「ほほう。今日は見るもの聞くもの新鮮であったが、これはまた格別じゃなあ……」
見慣れぬ豪奢な装いの大部屋で、窓から赤と青の大きな双月をゆったりと眺めながら、瑠螺は感心したようにそう言った。
無論、優れた細工の施された窓枠も、それにはまっている滑らかな硝子の板も、瑠螺にとっては十二分に珍しい。
が、さすがに空の月には及ぶまい。
「月の何が、そんなに珍しいっていうのよ」
対照的に、部屋の主であるルイズは不機嫌そうな様子で溜息を吐いた。
なにせこの使い魔は、召喚してから今日一日、ずっとこんな調子だったのである。
あの『ヒヨウセン』だかいう扇に乗って戻った教室でも、あたりを物珍しげにきょろきょろするし、そこで教師が話した内容についてもあれこれと尋ねまくられたし。
食堂に行ってもパンだのスープだの、何でもかんでもこれはどういう食べ物かと聞かれるし、そんなありふれた食事で「おお、どれもこれもなかなかうまいのう」とか大袈裟に喜ぶし。
たくさん説明させられた上に、ド田舎から来たお上りさんを連れてるみたいで周囲からの視線が痛くて、精神的にも疲れたのだった。
「わしのおったところでは、月はひとつであったゆえな」
「そんな場所がどこにあるのよ?」
「さて? わしにとってはこの世界こそ、どこにあるのか不思議なところじゃが」
「ほんとにもう、わけのわかんないことばっかり言って! あなた、いったいどこのド田舎から来たのよ。離れ小島か山の中にでも住んでたのかしら!?」
「ド田舎かどうかは知らぬが、後の部分はその通りかのう。あのコルベールという者にも言うたが、わしの洞府……住処である双尾洞は、方丈島という島の片隅にある洞窟であるからの」
使い魔がのほほんとそういうのを聞いて、ルイズはまた盛大に溜息を吐いた。
「はあ……、手間のかかりそうな使い魔ね」
空飛ぶ道具なんかを持ってたところからしても、その立派な格好からしても、平民の血筋というわけではないのだろうが……。
だというのに、ろくに何も知らないし。
おまけにどこぞの離れ小島で、洞窟なんかに住んでいたときた。
ルイズは、もしかしたらこいつは遙か昔に文明から隔絶した土地に流れ着いた貴族の子孫かなにかなのではあるまいか、などと考えたりした。
「……おお、そうじゃ。そういえば、その使い魔というやつが何をするものなのかについては、まだ聞いておらなんだが」
瑠螺がルイズの方に向き直って、思い出したようにそう言った。
また説明をさせられるのか、とルイズはうんざりした気分になったが、大事なことなので話さないわけにもいかない。
「使い魔の役割は、大きく分けて三つよ。……まず、第一に、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「うん? ええと……。つまり、偵察をしてこいということかの?」
「そういうことね」
ルイズは頷いたものの、本当なら使い魔が見たものは主人も見ることができるはずなのに何も見えないわとか、ぶつぶつと文句を言った。
「よいではないか。わらわとしても、四六時中覗き見などをされてはたまらん。探ってきてほしいことがあれば、口で言えばよい。納得のできる仕事なら引き受けるぞ」
「それはまあ、そうだけど」
確かに、普通の動物や幻獣の使い魔ならともかく、大人の女性の私生活を覗き見るというのもそれはそれで問題だろう。
今のところ特に偵察してきてほしいものがあるわけでもないのだし、結果オーライか。
「でも、『納得のできる仕事なら』って何よ」
「それはつまり、悪行でなければ、ということじゃな。たとえばよからぬ目的で、人の知られたくないことを探り出してこいとでも言われれば断るぞ」
清徳を積まんとする正道の仙人としては、そのような不埒な行いに手を染めることはできない。
そんなことをすれば徳を失い、濁業が増えて、寿命を縮めることになってしまうのだ。
「そんなこと言うわけないでしょ。わたしを何だと思ってるのよ?」
ルイズにじとっとした目で睨まれて、瑠螺は少しあわてたように弁明した。
「いやいや、すまぬ。もちろん、ご主人がそういう人間だなどとは決して思っておらぬぞ。あくまでも、物のたとえじゃ」
