ネットワークと呼ばれる疑似的な心の海は、触れし者のIDを生み出した

それを、昔ながらの都市伝説は、

――電子世界の仮面(ペルソナID)と呼んでいた

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電子世界のペルソナID

 不知火美空(しらぬいみそら)は夢を見る。

 ベットに横になり、ゆっくり目をつむり、羊を数える必要もなくぐっすりと眠った彼女は、何とも不思議な夢を見ていた。

 

 夢の内容というのは、広大な大海原で船に乗り、ゆらりゆらりと波に揺られて優雅なひとときを過ごすといった夢だった。

 そんな内容の夢ならば、ありがちではあるが楽しい夢とも言えただろう。

 だが、彼女の乗る船の船内は少しばかり異常であった。

 

 まず一つ目に、船内の色が真っ青だった。

 いくら夢の中とはいえ、船の中が青一色というのはいささか突拍子がない。

 二つ目は彼女の目の前にいる存在だ。

 彼女の目の前には、テーブルクロスを敷いたテーブルに、人間とは思えない長さの鼻をした老人が腰をかけている。

 その目は、ぎょろりと美空を凝視していた。

 朧げの意識の中、美空が老人を観察していると、ゆっくりと老人が口を開いた。

 

「おお、これはまた数奇な運命(さだめ)をお持ちの方がいらしたようだ」

 

 少女が口を開こうとするが声は出ない、老人はそのまま話し続ける。

 

「私の名はイゴール、お初にお目にかかります」

 

 イゴールは一度美空に礼をするとこの場所の説明を始めた。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所、ですが今回はいささか異なる(こと)なるようだ」

 

 老人は手を円の軌道で動かし、いつの間にか現れたタロットカードを配置する。

 

「ですが私のやることは変わりは致しません、ここは何らかの形で契約を果たされた方がのみが訪れる場所、あなたは近くそうした未来が待ち受けているやもしれませんな」

 

 イゴールがそう言うと同時に、美空はその場所から意識が離れていくのを感じる。

 そしてイゴールの姿が見えなくなると、美空はベットの上で目を覚ました。

 

「夢?」

 

 何とも不思議な夢を見たものだと思いながら、美空は身支度を済ませ学校へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒たちの声がクラス中に響く朝の時間帯。

美空は自身の机で本を読んでいた。

決して友人がいないとかそういう理由ではないが、美空自身話したがりの性格でもないせいもあってクラスの中では一人で過ごすことが多かった。

そんな中、本を読む美空の後ろの席で、雑談をしていた女子生徒がこんな話をし始めた。

 

「ねぇ、電人Dって知ってる?」

 

その内容というのは、オカルト的な都市伝説というものだった。

ネットワークという物が生まれた際に、正体不明の”何か”が生まれ、今もなお存在し続けているのだという。

 そしてその何かは、スマホなどのネットワークサービスが大きく普及した現代で人知れず人類を襲っているのだという。

 なんとも眉唾物の話である。

 話を聞いていた女子生徒たちも大して面白くもなかったのか、ほかの話題へと移っていった。

 

(そんなのいるのかな)

 

 美空はそんな話を聞いて少し気になったのか。本を置いてスマートホンを鞄の中から取り出した。

 そして検索エンジンでクラスメイト達が言っていた都市伝説の名前を打ち込んだ。

 

(……出てきた。 結構有名な話みたいだ)

 

 スマートホンの画面に出てきた内容は先ほどクラスメイトが言っていた内容とほとんど際はなかった。

 だが、しばらく生地などを眺めていくと、何やら警告のような文章が書かれていた。

 

(己が仮面を忘れるな、IDを奪われるな、それこそが生き残る術である。 ……なんだこれ)

 

 まったくもって意味不明の内容であった。

 

(IDってなんのID? それにどうやって会うとかそんなこと何にも書いてないし……て、やば)

 

「全員席に着けー朝のホームルーム始めるぞー」

 

 そう美空が思案していると、いつの間にか時間が経っていたのか担任の教師がやってきていた。

 急いで鞄にスマートホンと本を放り込み、美空は教師の話を聞き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、ほかのクラスメイト達がこの後どこかへ行こうやら習い事があるなど様々な事を話している中、美空は素早く鞄の中に教科書などを詰め込み、真っすぐ帰路につこうとしていた

