ありふれた紳士は世界最強(?)   作:見た目は子供、素顔は厨二

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ありふれた作品はマジで神。
ブルックの街がカオス過ぎてワロタ。
私もあんなカオスを生み出したい。


1話『華麗なる紳士の華麗なる日常』

 月曜日。殆どの人間にとっては憂鬱なものだろう。なんと言っても今まで離れていた勉学や仕事と再び向き合わねばならない日なのだから。

 

 しかしそんな本来あるべき雰囲気とは違い、あるクラスでは非常に浮きだった雰囲気がある。それもそのはず。このクラスには学校の中でも一、二を争うスクールカーストのトップ、学校のアイドルと言える者達が集まっているのだから。

 

 教室の入り口付近で集まっている三人組がその者達。本来ならば四人組なのだが、一人だけはとある人物の世話もとい監視を行なっているのでいない。なのだが、不思議なことに彼らは入り口の方と時計の方を交互に見ていた。

 

「あいつは…まだ来てないのか。いつも遅刻スレスレだな」

「ハジメくんのことだから、また何処かで人助けしてるんじゃないかな? 優しい人だよね」

「香織、優しいのはいいことだが、あいつはあくまでも女性を嫌らしい目で見ているだけだろう? 香織もあいつに構うのはやめろ。雫もあいつによく構うし…」

「へ? 何で? ハジメくん、いい人だよ?」

「…光輝、多分無駄だぞ。香織の奴はもうアイツに毒されてんだよ」

「龍太郎、俺は諦めないぞ! 今日こそあいつをあるべき方向に…」

 

 会話の内容はとある人物について。どうやら入り口をずっと見つめているのは、まだ教室にいないその人物を待ち伏せしているらしい。それぞれの印象こそ違うものの、その人物に何らかの関心があるようだ。

 

 本来ならば学校の人気者達が一人の生徒に構っているなど、周囲の生徒から見れば嫉妬の目を乱れ打ちにしても足りないほどなのだが、その人物自体もある意味有名な人物なので、あまり気にしていない。むしろ「あー、またやってるー」と日常を噛みしめている節がある。

 

 すると教室の黒板側の扉がガラガラと音を立て、それと同時にHR開始のチャイムが鳴った。生徒達はタイミング的に担任である愛子先生が入ってきたと確信し、その人物達が遅刻したのだとてっきり勘違いした。

 

「失礼致しますぞ」

「はぁはぁ…遅刻スレスレなのに何でこの態度!?」

「むぅ。そうは言ってもですな、雫嬢。私めはあくまでも朝の日課を──」

「朝から登校中に見かけた女性に手当たり次第にナンパすることがアンタのルーティーンだって言うなら、私は殴ってでも矯正するわ」

「横暴になられましたな、雫嬢。幼馴染にすら容赦が無くなって…昔は裸で風呂に入った仲だったと言うのに…よよよ」

「いつの話を持ちかけてんのよ!? 幼稚園よ、幼稚園! 思春期に入ってすらいないじゃ無いのよ!」

「私はバリバリ入っておりましたが?」

「十数年になって知りたくも無い事実を知らされた!?」

 

 しかし入ってきたのは先生では無かった。いや、この言い方は適切ではない。入って来たのは先生では無いように思えた、と記すべきだろう。

 

 入って来た人影は二人。一人は黒髪黒目、しかも身長は高くも低くも無いと来ている。髪の毛をワックスで固め、ヘアセットは万全ではあるが、見た所少しファッションに気を遣った極一般人である。…少なからず見た目は。その口から出る紳士風の話し方とその内容の酷さは言わずもがな、変態である。名を南雲ハジメ。学校どころかこの辺りでは知らない者はいない──変態紳士である。通称も“怪異・変態紳士”。紳士は抜いてはいけない。彼のポリシーである。学校総出で嫌われてはいないのは純粋に彼が女性には(セクハラを除けば)優しい点だろう。なお部活動には入ってはいないが、何故かスポーツやテストの成績は抜群と来ている。

 

 一方でポニーテールを揺らしながら怒涛のツッコミを行い、息を切らしているのはこの学校で“二大女神”と呼ばれる者の一人、八重樫雫である。女性ながら身長は高く、目元は少し吊り目ではあるが温もりがある。そんな彼女は剣道の腕前も一流で現代の巴御前とまで言われている。学校内では“ソウルシスターズ”というファンクラブ(非公式)ができるほどの人気ぷりを誇る。

 

 学校内で別種の知名度を誇る二人は互いの両親が仲が元々良かった為、何だかんだと幼馴染として良く共にいるのだ。ハジメがボケては雫がツッコミを入れるという間柄は恋人を超えて夫婦であるとされており、ソウルシスターズがハジメを襲う原因となっている。ただその襲われている本人はセクハラをしつつ、余裕で撃退しているが。

 

 そんな二人が教室に入ってくると教室は一気に騒ぎ始める。

 

