翌日から早速訓練と座学が始まった。
まず、集まった生徒達に銀色のプレートが配られた。
物珍しそうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思うだろうが、対外的にも対内的にも勇者様一行を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。
所謂大人の事情と言うやつだ。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルドは気楽な口調とは違い、この銀色のプレートについて説明を丁寧に話していく。
このプレートの一面に刻まれた魔法陣に血を垂らすことで所有者登録を行えること。
所持者のステータスを表示してくれる便利な道具であるが、現代の技術力では再現できない強力な力を持った魔法の道具であり、原理は一切不明なのだと言う。
こういった魔法道具のことをアーティファクトというらしい。
興味深そうにプレートを眺める蔵人とは違い、ますますゲーム染みた物が出てきたことに苦笑を隠せないハジメだが、いざという時の身分証として使えることを聞くと、これだけは無くさないように気を付けようと誓うのだった。
説明を受けた蔵人は、早速とばかり針に指さし、プレートの魔法陣に血を垂らす。
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赤屍蔵人 ―――歳 男 レベル:―――
天職:運び屋
筋力:―――
体力:―――
耐性:―――
敏捷:―――
魔力:―――
魔耐:―――
技能:医術・超越者・特異体質・量子力学不確定性原理・言語理解
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表示はされた。
されたにはされたが、これを正常といってもいいのかは甚だ疑問が残る。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルアップ=ステータスアップと言う訳ではないらしい。
しかし赤屍の場合、レベル表示が無く、ステータスの表示も無い。それだけならまだバグか故障かで済むが、年齢が表示されず、名字も変化しているのはいかがなものだろうか。
辛うじて天職と技能覧は読むことができるが、これだけ無い無為尽くしだといっその事清々しい程だ。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」
メルドの言葉から推測するに、鍛錬を積めばそれに応じて大なり小なりステータスが上昇するのだろう。
ステータス表記の無い赤屍に意味があるのかはわからないが。
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
自分のステータスを見る。
確かに天職欄に〝運び屋〟とあるのが確認できた。
これが自身の天職なのだろう。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
レベルの表示もされず、ステータスも碌に見れない場合はどうすればいいのだろうか。
まあ、赤屍自身このバグのような表記に大した危機感は抱いておらず、それどころかどうでもいいとさえ考えていた。
何故なら、強さの数値などあくま大まかなで目安でしかなく、それに自身がこの場にいる者達に負けることなど、如何頑張っても想像できなかったからだ。
「ね、ねえ、赤羽君。赤羽君のステータス見せてもらってもいい?」
嫌な冷や汗を掻き、藁に縋るような表情で懇願するハジメを不審に思いながらも、赤屍は嫌な顔一つせず、どうぞとプレートを差し出す。
受け取ったハジメは祈るような仕草をした後、意を決してプレートの見たが、次の瞬間困惑した表情に早変わりした。
おそらく、赤屍のステータスの特異さに気づいたのだろう。
数値が高いわけでもなく、低いわけでもない、これが特異でなければなんだと言うのか。
「あ、赤羽君。これって……」
「そう困った顔をしないでください」
赤屍の言葉に、苦笑とも愛想笑いとも言えない渇いた笑みが出る。
自分とは違った意味で可笑しいステータスだが、今まで数多のゲームをクリアし、RPGの細かい設定などにも詳しいハジメは赤屍が強いことを確信した。
確かに運び屋が天職という非戦系天職だが、その技能は群を抜いている。
まず超越者、名前からしてボス技能臭がプンプンするとハジメのオタクセンサーが反応していた。
次に特異体質、これもどういったモノかは判別できないが、悪い技能ではないはずだとハジメの勘が言っている。
最後にこれだが量子力学不確定性原理、これだけはハジメをしてもさっぱり意味が分からなかった。
ただ、名前からしてチート臭が半端ないと言うぐらいだろう。
他に比べればちっぽけに見えるが、医術もこの世界において十分に役に立つ。
