嵐を呼ぶ魔法科高校生   作:ゆうと00

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第7話「新入生勧誘期間は大騒ぎだゾ その1」

 昼休みに生徒会室に呼び出されて風紀委員入りを打診され、放課後に異議を唱えた先輩を相手に模擬戦を繰り広げるという、達也やしんのすけにとってまさに“激動”と表現して差し支えない日から一夜が明けた。

 この日から1週間、第一高校は春の風物詩である“新入部員勧誘期間”に突入する。

 第一高校も一般的な普通科高校と同じように様々な部活やサークルが存在しており、新入生という新たな人材を確保するため勧誘に躍起になっている。それ自体は別におかしなことではないのだが、魔法科高校の場合は普通科の高校と少々事情が異なってくる。

 主な原因は魔法科高校独自のクラブが存在することと、“九校戦”こと“全国魔法科高校親善魔法競技大会”だろう。簡単に言えば、全国に9つある魔法科高校が魔法を用いた競技で戦うというものなのだが、この結果が学校そのものの評価に繋がるのはもちろんのこと、活躍した生徒とクラブは学校から優遇されるのである。

 そういうわけで、優秀な新入生の獲得は最重要課題であり、ゆえに各クラブ間でのトラブルが多発する。さらにこの期間中はデモンストレーションとしてCADの携帯が許可されていることも、トラブルを大きくする原因と言えるだろう。学校側も九校戦のことがあって多少のルール破りは黙認状態であり、まさに学内は無法地帯と呼んで差し支えない。

 

「うわぁ、噂には聞いてたけど、ウチの学校って本当に凄いんだなぁ……」

 

 A組の教室の窓から外を見下ろしていたほのかが、恐怖を伴った感嘆と共にそんな言葉を漏らしていた。簡易テントを通路の両端にズラリと並べ、道行く新入生に片っ端から声を掛けたり、ド派手なパフォーマンスで人目を惹こうとしている上級生達の姿が見て取れ、さながらそこは何かのお祭りかと見紛うほどに盛り上がっている。

 

「ところで深雪は、クラブには入らないの? 生徒会だけ?」

「そうね、他に手が回りそうにないもの。勧誘期間だけでも、追加予算の見積もりとか、壊れた備品の修理の手配とか、勧誘とかでの苦情の受付とか、やることが色々あるみたいで……」

「あぁ、それじゃクラブを見る余裕なんて無いかぁ……」

 

 同情するようなほのかの言葉に、深雪はフルフルと小さく首を横に振った。

 

「私なんて別に大したことないわ。本当に大変なのは、風紀委員のお兄様やしんちゃんだもの」

「そっか。何かあったとき、生徒達を取り締まるのが風紀委員の役目だもんね」

 

 納得したように手を叩くほのかに、深雪が首肯した。

 ある程度黙認されているとはいえ、魔法を使った暴力行為など、さすがに度を過ぎて騒ぎが大きくなった場合は風紀委員が介入する。それだけではなく、生徒を逮捕して懲罰委員会に掛ける必要が生じたときは風紀委員自身の発言も立派な証言となるなど、かなり大きな責任を伴う役目を担っている。

 勧誘期間は、今日から1週間。つまりその間、風紀委員は校内中を駆けずり回ることになるに違いない。

 そして今日はそんな1週間の大事な初日であり、風紀委員の本部で上級生達との顔合わせや簡単なミーティングが行われるのだが、

 

「……どう、雫? しんちゃん、起きそう?」

「全然ダメ、ビクともしない」

 

 先程から自分の机に突っ伏して惰眠を貪っているしんのすけを起こそうとアレコレ試していた雫が、ほのかの問い掛けにそう返事をした。普段はほとんど無表情で感情の起伏も分かりにくい彼女だが、今の彼女は肩を上下させるほどに息を荒らげて疲れ切った表情を見せている。

 いつでもどこでもマイペースを貫くしんのすけの姿に、深雪もほのかも自然と苦笑いを浮かべていた。このままでは彼が遅刻するだけでなく、上級生達にも迷惑を掛けてしまうだろう。

