嵐を呼ぶ魔法科高校生   作:ゆうと00

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第96話「ヘンダー城の決戦だゾ」

「七草先輩!」

「達也くん。それに深雪さんとシールズさんも」

 

 門が固く閉ざされたヘンダー城の前で佇んでいた真由美が、後ろから掛けられた聞き覚えのある声に反応して振り返った。

 想像通り先頭を走るのは達也であり、その後にリーナと深雪が続く。3人と別れたのは隣のエリア“ヘンダータウン”であるのに加え、ヘンダー城はヘンダータウンとプレイランドのちょうど中間に位置している。ス・ノーマンとの戦闘を終えた3人がこの短時間で駆けつけたとしても不思議ではなかった。

 そんな3人だが、真由美の胸に抱かれた操り人形の存在に気づくと、一様に虚を突かれたように口をポカンと開けた。

 

「もしかして、七草先輩が抱えているその人形は……」

「お察しの通り、トッペマよ。3Hが戦闘で壊れちゃって、彼女の魂がこの人形に乗り移ったみたい。そういうわけだから、せっかく達也くんが買い取ってくれたところ申し訳ないんだけど――」

「いえ、それについては別に構わないんですが……。それでトッペマ、状況は?」

 

 達也がトッペマに視線を向けて、真剣な表情で問い掛ける。そうしていると真由美の胸を本人の目の前でガン見しているように思えるが、深雪もリーナも真由美もそんなことを言える状況ではないので黙っている。

 そんなことはお構いなしに、問われたトッペマが人形の顔を動かして苦悩の表情を作った。

 

「城の中にしんちゃんとほのかちゃんが入って、そのまま閉じ込められた状態よ。城全体を囲むように多重障壁魔法が掛けられていて、魔法的・物理的に関係無くちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしないわ。とはいえ、反射みたいな余計な効果は付いてないみたい」

「ということは、圧倒的な攻撃力の魔法をぶつければ突破することは可能、ということか?」

「理論上はね。でもそれだけの攻撃力を持つ魔法なんて、それこそあなた達の言う“戦略級魔法”でやっとスタートラインに立てるってレベルだけどね」

 

 トッペマの口から飛び出した“戦略級魔法”という単語に、全員の視線が一斉にリーナへと向く。

 

「残念だけど、ワタシは無理よ。さっきの戦闘で弾も尽きたから、もう1発も撃てないわ」

 

 悔しそうに歯噛みするリーナの横で、深雪が心配そうな表情で達也を見つめる。

 確かに達也の“マテリアル・バースト”ならば、この魔法防壁も貫けるかもしれない。とはいえ、それは自身がリーナ達の探していた戦略級魔法師であることを明かすことになる。

 いや、それについては今はどうでもいい。問題なのは、どれほどの破壊力に設定すれば障壁を破れるのか分からず、結果的に城の中にいるしんのすけ達も巻き込んでしまう危険性があることだ。

 

「城の中にいるのって、過去にトッペマの世界も滅ぼしたような強大な力を持ってるんでしょ? そんな奴らと一緒だなんて、しんちゃん達の安否が心配だわ……」

「しんちゃん、ほのか……」

「…………」

 

 真由美の言葉に、深雪は祈るように両手を胸の前で組む。

 リーナも達也も、壁の向こう側を見透かそうとするかのようにヘンダー城を睨みつけていた。

 

 

 *         *         *

 

 

「ぐっ……!」

「ほのかちゃん!」

 

 苦痛に塗れた呻き声をあげて、ほのかがその場に崩れ落ちるように倒れ込んだ。大きく息を荒らげて額に汗を滲ませる彼女に、しんのすけがハッとした表情で駆け寄った。

 

「ゴメン、しんちゃん……。でも私、もう限界……」

「諦めちゃダメだゾ、ほのかちゃん! 世界の運命は、オラ達に託されているんだゾ!」

「そっか……、そうだよね……! 私達がここで頑張らなきゃ、日本どころか世界だって危ないんだから!」

 

 しんのすけに手を引っ張られて立ち上がるほのかに、マカオとジョマがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「あら、まだ立ち上がる気なのね」