 そんな美空の背後に近づく人影があった。

 

「美空、一緒に帰えろ!」

 

「わっと!?……ってなんだ佐紀か、びっくりさせないでよ」

 

 美空の後ろから現れた彼女は長島佐記(ながしまさき)

 ほかのクラスにいる美空の友人である。

 明るい性格とかわいらしい容姿で、男女ともに人気のある少女であった。

 

「えへへ、ごめんごめん」

 

 佐紀は朗らかに笑いながら美空にそう言う。

 美空はしょうがないなと思いながら了承し、共に教室を出た。

 

 教室を出た二人は雑談をしながら階段を下りて学校の外へと出た。

 学校の外は空調の効いていた教室とは打って変わってまだ肌寒く、季節の変わり目を抜け出せずにいた。

 

「まだまだ寒いねぇ」

 

「そうねぇ、早く暖かくなってくれたらいいのだけどね」

 

「ね。それに私は朝が寒くて起きるのがつらくて辛くて」

 

「それはいつものことでしょうが」

 

「えーそんなことないよ」

 

「夏でもおんなじこと言ってたじゃない」

 

「え? そうだっけ」

 

「言ってたわよ」

 

「言ってたような言ってなかったような……あはは」

 

 佐紀は恥ずかしくなったのか、話題を急に変え始めた。

 

「そうだ!、美空は電人Rって知ってる?」

 

 電人R。 その言葉が友人の口から飛び出したことを少しばかり驚いた。

 なぜなら、たわいもないはずのうわさ話が身近なところから聞こえてくるなどとは思ってもいなかったからし、検索した際に見つけた謎の文章のせいだった。

 美空は少し戸惑いながら答えた。

 

「えっええ、今日クラスメイト達が話しているのを聞いたわ」

 

「そうなの? でもこれは知らないんじゃない? ”電人Dが人を襲うって」

 

「え」

 

 思いもよらぬ言葉が友人から飛び出し美空はまた驚いた。

 

「なんでもパソコンとかスマホでネットを見てると、突然画面が真っ暗になるんだって、それで故障かなって思ってたら突然手が出てきて画面中に吸い込まれちゃうんだって」

 

 美空はごくりとつばを飲み込んだ。

 

「それで、吸い込まれた人はどうなるの?」

 

 少しこわばった声で美空は佐紀に聞いた。

 

「行方不明になって今も見つかってないって話だよ」

 

 佐紀は声を低くしながらそう答えた。

 美空は体をこわばらせ掌をぎゅっと握っていた。

 

「なーんてね」

 

「へ?」

 

「もう、美空ったら本気で信じちゃったの? そんなの迷信に決まってるじゃない怖がりだなぁ」

 

「もう佐紀!」

 

「あははごめんごめんっともうここか」

 

 いつの間にか道は二つに変われていた。

 美空の家の方向は左側で、佐紀の家の方向は右側なので、いつも帰る途中で別れている。

 

「じゃ、私こっちだからまたね!」 

 

「はや」

 

 佐紀は分かれ道の右側を走って去っていった。

 残された美空は一度ため息をついてから、気を取り直して分かれ道を左に歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどの分かれ道か五分ほど歩き、美空は自宅へとたどり着いた。

 

「はぁ……」

 

 ため息をこぼす、先ほどの話の内容がまだ美空の中に残っていた。

 佐紀はただの迷信だと言ったが、美空はなぜだかそう断言できなかった。

 単なる考えすぎ、そう思うにはなぜだか胸がざわついた。

 そんな心境の中、家の扉に手を賭けようとした時だった。

 鞄の中からスマートホンから着信を知らせる音が聞たのだ。

 

「ん、電話?」

 

 鞄の中からスマートホンを取り出す、画面に表示されているのは先ほど分かれた友人である佐紀であった。

 

「佐紀? どうしたんだろ?」

 

 画面をフリックして電話に出ようとしたとき、突然、スマートホンの画面が真っ暗になった。

 

「え、なに!?」

 