それに比べ、自分のステータスはなんてことだ。
目を背けたい現実と向き合うため、ハジメは今一度ステータスを確認する。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
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表示された。
見間違いではない、ついさっきもそう表示されたんだから。
自身の貧弱さ加減にハジメは泣きたくなった。
同じ非戦系天職で運び屋の赤屍とはえらい違いだ。
希望は潰えたと言わんばかりに項垂れるハジメだったが、追い打ちをかけるように驚愕の事実が発覚する。
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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ちょうどメルド団長の呼び掛けに応え、光輝がステータスの報告をしに前へ出た時に発表されたステータスだ。
全能力値三桁、技能数はゆうに十個を超え、天職は戦闘系天職でしかもゲームの王道、男なら誰もが憧れるであろう勇者の天職。
おお神よ、何故世の中はこうも理不尽なのか。
天は二物を与えずというが、二物以上ならいいという裏ルールでもあるのだろうか。
目の前のチートの権化を見ると、そう思わずにはいられないハジメだった。
しかもそれだけで終わらず、他のクラスメイトも光輝ほどとは言えなくとも、それに準じるチート級の力を持つ者ばかり。
そしてとうとう、ハジメと赤屍の番に回ってきた。
今まで規格外のステータスばかり目にしてきたからだろうか、その表情は期待に満ちたお前達もそうなんだろう?という心情が見える。
赤屍がメルドにプレートを渡したのを見ると諦めがついたのか、ハジメも倣ってプレートを差し出す。
するとどうだろう。
今までの喜色に満ちた表情から一転、険しい顔へと変わる。
自分の見間違いかと、目を擦ったり、プレートをコンコンと叩いたりするが、結果は変わらない。
最後にジッと凝視するが変わらなかったことを確認すると、メルドは二人にプレートを返した。
「ああ、その、なんだ。ハジメの天職の錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。蔵人の運び屋って天職も、そうだな、うん。その名の通りのものだ。ただお前のステータスはどうなっているのかわからんが表記されていない。正直な話、こういったことは初めてだから俺もよくわからん。その、すまんな」
歯切れの悪いメルドの言葉に、檜山大介がニヤニヤと笑いながらわざとらしく大きな声で質問する。
「おいおい、南雲に赤屍。もしかしてお前ら、非戦系か? 鍛治職と運送業者がどうやって戦うんだよ? メルドさん、その天職って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな。運び屋も王国の兵士、特に輸送部隊などは持っているものが多い」
「おいおい、南雲と赤屍はよぉ~、そんなんで戦えるわけ?」
ウザったらしい声音で、小馬鹿にした態度でニヤニヤと嘲るような視線を二人に向けながら嗤う。
それに便乗する様に、他の男子生徒も嘲笑を浮かべている。
「ご心配なく、少なくともこの場にいる誰よりも、私の方が強いですから」
「あぁ~?非戦系のお前が俺よりも強いだぁ!?」
あからさまな挑発に檜山だけでなく、今まで嘲笑していた男子生徒まで剣呑な雰囲気を醸し出す。
一触即発の空気に雫は赤屍に不安げな視線を向けるが、そんな心配も裏腹に彼の表情は相も変わらず微笑を浮かべているだけ。
あわや喧嘩かと思われたその時、クスリと笑う声が響く。
「そう言えば、この落し物は貴方方の物ではありませんか?」
人の気を逆撫でするような声と共に懐から取り出されたのは銀色のプレート、それも一枚なんて数ではなく十枚近く。
赤屍の突拍子の無い行動に呆気にとられながらも、再起動を果たしたクラスメイト達は慌てた様子で自身のプレートを捜し始める。
あったと安堵する者、無い無い!と慌てふためく者、彼らの様子にまたクスリと笑う。
「こらー! 何を笑っているんですか!悪戯も大概にしないと先生は怒りますよ!ええ、怒っちゃいますよ!早くプレートをみんなに返しなさい!」
「クスッ、そう慌てないでください。ちょっとした手品ですよ。そう……ちょっとした、ね」
愛子先生は気づいていないだろうが、クラスメイト達には確かに見えた。
およそ人がしていいような目ではなく、薄ら寒い、それこそ変質者に視姦されられる方がマシと思えるほど、悍ましい眼が。
今まで見たことの無い赤屍の一面にクラスメイト達はゾッとした感覚が背中を奔る。
こうして、ちょっとしたハプニングもあったが、勇者一行のステータスの確認は無事終えることとなった。