 なので2人も雫に加勢すべく、自分の席から立ち上がり――

 

「やっぱり、まだ教室を出てなかったか」

「お兄様!」

 

 教室のドアから達也の呆れ顔が飛び出したその瞬間、深雪は即座にしんのすけから愛しの兄へと進路を変え、満面の笑みで彼へと駆け寄っていった。

 そんな目立つ行動をするものだから、教室に残っているクラスメイト(ほのか・雫除く)が一斉に不快感を顕わにした視線を向けてきた。散々見下している二科生が自分達の領域に侵入してきたから、というのもあるが、単純に深雪の好意を一身に受けている達也へのやっかみというのが最も大きい。

 

「何となく嫌な予感がしたんでな、立ち寄らせてもらった。――ほら行くぞ、しんのすけ」

 

 達也が未だに俯せになって眠りこけているしんのすけの肩を掴み、大きく数回揺らした。するとしんのすけはおもむろに上体を起こし、大きくアクビをしながら両腕を挙げて背中を伸ばす。パキパキ、と小気味良い音が聞こえた。

 そしてしんのすけは辺りを見渡し、呆れ果てた表情をこちらに向ける達也と目が合うと、

 

「おぉっ。達也くん、おはよー」

「もう放課後だけどな。ほら行くぞ、ミーティングだ」

「ほっほーい」

 

 達也に腕を引っ張られるようにしてしんのすけが立ち上がり、2人はそのまま教室を出ていった。「頑張ってください!」という深雪やほのかの激励を背中に受けながら、2人は風紀委員本部へ向かって廊下を歩いて行く。

 と、その道中、達也がふと口を開いた。

 

「そういえばしんのすけ、見回りをするときにエリカも一緒に連れてって良いか? 美月もレオもどのクラブに入るか決めたみたいでな、1人で見学するのが寂しいんだそうだ」

「エリカちゃんが? 別に大丈夫だゾ」

「よし。それじゃ30分後に教室前で待ち合わせだそうだから、早いところ本部でのミーティングを片づけることにしよう。時間に遅れでもしたら、エリカに何を言われるか分からないからな」

 

 達也はそう言って、本部へ向かう足を心持ち速くした。

 呑気な表情で「ほーい」と返事をしたしんのすけが、その後に続く。

 

 

 *         *         *

 

 

 風紀委員の本部へと辿り着いた2人は、学生証であるICカードを入口脇のパネルに当てた。2人の情報は既に登録されており、ガチャンとロックが解除される音を確認した達也がドアを開け、2人は部屋の中へと足を踏み入れた。

 どうやら自分達は最後に来たようで、部屋には既に何人もの生徒が待っていた。ドアが開く音に合わせて、全員がこちらへと注目する。

 すると、その中に一際大きな反応を見せる者がいた。

 

「な――! 野原しんのすけ、なんでおまえがここにいる!」

 

 それは入学2日目でしんのすけに散々酷い目に遭わされた、1年A組の一科生・森崎俊だった。

 

「おっ? そういう森園くんこそ、なんでここにいるの?」

「僕の名前は森崎だ! 僕は教職員推薦枠で、今日からこの風紀委員に配属が決まったんだ! ――って、隣にいるのはウィードの司波達也じゃないか! まさかおまえも風紀委員になったなんて悪い冗談を言うつもりじゃないだろうな!」

「残念ながらその通りだ。とりあえず早いところ席に着け。他の先輩がいるのに騒ぐのは、さすがに非常識だぞ」

「非常識なのはおまえの方だ、司波! 風紀委員がどういう仕事か、どうやら分かっていないようだな――」

「やかましいぞ、新入り!」

 

 突然背後から怒号が聞こえてきたと思ったら頭に思いっきり拳骨を叩き込まれた森崎は、呻き声をあげながら両手で頭を抱えてその場に蹲ってしまった。

 そんな彼を、拳骨を叩き込んだ張本人である摩利が眉尻を吊り上げて見下ろしていた。

 

