世間では魔法師に対する風当たりが日増しに強くなっているが、学校という一種の自治領域として世間からある程度隔離された場所では、今のところ平穏な空気に包まれている。しかし勘の良い者は、それが嵐の前の静けさであることを何となく感じ取っていたことだろう。
4月20日、金曜日。始業前の生徒会室にあずさと五十里を呼び出した達也の口から、まさにその嵐の到来を告げる報せがもたらされた。もっとも達也としては、前日の夜に亜夜子から聞かされた事実をそのまま伝えただけであり、けっして自分がもたらしたとは思っていないのだが。
「4月25日、来週の水曜日に民権党の神田議員が第一高校に視察に訪れることが分かりました」
「えっ、神田議員が!? それは一大事じゃないですか!」
一番大きな反応を見せたのは、椅子を蹴る勢いで立ち上がったあずさだった。字面だけ見れば学校に有名人が来ることに過剰反応してるようにも思われるが、彼女はけっしてミーハーな心持ちで“一大事”と称したわけではない。
神田議員は野党である民権党に所属する若手政治家であり、国防軍に対して極端に批判的な人権派として知られている。それは危険な任務に就かされる魔法師の人権を保護するためとしてメディアで度々取り上げられているが、実際は国防軍から魔法師を排除するのが目的であることは少し注意深い人間であれば誰にでも分かる、と達也は思っている。
ちなみに達也が初めて神田議員来訪の報せを聞いたとき、あまりに意外性が無さすぎて拍子抜けしたほどだった。魔法師に対する非難のニュースが急激に増えた今週になってマスコミの露出が増えている時点で、あまりにもあからさまに過ぎるというものだ。
「それで司波くん、目的は何か分かってるのかな?」
「残念ながら、詳しくは。分かっているのは、普段から行動を共にするジャーナリストを多数引き連れるということだけで」
「成程、いつものパフォーマンスの一環というわけか。そしてそれを、取り巻きのジャーナリストが何十倍にも膨らませて騒ぎ立てると」
普段の五十里らしくない棘のある言葉に、いつも通り彼にくっついて来た花音が首を傾げる。
「うーん、そんなに慌てることかな?」
「これは由々しき事態だよ、花音。彼の目的は、軍が魔法師を活用するのを妨げることだ。それが世間の多数派になれば、僕ら魔法科高校生が卒業後の進路に防衛大を選ぶことも、魔法大学の卒業生が国防軍に入隊することも禁止されるだろうし、それこそ僕らが国防に関心を持つことすら制限しようとするだろうね」
「思想統制しようってこと?」
五十里の言葉に花音も事の重大性が分かったようで、先程よりも真剣な面持ちとなった。
それを確認したうえで、五十里の視線が達也へと移る。
「それで、司波くんはどうするつもりなの? 何かアイデアがあるから僕達を呼んだんでしょ?」
その問い掛けに達也は頷き、彼の背後に控えていた深雪があずさと五十里に電子黒板を手渡した。それに目を落として中身を確認し、そして徐々にその表情が驚きに染め上げられる。
「彼らは魔法科高校が軍事教育の場と化しており、学校が生徒に軍属となることを強制している、と非難したいわけです。ならば軍事目的以外にも魔法教育の成果が出ていると示せば良いと思われます。そこで神田議員の来校に合わせて、少し派手なデモンストレーションをしようかと」
「……少し?」
「……これが?」
色々と言いたげな2人に、達也はシレッとした顔で答える。
「準備は大掛かりですが、デモ自体は普段から行われている放電実験や爆縮実験と大した違いはありませんよ」
「見た目だけなら、確かにそうかもしれませんけど……」
「意味はまるで違うよ、司波くん……。いや、だからこそ効果は抜群だろうけど……」
五十里は独りごちるようにそう言って、再び電子黒板へと視線を落とす。
達也がこのデモンストレーションで取り上げるのは、加重系魔法三大難問の1つである“常駐型重力制御魔法式熱核融合炉”だ。といっても実物を作るのではなく、あくまで実現の可能性を派手に分かりやすく演出することを目的としている。
