第二演習場の床は青と黄色で前後が塗り分けられ、前後の壁から1メートルのエリアは赤く塗られている。通常の魔法演習で1対1の試合を行う際は、この赤いエリアに追いやられた時点で敗北とするのが一般的だ。
既に部活動の時間も過ぎてほとんどの生徒が帰路に着く時間帯ではあるが、演習場の中は結構な賑わいを見せている。動きやすい厚手の実習服に着替えている琢磨と香澄の他には、先程風紀委員室にいた花音・あずさ・深雪・五十里・ほのか・雫・泉美に加え、レオ・エリカ・幹比古・美月といういつもの面々、そして一科から魔法工学科に転籍した十三束の姿もあった。
「エリカ達は、なんでここにいるのかしら?」
「しんちゃんが何か企んでると知ったら、そりゃ駆けつけるに決まってるでしょ!」
「十中八九、面白いことになるに決まってるからな!」
揃って親指を立てて答えるエリカとレオに、尋ねた深雪は小さく溜息を吐いた。
そしてそんな2人の隣から、申し訳なさそうな表情の十三束が顔を出す。
「えっと、ゴメン司波さん。もし邪魔だったら出ていくけど……」
「そんなことないですよ、十三束くん」
「じゃあアタシ達も問題無いでしょ、深雪!」
「……まぁ、しんちゃんとお兄様が構わないのならね」
と、この場に姿が無い2人の名前が出てきたことで、レオがキョロキョロと演習場を見渡す。
「ていうか、その2人はどこにいるんだ? 2人が来なきゃ試合が始まらねぇだろ」
「それ以前に試合の内容すらまだ聞いてないんだけど、深雪は何か聞いてる?」
「いいえ、私は何も――」
「いやいや、どうもどうも!」
まさに話題に挙がったタイミングで、しんのすけが演習場に姿を現した。
皆が一斉にそちらへと視線を向け、そして一斉に疑問の表情を浮かべる。
その視線は、彼がそれぞれの手に持つ2つのジュラルミンケースに固定されていた。それは魔法大学で大袋博士から借りてきた物なのだが、その情報を知る者はここにおらず全員が初見である。
「いやぁ、1年10ヶ月以上も待たせちゃってゴメンゴメン」
「えっ? せいぜい1時間もしないくらいじゃないですか?」
「しんちゃん、それ以上はいけない」
美月が困惑し、エリカが真顔でツッコミを入れる中、しんのすけがジュラルミンケースを床へと置いた。
「ちょっと待っててね、今から準備するから」
「準備って、そのケースの中に入ってるヤツを使うのか?」
「そういうこと。あっ、みんな離れててね。ちょっと大きいから」
その一言で自分に近づこうとしていた者が立ち止まったのを確認し、しんのすけはケースの蓋を開けた。
そして次の瞬間、ケースの中身が勢いよく飛び出した。肌色をしたそれは風船のように大きく膨らみ、自動的に元の姿に形成されていく。どうやらジュラルミンケースに見えていた箇所も部品の一部のようで、肌色の素材に取り込まれて姿を消していった。
そうして出来上がったのは、
「――――お相撲さん?」
誰かが呟いたその言葉の通り、それは力士の体部分を再現した着ぐるみのような代物だった。しかし大きさはかなりのもので、肩部分までの高さで3メートルほどはある。
変形が終了したことで、皆がおもむろにその力士の着ぐるみのような代物に集まってくる。恐る恐る触れてみるとズブズブと手が沈むほど柔らかく、本物の着ぐるみのような風船のような不思議な感触だ。
結局その正体が分からず首を傾げたままの面々の中で、最初にそれに気がついたのは、工学系の知識が豊富な五十里と十三束だった。
「もしかして、これってパワードスーツかい?」
アシストスーツとも呼ばれるそれは、スーツのように装着して使用者の様々な動作をアシストするツールを指す。20世紀頃から研究が行われてきたそれは現在様々な分野で実用化されており、流通や建築や介護などで重い物を運んだり、医療現場でのリハビリに使われたり、あるいは歩兵部隊向けに軍事転用されていたりする。
