛んできた杭を避けるべく、身体に鞭を打って動かした。
「はぁああああっ!!」
「──」
紙一重の所で杭を避けたマシュが、反撃に出るべく盾を振るう。
しかし、敵対者は今までとは違う相手。ただの骨の塊であれば難なく倒せた一撃も、それからしたらデタラメに振られているのと何ら変わりない。
ひらりとそれを避けられ、次の瞬間マシュの視界からナニカは消えていた。
「え──」
「──右だ!」
混乱するマシュに届く巧の声。理解するよりも速く、反射的に身体がその声に従い反応する。
気がついたときには、何も見ず、ただおもいきり盾を振り回していた。
死角に回り、杭を構え飛びかかっていたナニカ。
しかし、横からタイミングよく衝突した盾によって吹き飛ばされていた。
かなりの質量を持つ盾の一撃。当然ただでは済まず、その身体からは紫の光が漏れ出している。
「──」
しかし、マシュは目撃した。
そのナニカがニヤリ、と笑う様を。
笑みの意味を一瞬考え、
『これは──サーヴァントだ!
ロマニの通信が、全てに答えを出した。
巧とオルガマリー。その背後を狙う黒い影を確認する。しかし、今自分がここを離れれば正面の敵対者は容赦なく彼らを狙うだろう
。
一瞬のうちに提示された選択肢に、一瞬思考を挟んだマシュ。だがそれでは遅い。
迷っている暇もなく、影は巧たちを襲い──
「危ねえっ!」
──寸での所で、巧がオルガマリーを引っ掴んで押し倒す。
一瞬遅れ、影の放った短剣が彼らの頭があった場所を通過していった。
誰かに見られれば誤解されるような構図の二人。だが、今の彼らにそんな邪な考えが挟まれる余裕はない。
「くそ、新しいやつか……!」
巧は、新手が現れた事に歯噛みし。
「……わ、わた、わたし……」
オルガマリーは、一瞬の間に起きた出来事に混乱していた。
『セイハイ……!』
ただでさえ見えないシルエットのような体と、それを覆うようにして被る大柄の黒布。
風貌からして不気味さしか感じられない彼は、何かを呟きながら新たな短剣を構える。
『まずい……完全に想定外だ! 今の戦力で突破は難しい、そこから逃げるんだ!』
焦ったロマニの通信。が、状況はそれらを許してはくれない。
ジリジリと詰め寄ってくる敵。片方はマシュが相手できるものの、もう片方は巧たちだけで相手しなければならない。
「──っらぁ!」
そこで、巧が動いた。
目前の影に対して思いっきり踏み込み、拳を振るう。
「は、ちょっと!?」
オルガマリーの驚く声。
倒せるとまでは思っていない。しかし、少しでも動きが乱れてくれれば逃げる隙も生まれる。
が。
期待とは裏腹に、その拳はいともたやすく掴まれた。
「──」
空いた手に構えられる短剣。
驚く間も無く、それは巧の心臓に突き立てられ──そのまま、影が炎上していった。
同時に、巧たちと影との間に割り込んだ存在がいた。深くフードを被り、木製と思わしき杖を構えた男性。
その格好とは不釣り合いなもの──アタッシュケースが彼の手に握られていた。
「……は?」
「グォォォ……キャスター、ナゼ──」
「あん? お前らより見所があるからに決まってんだろ」
地面を転げ、身を焼く苦痛に苦しむ影。
それに向けて容赦なく放たれた火球が、彼の体を跡形もなく消滅させた。
「見所のあるガキは嫌いじゃない。
それに、魔術師として、マスターとしてはまあ未熟だが──その性根は信頼できる。気に入ったぜ、アンタ」
男が振り返り、フードの下から赤い瞳を覗かせる。
どうやら後者は巧に向けられての言葉の様だった。
「お前、誰だよ」
「おっと、悪いが答える暇はないらしい。ひとまず、奴を倒すほうがいいと思うぜ」
目を向けられるは、マシュが対峙していたナニカ。