重力制御魔法式熱核融合炉といえば、去年の論文コンペで鈴音が研究テーマとして挙げたのが記憶に新しい。しかし鈴音の考案した“断続型”とは違ってこちらは“継続型”であり、アプローチとしてはまるで逆だと言って良い。
しかし、取り出せる時間単位のエネルギー量はこちらの方が桁違いに大きい。“恒星炉”とも呼ばれるそれが実現すれば、昼夜の区別無く、気象条件に影響を受けずにエネルギーを供給することが可能となる。魔法の平和利用を主張する、この上ないデモンストレーションとなるだろう。
「成程、よく分かりました。私は司波くんの計画に協力したいと思います。五十里くんはどうでしょうか?」
「僕も協力するよ。恒星炉の公開実験なんて、神田議員対策とか関係無く、魔法技術者を目指す者としてぜひとも関わっておきたいからね」
「ありがとうございます」
あずさと五十里の力強い言葉に、達也と深雪が深々と頭を下げた。
ちなみに途中から蚊帳の外だった花音は、最後までちんぷんかんぷんな様子だった。
「会長達の協力が得られて良かったですね、お兄様」
「まだ安心はできないけどな。次は学校からの許可を貰わないと」
生徒会を後にして廊下を歩く深雪と達也が、そのような会話を交わしていた。
課程外で実習を行う場合、クラブ活動であれば顧問教師、それ以外の自主的なものであれば担当教師に許可を取る必要がある。魔法工学科に所属する達也の場合、その相手はジェニファー・スミス女史となる。
とはいえ達也の印象としては、彼女は『実際に安全かどうか分からないので、実際に安全かどうか確かめる実験を中止します』などという本末転倒な考えとは無縁な人間だと思っている。実験の内容が内容なので即決されるとは思わないが、悪いようにはならないだろうと考えている。
そんな達也に対し、深雪が疑問を投げ掛ける。
しかしそれは、実験が無事に許可されるだろうか、という類のものではなかった。
「神田議員や取り巻きのジャーナリストと一緒に、“
それは昨日の夜、亜夜子から神田議員来訪の情報と共に伝えられたものだった。
達也にとって、金有電機は単なる大企業ではなかった。去年の九校戦、裏社会の人間達を相手に“無頭竜”が主催していたトトカルチョに参加していた1人の男。彼が過去に勤めていたのが金有電機であり、故に一高選手を襲った一連の事件の関与が疑われている。
深雪の疑問に、達也は歩みを止めることなく答える。
「別に何か理由があって隠したわけじゃない。彼が居ようが居まいが、俺達のやることに変わりは無いさ」
達也のその言葉に、深雪はそれ以上何も言わなかった。
* * *
その日の放課後、学校から実験の許可が下りた。『教師の監督下で行うこと』という条件付きではあったが、達也としても生徒だけで行わせてもらえるとは最初から思ってなかったので問題は無い。ちなみに監督役には、
そしてその日の内に、実験に参加するメンバーも決められた。要となる重力制御は深雪、クーロン力制御は五十里、中性子バリアは水波、
準備期間は、21日から24日までの4日間。論文コンペと比べると時間不足に過ぎるし、そもそも神田議員の来訪は本来知らないはずなので準備も大々的に行えず、よって全校生徒を総動員するわけにもいかない。
とはいえ、今回は構造物としてのエネルギー炉を用意するのではなくその仕組みを見せるための実験であり、故に装置もある程度は簡略化することができる。準備が着々と進んでゴールが見えてきたところで、最初は焦りと不安を募らせていたメンバーも徐々に落ち着きを取り戻していった。
どうしてこうなった、と言わんばかりの困惑顔ながら一時も手を休めず作業を進めた平河千秋、全体像が見えるにつれて手応えを感じていった
そして4月24日火曜日の放課後、放射線実験室で最終リハーサルが行われた。耐圧性の高い透明な高強度耐熱樹脂で作られた球形の水槽に、重水50%軽水50%の混合水を注入する。大量の重水を確保できたのは、廿楽が自身の持つコネをフル活用した結果といえる。
「じゃあ始めよう。深雪」
「はい」