「そろそろ諦めた方が良いんじゃない? あなたの腕じゃ、アタシ達に勝つだなんて夢のまた夢なんだから」

「たとえそうだとしても、私達は諦めるわけにはいかないの……!」

「その通りだゾ! オラ達はまだまだ戦うゾ!」

「――良いわ、存分に掛かってらっしゃい」

「どうせ最後に勝つのは、アタシ達なんだから」

「やってみなきゃ分かんないゾ! うおおおおおお!」

 

 しんのすけは雄叫びをあげ、ほのかは気力を振り絞って構えの姿勢を取る。

 それを目の当たりにしたマカオとジョマが、周りに控えるヘンダーくん達へと呼び掛ける。

 

「――あなた達! ミュージック、スタート!」

 

 号令と共にヘンダーくんがスイッチを押し、どこからともなく音楽が流れ始めた。

 片や、クラシックを彷彿とさせる管弦楽。

 片や、日本人のDNAに刻まれている笛と太鼓の祭囃子。

 

「行くゾ、ほのかちゃん! ――ハイッ! ラッセ! ラッセ! ラッセ! ラッセ!」

「ラッセ! ラッセ! ラッセ! ラッセ!」

 

 それと同時に、しんのすけとほのかが勢い良く踊り始めた。腰を低くしてステップを踏みながら前進して手振りを加える、日本人なら誰でも一度は見たことがあるであろう“阿波踊り”である。もっとも、掛け声も振付もこれが正式かどうかは2人共知らないが、こういうのは勢いが大事なのである。

 そしてマカオとジョマも負けじとばかりに、バレエを踊り始めた。ひたすら熱くて激しいしんのすけ達とは対照的に、こちらはクールに優雅に次々と技を決めていく。ちなみにマカオが男性役、ジョマが女性役である。どうでもいい情報である。

 そしてそんな2チームの演技を、ヘンダーくん達が時折メモを取りながら審査をしていた。いつの間にか用意した横長のテーブルに並んで座り、頭を掻きながら悩む姿が見受けられる。

 

「と、ところでしんちゃん! 勢いに圧されて踊ってるけど、なんでダンスバトルなの!?」

「あのオカマ魔女2人に、オラ達の心意気を見せるんだゾ」

「心意気なら、アタシ達だって負けてないわ」

「100年閉じ込められた程度で鈍るような腕じゃないってところ、見せてあげるわ」

 

 ほのかの困惑を無視して、ダンスバトルは白熱の一途を辿っていく。ちなみに阿波踊りはきちんとした振付で踊れば1時間に1000キロカロリー近く消費する、それこそ水泳に匹敵するほどに激しい運動だ。

 

「も、もうこうなったら、どうにでもなれ~!」

 

 意識が朦朧としていきながらも、ほのかは尚も踊り続けた。その姿はまさに“踊る阿呆”そのものであり、その姿がヘンダーくん達審査員の心を打ったようで涙を流している。

 

「うおおおおおお!」

 

 ダンスバトルは、佳境を迎えつつあった。

 

 

 *         *         *

 

 

「達也くん!」

 

 後ろから自分の名を呼ぶ声に達也が振り返ると、ヘンダーランドのシンボルマークが描かれた軽トラの荷台から跳び下りるエリカと目が合った。荷台にはレオ・幹比古・美月の姿もあり、運転席にはパークのスタッフと思われる若い男性が座っている。

 

「エリカ達、無事だったのね」

「十文字先輩のおかげでね。先輩は人質に取られてたスタッフの安全確保に動いてる」

「んで、少しでも力になれるかと思ってスタッフに車を出してもらったんだが……、どうやらそう簡単な話じゃないみてぇだな」

 

 レオの言葉に達也は頷き、現状を簡単に説明した。

 

「成程ね……。戦略級魔法レベルじゃないと話にならないってのはかなりキツイな……」

「リーナ、今からでも“弾丸”を調達することってできないの?」

「材料が何とかなったとしても、単純に魔力が足りないわ。普通に立ってるように見えるかもしれないけど、これでも結構ギリギリの状態なのよ」

「そう何発も撃つことを想定して設計されていないだろうからな」

 