 いくら画面を触っても、電源のボタンを押しても、スマートホンに再び光がともることはなかった。

 だというのにスマートホンからはいまだ変わらずに着信音が鳴り続けていた。

 そのまま十秒ほど経っただろうか、突然音が消えた。

 

「止まった……?」

 

 美空が画面を見ると相も変わらず真っ暗のままで動く気配がなかった。

 壊れてしまったのか? 美空がそう思っていると、突如として画面に波紋が浮かんだ。

 

「!?」

 

 そして波紋の中から、腕のような物が出現し、美空の頭を掴んだ。

 

「……!?」

 

 口もふさがれて、しゃべることもできないまま美空は小さなスマートホンの画面に吸い込まれていしまった。

 美空が吸い込まれた後に残されたのは、地面に落下したスマートホンと静寂だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吸い込まれた美空がまず感じたのは、水の感触だった。

 だが水といっても冷たいなど感じることはなく、口を押さえられているとはいえ鼻で息をすることができた。

 落ちる美空の視界には雲一つない青い空が映っていた。

 

(なんなの!? 一体、私どうなるの!?)

 

 困惑する思考のまま、美空は地面にぶつかった。

 

「ぐっ」

 

 思わず声が漏れる。

 それと同時に美空を掴んでいたものはどこかへと消えた。

 

「ここは……?」

 

 美空は立ち上がると周囲を見渡した。

 一番最初に目に入ったのは、巨大な黒い電波塔であった。

 大きさ的には美空の知る電波塔の中ではスカイツリーのほうが近いだろうかと美空は思った。

 次に目に入ったのは真っ白な町だった。

 壁も地面も家も何もかも真っ白で、相反する色でさらに黒い電波塔を強調する街だった。

 

「とっとりあえず出口を探さなきゃ……」

 

 美空は出口を探し求め、まずは近場にあり目立つ電波塔へ向けて足を動かし始めた。

 今にも出てきそうな不安の言葉を押し殺しながら。 それに少しでも動いていないとさらに悪いことでも考えてしまいそうだったというのもあった。

 道中、真っ白家の扉を開けて誰かいないかと聞きながら五分ほど歩いたころだろうか。 美空は目的地である黒い電波塔へとたどり着くことができた。

 

 だが、それと同時に美空の背後から大きな破砕音が聞こえてきた。

 

「何!?」

 

 美空が急いで後ろを振り向くと、そこには……鬼がいた。

 赤い体で身の丈ほどの棍棒をもち、頭には三本の角が生えていた。

 先ほどの爆砕音はあの鬼が起こしたようだった。

 

「オニ!?」

 

 美空は突如として現れた怪物に驚き、その場に座り込んでしまった。

 今にも襲い掛かってくるのかと美空はそう思ったが、オニは美空ではなく、別の何かを探しているようだった。

 

「どこだあああどこに行ったああああ」

 

 再び鬼が振るった棍棒で街が破壊される。

 

「いたぁ」

 

 オニはどうやら目的の物を見つけたようだった。

 のしのしと歩いて破壊した真っ白な住宅の中へと吐いていくと、”何か”を掴み持ち上げた。

 その”何か”とは……

 

「あれ、もしかして人間?」

 

 オニの手に掴まれていたのは、スーツを着たサラリーマンの男性だった。

 男性はオニに掴まれながらもなんとか逃げ出そうともがいていたがびくともしなかった。

 オニはそのまま男性を頭の上へと持っていくと、鋭い牙の生えた口を大きく開けた。

 

「うわあああああああ!?」

 

 そして、手を放した。

 男性は重力にひかれるがまま落下していき、オニの口の中へと落ちていった。

 思わず美空は目を離して耳を塞いだ。

 バキボキという”何か”を砕く鈍い音があたりに響いた。

 

「にっ逃げないと……」

 

 美空はその場から逃げようとするが、先ほどの光景を見て腰が抜けてしまい、その場から動くことができなかった。

 そんなことはお構いなしに、オニはゆっくりと美空のほうへと向かってきていた。

 棍棒を肩に担いで、のしのしと美空のもとへとやってきた。

 

「おお! 女だ。 いいねぇ今日はついてるじゃねぇか俺は」

 

「ひっ」

 