達也の呼び掛けに深雪が反応し、重力制御魔法が発動。
「香澄、泉美」
「第四態相転移、行きます」
双子の姉妹が声を揃えて、第四態相転移魔法を実行。
「ほのか、水波」
「ガンマ線フィルター、有効です」
「中性子バリア、固定しました」
彼女達の申告に、達也も自身の“眼”で確認してから深雪に呼び掛ける。
「深雪」
「焦点を設定しました」
全ての準備が整ったところで、達也が五十里に視線を向ける。
「五十里先輩」
「電磁的斥力中和、スタート」
そうして最後の安全弁が解除され、計器前に陣取るメンバーからチェックの声が飛び交った。
「重力場安定度、問題無し」
「ガンマ線、計測誤差未満」
「中性子線、計測誤差未満」
「…………」
その声を聞きながら、達也は己が夢の第1歩を冷静に見つめていた。
一方その頃、生徒会室。
「達也くんたち、実験上手くいってるかな」
「……どうでしょうね」
ソファーに寝転がって携帯端末でゲームをしているしんのすけの言葉に、会議用の椅子にきちんとした姿勢で座る琢磨が曖昧ながら答えた。
本来この部屋にいるはずの生徒会役員は実験に参加しているため、もし緊急の連絡が生徒会室に入ったときには誰も対処できなくなってしまう。そうならないよう生徒会室で待機する要員を風紀委員から出しているのだが、この日の当番がちょうどこの2人だったというわけだ。
しんのすけは特に会話をするつもりは無かったようで、そのままゲームの世界へと意識を戻す。そんな彼を琢磨がチラチラと見遣り、やがて意を決したように口を開いた。
「――司波達也先輩、この学校ではちょっとした有名人だったんですね。いえ、この学校だけでなく、他の魔法科高校でも先輩の名が知れ渡ってるようで」
「去年の九校戦で大活躍だったからね、達也くん」
「えぇ、そのようですね。自分は魔法工学技術には疎いもので、気づくのが遅れてしまいました。――もし気づいていたら、あの“七草”に誑し込まされるのを防げたというのに」
後半部分の台詞に、しんのすけは怪訝そうな表情と共にゲーム画面から琢磨へと視線を移した。
「野原先輩。七草はマスコミがやって来るこの機会に、司波先輩を利用して自分達の名前を売るつもりなんですよ。まったく、七草らしく小賢しいやり方ですよ」
「名前を売るって、何のために?」
「そりゃもちろん、今度の“十師族選定会議”でも十師族に選ばれるためにですよ! あいつら七草は、いつもそうやって他の魔法師を出し抜いて自分達が得するように立ち回ってるんだ!」
「ほーほー」
気の抜けた声でしんのすけがこういった反応を示すのは、大抵その話題に興味がないときだ。しかし琢磨は、それに気づく様子も無く捲し立てていく。
「そもそも
「ほーほー」
「
「琢磨くん」
真剣さが声からでも伝わってくるしんのすけの呼び掛けに、琢磨がハッと我に返ったように発言を止めた。
「も、申し訳ありません、野原先輩。カッとしてつい余計なことを――」
「ジュッシゾクって何?」
「えっ!? そこからご存じないのですか!?」
魔法師の世界では十師族の仕組みはもちろん、十師族の現当主の氏名すら一般常識である。魔法科高校に通っておきながらそのような知識も持ち合わせていないしんのすけに、琢磨は素直に驚きを露わにした。
しかし彼が冗談ではなく本気で疑問に思っていると感じ取った琢磨は、多少戸惑いながらも説明することにした。
魔法技能師開発研究所出身で番号を剥奪されずに残った28の血統である“二十八家”から、4年に一度開催される“十師族選定会議”で選ばれた10の家系。それが“十師族”である。
九島烈によって確立された制度であり、組織の目的は魔法師の“人として生きる権利”を守ること。魔法師の利害を代弁する組織としては“日本魔法協会”が存在するが、協会は公式の組織として政府の意向を無視することができないため、魔法師が国家権力に使い潰されないよう対抗するために作られた、という経緯を持つ。