しかしそれらのほとんどは機械的な構造が剥き出しになっており、それ自体が動作の妨げにならないよう簡略化・軽量化が図られている。けっして目の前の代物みたいに着ぐるみのような見た目はしていないし、ましてや普段は小さく収納され必要に応じて風船のように膨らませるなんてこともできない。
しかしその特徴的な見た目によって、これからしんのすけが何をさせようとしてるのかはすぐに理解できた。
「成程、パワードスーツなら確かに誰が着ても同じパワーとスピードになるね」
「そりゃ公平な勝負になるでしょうけど……」
「あ、あの! 野原先輩!」
試合の当事者の1人である香澄が、慌てた様子でしんのすけへと詰め寄った。
「もしかしてですけど、コレを着て相撲を取れってことですか?」
「おっ? そうだゾ」
「いや、あの、単純に恥ずかしいんですけど」
「なんで? 別に本当の裸じゃないんだから」
「だとしても、ですよ! これだけのギャラリーを前に力士のコスプレとか、普通に罰ゲームの域なんですけど!?」
香澄の悲痛な叫びは、同じ女性である深雪やエリカ達もウンウンと頷いて同意していた。
そして琢磨も、そんな香澄とは別方向から試合の内容に異を唱える。
「野原先輩。今回の試合には、七宝と七草の誇りが懸かっています。魔法の名門としての名前を背負って挑む試合ですので、やはり魔法に関連した内容であるのが望ましいかと」
「そうですよ、野原先輩! ほら、私達2人共、多少怪我したところで全然構いませんので! それに私達は魔法師なんですから、魔法で勝負を着けないと結局意味が無いですし!」
香澄ほど必死ではないが不満なのは琢磨も一緒なようで、2人は揃ってしんのすけに対して試合内容の再考を求める。
そんな2人に対し、しんのすけは露骨に肩を竦めて大きな溜息を吐いた。
「んもう、香澄ちゃんも琢磨くんも、魔法が無いと喧嘩もできないの?」
「――――!」
「――――!」
その瞬間、ピリッとした空気が演習室内に張り詰めた。壁際で成り行きを眺めていた深雪達が途端に表情を固くし、エリカやレオといった血の気の多い者だけが面白がるように口角をニヤリと上げる。
おそらく彼本人に、挑発の意図は無かったのだろう。せいぜい我儘な後輩に呆れる程度の意味合いでしかない。
しかし魔法の名門としての誇り云々を口にした直後のその発言は、魔法の名門出身である2人には思いの外刺さってしまったというだけだ。
「……良いでしょう。たとえどのような勝負だろうと、七宝が七草に負けるわけにはいかない」
「その思い上がりを、完膚なきまでに叩き潰してあげるよ」
そうして試合が行われることが決まった段階になって、ふと花音が辺りをキョロキョロと見渡してしんのすけに歩み寄る。
「それでしんちゃん、審判役の達也くんはどこに――」
「お、お兄様!?」
深雪の悲鳴にも似た声に、しんのすけを除く全員が一旦彼女へと顔を向け、そして彼女の視線の先を追って一様に驚愕の表情を浮かべた。
風紀委員室では普通に制服姿だった達也だが、今の彼は
早い話が行司の格好をしており、色などから判断するに最も序列が高い立行司“木村庄之助”のスタイルである。
「和装姿も素敵です、お兄様!」
「まぁ、相撲の審判といや確かに行司だわな」
「でも大丈夫かな? 確かに行司の立ち位置はレフェリーに相当するけど、反則の有無は審査しないし物言いとなったときは最終的な評決には加われないんだけど」
「大丈夫じゃないでしょうか? そこまで厳密なものではないようですし」
「ミキも美月も、心配するのはそこじゃないから」
深雪の賞賛やレオ達の遣り取りにも一切反応を見せず、行司スタイルの達也は無表情のまま琢磨と七草姉妹の下へと歩いていく。
「どうした2人共、もう準備は整っているのか?」
「え、えっと、まぁ……」
琢磨が何とかそれだけ答え、香澄は「先輩は準備万端のようですね」と口にしかけて
「しんのすけ、始めるとしようか」
「ほいほーい。んじゃ2人共、これ被って」
そう言ってしんのすけが差し出したのは、これまた力士のイメージにピッタリな