「……だから『早いところ席に着け』と言ったのに」

「母ちゃんに勝るとも劣らない拳骨……。うーん、さすが摩利ちゃんだゾ」

 

 そんな2人の遣り取りを見ていた達也としんのすけが、無意識にそんな言葉を零していた。

 

「おはようございます!」

「おはようございます、姐さん!」

 

 そして次の瞬間、席に着いていた先輩達が一斉に立ち上がり、風紀委員長である摩利に対して深々と頭を下げた。まるで軍隊のような統率ぶりに、達也は内心、森崎はあからさまに面食らっている。ちなみにしんのすけは、素直に感心している様子だった。

 

「鋼太郎、姐さんは止めろ! ――森崎、おまえが例の騒ぎを起こしておきながら風紀委員入りを取り消されていないのは、あくまでその件に対しておまえが充分反省しているという前提があってのことだ。もしも反省が見られないようならば今からでも取り消すことはできる、ということを肝に銘じておけ」

「……はい、了解です」

 

 森崎の返事に、摩利は全員を席に着かせると一番奥の席に移動した。

 そしてバンッ! と机に両手を叩きつけて、話を切り出した。

 

「さて、今年もあの馬鹿騒ぎの一週間が始まった。――クラブ活動の新入部員勧誘期間だ。いや、“新入生獲得合戦”というべきかな? この無法地帯を鎮められるのは、我々風紀委員だけだ! 今日から一週間フル稼働してもらう! 幸い今年は、新人の補充も間に合ったからな」

 

 摩利はそう言うと、達也たち3人をちらりと見た。

 自分達を紹介するのだと読み取った達也と森崎が素早い動きで立ち上がり、キョトンとしていたしんのすけは隣の達也に引っ張り上げられていた。

 

「1-Aの野原しんのすけ、1-Aの森崎俊、――そして1-Eの司波達也だ」

 

 案の定、達也が紹介されたところで部屋の中がざわついた。「二科生が取り締まるのか?」といった声が、あちらこちらから聞こえてくる。

 

「委員長、この二科生は戦力になるんですか?」

「腕前は確認済みだ。――私の目が不安だというなら、自分で確かめてみるか?」

「い、いえ、結構です……」

 

 摩利の睨みが効いたのか、口を挟んできたその生徒はすごすごと引き下がった。

 

「他に質問は無いか? ――無いなら、ただちに出動!」

 

 その言葉と共に、部屋にいた先輩の風紀委員が一斉に立ち上がり、そのまま駆け抜けるように部屋を出ていった。

 

「司波、森崎、野原。おまえ達には、これを渡しておく」

 

 摩利がそう言って差し出したのは、掌サイズのビデオレコーダーと“風紀委員”の文字が書かれた腕章だった。

 

「巡回のときには、常にその腕章を身につけておけ。レコーダーは胸ポケットにしまい、何か起こったらすぐにスイッチを入れろ。また風紀委員は常にCADを携帯する許可が与えられているが、不正使用は厳罰対象だから注意するように」

「質問があります」

 

 摩利の説明が終わるタイミングを見計らって、達也が手を挙げた。

 摩利の「許可する」という返事を待ってから、部屋にある机の上に無造作に置かれているCADを指差す。

 

「CADは委員会の備品を使用しても良いのでしょうか?」

「構わないが、理由は?」

「あれは旧式ですが、エキスパート仕様の高級品ですよ」

 

 達也の言葉に、摩利は「そうなのか!」と驚きの声をあげた。昨日の模擬戦でもあずさにCADについて尋ねたりしていることから、どうやら摩利はその手の知識には疎いようである。

 摩利からの許可も得たことで、達也は幾つもあるCADの中から()()選び、それぞれの手首に装着した。

 

「それでは、こちらをお借りします」

「2機だと……? ふふ、本当に面白いな、君は……」

「しんのすけはどうする? 借りてくか?」

「えぇっ? オラは別にいいや」

 

 不敵な笑みを浮かべて感心する摩利の後ろで、森崎が不機嫌そうに顔を歪めていた。

 

 

 

 

 