十師族は私的な枠組みであるが、日本国内の魔法師は現代・古式問わず十師族をリーダーとする魔法師のコミュニティに所属し“十師族体制”と呼ばれる自治に従っている。故に魔法師の中には『十師族が日本魔法界の支配者である』と意識している者も少なからずいるようだ。
「とにかく七草は、その十師族に残るためなら何だってやる奴らなんです! アイツらのせいで、俺達七宝はアイツらのサポート役である“師補十八家”に甘んじることに……!」
「うーん。でもさ、そのジュッシゾクって28人から10人を選ぶ決まりなんでしょ? いつも選ばれてる1人が頑張ったからって、それで琢磨くんの家が選ばれないこととは関係無くない?」
「いや、アイツらは最早そういう問題ではないんです! アイツらの横暴を今の十師族が放置していることが、俺には我慢ならないんですよ!」
「ふーん」
小難しい表情で腕を組んで考え込むしんのすけに、琢磨が尚も話し掛ける。
「とにかく野原先輩! 七草の奴らには注意してください! アイツらだって、心の中では先輩の“力”を利用しようとしてるに違いない――」
「琢磨くん」
まだ台詞の途中ではあったのだが、しんのすけがふいに呼び掛けたことで琢磨が咄嗟に発言を中断する。
「琢磨くんはさ、そのジュッシゾクってのになりたいの?」
「えぇ、もちろんです!」
「なんで?」
「――――へっ?」
投げ掛けられたその疑問が、琢磨の心に空白を生む。
その空白に、しんのすけの言葉がスルリと入り込む。
「ジュッシゾクっていう偉い人になって、それで琢磨くんは何がやりたいの?」
「いや、俺はただ……、それが目標で頑張って――」
「なんで頑張ってるの?」
「え、それは……。二十八家に生まれた以上、国のリーダーとして相応しい強さを手に入れることが義務なので……」
「その強さを手に入れて、琢磨くんは何がやりたいの?」
「何が、と言われても……」
七草家の悪口を言っていたときはあれほど口が回っていたというのに、今や影も形も無いくらいにモゴモゴと言い淀んでいる。
生徒会室のドアが開かれたのは、そんなタイミングだった。
「おぉっ! 達也くんたち、ただいま~」
「それを言うなら“お帰り”だ、しんのすけ」
冷静な達也のツッコミと共に、実験のメンバーが続々と部屋に入ってきた。しかし全員というわけではなく、あずさと五十里が実験室の戸締りを引き受けたため、ここにいるのは達也の他に深雪・ほのか・水波・泉美・香澄といった顔触れである。
「いやぁ達也くん、見事に女の子ばかりですなぁ」
「別に他意は無い。――留守番してくれて助かったよ。七宝くんも、悪かったな」
「いえ、俺は別に……」
「ゴメンね、七宝く~ん。アタシ達のために! わざわざ残ってくれてさ~」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら歩み寄る香澄に、双子の泉美が「香澄ちゃん!」と小声で窘め、ほのかが心配そうに琢磨へと視線を向ける。
しかし琢磨の反応は、その場の誰もが想像していたそれではなかった。
「……司波先輩、自分はもう上がっても大丈夫でしょうか?」
「あぁ、構わないよ。ありがとうな」
「いえ。――それでは」
達也に頭を下げ、他の先輩にも頭を下げ、琢磨はそのまま足早に部屋を出ていった。香澄は無視される形となったが腹は立てておらず、むしろ予想外の反応に困惑している様子だった。
「どうしたんだろう、七宝の奴?」
「そういえば香澄ちゃん、泉美ちゃん。2人が達也くんに協力してるのって、達也くんを利用して自分達の名前を売りたいからなの?」
「はいっ!? 何言ってるんですか、野原先輩! そんなわけないでしょ!」
「でも琢磨くんが――」
「アイツが何を言ったか知りませんけど、アイツの言うことをいちいち信じないでください!」
憤慨した様子で詰め寄る香澄に、さすがのしんのすけも押され気味のようだった。
そしてその喧騒の陰で、達也が思案顔になっている。
――七草家が今更顔を売りたいと考えているとは思えないが、確かに今回の議員来訪は七草家によるマスコミ工作が引き金になって起こったことだ。七宝家はそれを把握しているということか?