 達也のフォローにリーナが力強く頷く中、美月が心配そうに眉を寄せる。

 

「それにしても、中にいるしんちゃんと光井さんが心配ですよね……」

「でもアタシ達が中に入るにしろ、まずは城のバリアをどうにかしないと――」

「そのことなんだけど」

 

 真由美の腕に抱かれた状態で黙っていたトッペマが、このタイミングで会話に割り込んできた。

 

「超強力な魔法なら当てがあるわ。しんちゃんと魔力的に繋がってたとき、桁違いの攻撃力を持つ魔法を見つけていたの」

「えっ、しんちゃんが!?」

 

 エリカを始め皆が驚きの表情を見せる中、達也だけはそれを聞いて思い出すことがあった。

 九校戦に備えて、しんのすけからCADを預かって調整していたときのこと。そこに記録されていた数々の魔法式に紛れて、意味を成さない無駄なデータが散見された。最初達也は古い魔法式を消去するときに処理しきれなかった残骸かと考えたが、何かの魔法式を切り刻んで偽装しているのではという仮説を立てたのである。

 

「確かトッペマ、しんちゃんの魔法を使えるんだったよね? だったら――」

「今は無理。魔法の使用を制限している城の効果の影響で、私としんちゃんとの間にある魔法的な繋がりも絶たれてるの。だから結局、どうにかしんちゃん達を城の外に出すしかないってわけ」

「マジかよ。だったらしんのすけが城の中に入らないで待ってたら勝ち確だったじゃねぇか」

「それを恐れて、マカオとジョマはしんちゃん達を誘い込んだんでしょうね」

 

 トッペマ達の会話を聞きながら、達也は考えた。

 どうやら今回はしんのすけ自身が事件を幕を下ろす必要がありそうだ、と。

 

 

 *         *         *

 

 

 ダンスバトルの結果は、何としんのすけ・ほのかペアの勝利となった。判定では“芸術”や“テクニック”といった技術面でマカオ・ジョマペアが大差をつけるが、“味”や“コク”や“のどごし”で徐々に差を詰めていき、最終的に“汗”と“ハート”で逆転勝ちとなった。

 しかしここで、マカオとジョマから待ったが掛かった。審査員が公平でなかったと文句を付け、別のゲームでの再試合を提案してきたのである。ちなみに判定したのはヘンダーくん達なのでむしろ不利な状況だったはずなのだが、しんのすけがそれを受諾、次のゲームへと突入する。

 そしてゲームも終盤、ほのかは人生最大の岐路に立たされていた。

 

 ――右か、左か……。2つに1つ……。

 

 こめかみから流れる汗も拭わずに、ほのかは目の前にある“それ”に視線を固定させていた。胸の奥が絞めつけられるほどのプレッシャーで呼吸が荒くなり、気のせいか視界が霞んできたように思える。

 

 ――右か、左か、やっぱり右か、そう見せかけて左か……。

 

 それはほのかもよく知っている、すぐに憶えられる単純なルールによって子供からお年寄りまで誰でも一緒に参加できるゲームだった。彼女自身も小さい頃から何度も遊んできたために馴染み深いものであるが、まさかそれで世界の命運を決めることになるとは思いもしなかった。

 

 ――いや、相手は私が右を取ると思わせておいて左を取ると読んでいるかも……。って、駄目駄目! 複雑に考えちゃ!