「おい、どうやらおまえはハッタリが得意なようだな」

 

 摩利と別れ廊下を歩いているとき、ふいに森崎が達也に話し掛けてきた。

 

「2機も装着して注目を集めようとしてるんだろうが、両手にCADを装着してもサイオン波が干渉して使えなくなるのがオチだぞ?」

「……アドバイスしているのか? 余裕だな」

「うるさい! 一昨日は不意を突かれてしまったが、今度はもう油断しない。おまえ達に格の違いってやつを見せてやる」

 

 森崎はそう言うと、達也たちに背を向けてズンズンと足早に歩いていく。

 

「あれっ? 森島くんは一緒に行かないのー?」

「僕は森崎だ! 僕はおまえ達と違って優秀だからな、1人でも充分だ!」

 

 森崎はそう言い残して、廊下の角を曲がって姿を消した。

 

「んじゃ、オラ達も行きますか」

「その前に、エリカと合流しないとな。――しまった、10分ほど遅れている。急ぐぞ」

「んもう。駄目だなぁ、達也くんは」

「おまえが居眠りせずに早く本部に行けば、結果は違っていたかもな」

 

 いくら急ぐといっても、さすがに緊急でもないのに廊下を走ることは許されない。2人は早歩きで1-Eの教室まで行くと、入口から中を覗き込んだ。

 しかし中にいたのはダラダラとお喋りに興じている生徒が数人だけで、あの人目を惹く鮮やかな赤みがかった髪は見当たらない。

 

「おっ? エリカちゃん、いないみたいだゾ?」

「待ちくたびれて、先に行ってしまったのかもしれないな。――仕方ない、巡回ついでに探しに行くか」

 

 達也の言葉にしんのすけも頷き、2人はそのまま外へと出た。

 校舎の外は、まさに熱狂の渦が巻き起こっていた。

 それぞれのクラブが指定された場所にテントを建て、そこでCADを使ったデモンストレーションを行ったり、体験コーナーを設けていたりしていた。呼び込みの声もあちこちで入り乱れており、勧誘も相手の腕を引っ張ったりとかなり強引に行われている。特に一科生ともなると、やはり成績が優秀ということもあって様々なクラブから文字通り引っ張りだことなっていた。

 

「いやぁ、盛り上がっていますなぁ」

 

 腕を組んで感心したように頷くしんのすけの横で、達也が視界の端に人目を惹く鮮やかな赤みがかった髪がちらついたのに気がついた。

 

「彼女に先に声を掛けたのは、我々テニス部だぞ!」

「いい加減に手を離しなさい! 私達バレー部が先よ!」

「あ、あの、もう離して……」

 

 そこに目を遣ると、様々なコスチュームに身を包んだ複数の生徒が、エリカを取り囲んで言い争いをしていた。会話の内容からして、見目麗しい彼女に目を付けた上級生が自分達のクラブに勧誘しようと一斉に集まってきたのだろう。力任せに色んな方向から腕を引っ張られ、さすがのエリカも少々参っているようだ。

 

「しんのすけ、エリカが見つかった。あの人混みの中心にいる」

「おぉっ! エリカちゃん、モテモテですなぁ」

「まぁ、あの見た目だからな」

 

 一科生ならともかく、二科生ならば本来そこまでの争奪戦にはなりづらい。しかし彼女は深雪とは違うタイプでの“かなりの美少女”であり、おそらく部のマスコット的な役割を彼女にやらせたい魂胆なのだろう。

 と、2人がそんな風に観察していると、

 

「あの、他に行く所があるので――ちょ、どこ触って、きゃっ!」

「まずい、ヒートアップしてきたな。――しんのすけ、止めるぞ」

「ほっほーい」

 

 達也がエリカに向かって走り出した一瞬後、気の抜けた返事で答えたしんのすけが彼の後に続いた。それでも達也のスピードに余裕でついて来られる辺り、やはり彼の身体能力は相当なレベルだと言えるだろう。

 チラリと後ろを見遣って改めてそれを感じた達也は、ある程度集団に近づいたところで急ブレーキを掛けてその場に踏み留まった。そのすぐ横をしんのすけが追い抜いていくのを見送って、彼は自身の手首に装着しているブレスレット型のCADに手を遣る。

 達也の足元に、青白い光で魔法式が展開される。

 

 ――何も攻撃する必要は無いんだ。人垣を崩すだけで良い……!