「遅刻かよ! 変態紳士!」

「ええ。悪いですかな?」

「お前何のために学校来てんだよ!?」

「…? 女性をデートに誘う為ですが?」

「何極当然って面してんだよ!」

 

 クラスの檜山を中心とした悪ガキ四人組が急にハジメに近づいた。なおこの檜山という人物はハジメや雫ほどの有名人では生憎ながら無い。ちょっと態度が粗悪な人、といった所である。キャラ薄い。

 

「檜山くんに温情は無いの!? キャラ紹介が雑よ!」

「野郎に慈悲はないですな」

「雫!? 南雲!? なんで二人とも虚空に目線を向けているんだ!?」

 

 だってそちらに作者(見た目は子供、素顔は厨二)がいるからである。

 

「おい南雲! 今日こそは──」

 

 そこでハジメに何やら叫ぼうとした茶髪のイケメン。しかしその前にハジメがその腕で抱えていたある者を見ると様子が一変した。

 

 同時にクラス中の目線が己が横抱きにしている人を見ていることに気がつき、ハジメはフッと笑ってその人物を降ろした。

 

「愛子先生、ゆっくり降ろしますぞ?」

「は、はい。ありがとうございます。南雲くん」

「「「「「愛ちゃん先生!?」」」」」

 

 ハジメが降ろした人物はクラス全員がよく知る人物、というか己らの担任である畑山愛子先生だ。身長が小さくてどう見ても己らよりも子供にしか見えないが故に、『愛ちゃん先生』とクラス全員に慕われて(可愛がられて)おり、一種のマスコットでもある。

 

 そんな愛ちゃん先生がハジメの腕の抱擁から脱出すると、赤面をしながら教室の隅で縮こまり、「私は教師、私は教師」と呟き始めた。愛ちゃん先生的には恥ずかしかったらしい。ごもっともである。

 

 クラスメイトがハジメに畏怖の視線を向ける。何故そうなったかは分からないが、とりあえず女性を横抱きにするというメンタルに畏怖しないというのも無理な話である。同時に驚愕もしてはいるが。

 

「…はぁ。驚くのはやめなさい、みんな。この程度で驚いてた…ハジメとやっていけないわよ」

 

 雫はハジメと長年の付き合いであるためか、この程度では驚かない。彼女自身、そこの辺りが麻痺している節がある。

 

「な、何で南雲。お前は愛ちゃん先生を!?」

「? Ms.愛子が遅刻を為されそうであったため、それはあってはならないと思いまして。少し失礼ながら横抱きにさせていただき、こちらまで連れてきたので御座いますが?」

「何でそれを堂々と言えるんだ、お前は!?」

「? 紳士ですので」

「ごく当然そうに言うな!」

 

 どうやらハジメ的には普通なことが、他の人には異常らしい。めちゃくちゃ突っ込んでくる。

 

 そこで茶髪の男がハジメの方に思い出したかのように進み歩き、そして指を指して叫んだ。

 

「南雲! お前のその腑抜けた精神、叩き直してやる! 今日こそ俺と勝負しろ!」

「熱狂的な女性は好みですが、野郎を眺める趣味は御座いません。お隣の筋肉ダルマと乳繰り合って下さいまし」

「光輝…俺にそんな趣味は…」

「龍太郎!? 俺にも無いからな!? あっ、南雲、逃げるな! おい、こら!」

 

 ハジメの方に勢いよく走り、決闘を申し込んだものの、そういった趣味疑惑を付けられたのは天之河光輝である。見た目は茶色がかったサラサラの髪と優しげな瞳をしていてかつ、少し引き締まった肉体。さらには成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。まさしく女性漫画に出てくるヒーローのようなスペックぶりを誇る。

 

 そんな彼ではあるのではあるが、あらゆる面でハジメにボコボコにされており、かつ言い方こそ悪くはあるがハジメのスケベェな性格のせいで色々イザコザが生まれている。それが小学校からの話であり、要は光輝からすれば打倒すべきライバルなのである。

 

 一方で光輝の隣に立つ男は脳筋、坂上龍太郎。空手スンゴイ。完。

 

「待ちなさい! 何で龍太郎の紹介は恐ろしく短いのよ!?」

「雫!? さっきから何処に向かってツッコミを入れてるんだ!?」

 

 こんな喧騒何のその。ハジメはとある女性の元に辿り着き、跪いて言った。

 

「すみませんが、香織嬢。パンツ見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

「? どうして見せないとダメなの?」

「私の想い(パトス)が迸り、耐え切れない為で御座います。このままでは私の体が無残にも裂かれてしまうのです」

「!? それは大変だね! ちょっと待っててね!」

 

 彼女は白崎香織。雫と双璧を成す、学校の“二大女神”と呼び高い。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。なお雫とは小学生からの親友ではあるが、ハジメとはあくまでも同級生というスタンスである。…ただ何故かハジメとよくいる光景が目撃されているが。

 

