央華封神・異界伝~はるけぎにあ~   作:ローレンシウ

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第十五話 化公主友 知真相

 

「さて……。とりあえず、侵入した方法はわかったようじゃのう……」

 

 瑠螺は煙突に描いた顔を消しながら、そう呟いた。

 

 煙突に聞いたところ、確かにタバサよりも何日か前に、それとは別の誰かが彼の中を通り抜けたようだということだった。

 ただ、その通り抜けた者が誰かということについては、煙突は『人間。もしくは人間のように見える誰か』だとしか答えられなかった。

 器物にとっては、常日頃から傍にいたわけでもない人間の顔をきちんと見分けるのは難しいのである。

 

 それでも、少なくとも侵入者はやはり動物などに化けたわけではなく、おそらくは本来の姿のまま煙突を通ったこと。

 つまり、吸血鬼はかなり小柄である可能性が高いことは判明したわけだ。

 

(してみると、やはり……)

 

 いや、しかし、偶然の一致ということもあり得る。

 もし間違っていたりすれば大変なことだし、あまり早計に結論を下すわけにもいくまい。

 

「……うん?」

 

 そこで、横合いから目を丸くしてまじまじと瑠螺のもつ墨壺を見つめているタバサとシルフィードの姿に気付いて、瑠螺は少し困ったような顔になった。

 この反応からすると、どうも彼らのマジックアイテムとやらにはこのような道具はなかったらしい。

 

「いや、驚かせたならすまぬ。説明が足らんかったのう。これは『面相墨』というて……」

 

 と、二人に説明しながらゆるゆると外に出たところで。

 瑠螺は十数人の村人たちが、何やら物々しい雰囲気で歩いていくのに気が付いた。

 

「……なにやら、嫌な感じがするのう」

「同じく」

 

 彼らはそれぞれが鍬や棒などといった間に合わせの得物らしきものを携えており、中には火のついた松明を持つ者もいる。

 瑠螺とタバサは顔を見合わせると、黙って彼らの後に付いて行った。

 

 村人たちが向かったのは、村はずれのあばら家であった。

 その家を取り囲むと、彼らは案の定、武器を振り上げながら口々にわめき始める。

 

「出てきやがれ! 吸血鬼が!」

 

 ややあって、そのあばら屋の中から四十手前くらいと見える屈強な大男が出てくると、集まった村人たちに向かって大声で怒鳴った。

 

「誰が吸血鬼だ、誰が! こっちがよそ者だと思って、よってたかって失礼なことを言うんじゃねえぜ!」

「年貢の納め時だぜ、アレキサンドル。さっさと吸血鬼を出しな!」

「うちにゃあ、そんなモンはいねえよ!」

「いるだろうが! 昼だっつうのに、ベッドから出てこねえバケモノがよ!」

「てめぇ、人のおっかぁを捕まえてバケモノだと! 病気で寝てるだけだって言ってンだろうが!?」

 

 男は怒れる群衆に向かって一歩も引かず、青筋を浮かべて真っ向から言い合った。

 

「そンならここまで連れてこいや! 俺たちが確かめてやるぜ!」

「馬鹿言うんじゃねえ、寝たきりなんだぞ! そうでなくても、てめぇらみたいなトチ狂った連中の前に大事なおっかぁを出せるかよ!」

「ほぅれ、できねぇ。日の光に当てたら、皮膚が焼けちまうからだろうが?」

「病気だって言ってンだろ!!」

 

 村人たちはそんなアレキサンドルを無視して、あばら家の中に入って行こうとした。

 アレキサンドルは彼らの前に立ちふさがって、入れさせまいとする。

 

「これ、よさぬか」

 

 今にも掴み合い、殴り合いが始まりそうになったところで、見かねたように瑠螺が割って入った。

 

「なんだてめぇ、女は引っ込んでな!」

「そう思うのならば、自力で引っ込ませてみたらどうじゃ?」

 

 瑠螺はそう言うと、自分よりもかなり大柄なその男をじろりと睨んだ。

 睨まれた男は、得体のしれない迫力に思わず怯んでしまう。

 

「……お、おい! ありゃあ、お城からいらっしゃった騎士さまじゃねえか?」

 

 そのとき、ようやっと瑠螺のことを思い出した誰かが、驚いたような声を上げた。

 

「さよう。わらわは、ガリア花壇騎士の瑠螺という者じゃ」

 

 そう言って、つんと顔をそらす。

 