「嬢ちゃん、力量で言えばアンタはヤツには負けてねぇ。気張れば番狂わせだってあるかもだ」
「は……はい!」
男の言葉に奮起し、立ち上がるマシュ。
「援護はしてやる。が、最後を決めるのはアンタだ。
そら、行ってこい!」
「行きます!」
再び盾を構えたマシュが飛び出す。
対するナニカは、それを迎え撃とうとする訳でもなくジリジリと後退していく。
先程までとは逆転した状況。逃げなければならない理由はあれど、この状況下で戦わなければならない理由は一つもない。
「おっと、逃がすかよ」
男が言葉と共に火を放つ。奔る火はナニカに襲い掛かるが、しかしその身を焼き尽くすわけでもない。
ナニカの背後を塞ぐ様に、火の壁が出来上がった。
「やぁああああああ!」
退路を失ったナニカを襲う盾の一撃。
力任せで乱暴であるものの、それすら今のナニカの状況下では致命的。
受け止める事で防ごうとしたものの、その力が拮抗する事はない。
怪力を誇る筈のナニカの腕のほうが耐えきれず、勢いに押されのけぞった。
「ッ……!」
「これで、倒れて!」
天に向かって大きく振り上げられた盾が、ガラ空きの胴体目掛け振り下ろされ。
なす術もないナニカの肉体は、その一撃で粉々に砕け散った。
「はぁ──はぁ──っ、倒せた……!」
「初めてのサーヴァント戦にしちゃ上出来だ。やっぱり見所あるぜ、アンタ」
肩で息をするマシュ。
そんな彼女の肩を快活に叩き、愉快に笑う男。
「で、お前は誰なんだよ」
「おっと、申し遅れたな。俺はキャスター──この聖杯戦争に参加していたサーヴァントだ」
改めて名前を名乗った男──キャスターが語ったのは、この土地で行われた聖杯戦争に起きた異変について。
万能の願望機、聖杯。
それを巡った戦争が、この街では繰り広げられていた。
しかし、街は一夜にして一変しこの有様。
人間は消え、キャスターを除いたサーヴァントは暴走。
残ったキャスターも、歪んだまま続いている聖杯戦争の生き残りとして他のサーヴァントから狙われていた。
その中でも特段面倒なのはセイバー。
大聖杯と呼ばれる願望器が眠る洞窟の中に、アーチャーと共に陣取っているとか。
「──それと、気がかりな奴等がもう1組いる。灰色の怪物だ」
「灰色の……?」
「ああ。俺の時代に居たような魔獣ともまた違うらしいが……奴さん、どうやらこいつを欲しがってる様だぜ」
彼が見せびらかしたのは、彼の服装に不釣り合いなアタッシュケース。
──途端、巧の脳裏を過ぎる感覚。
知っている。自分は、それをどこかで見たことがある。
「このアタッシュケース……中身を拝見してみてもよろしいですか?」
「ああ、開けてみな」
キャスターの言うまま、それを開くマシュ。
中から覗かせるのは、銀色のベルトに携帯電話。
また、円状の筒のような物体や窪みのある四角形の物体も共に入っていた。
が、何に使うのか見当もつかないようなものばかりだ。
『それは……ベルトかい? 見るからに現代の装備らしいが……』
「さあな。俺にも使い方はよう分からん」
なぜそんなものを狙う集団がいるのか。
深まる謎を余所に、それを見た巧の脳内で巻き起こるざわめきはより一層激しくなる。
同時に、直感にも近い一つの考えが脳裏を過ぎる。
偶然でもなんでもない。自分はそれを知っているのだ、と。
「──先輩!?」
そうして、ドサリと。
巧の意識は深いところに落ちていった──
◆
「巧!」
「たっくん!」
快活に笑う男女。
その笑顔が、愛おしい程に懐かしく感じる。
「■■! ■■■!」
名前を呼ぶ自分。が、名を呼ぶという行為は認識できるのに、肝心の音が聞こえない。
喉を振り絞っても、空気の掠れた音しか感じられない。