 何と純粋なことか。従来の天然さもあってだが、香織は今にもスカートに手を掛け、ハジメへとその中を覗かせようとした。本人としては極真面目に人を助ける為である。

 

 重要なことなのでもう一度。何と純粋なことか。全員が少女の優しさにほっこりするが、同時に学校のアイドルとも言える人物のスカートが捲られるという事態に慌て出す周囲。…男子は目を手で覆っているが、目が指の隙間から出ている。ハジメ? もちろん凝視である。

 

 そして捲られる、というつい直前にハジメの顔面が華奢な脚で挟まれたかと思うと、ハジメを地面へと顔面ダイブさせた。

 

「シィッ」

「ヘブッ!?」

 

 八重樫流体術・奥義之参“龍牙墜”。裂帛の呼吸と共に放たれた、改心の一撃。繰り出されたその一撃は当然ハジメを気絶──

 

「痛いですなぁ」

「何で効かないのよ!?」

 

 ──させることはなかった。変態紳士は未だ健在である。というか血一滴も流していない。むしろ教室の床にヒビが入っている。石頭にも程がある、と言った所だ。

 

 するとハジメはいきなり雫に迫り、必死の形相で叫んだ。

 

「雫嬢! 何故、私の悲願を達成させてくれないのですか!? 本日百名のパンティ(秘密の花園)を見ることを目標としておりますのに!? まだ一人しかできていないのですぞ!?」

「人の親友にセクハラすんなって言ってんのよ! あと変な言い方すんな! 願望も変に壮大だし! この見境なしのエロ悪魔!」

「それでは私がとんだドンファン野郎と言っているようではありませんか! 私、今まで「うわっ、ナニコイツ。キッモ」という顔をされたり言われたりはありましたが、間違えても惚れられたことはありませんでしたぞ!?」

「よくそれでその変なポリシー折れないわね!?」

「紳士ですから!」

「それで何もかも言い訳できると思ってないかしら!?」

 

 怒涛のボケとツッコミの応酬。何と激しいことか。他のボケ・ツッコミに高校新生活が始まってしばらくしている今でもなお慣れておられないクラスメイトの皆様が唖然としている。人として当然のことだと思う。なおこの間、香織は二人を見つめて微笑ましそうに見ている。その在り方はまるで聖母。クラスメイトの精神が若干安らいだ。

 

「そういえば、今もう一人は達成済みって言ったわよね? まさか香織以外に私の目を外れてセクハラしてたの?」

 

 そこでふと雫がハジメの会話の内容を思い返し質問。どうやら登校中、ハジメにパンティ(秘密の花園)を見せてくれた聖母は居なかったらしい。当然である。

 

 それに対するハジメの返答は何ともあっけからんとした拍子で出てきた。

 

「それは勿論、雫嬢のですが?」

「………は?」

「雫嬢のは毎日、日記を付けてありますからな。なお最近六十八冊目になりました」

「無駄に多い!? じゃなくて──」

「なお本日の柄はワンポイントのクマさ──」

「もうアンタ黙れ!」

 

 急に何処からか取り出した木刀で雫がハジメを殺害しにかかる。なお木刀にしては金属並みの光沢があり、それで人を殴ろうものならば、本気で一刀両断しかねない品物である。

 

 ただし変態紳士もタダではやられない。そもそも生命力も冒涜的な黒い生物並みだが、危機回避能力も伊達ではない。

 

 華麗にターンした後、半身になって右手を木刀の方へと差し出した。

 

(なっ!? 真剣白刃取り!? しかも指二本でするつもりなの!?)

 

 雫もハジメの行動の意図に気がつくが、もう遅い。木刀はハジメの手へと吸い込まれ…

 

 ──ブシュウウウウウ

 

 その右腕を両断した。

 

「いや! そこは受け止めなさいよ!」

「片手で受け止めればカッコいいかと思ったのですが…どうです?」

「失敗してんのよ! 現実を見なさい!」

 

 なおこの右腕はすぐに木工用ボンドで治りました。

 

「何で!?」

「紳士だからですな」

「それを言い訳に使わないで!」

 

 今日も破茶滅茶なハジメとツッコミをマシンガン並みに放つ雫。更に天然可愛い香織とハジメに勝ちたい光輝、脳筋な龍太郎たちが混ざりに混ざり混沌(カオス)と成す。それがこの教室の日常へと溶け込み、今日も一日が始まる。

 

「あの〜、すみませんが皆さん着席を〜」

 

 なお隅っこで赤面していた愛ちゃん先生は元の精神メンタルに回復し教壇に立っていたが、クラスの喧騒のせいで全くもって聞こえていなかった。




なお苦労してる順番は…
雫>>>>>>|人類では超えられない壁|>>>>>>>愛子>光輝>>>檜山>>>香織・龍太郎>>>>>>ハジメ
が、現在のところ。
雫の胃は死にかねない。
…いや、もう一周回って胃が生きているのか?

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