 

 達也はエリカが囲まれている人垣を見据えながら、ほんの少しだけ右脚を上げた。

 

「しんのすけ、跳べ!」

「ほいっ!」

 

 その呼び掛けに即座に反応したしんのすけが走り幅跳びの要領で跳び上がるのを確認すると、達也が上げていた足を地面に叩きつけた。魔法式によって増幅されたその衝撃が地面を走り、エリカを取り囲む生徒の足をふらつかせ、そして倒れ込んだ。

 当然エリカもその揺れによってバランスを崩し、そのまま地面に倒れ――

 

「よっ! エリカちゃん!」

「しんちゃん!」

 

 突然現れたしんのすけがエリカの手首を掴み、彼女だけは地面に倒れずに済んだ。そして彼にそのまま体を引っ張られて一瞬焦りの表情を浮かべる彼女だったが、すぐさま意図を理解したのかすぐに自分の足で駆けて彼の後に続く。当然それを止めようとする生徒達だったが、2人の殿(しんがり)を務める達也が牽制することで防がれた。

 やがて3人は人通りの無い建物裏まで逃げ込み、そこでようやく足を止めた。肩を上下させて呼吸を乱すエリカに対し、達也としんのすけは何とも余裕の表情で平然としている。

 

「いやぁ、2人共ありがとう。助かったわ」

「構わないさ。ああいうトラブルを解決するのが、俺達風紀委員の仕事だ」

「へぇ……。おお、風紀委員の腕章だ、似合ってるじゃないの」

「いやー、それほどでもー」

 

 照れたようにニヤニヤとだらしない笑みを浮かべるしんのすけの反応に、つい先程まで辟易していたエリカに笑顔が戻った。

 

「それにしても、2人がもう少し早く来れば、あんなことにはならなかったのになぁ」

「それは悪かったな、エリカ」

「あれ、謝っちゃうんだ?」

「遅れたのは事実だからな。まぁ、勝手に待ち合わせ場所からいなくなるのは、また別問題だが」

「うぐっ! ……達也くんってさ、性格悪いって言われない?」

「特に言われたことは無いな。人が悪いって言われたことはあるが」

「同じじゃん! てか、もっと悪いよ!」

「おぉっ、ナイスツッコミ。エリカちゃん、師匠みたいにお笑い芸人目指せるんじゃない?」

「目指すつもりは無いわよ!」

 

 本人は否定しているが、まさにしんのすけの期待通りにツッコミを入れるエリカに、達也は思わずフッと笑みを漏らした。

 そんな彼に目敏く気づいたエリカがギロリと睨みつけてきたので、彼はコホンと咳払いして気を取り直す。

 

「まぁ、お詫びと言っては何だが、エリカの好きな所に行くとするか」

「え、良いの? そうだなぁ……」

 

 エリカは少しの間何かを考える素振りを見せ、そしてしんのすけの方をチラリと一瞥してから、恋に不慣れな男子生徒辺りなら見惚れてもおかしくない素敵な笑顔でこう言った。

 

「せっかくだから、“闘技場”を見ていきたいかな!」




「そういえばしんちゃん、さっき言ってた“師匠”って誰のこと?」
「オラが5歳のときに出会ったお笑いの師匠だゾ! “埼玉紅さそり隊”っていう女子高生トリオ漫才グループで、色んな場所でネタを披露してたんだゾ」
「へぇ、ストリートミュージシャンならぬストリート漫才師ってヤツかぁ、一度観てみたいものね。その人達って今も活動してるの?」
「ネタはあまりやらなくなったけど、今も3人一緒の所に就職したから仲良くやってるんじゃないかな?」


「……なぜだろう、何か大きな勘違いをしている気がするな」
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