 

 ほのかのすぐ正面では、マカオが不気味な笑みを浮かべながら彼女の出方を窺っていた。呼吸音すら聞こえないほど静かに見つめるその姿は、ほのかの一挙手一投足を観察して楽しんでいる余裕すら感じる。

 世界を滅ぼせるほどの実力を有する魔法使いが目の前で自分を見つめているという事実に、ほのかは意識が遠くなる心地を一瞬味わいながらも、すぐさま気を取り直してマカオの手元に改めて視線を集中させる。

 マカオの手元にあるそれは、ほのかもよく知っている――トランプだった。

 

 ――どっちかが私も持ってるエースで、もう片方が別のヤツ! 何を迷う必要があるの、結局は二者択一なんだから! 1か0か、イエスかノーか、達也さんか深雪か! もし達也さんから告白されたら私は間違いなくオッケーする……けど、正直深雪から告白されたら受け入れちゃうかもしれない……。

 

「ほのかちゃん、何か別のこと考えてない?」

「ちょっと、目の前のゲームに集中しなさいよ。たかがババ抜きでも、これは世界の命運を賭けたババ抜きだってことを忘れないでよ?」

「――――! えっと、それじゃ、こっち!」

 

 横から声を投げ掛けられハッと我に返ったほのかが、そのままの勢いに任せてマカオが持っていた2枚のトランプの内、自分から見て右側のカードを抜き取った。その際、マカオの口元がニヤリと笑ったように見えたが、ほのかは敢えてそれを無視して自分の手元に持っていく。

 自分が持っているのは、ハートのエース。

 それに対してマカオから取ったのは――スペードのエースだった。

 

「――やった! わ、私、勝ったんだ! この長く苦しい戦いに勝ったぁ!」

 

 ほのかは思わず立ち上がり、柄にもなく両手で力強くガッツポーズをして、

 

「……あら、アタシも上がり」

「あっ、ジョーカーが残っちゃった」

「ぐへぇっ!」

 

 その直後にマカオがしんのすけからトランプを引いて上がり、しんのすけの最下位が決定したため、ほのかはそのポーズのまま後ろに倒れ込んだ。

 

「し、しんちゃん! 何あっさり負けてんの!? このババ抜きに負けたら――」

「ダイジョーブだって。ほら、こうしてジョーカーが手に入ったんだから」

「だから、それが駄目なんだって! 最後までジョーカーを持ってた人が負けなんだから!」

「前の勝負のときも、ここから大逆転勝利だったんだから。まぁ見てて」

 

 しんのすけは自信満々にそう言ってのけ、そして大きく息を吸い込み、

 

「――『スゲーナ・スゴイデス』!」

 

 城中に聞こえるのではと思うほどに大きな声で、高らかに呪文を口にした。

 そして、何も起こらなかった。

 

「悪いけど、このトランプは普通のヤツだから」

「また同じ轍を踏むわけにはいかないものね」

「おぉっ、そういえばデザインも違う気がする」

「駄目じゃん!」

 

 城中に聞こえるのではと思うほどに大きな声で、ほのかがツッコミを口にした。

 

 

 *         *         *

 

 

「いたよ! 1階のエントランスだ!」

 

 突如大声をあげた幹比古に、全員が一斉に彼へと振り向いた。

 現在彼が展開している魔法は、自身が呼び出した精霊と感覚を同調させるというもの。今回は視覚を共有しており、城の周りに精霊を飛ばして窓からしんのすけ達の姿を確認しようとしたのである。正直外から見えない場所にいる可能性も充分あったので期待値は低かったが、何事もやってみるものだ。

 

「それで、2人は無事なの!?」

「大丈夫、怪我をしている様子は無いよ。というか……」

 

 言い淀む仕草を見せる幹比古に、皆の表情に怪訝の色が浮かぶ。

 

「おそらくトッペマが言ってた魔法使い2人組と一緒にいるんだけど、戦ってる様子が全然無いんだ。今はマスコットキャラみたいな奴らが色々と準備しているみたいなんだけど、4人はただそれを眺めてるだけで緊迫した雰囲気は一切無くて……」

「はっ? 何それ、向こうに敵意は無いってこと?」

「少なくとも、敵意は見られない。もしくは、敵意を覚えないほどに自分達の実力に自信があるのか……」

「あるいは現時点ではアイツらに戦闘の意思は無いか、ね」

 

 トッペマの言葉は、他の者達からすれば俄かに受け入れ難いことだ。魔力収集機能を持つヘンダー城を手に入れ、本来の姿を取り戻している2人が、世界征服をするうえで邪魔になるであろうしんのすけをアジトに誘い込んで何もしないなど、普通ならば考えられないことだろう。