しかしそれは普通のカツラではなく、裏側は金属となっており電子盤のようなものが貼り付けられているのが見える。
「これがコントローラーになってて、普通に体を動かす感じで動いてくれるから」
「ありがとうございます、野原先輩。――さぁ香澄ちゃん、どうぞ」
「くそう、泉美め……。自分はやらないからって良い笑顔しやがって……」
香澄はやたら晴れやかな笑みを浮かべる妹からそれを受け取り、そして琢磨はしんのすけから直接それを受け取ってさっそく被っていた。首から上だけを見れば時代劇の若手俳優かのように様になっているが、魔法科高校の制服込みで見るとやはり相当違和感が強い。
だがそれでも、女子である香澄の方がよっぽど違和感があるのは間違いないだろう。彼女もそれは重々承知であり、自分に注目する先輩達の視線に顔を紅く染め居心地悪そうにしている。
「ところで野原先輩、このスーツはどうやって着れば良いんですか?」
「お尻の所にあるボタンを押せば穴が開くから、そこから入って」
「あの、野原先輩! ボク、本当に嫌なんですけど!?」
文句を言う香澄ではあったが、このまま駄々をこねても状況は変わらない。なので嫌々、本当に嫌々ながらも言われた通りの方法でスーツを着用、というより搭乗した。ちなみにその際、しんのすけを除く全員(琢磨も含む)が何も言わずに背中を向けてくれた。先輩達の優しさが身に染みる香澄だった。
そうして魔法科高校の演習場に2人の力士が誕生したところで、その2人と行司である達也、そして勝負審判を務めるエリカ・レオ・十三束・五十里の4人以外が壁際へと移動する。ちなみに当然ながら土俵は無いので、中心から5メートルを示す円状のラインを越えたら負けと定め、エリカ達4人は東西南北に分かれてラインの外側へと配置された。
「それでは2人共、向き合って――」
「達也くん! さっき説明した通りにやって!」
粛々と任務を遂行しようとする達也に対し、しんのすけが壁際から大声をあげた。
達也は露骨に嫌な顔を浮かべてしんのすけを見つめるが、まるで折れる気配の無い彼に溜息を吐いた勢いで大きく息を吸い込む。
「ひがーしー! たくまーふーじー!」
「琢磨富士!?」
「にーしー! かすみーやーまー!」
「香澄山!?」
鍛え上げられた肺活量と低くて落ち着きのある声から放たれる即席の四股名に、本人ながら初耳の琢磨と香澄が驚愕の声をあげ、半分ほどのギャラリーが小さく吹き出し、そして深雪は行司を全うする兄の姿にうっとりしていた。
普段以上に感情の読めない無表情で目配せする達也の無言の圧力に、琢磨と香澄が慌てて定位置についた。足を大きく広げて腰を落とし、両手を床に近づける“仕切り”の動作に移るが、2人共相撲など碌に取ったことが無いため見様見真似である。
相撲には、試合開始を告げる掛け声などは無い。片手を土俵についた状態で互いに目を合わせ、無言のやり取りでタイミングを合わせていく。それは犬猿の仲であっても変わらず、試合に勝ちたいからと相手の不意を突くなんて真似は許されない。
「――――!」
「――――!」
そうして数秒間の無言の末、同時に飛び出した両者が正面からぶつかって組み合った。
「ひぃっ――!」
思わずほのかが声をあげるほどに、それは迫力に満ちた光景だった。いくら表面が柔らかい素材に覆われているとはいえ、それなりの重量があり3メートルを優に超す巨体がぶつかり合うのだから、その衝撃は周囲の空気を巻き込んで震わせるほどであり、その空気を介して観客である彼女達にまでビリビリと伝わってくる。
周囲にいる者でさえこうなのだ、実際に乗っている2人に伝わる衝撃は如何ばかりか――と思われたが、2人がそれに苦痛を覚えた様子は無く、互いの右腕を互いの左脇から差し込み、両手で相手の廻しを掴んで引き合う“がっぷり四つ”の体勢で組み合っていた。
――何だ、このスーツ! 思考してから実際に動くまでに、ほとんどラグを感じないぞ!
――まるで本当に自分の体になったみたい……! いや、こんな体、絶対に嫌だけど!