「ならば騎士さま、この家のモンを調べてくだせぇ。間違いなく吸血鬼なんで!」

「そいつの首には牙の跡があるんですよ、それが証拠だ!」

 

 疑心暗鬼に陥って仲間を吊し上げようとしている村人たちを見て、瑠螺は小さく溜息を吐いた。

 この分では、十分に調べてこの家の者は違うと言っても納得するかどうか。

 たとえ納得したとしても、すぐにまた別の疑わしい相手を探し出して、同じように吊し上げにかかることだろう。

 

 とはいえ、ひとまずこの場を収めるように努めるしかあるまい。

 

「あいわかった。我らがしかと取り調べるゆえ、それまで無暗に騒いではならぬ」

 

 いかにも威厳のあるたたずまいをした瑠螺がはっきりとそう宣言したので、村人たちもひとまず黙って様子を見ることにしたようだった。

 

 それから、今度はアレキサンドルのほうと向き合う。

 こちらは相手が騎士と聞いても怯んだ様子もなく、瑠螺をじろりと睨みつけた。

 

「言っときますがね。あんたが何者だろうと、うちのおっかぁに会わせるいわれはありやせんぜ」

「ほう、なにゆえじゃ?」

「当たり前じゃねえか。重い病気で寝込んでる身内を、医者でもねぇ赤の他人に見せなきゃならねぇって道理がありますかい?」

「ふむ、もっともなことじゃな。しかし、わしには多少は医術の心得もある。調べるついでにひとつご母堂の容体を見て、何ぞ薬でも作って進ぜようではないか」

 

 疑わしげな目をするアレキサンドルに対して、瑠螺はさらに言葉を続ける。

 

「そうすれば疑いも晴れて、静かに休ませてさしあげられるというものであろう。おぬしがあまり依怙地になっておっても、かえって母君のためにならんのではないか……のう?」

「……わかったよ。だがね、あんたがおっかぁを診る間は、あっしも付き添いますぜ?」

「もちろん構わぬ」

 

 ようやく許可が下りて瑠螺がアレキサンドルと共にあばら家の中に向かうと、村人たちもその後に続こうとした。

 しかし、アレキサンドルはもちろん拒絶したし、瑠螺も彼らを押しとどめた。

 

「あまり大勢で押しかけては病人の体に障ろう。おぬしらは、外で待っておれ」

 

 それを聞いて、村人たちは不満そうにまた騒ぎ始める。

 

「病人なんて嘘っぱちだ! そいつはあんたを中に入れて、親玉と二人で襲う気にちがいねえ!」

 

 瑠螺は、あきれたように首を振った。

 

「こんな狭い家の中でわしを襲ったりすれば、外にいるおぬしらにもすぐにわかってしまうではないか」

 

 なにしろ、中は一部屋しかない。

 土間が続いた奥には粗末なベッドがあり、アレキサンドルの母である占い師のマゼンダがその上で寝ている様子まで、入口からほんの少し首を突っ込んでみただけで見て取れるのだ。

 こんなところで騒ぎを起こせば、外にいる者たちに気付かれないはずがなかった。

 

「心配は無用じゃ。いいから、おぬしらは外で静かに待っておれ」

 

 瑠螺は少し強くそう言うと、袖口から鞘に収まった剣を一振り取り出してタバサに渡し、彼女とシルフィードには入り口から内と外とを見張るようにと言い置いた。

 もちろん、主として村人たちに邪魔をさせないためである。

 もっとも村人たちは、瑠螺が到底そんなところには収まりそうもない長さの剣を袖から取り出したのを見てようやく相手が超常の力をもつメイジだということを実感したらしく、誰も無理に中へ入ろうとはしなかったが。

 

 そうしてようやくあばら家の中へと踏み込んでいった瑠螺はしかし、すぐに顔をしかめることとなった。

 

(なんじゃ、この家は)

 

 仮にも人が住んでいるはずなのに、あちこち埃にまみれ、荒れ果てて、まるで廃墟か墳墓のような雰囲気だった。

 そして何よりも、術を使うまでもなく感じ取れるほどに色濃い『陰』の気が、この家中に漂っている。

 

(ぬう……)

 

 これほど強い陰の気が漂っている理由として最も考えられそうなのは、この家に住む二人のうちどちらかがグールとやらだということだ。

 