 

「――“主人公補正”か」

 

 ふいに達也が零したその単語に、一部が目つきを鋭くさせ、そして残りはキョトンと首を傾げる。ちなみにその一部とは、深雪・リーナ・真由美・トッペマである。

 

「すぐ傍にいる私達が狙われていないのも、原因はそれかもしれないわね。とにかく、しんちゃん達が無事な内に手を打たないと」

「そうだな。――幹比古、しんのすけ達の位置取りは分かるか?」

 

 色々と聞きたそうな表情の幹比古だったが、何かを振り払うように小さく首を横に振ると目を瞑り、そしてすぐに開いて口を開く。

 

「ちょうど4人が1つのテーブルを囲んでいるところだ。しんのすけくんが窓に背を向けて、光井さんがその向かいで窓の方を見てる。そして奴らがその間に座っている感じだ」

「何かメッセージを送れるとしたら、ほのかが見られる位置取りか。だったら――」

 

 達也の指示に幹比古は頷き、そして行動に移した。

 

 

 *         *         *

 

 

 ババ抜きで負けたしんのすけとほのかだったが、ダンスバトルで自分達が勝ったことを持ち出して現状イーブンだと主張、マカオとジョマもそれを妥当だと判断し、これが本当に最後の勝負だと決めたうえでゲームを開始した。

 最後の勝負に選んだゲームとは――4人いるからという理由で“麻雀”となった。

 

「いやぁ、まさかヘンダー城に麻雀卓があるとは思わなかったゾ」

「アタシ達もビックリよ。というか、ここって普段どんなアトラクションしてるの?」

「水道管の配列までまったく一緒とか、どこかに設計図でも残ってたのかしら? まぁ、そのおかげで魔力収集装置としての機能も残ってたんだけど」

「…………」

 

 何やら重要なことを言っているような気もするが、ほのかはそれも聞かずに意識を集中させて5巡目の牌をツモった。その結果、既に持っている字牌の(チュン)を捨てればツモった牌と合わせてテンパイとなる状況となった。

 それに気づいたほのかは、すぐさま中に手を伸ばす。

 

「よし! これに決めた!」

「ロン!」「ロン!」「ロン!」

「――――はっ?」

 

 そしてその瞬間、残りの3人が一斉にロンを宣言した。

 つまり、味方であるはずのしんのすけもロンを宣言した。

 

四暗刻(スーアンコー)!」

「大三元」

「国士無双」

「はぁっ!? えっ? ちょ、えっ?」

「あら、しんちゃんったら単騎待ちだったのね、凄いじゃない」

「いやぁ、それほどでも~」

「『それほどでも~』じゃないよ、しんちゃん!」

 

 敵と一緒に喜ぶしんのすけに、さすがのほのかも椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がる。今の彼女には、マカオの「マナー悪いわよ」というお叱りの言葉も聞こえていない。

 

「しんちゃん、私達って仲間だよね!?」

「ゴメン、ほのかちゃん……。あまりにもカモだったから……」

「カモ!?」

「とりあえず今のを計算すると、1位がしんちゃんの186,000点、2位がアタシの175,900点、3位がジョマの174,800点で――」

「んで、最下位がほのかちゃんの▲436,700点ね」

「私だけ圧倒的すぎない? もう逆転しようがないんだけど」

 

 すぐに勝負が着いたら面白くないからとトビ無しのルールにした結果の惨状に、マカオが大きな溜息を吐いた。

 

「仕方ないわね。本当は次もアタシの親なんだけど、特別にアンタの親で進めても良いわよ」

「本当ですか!?」

 

 まさかの敵からの恩情にほのかは即座に乗っかって、気合を入れながら卓上の牌を中央の穴に吸い込ませていき、定位置の場所から出てきた新たな山から所定の牌を取っていく。

 つまり4人が現在囲んでいるのは全自動の麻雀卓ということになるのだが、子供に人気のテーマパークになぜこのような代物があるのか、ますます謎は深まるばかりである。

 

「よーし、とにかくできるだけ自分の親番を続けないと……」

 