むしろ2人が驚いたのは、あまりにも違和感無くスーツを動かせることだった。2人共乗るのはおろか見るのすら初めてで、訓練どころか説明書の類も読んでいないにも拘わらず、である。
「ほう……」
どちらが先にスーツの操作に慣れるかが勝負の分かれ目、と試合が始まるまで考えていた達也は、それを裏切る目の前の光景に感嘆と関心の声を漏らした。五十里や美月、十三束といった工学系の知識を持つ者達も、彼と同じような反応を見せている。
「香澄ちゃーん! とにかく体を揺さぶって、少しでも重心を崩さないと!」
「七宝くんも、そのまま組んでるだけじゃ勝てないわよ!」
そして他の者はそれよりも、組み合ったまま動きを見せない取組そのものに注目していた。香澄の妹である泉美、そして最初は試合を行うことを渋っていた花音が夢中になって声を飛ばすその光景も併せて、まさしくそれは実際の大相撲を観戦しているかのような雰囲気だ。
しかし2人の声援を受けてなお、琢磨と香澄は動かなかった。いや、動けなかったと表現する方が正しいだろう。
「ぐっ、この……!」
「いい加減、動きなさいよ……!」
スーツの操作に搭乗者自身の力は一切必要無いのだが、まるでスーツが本当の体になったかのように2人が苦悶の表情を浮かべている。しかしその力の入れように反して、互いの体はガッシリと組み合ったままピクリとも動かない。
確かに同じスーツを着ているのだからパワーは同じだし、機械なのだからスタミナという概念も無い。なのである程度は拮抗した試合展開になると予想はしていたし、だからこそしんのすけもこれを提案したはずだ。
しかしこれは――
「――4分経過した。悪いがここで“水入り”とさせてもらう」
それは相撲用語で取組の中断を指す言葉であり、勝負の最中に邪魔が入ることを意味する“水を差す”の語源にもなっている。行司である達也の宣言により、琢磨と香澄が(渋々ながらも)相手の廻しから手を離して距離を取った。
大相撲ならここで後続の取組を挟んで再開となるのだが、先程も述べた通り機械を動かしているだけなので体力の消耗も無く休憩の必要も無い。よって呼吸を整える時間を少し与えるだけで再開の運びとなり、達也の無言の促しで2人が再び最初の位置へと戻っていく。
片手を土俵についた状態で互いに目を合わせ、無言のやり取りでタイミングを合わせていく。
「――――!」
「――――!」
そうして数秒間の無言の末、同時に両者が飛び出した。
「うららららららららぁっ!」
「このおおおおおぉぉぉっ!」
先程組み合って膠着状態になったからか、今度は両者共に廻しを狙わず両腕を相手の胸に向かって突き出してきた。平手で相手の体を押し込む“突っ張り”と呼ばれる技であり、相手の腕をいなしながら、あるいは胸に突きを食らいながらも必死の形相で相手を突き飛ばそうと激しい突っ張りの応酬が繰り広げられた。
ズドン! ズドン! と胸に突きが当たる度に衝撃が周囲の空気を震わせ、それが壁際の観客にまでビリビリと伝わってくる。視覚的には自身の倍ほどはある身長の力士がぶつかり合う光景もあって、非常に迫力のある取組であることは間違いない。
「相撲って初めて観ましたけど面白いですね、幹比古くん!」
「……うん、そうだね」
現に美月などはその迫力に興奮して若干頬を赤らめながら、隣にいる幹比古に楽しそうに話し掛けていた。
しかし彼女に応える幹比古は、賛同する台詞に反して何とも煮え切らない表情だった。そしてそれは彼だけでなく、同じく試合の行方を見守っていた風紀委員の花音、雫辺りも似たような反応を見せている。更にいうと、勝負審判として土俵際に控えるエリカ達も同じだった。
彼らの思いは、概ねこれで一致していた。
――コイツら、相撲やったこと無いな?