 死体は、陰の気の塊である。

 たとえ感知できるほどの気を漏らさぬ完璧な偽装をしたとしても、それは所詮短期的なこと。

 本性が屍である以上は、長期間同じ場所に留まれば周囲に影響を及ぼさずには済まぬのが道理というものであろう。

 

 なお、村人たちは片方がグールならもう片方は吸血鬼と決めてかかっているようだが、これまでの調査の結果を踏まえるとその可能性はかなり低いと瑠螺は考えていた。

 

 吸血鬼はおそらく別にいて、この家にはいたとしてもグールだけ。

 問題は、それがどちらの方なのかということだ。

 

「失礼いたす」

 

 瑠螺が奥へ上がり込む前にそう言って軽く一礼すると、ベッドに寝ている老婆が身を起こした。

 

 枯れ木のように細い、痩せこけた老婆であった。

 恐ろしくやつれて血の気がなく、顔色は土気色で、たるんだ瞼の下からどんよりした、夢と現実の区別がついていなさそうな眠そうな目で瑠螺の姿を眺めている。

 ややあって、彼女がどうやらメイジらしいと気が付いたのか、怯えたように身をすくませた。

 

「ご婦人、心配をされるな」

 

 瑠螺は敵意がないことを示すように微笑みを浮かべ、一旦立ち止まると、杖をその場に置いた。

 

「この村には別の用事でまいったのじゃが、ここにおるご子息から病気じゃと聞いてのう。ひとつ、容体を診てもよろしいかの?」

「おっかぁ。心配ねえ、俺が近くでちゃんと見てるからな」

 

 老婆は黙って瑠螺と息子の姿を交互に見た後、かすかにうめくような声を出して小さく頷いた。

 瑠螺はそれを確認してから、近くに寄って脈を取ったり、口を開けさせて覗き込んだりと、自分なりに老婆の体を調べてみる。

 同時に横目で、周囲の様子を窺ってみたりもした。

 

 もちろん、瑠螺には多少の薬丹を作ったり傷の応急手当てをしたりすることができる程度で、実際には医術の心得などろくにないから病気の診断はできないのだが、それでも感じ取れることはあった。

 

(これが、孝行息子が病身の母を寝かす場所か?)

 

 住む人の居心地の良さのために、これ以上注意が払われていない寝室を想像するのは難しいだろう。

 家自体があばら家なのは仕方がないとしても、天井の隅の方には蜘蛛の巣が張っている。

 老婆の体を覆う布団は薄く、汚れてひどく痛んでいるし、彼女が着ている赤い寝間着でさえも、ところどころが破れてボロボロになっていた。

 怒れる群衆に対峙して一歩も引かずに自分の母親を守ろうとしていた男にしては、あまりにも無配慮に過ぎる扱いだといえよう。

 まだ若く頑健な男であれば、たとえ貧乏だとしても、もう少し病身の母に対してしてやれることがあるだろうに。

 

 この状況からすると、疑わしいのは明らかに息子の方であろう。

 屍鬼となって魂を失ってしまったがゆえに、表面的には生前とまったく同じように振舞っているつもりでも本当の思いやりが失われ、細かな気付きや心配りができなくなっているのだと考えればつじつまが合う。

 

(それに、この匂いは……?)

 

 鼻の利く瑠螺はまた、老婆の口を開けさせたときに、喉の奥から妙な匂いが漂ってくるのも感じ取っていた。

 

 それは、なんとなくケシと似たような匂いだった。

 鎮痛剤などの真っ当な薬の原料にもなるが、使い方によっては心身を弱らせる恐ろしい麻薬の原料ともなる植物である。

 この老婆のやせ衰えた姿や、家から出ようともせず寝たきりでいること、無気力で夢うつつな様子などは、もしかすれば病のせいばかりではないのかもしれない。

 

「おぬし、母君に何か薬は飲ませておるのか?」

 

 アレキサンドルにそう尋ねると、彼は自分で取ってきた薬草を毎日煎じて飲ませていると答えた。

 滋養の効果があるとされる、体にいいものだと。

 

「そうか……」

 

 彼はただ無神経なだけで、本当に母のことを思いやっているのだろうか。

 あるいは、そのように装っているだけで実はグールであるのか。

 

 後者の方が可能性は高いと思うが、やはり確証はない。

 

(どうにかして確かめねばならんが、さて……)

 

 それも、なるべく騒ぎが大きくならぬように、周囲で見ている者たちに不信感を与えぬようにしたい。

 アレキサンドルやマゼンダはもちろん、外にいる村人たちにもだ。

 

 堂々と仙術を使ったり、仙宝をあからさまに取り出して使ったりしては目立ってしまう。

 

(ええい。兄上ならこのようなとき、すぐにでも妙案を思いつかれるのであろうが!)