そして、徐々に巧の目の前から彼らは消えていき──
◆
「……なんだここ」
次に目を開けたときには、知らない天井を見上げていた。
辺りを見回す。薄暗い部屋の一角、カーテンで仕切られたベッドの上で巧は横になっていた。
身体を起こし、カーテンを開ける。
古ぼけた薬品棚や、教室机が見受けられる。どうやらどこかの学校の保健室の様だった。
状況を整理した所で、どうにも冴えない思考に苛立ち、頭をポリポリとかく。
まるで悩みがあると言わんばかりに大きくため息をついた後、
「……外の空気でも吸うか」
欠伸をしながら保健室を出た巧は、そこで一人の女性と鉢合わせる。
オルガマリーだ。
「──キミ、大丈夫なの?」
「……ああ。悪かったな」
「これに懲りて体調管理はしっかりなさい。それと、ここまで運んでくれたマシュに感謝するのね」
「余計なお世話だ」
「ちょっと、人がせっかく忠告してあげてるのに──!」
ガミガミと言われる事を面倒くさがり、足早にその場を後にすると、荒れ果てた校内を散策する。
階段を見つけて上階に上がり、長い階段を登りきって屋上に出た。
未だに残る焦げた匂いに顔を歪め、床に寝っ転がって空を見上げる。
視界に広がる一面の黒。それは夜空ではなく、未だ立ち込める黒煙によるものだろう。
それは、未だに晴れない自分の心にも思えた。
「……」
「──先輩?」
巧を呼ぶ声。
振り返れば、そこにはマシュがいた。
「目が覚めたのですね、安心しました!」
「ああ……運んでくれたんだってな、悪い」
「いえ、無事ならそれで……顔色が良くないように見えますが、大丈夫ですか?」
「……生まれつきだよ、悪いか」
「え、いや、その……もしや、記憶の事で悩んでいらしたのですか?」
言葉に詰まる巧。
人と話すのに慣れていないマシュと言えど、その反応だけで判断するには充分すぎる程だった。
観念した巧は、酷くため息をついた後に語りだす。
「……乾巧って男がどんな奴だったのか、考えてたんだよ」
「……」
「もしかしたら、記憶をなくす前の俺は悪い奴だったのかもしれねぇ。逆に、道に迷った子供を交番に届けるようないい奴だったかもしれねぇ。
──そこまで考えて、自分がどんな奴なのか分からなくて怖くなった」
乾巧には自分がない。
カルデアで目覚めてからは従うままに動き、トラブルに巻き込まれて無我夢中だった。
それらをひとまずは乗り切り、落ち着いた所でその悩みは毒のように巧の心を蝕んでいく。
自分という誰もが普遍的に持つものを、今の巧は持ち合わせていない。
その事が、どうしようもなく不安だった。
「……それなら、作っていけばいいのではないでしょうか」
ならば、と。
巧の方を向くマシュは、出来るだけ丁寧に自分の考えを語り出した。
「自分がない事が不安なら、ここから新しい自分を作るというのも良いと思います」
「……それが元の俺とは限らねえだろ」
「それこそ問題はないのではないでしょうか。どれが自分か決めるのも、先輩の自由です」
たとえば、自分がそうだったように。
なにもない所から、ある医者のおかげで少しずつ何かを知れた様に。
たとえ無だとしても、なにかを作れるのではないか。
「それに、先輩が極悪人というのは絶対にないと断言できます」
「?」
「あの時、記憶がない筈の先輩は必死に私の手を握ってくれました。それが答えだと、私は信じたいです」
曇りのない笑顔を浮かべるマシュ。
それがどうしようもなく無垢で、綺麗で。
こみ上げる感情に巧はおもわず顔をしかめ、そっぽを向いた。
「す、すみません! 私なんかが偉そうな口を──」
『──休息中のところすまない! マシュ、その学校に未確認の反応が複数迫っている!