「まあいいけど。……第二に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、硫黄とかコケとかいった、特定の魔法を使う時に必要な触媒なんかをね」
「ふむ」
仙人も、仙宝を作るときには巨大ざりがにの鋏とか火炎樹の枝とかいった特別な材料を必要とすることが多い。
自分で探してくることもあるし、弟子なり使役獣なりに取ってこさせたりする場合もある。
「よかろう、このあたりにはまだ不慣れじゃが。調べればまあ、数日から数か月のうちには、ご主人の求めるものを取ってこれるであろうよ」
「あ、あんたねえ……。数か月って、そんなにかかったんじゃ困るわよ!」
「……そうかの?」
せわしいことだ、と瑠螺は思った。
仙人の場合、ちょっと気の利いた仙宝なら、作るのに数か月から数年くらいかけるのはザラである。
特に強力な品であれば、百年以上かかる場合もあるのだ。
とはいえ、こちらのメイジとやらの寿命が普通の人間と大差ないのであれば、ちょっとした用事で数か月も待っていられないというのは当然のことであるかもしれないが。
「あいわかった。用事はなるべく急ぐことにしよう。して、最後の一つは?」
「最後に、使い魔はなによりもまず、主人を守る存在であるのよ。その能力で主人の身を敵から守ることが一番の役目……、なんだけど……」
ルイズはそう言いながら、瑠螺の体をじろじろと眺めた。
「要するに、ご主人の敵と戦えということじゃな」
「そう。でもあなた、戦えるの?」
内心不安な気持ちで、自分の使い魔にそう尋ねる。
「まあ、それなりにはの。……おそらくじゃが」
瑠螺は、控えめにそう答えた。
「おそらくって、どういうことよ。自分の強さくらいわかってるでしょ!」
「うむ。しかしのう、こちらの世界にはご主人のような、『メイジ』というやつが大勢おるのであろ? そのメイジと比べてどうかということが、ここへ来たばかりのわしには、まだよくわかっておらんからの」
もちろん一人前の仙人はほとんどの人間に遅れはとらないが、魔法とやらを使えるメイジは別かもしれない。
強い弱いというのは相対的なものだから、こちらでは自分より強い者がいくらでもそこらに転がっているというのであれば、大した戦力にはなれないであろう。
それに瑠螺は元の世界でも、洞府を開いて弟子をとれるようになった一人前の仙人の中では取り立てて強い方というわけではない。
むしろ、かなり若輩者の部類である。
別にごまかそうというのではなく、聞かれても本当にまだよくわからないのだ、というのが正直なところだった。
「……つまり。あなたはメイジじゃないってことね」
ルイズはがっくりと肩を落として、やっぱりね、とまた溜息を吐いた。
「前にも言ったが、わしは仙人であって、ご主人のようなメイジというものではない。魔法とやらの使い方は知らぬ」
「はあ……」
なにやら風変わりながらも高貴そうな身なりや、マジックアイテムめいた道具からすると、貴族の血筋かとも思えた。
しかし、あまりにも物を知らない。
それに魔法を使うところも、杖らしきものを取り出すところも、召喚してから今まで一度も見ていない。
この分では仮にメイジの血を引いていたとしても、魔法の使い方など学んではいないのではあるまいかと思ったが、案の定であった。
魔法が使えないとすると、使い魔としてはかなりの役立たずだということになってしまうだろう。
なにせ世間知らずだし、感覚の共有もできないし、探し物にしてもさっきのとぼけた答え方では、およそあてにできそうもないし。
おまけに戦いでも役に立たないとなると、あとはもう従者代わりに雑用でもやらせるか、所有している風変わりな道具に価値を見いだすくらいしかないのではないか。
そんなルイズの様子を眺めて、瑠螺は少しばかり不服そうに顔をしかめた。
「なにも、そんなに嫌そうな顔をせんでもよかろう? この世で魔法だけが唯一強いもの、というわけでもあるまいに……」
そう言って、袖からするりと、鞘に納まったままの一振りの剣を取り出してみせた。
仙人は修行を積む際に、必ず師から武術を教わる。