 

 兄の飛翔は、常日頃から仙人であることを明かさず、できる限り情報を隠して事を運ぶ主義だから、偽装のやり方もたくさん知っているのだ。

 

 診察を続けるふりをしながら、瑠螺は頭の中でああでもないこうでもないと、頭の中で試案をひねくり回す。

 しばらくして、ようやく方策がまとまった。

 ごちゃごちゃしていてあまりいい方法ではないかもしれないが、まあたぶん、なんとかなるだろう。

 

「……うむ。では、なにか薬をお出ししたいと思うが、既に飲んでいる薬と相性の悪いものであってはいかんからのう。おぬしが普段飲ませている薬草が何か知りたいのじゃが、残ってはおらぬか?」

 

 瑠螺はまず、アレキサンドルにそう尋ねてみた。

 

 彼は少し顔をしかめて考え込む様子を見せたが、ややあって首を横に振り、残念だが今日取った分は残っていないと返事をする。

 それは、概ね予想どおりの反応であった。

 もしも母に、いや生前母であった女に、薬と偽ってなにかおかしなものを飲ませているのだとしたら、それを薬の知識があるかもしれない相手に正直に見せるわけにはいくまい。

 

「ふうむ。では、あまり他の薬と効果がぶつかり合わぬようなものにせねばのう。さて、何がよいか……」

 

 瑠螺は飛葉扇で口元を隠し、飲ませる薬を何にしようかと考え込みながらぶつぶつ呟いている風を装いつつ、小声で口訣を唱えた。

 不信感を与えぬよう、導引は省く。

 彼女は杖を持っていないので、誰も術を使ったとは思わなかった。

 

『仮想容姿(容姿を装う)』

 

 一昔前までは五遁仙術しか使えなかった瑠螺だが、今では変化・幻術の類もいささか嗜んでいた。

 五遁だけではどうしてもできることが限られてしまうのを痛感したためだ。

 狐は元より変化・幻術の類に親和性の高い種族であるために上達は早く、今ではかなり高度な術も扱えるようになっている。

 

 さておき、これは本来自分の姿を幻覚によって他人のものに見せかける幻術なのだが、しかるに術が完成しても、瑠螺の姿は誰にも何も変わっては見えなかった。

 それは当然のことで、瑠螺は『自分自身の姿』を装って身に帯びたのである。

 現時点ではまったく何の意味もないが、これは続けて唱える次の仙術のための下準備であった。

 

『変化朋友(朋友に変化する)』

 

 自分の姿を仲間と同じものにし、やや劣るもののその能力をも模倣する変化術。

 瑠螺はこの術によって、これまで何度も共に旅をしたことのある仙人仲間の、秀弦生の姿をとった。

 彼は、長嘯と召鬼の仙術の達人である。

 

 あらかじめ幻覚を身にまとっておいたために、周囲の者には瑠螺の姿はなにも変わっていないように見える。

 最後の仕上げに、袖口からこっそりと取り出した『声彩珠』を口元に指をもっていくようなふりをしながら口に含んだ。

 望むがままの声色を使えるようになるこの仙宝で、元の自分とまったく同じ声を装っておけば、変化が見破られる恐れはまずあるまい。

 

(我ながらごちゃごちゃとして、まどろっこしいやり方じゃのう)

 

 瑠螺は、心の中で溜息を吐いた。

 普段の仲間たちと一緒に行動していれば、こんなのは絶対に自分の役目ではないのだが。

 

 とはいえ、文句を言っても始まらないし、まだようやく下準備が済んだだけだ。

 そもそもこの姿を借りたのは、召鬼術を使うためである。

 気を取り直して、『祈願 見鬼(祈り願う、鬼を見んことを)』と『祈願 話鬼(祈り願う、鬼と話さんことを)』の術を使った。

 

「…………」

 

 それで、すぐに結論が出た。

 

「おいあんた、いつまで考え込んでるんだよ。薬を出すんじゃねえのか。出さねえってんなら、もうおっかぁを休ませてやってくれねえかい? 吸血鬼じゃねえってわかっただろ?」

『あんた! 頼む、気付いてくれ! そいつは俺じゃねぇんだ! ぶっ殺しておっかぁを助け出してくれよ、メイジだろ!』

 