「おっとこわがらなくてもいいじゃねぇか傷ついちまうよ俺様、なんてなハハハハハ」

 

 オニは笑いながら、美空の腕をつかみ持ち上げる。 

 そして先ほどの男性のように持ち上げようとする。

 そんな時だった。

 美空の中から突如としてナニカの声が聞こえてきたのは。

 

『おい! お前』

 

「なっなに?」

 

 突如として聞こえてきた声に驚く美空だったが、声の主は責め立てるように叫ぶ。

 

『死にたくないか?』

 

「え」

 

『死にたくないかって聞いている!』

 

 謎の声の主は美空にそう聞いてきた。

 その声は荒々しいが、どことなく漂う優しさがあるとを美空は感じた。

 

「わっ私は……死にたくない!」

 

 美空が声の主に向けてそう叫ぶと声の主は嬉しそうにこう言った。

 

『よし、よく言った! 生きたいというその願いその思い、確かに受け取った。 契約成立だ!』

 

「けっ契約?」

 

 契約、その言葉に美空は夢のことを思い出した。

 夢の中で、イゴールと名乗った老人が言っていたことを。

 

 

――あなたは近くそうした未来が待ち受けているやもしれませんな

 

 

 それと同時に、美空の体から青い炎が出始める。

 青い炎は美空の体を包んだ後、美空の真上に集まり形を成した。

 

 

 

『契約成立により、契約者のペルソナIDを取得、我これより生まれでる』

 

 

 

 青い炎が晴れるとそこには――馬に乗った騎士がいた。

 金の髪をなびかせながら赤い馬にまたがった剣を持つ女の騎士だった。

 

 

 

「なんだお前」

 

「このような若き娘を食らおうとする下郎に向ける言葉はない」

 

 そう言うと騎士は、美空を掴んでいるオニの腕を切り裂き、美空をお姫様抱っこしながら着地した。

 

「グアアアアアアア」

 

 そして美空を離れた安全な場所に移動させた。

 

「契約者よ、ここで待っていろ」

 

「はっはい」

 

 美空にそう言い、騎士は腕を切られ騒ぐオニに向かっていった。

 オニは切られていないもう一つの腕に棍棒を構えて騎士に罵声を飛ばしてくる。

 

「てめぇ! よくも俺の腕をやってくれたなくそ野郎が!」

 

「汚い口を叩くな下郎が」

 

「だれが下郎だ! 灰になりがれ!」

 

【ファイアブレス】

 

 オニは迫る騎士へと向けて火炎を吐いた。

 騎士は迫りくる火炎を軽く避けると、オニのもう一つの腕を切り落とした。

 

「グアアアアアアアアア」

 

「契約者が心配だ。 さっさと終わらせるとしよう」

 

 騎士がその手に持つ剣の柄の部分から、刃先までエネルギーを走らせると、オニへと向けて解き放った。

 

【パワースラッシュ!】

 

 放たれた刃はオニの体を真横一文字に切り裂いた。

 

「ここで……終わりかよ……」

 

 そう言いながら、オニは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「倒した……の?」

 

「ああ、あの下郎は我が刃にて倒された」

 

「わぁ!?」

 

 騎士はいつの間にか美空のもとへと戻ってきていた。

 美空は驚いて思わず叫んでしまった。

 そんな美空を見て騎士は笑っている。

 美空は気恥ずかしくなりながらも、騎士へとお礼と質問を投げた。

 

「助けてくれてありがとうございます、で、突然で悪いんですけどあれはいったい何で、あなたは一体何なの!?」

 

 思わず糾弾するようにに聞いてしまったのは無理もないだろう。

 なにせ、彼女は何の訓練も受けていない一般人なのだから。

 だが、騎士は一切顔色を歪ませることなく、優しく答えた。

 

「大丈夫だ私は味方だよ。 先ほどのやつは暴走IDと呼ばれる者だ」

 

「暴走ID?」

 

「そう、そして()の私の名はヴァルキリー、またの名を」

 

――電人Rだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これにより契約は完了した。

 電子の異界電子の世界の電人と、現実の世界の人間が出会うとき世界は動き出す。

 

 その道が、どれだけ混沌に満ちているかも知らずに……

 


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