一見すると迫力のある突っ張りも、ただ前に突き出しているだけでは意味が無い。相撲というのは如何に相手の重心を高くしてバランスを崩すかが肝となるため、下から突き上げて相手の上体を起こすようにしないと効果が無いのである。
先程の組み合いでもそうだ。廻しを取るまでは良いが、結局そこからは闇雲に押し出そうとするだけで相手の重心など考慮もしていない。パワーやスタミナに差があればそれでも勝負は決まっただろうが、パワーが同等、スタミナ実質無限となればあれほどの泥仕合も止む無しだ。
「――4分経過。水入りだ」
「くそおっ!」
「だあ、もうっ!」
「しんちゃん、これ決着つかないわよ」
達也の宣言で再び取組が中断され、悔しがる琢磨と香澄を横目にエリカがさすがにしんのすけへと進言した。
しんのすけも同じことを思ったようで、大きな溜息を吐いて「やれやれ」と首を横に振った。
「んも~。2人共、相撲取ったこと無いの? 小さい頃とか、遊びでやってたでしょ?」
「いや、そんなの一度も無いですよ。というか幼い頃から魔法の訓練ばかりで、同年代と体を動かす遊びすらあまりしてこなかったですし」
「自分も七草と同じです。二十八家の一員として、魔法技能の向上が何よりの責務でしたので」
更に付け加えると、香澄も琢磨もゲームで例えると典型的な“魔法使い”タイプだ。レオやエリカのように近接戦闘を主体とし、それに対する補助として魔法を利用するタイプではなく、純粋に魔法を主体として戦うタイプなので格闘訓練に重きを置かなかったのだろう。
「まったく、困ったものですなぁ。オラが子供の頃はよく幼稚園のお庭で相撲を取ったものだゾ」
「まさかしんちゃんの口から、そんなお年寄りの常套句みたいな台詞が飛び出すとは」
「まぁ確かに、実年齢で考えりゃ何もおかしな事は無いんだけどな」
しんのすけの嘆きにエリカとレオは苦笑いを浮かべるが、琢磨と香澄は自分に非があるとは思えず不服そうだ。
しかしここで、行司として2人の戦いを一番間近で観ていた達也が、しんのすけの言葉に同意を示すように頷いた。
「相撲で遊ばないと駄目だとは言わないが、魔法の知識しか無いというのは少し危ういな。もっと別の事に目を向けることも、魔法師として重要な事だと思うぞ」
達也の言葉に、香澄は不服そうな表情を崩して反省の色を浮かべた。元々彼女が風紀委員会に入った目的はまさにそれであり、改めて第三者に指摘されたことでそれが浮き彫りとなったことを自覚したためだ。
しかしもう一方の琢磨はというと、カチンと来たことを隠しもしない不機嫌な顔と目つきで達也に向き直った。
「お言葉ですが、これが自分の魔法師としてのスタイルです。こうして首席で第一高校に入学できたことからも、特に問題があるとは思えませんが」
「格闘を得意とする者を相手取る場合はどうする? 相手がどのような戦い方をするか、そのために相手が何を狙っているのか、そしてそれを防ぐために自分が取るべき行動は何か。それらを考えるためにも様々な知識を身につけることは必要だ」
「司波先輩のご心配には及びません。俺の得意とする群体制御魔法は、そういった者をそもそも近づけることはありませんので。――
「――――!」
琢磨のこの発言は、明らかに失言だ。工学科に転籍したとはいえ二科生出身である達也を馬鹿にしているのは明白であり、故に同じく近接戦闘を得意とするエリカやレオといった面々も額に青筋を浮かべている。
そして演習室の空気が一気に冷えたことは、さすがの琢磨も感じ取った。直後に自分の失言にも気づき、思わず壁際に控える深雪に目を向ける。パッと見た限り表向きの変化は無かったが、それはそれで不気味な印象を琢磨は抱く。
と、フッと笑みを漏らす声に、琢磨が咄嗟にそちらへと顔を向ける。
口に手を当ててこちらを見遣る達也と目が合った。
「随分と自信があるようだな、七宝」
「……えぇ、もちろん」
「つまり、実戦において近接戦闘を主体とする者に遅れを取ることは無いと」
「っ――! ……はい、その通りです」
琢磨の返答に間が生じたのは、この場にいるエリカやレオといった者達の反発を恐れたからだろう。それでも達也の問い掛けに肯定したのは、今更自分の発言を取り消すことなどできない、といったところか。もっとも、意図的に彼女達を視界に入れないよう視線を逸らしているようだが。
一方達也は、想定通りの答えだったのか特に間を空けず、こう言った。
「たとえ相手が、このパワードスーツを身に付けていたとしてもか?」
「――――へっ?」
力士の姿を模したパワードスーツを指してそう尋ねてきた達也に、唐突だと感じた琢磨は思わず素っ頓狂な声をあげた。
そしてその様子を眺めていたギャラリーの反応も、概ね2つに分かれた。例を挙げるならば、エリカ・レオ・幹比古は表情を引き締め、美月・ほのか・雫はキョトンと首を傾げている。
そんな2つの空気が綯い交ぜとなった雰囲気の中、達也は香澄へと歩み寄る。
「それ、貸してくれないか」
「えっ? あっ、どうぞ」
彼女から受け取ったのは、パワードスーツを動かすのに必要な大銀杏を象ったカツラ。
そして自分が被っていた烏帽子を脱ぎながら、達也が琢磨に呼び掛ける。
「七宝、今から俺と試合だ」
「――――えっ?」
「えっ!?」
達也の提案に、琢磨だけでなくギャラリーからも困惑の声があがった。