 目の前に座って白々しくそう言うアレキサンドルの体のすぐ後ろに、自分の死体に引きずられながらも必死に瑠螺に呼び掛け続ける、彼の霊の姿が見えたのである。

 

「……あいわかった。しばし待たれよ」

 

 瑠螺は軽く手を上げて、そう答えた。

 

 もちろん彼の体ではなく、魂の方に対してである。

 魂のない屍鬼は感情を失ったまったくの怪物であり、たとえ知性があってもそれは奸智としか呼べないものだ。

 そのような存在は、破壊してやらなくてはならない。

 でなければ、魂は抜け殻に縛りつけられたままで、天界や冥界に赴いて転生するのも難しくなってしまう。

 

「毎日、手ずから薬草を取りに行くとは大変なことじゃ。おぬしは、そういった薬に詳しいのかえ?」

 

 瑠螺はグールに見せるための精一杯にこやかな表情を装いながら、背後の魂から情報を引き出しにかかった。

 

「いけませんかね? 死んだ親父に習ったんで」

『吸血鬼がそうしろって言ったんだ。何だか知らねえが薬草なんかじゃねえ、おっかぁを寝たきりにさせとくための毒だ! 吸血鬼だと思わせようとしてるんだよ!』

 

「……!」

 

 それはまったく予想もしていなかった答えというわけではなかったが、それでも瑠螺は頭にかあっと血を上らせた。

 よりにもよって息子の屍を操り、その母に毒を漏らせるなどとは、なんという外道か。

 感情が昂って思わず耳と尻尾をぴょんと飛び出させてしまったが、幸い幻覚をまとっていたために、それが気付かれることはなかった。

 

 内心の怒りを努めて押し隠しながら、話を続ける。

 

「……確かに、おぬしの母は吸血鬼などではない。おぬしは、誰が吸血鬼か心当たりはないのか?」

 

 グールは、ふんと鼻を鳴らした。

 

「俺が、そんなことを知ってるわけねえでしょう?」

『知ってるも何も、俺を殺したやつだぞ! いいか、吸血鬼の正体は――!』

 





不信感を与えぬよう、導引は省く。:
 仙術は、口訣(音声)と導引(動作)のうちどちらか片方だけなら省くことができる。
ただし、そうした場合は仙術行使に-2のペナルティを負う。
両方を省くことはできない。
また、仙術の洞統によっては口訣と導引のどちらか片方しか必要でないものや、楽器が必要なものなど、例外もある。

仮想容姿(容姿を装う):
 幻覚によって、自分の姿を他人のものと同じにする幻術の一種。
見せかけられるのは姿だけで、声などは変化しない。

変化朋友(朋友に変化する):
 仲間そっくりに化け、その能力をコピーすることができる変化術の一種。
能力値はすべて同じになるが生命値や精神値は変化せず、攻撃/受け、回避、仙術抵抗は仲間の値-1になる。
仙術行使は-4となり、仲間が使っているところを見たことのある術で、かつその数値で唱えられる範囲内の術ならば使用できる。
衣服もそっくりになるが、仙宝の能力まではコピーできない。

声彩珠(せいさいじゅ):
 長嘯の仙宝で、見た目は小指の先ほどの小さな珠。
口に含むと好きなように声色が使えるようになり、さらに吐息が芳香を発するようになる。
しゃぶると甘い味がするが、飴玉のように溶けることはなく何度でも使える。

秀弦生(しゅうげんせい):
 瑠螺が道士時代から何度も旅を共にしたことのある仙人仲間の一人。
眉目秀麗な二十代ほどの青年の姿をしているが、実は琴が昇仙したものであり、人の感情を理解することに強い関心を持っている。
長嘯と召鬼の仙術の達人で瑠螺と同程度の実力をもっているが、まだ自分の洞府は開かずに天宮で次の太陽を運ぶ役目を担うカワセミの育成役を務めている。

祈願 見鬼(祈り願う、鬼を見んことを):
 召鬼術の基本で、本来姿を見ることのできない鬼(霊体)を見ることができるようになる。
姿を見られたくない鬼は抵抗を試みることができる。

祈願 話鬼(祈り願う、鬼と話さんことを):
 召鬼術の基本で、見つけ出した鬼と会話を行えるようになる。
説得したり、交渉して頼みごとをしたりすることもできるが、この術自体には強制力はないので無視されたり騙されたりすることもあり得る。

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