まずは自分自身の身体を自在に動かせるようになることで、それを通じて己の体内を巡る陰陽の『気』の流れを知るというのが、仙術を学ぶ上での第一歩だからである。
生物の根源となる気、元気(がんき)を体内に巡らせることによって仙人は自分の肉体を意のままに動かせるようになり、老化を止めることも可能となるのだ。
ルイズはしかし、呆れたように軽く肩をすくめた。
「あなたは魔法の力を知らないみたいだけどね。メイジの魔法と平民でも振るえるような剣とじゃあ、オオカミと犬ほども違いがあるのよ」
「オオカミと犬ならば大した違いではあるまい。肝心なのは、修練の差じゃ」
ルイズがそれに対して何か答える前に、瑠螺はすっと立ち上がると、軽く演武を披露してやった。
無論、室内なので、剣は鞘に納めたままであるが。
静かに頭上にかざした剣を、鋭く振り下ろす。
それをすぐさま引いて、横に払い。
次の瞬間には、すっと腰を落として目にも止まらぬ速さで突きを入れる。
「わ……」
ルイズは、目を丸くしてそれに見入った。
なんとも見事な演武であった。
心得のない彼女の目から見ても、ただ美しいだけでなく、実戦的な鋭さも備わっているということがわかった。
そうしてひとしきり舞い終えると、瑠螺は剣をしまい込み、ルイズの方を向いて座り直した。
「どうじゃ、ご主人。護衛の任、務まりそうかの?」
「え? ……あ、ええ。思ったより、よさそうじゃないの」
ルイズははっと我に返ると、そう言って頷いた。
確かに女性にしては大柄な体格で力はありそうに見えたが、それにしても剣の達人とは、なんとも予想外であった。
とはいえ所詮は剣であり、不意討ちでもしない限りメイジに敵うものではないだろうが、ただの役立たずの平民ではなかったのは幸いである。
学生の身で大して危険な目などに遭うとも思えないし、当面の護衛としては十分だろう。
「それは何よりじゃ。さて、他に話しておくことはあったかの?」
「ええと。……ああ、あなたの待遇も、もう少しちゃんと決めておかなきゃならないわね」
いかに使い魔といっても相手は高貴な身分と思しき人間であるから、ちゃんと話し合って待遇を決めて、後で報告するように……と、教師のミスタ・コルベールから言われていたのを思い出す。
「とりあえず、今日寝る場所からかしら?」
「ふむ……」
・
・
・
「それでは、ミス・リュウラ。よろしければ、こちらの部屋をお使いください」
「かたじけない、ミス・シエスタ」
ルイズの呼び出したシエスタという名の侍女に空き部屋に案内された瑠螺は、そう言って手を袖に納め、頭を下げる。
「いえ、そんな。私はただの平民ですから、どうかシエスタとだけお呼びください」
シエスタはそう言って、恐縮したように深々と頭を下げた。
「ふむ? そういうものか……」
どうやら『ミス』を頭につけるのは、相手が貴族の場合だけらしいの、と瑠螺は理解した。
こちらの礼儀作法については、まだよくわかっていない。
「お部屋の準備や片付けなどで必要なことがあれば、お申し付けください」
「いや、そのくらいのことはこちらでするゆえ、どうかゆっくりと休んでおくれ。夜分遅くに、申し訳なかったのう」
「あ……、い、いえ、そんな!」
瑠螺から軽く頭を下げて、シエスタはまたおどおどと困惑したような様子を見せた。
「私は使用人ですから、貴族様のご用事を承るのは当然です」
「ルイズは貴族とやらであろうが、わしはそうではないからの。感謝するのは当然じゃ」
「え、ミス・リュウラは貴族の方ではないのですか? ミス・ヴァリエールの使い魔として召喚に応じられた、とは聞きましたけど……」
「そもそも、こことはずいぶんと違った土地から来たからのう。まあ、まだよくわかっておらぬが、少なくともこちらでいう貴族というようなものではなさそうじゃな」
「そうなのですか……」
うむ、と瑠螺は頷いた。
「であるからして、わしのことも瑠螺とだけ呼ぶので構わんぞ」
「い、いえ、そんな、年上の方に。……では、リュウラさん、とお呼びします」
「そうか、かたじけない」
にっこりと微笑む瑠螺に、シエスタも微笑み返して、部屋を辞そうとする。