「…………」
そんな達也を、深雪と水波が心配そうな表情で見つめていた。
* * *
基本的に不機嫌な表情をしている、というのが
しかしその日の夜、彼女の部屋にやって来た彼の顔からはその不機嫌な印象が消え、代わりに何か悩んでいるように思えた。いや、迷っている、と表現した方が正しいか。本人としては繕っているつもりなのだろうが、表情作りのプロである女優、しかも生来の美貌に加えて喜怒哀楽好悪愛憎を自在に操る顔の演技で若手ナンバーワンの座を勝ち取る真紀の目は誤魔化せない。
「琢磨、晩ご飯に付き合ってくれない? 私、まだなのよ」
真紀がそう言って持ってきたのは、薄切りにしたバゲットに生ハム・サーモン・トマト・アボガドなどを載せたオードブルだった。琢磨はそれに手を伸ばしてほとんどを食べ、塩味が強いそれに釣られて一緒に出された果実水をゴクゴクと飲み干していく。
その果実水には、少しだけアルコールが混入されていた。オードブルにもリキュールが使われているのだが、琢磨がそれに気づいた様子は無い。
「今日はどうしたの、琢磨? 何かあったのか、私に話してみてくれない?」
少しだけ頬を上気させている琢磨に、真紀が包容力のある姉のような声色でそう話し掛けた。普段はあまり自分の弱いところを見せたがらない琢磨だが、今日は
「学校の先輩に、そんなことを訊かれたのね」
「あぁ……。確かに俺は十師族になることばかり考えて、結局その後に自分が何をしたいのか考えていなかった……。野原先輩に尋ねられて何も答えられなかった自分に愕然としたよ……」
ぼんやりと意識に靄が掛かっている状態ではあるが、思考が覚束ないほどではない。たどたどしい口調で話す琢磨の言葉は、まさしく彼の偽らざる本音だった。
そしてそれは、真紀もよく感じ取っていた。
そのうえで、真紀は口を開いた。
「――駄目よ、琢磨。騙されちゃ」
「えっ……?」
床に視線を落としていた琢磨が、疑問の声と共に顔を上げる。
艶やかな笑みを浮かべる真紀が、3人掛けのソファーでピッタリと彼に寄り添っていた。
「その野原って先輩は、七草家と親しくしてる司波先輩達のお友達なんでしょ? つまりそれは、七草家の息が掛かっているってことよ。そんな人の言葉に惑わされちゃ駄目」
「惑わす……? 野原先輩が、俺のことを……?」
真紀が片手を琢磨の肩に載せ、もう片方を彼の手に重ねる。
柔らかな肌が彼の触覚を、蜜のような匂いが彼の嗅覚を刺激する。
「あなたの使命は、その辺の魔法師には理解できない崇高なもの。たとえどれほど周りの人間に反対されたとしても、あなたにはそれを成し遂げなければならないほどの理由があるし、そして成し遂げられるだけの能力がある」
「俺に、能力が……」
「そう。周りの言葉に惑わされず、あなたは自分の進むべき道を歩いていくだけで良いの」
「俺……は……自分の道を……」
だんだんと意識が揺らめき、目が閉じていくにつれて視界が狭くなっていく。
そんな琢磨には、すぐ隣に座る真紀が不敵な笑みを浮かべていることなど知る由も無かった。
完全に余談だが、この後2人は特に何もすることなく、居眠りした琢磨が慌てて部屋を出ていくのを真紀が見送るだけに終わった。