 ブツブツと独り言を呟きながら、とりあえず字牌を整理しようと(ハク)を切り、

 

「ロン!」

「しんちゃん!?」

 

 その瞬間、しんのすけに上がりを宣言されていた。

 フルフルと小刻みに震えるほのかを横目に、マカオとジョマが彼の牌を覗き込む。

 

「あら、人和(レンホウ)だなんて初めて見たわ」

「おめでとう、しんちゃん。満貫よ」

「イエーイ!」

 

 マカオとジョマの言葉に、しんのすけは素直に喜びを露わにする。それはまるで彼ら3人が同じチームであるかのような光景であり、ほのかだけがその雰囲気から弾き出されていた。それこそ、1人だけ作風の違う世界に迷い込んだ別作品のキャラかと見紛う有様だった。

 そしてそんな状況に、とうとう彼女の堪忍袋の緒が切れた。

 

 バンッ――!

 

 卓に両手を強く叩きつけたほのかに、さすがの3人も咄嗟に口を閉ざして彼女を見遣る。俯いているため表情を窺い知ることはできないが、剣呑な雰囲気が彼女から迸っているのはしんのすけにも伝わった。

 

「……しんちゃん」

「ほ、ほいっ!」

 

 ほのかの呼び掛けに、しんのすけが直立の姿勢で応える。

 そうしてほのかが顔を上げたとき、彼女はむしろ不自然なまでに満面の笑みだった。

 

「作戦会議をするから、ちょっとこっちに来てくれる?」

「ほい! すぐ行くゾ!」

 

 舎弟か子分を連想させるほどに機敏な動きで、しんのすけはその場を離れるほのかの後を追い掛けていった。

 それを黙って見送ったマカオが隣のジョマに視線を遣り、2人は互いに無言で肩を竦ませた。

 

 

 

 

 さて、マカオとジョマから距離を取ってエントランスの端にまでやって来たほのかは、そのまましんのすけへの呵責を開始――しなかった。

 

「えっ? ミキくんからメッセージ?」

「そう。窓の外で吉田くんの精霊が飛んでたの」

 

 先程麻雀をしていたとき、ほのかは自分の正面、そしてしんのすけの背後に位置する窓の向こうで幹比古の精霊がフワフワと飛んでいるのを見つけていた。近づきすぎると城全体を覆う結界によって消滅してしまうためか少し離れた場所だったのだが、チカチカと蛍のように光っていたため発見できたのである。

 

「オラ、メッセージなんて全然聞こえなかったゾ」

「声を発してたんじゃなくて、精霊の動きがメッセージになってたんだよ。光ってるときの動きを繋げるとカタカナの文字になってて、それを読むと『ソトニデロ』ってなってたの」

「ソトニデロ……外に出ろ? 外に出てどうすんの?」

「それは分からないけど、きっと何か作戦があるんだよ。だから私達は、どうにかしてこのお城から脱出しないといけないんだけど……」

 

 顎に手を当てて考え込むほのかに、しんのすけが露骨にホッと胸を撫で下ろした。

 

「成程。つまりさっきのほのかちゃんは、それを伝えるためのお芝居だったというわけですな。いやぁ、オラもうビックリしちゃったゾ」

「言っておくけど、さっきの麻雀に関して怒ってるのは本当だからね」

「ごめんなさい」

 

 腰が直角に折れ曲がる勢いで頭を下げるしんのすけに、ほのかは小さく溜息を吐いて首を横に振った。

 

「とりあえず、しんちゃんも外に出る方法を考えて」

「来たときの扉から出れば良いんじゃないの?」

「駄目。さっきさりげなく見たけど、マスコットキャラ達が扉の前を陣取ってたの。別の場所から外に出ないと――」

「あらあら、2人で麻雀の相談をしてるのかと思ったら、何を企んでいるのかしら?」

「――――!」

 

 自分のすぐ背後から聞こえてきたその声に、ほのかは息を呑んでバッと後ろを振り返った。

 こちらを見下ろして不吉な笑みを浮かべるマカオとジョマが、そこにいた。

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