おそらくだが、キャスターの言っていた怪物だ!』
緊迫する空気。
二人が屋上から校庭を見下ろしてみれば、既にキャスターとオルガマリーが灰色の怪物たちと交戦している。
「マスター、失礼します!」
「おい、ちょっと──!」
有無も聞かずにマシュが巧を抱き抱えると、屋上の柵を飛び越える。
当然、その先に床はない。二人の体は、重力に従うままに落下していった。
迫る地面。
空中でマシュが姿勢を整え、土埃を立てながらも無事地上に降り立った。
「ヒュー、やるな嬢ちゃん!」
「マシュ、乾!」
「お待たせしました。マシュ・キリエライト、加勢します!」
ブツブツ文句を言う巧を下ろし、戦闘態勢に入るマシュ。
数にして、6体。動物らしき意匠を体に残している灰色の怪物が、再びマシュ達に襲いかかってきた。
「あああああっ!」
背後の巧を守るべく、迎え撃つマシュ。
筋肉と思わしき部位が隆起している怪物の拳を、なんとか盾で防ぐ。
が、背後に回った細い体の怪物が放つ針を防ぐことは出来ず、肩を貫かれた。
「っ──!」
走る激痛。盾を持つ手が一瞬緩んだ所で、再びふるわれる拳。防げる筈もなく、マシュの体は宙を舞い、巧たちの前に落下し倒れる。
「マシュ!」
「嬢ちゃん! チッ、邪魔だ──!」
吠える様な叫び。が、それと共に放たれた火は空中を飛ぶ怪物達を捉えることはない。
鳥類、昆虫──種類はともかく各々の羽を使い、高速で飛び回りながら撹乱する怪物達にキャスターは苦戦していた。
マシュを相手取っていた怪物達。その標的がひとまずは倒れたということは、また新たな標的が生まれるということ。
「──ひっ」
「っ……!」
無機質な灰色の眼が、巧たちを映す。
そのままゆっくりと迫ってくる怪物たち。が、その恐怖に呑まれている二人はそこから動くことができない。
──と、そこで。見かねたキャスターから、巧の足元目掛けてアタッシュケースが投げられた。
「おい兄ちゃん! アンタはそいつを見て反応したんだ、なら多分使えんだろ! こいつは多分戦うための物だ!」
「あぁ? 使うったってどうやって……!」
「為せば成るって奴だ! とりあえずやってみろ!」
言われるがままにアタッシュケースを開き、中の物を再び確認する。
再び感じる既視感。やはり、自分はこれが何なのかを知っている。
「……ったく、本当になんとかなりやがる」
「ちょ、ちょっと。あなた、本当に使い方がわかるの?」
「ああ、らしいぜ」
直感のままベルトを手に取り、腰に装着。
残る装備もまた直感に従いベルトに装備し、残った携帯電話型のアイテム──「ファイズフォン」を手に取った。
「せんぱい──逃げて、ください」
「馬鹿、んなことできるか」
倒れるマシュの前に立ち、ファイズフォンを開く。
恐怖はある。が、それ以上に勇気も湧き上がる。
『5』
キーをおもうがままに押す。
マシュは、怖がっていたのにそれでも戦う道を選んだ。それは一重に守りたいものがあったからなのだろう。
『5』
迷っている自分が馬鹿らしくなる。
こんな何もないと悩んでいた自分を、彼女は守ってくれていたのだ。
『5』
ならばここで戦わなければ、情けなくて彼女に会わせる顔はない。
決意と共に、エンターキーを強く押した。
「──やってやるよ。今の俺が、俺としてやりてぇ事を!」
『STANDING BY』
入力が終わったファイズフォンを閉じ、待機音声を鳴らすそれを天高く掲げ。
幻覚の様に聞いた「あの言葉」を叫びながら、それをベルトの窪みに差し込んだ。
「変身!」
『COMPLETE』
ベルトを中心に、巧を包む赤い閃光。
それが収まった時、そこに立つのは巧ではない別の姿だった。
ぼんやりと光る金の瞳。
黒い素体に銀の装甲、それを血管のように伝う赤いライン。
本来生まれるはずもない世界にて、戦士──「ファイズ」が復活した瞬間だった。