が、瑠螺はそこでふと思い出したように、彼女を呼び止めた。
「……ああ、そうじゃ。ひとつだけよいかの?」
「はい、なんでしょうか?」
「おぬしはわしのような使い魔というやつではなく、ここで働く使用人なのじゃな?」
「? ええ、もちろんそうですが」
シエスタは瑠螺の質問の意図を計りかねて、小さく首を傾げる。
「では、この学院にはおぬしのような人間でない使用人が、他にも大勢務めておるのかの?」
そう尋ねられた途端、シエスタはぎょっとしたような表情になった。
その顔から、さあっと血の気が引いていく。
「……な、なな何をおっしゃるんですか。に、人間じゃないとかそんな、意味がよく」
「うん? 違ったかの……」
瑠螺ははて、と首を傾げると、シエスタの首筋のあたりに顔を近づけて、くんくんと匂いを嗅いだ。
シエスタはどぎまぎした様子で、ささっと後ずさる。
「な、何を……」
瑠螺は、そんなシエスタの顔をしばしじっと見つめていたが、やがてこくりと頷いた。
「ふうむ、違ったか……。いや、すまんの。長年人型を取り続けておるうちに、わしの鼻もすっかり鈍くなったとみえる」
「え? じゃあ、もしかして、あなたも私とおな――」
そこで、瑠螺がにこりと目を細めたのを見て、口を滑らせたことに気が付いた。
が、あわてて口を塞いでも、もう遅い。
「……あ、あうぅ」
「その様子からすると、やはりここらでも妖物の出自は忌まれるものかや?」
まあ、それは無理もあるまい。
央華の世界でも、得体の知れぬ妖物の類は、一般の人間からは概ね嫌われ、恐れられるものだ。
瑠螺のように善業を行うことにした妖怪は仙人として扱ってもらえるが、事実として妖物には人間に危害を加える者も多いので、いわれのない迫害というわけでもない。
「ふむ」
瑠螺は少し考えると、青ざめているシエスタを安心させるために、正体を表してやることにした。
軽くぶるんと体を揺すり、地面にうずくまるような姿勢をとる。
次の瞬間には、もう美しい人間の美女は消え失せて、代わりに優美な狐が姿を現していた。
「あ……」
先ほどまで怯えていたのも忘れて、シエスタはぽかんと口を開けて、その姿に見入った。
輝く金色の毛皮に包まれた、人間ほども大きいしなやかな体躯。
尻からは、六本もの尻尾が扇のように広がっている。
人間体とは似ても似つかぬ姿だが、ただその不思議な魅力と大きな切れ長の瞳だけが、両者に共通していた。
瑠螺はシエスタの周りをくるんと一回歩き回ると、元の人間の姿に戻る。
「――ということじゃ。何も怯えることはないぞ、知られたくないのであれば他言などせんからの。お互いさまであろう?」
「は、はい」
シエスタが、こくこくと頷いた。
(そういえば、ルイズにもまだ言うておらなんだのう)
何やら人間の使い魔には不服そうな様子であったから、正体を教えておいてやれば喜んだのかもしれないが。
まあ、シエスタの反応からすると、もう少し様子を見た方が無難だろうか。
「ひきとめてすまなんだのう。では、また明日、よろしく頼むでな」
翌日の食事は、彼女ら使用人が自分のぶんも用意してくれるということで、先ほど話がまとまったのである。
仙人としては数日や数週間や数か月、食べなくても平気なのではあるが、別に好き好んで断食をする気もないし、ここの食事は風変わりだがなかなかうまい。
シエスタはしかし、そう言われてもすぐには立ち去らず、躊躇ったようにもじもじしていた。
「あ、あの。……私の正体については、聞かれないのですか?」
「言いたくなければ、無理にとはいわぬ」
妖物の中には、軽蔑されることを嫌って、自分の出自を隠したがる者もいる。
もちろん瑠螺はどんな出自であろうと、それで差別したりする気は毛頭ない。
師匠の紫目娘々や妹弟子の里羚は自分と同じ動物出身だし、幾度となく共に旅をした仲間の秀弦生は元は生物ですらなく、長年大切に使われた琴が変化したものだ。
しかし、だからといって、明かすことを強要するわけにもいくまい。
「そう、ですか。ありがとうございます。……でも、いつか、聞いていただけますか?」
「おぬしが話したくなれば、いつでも」
シエスタは少し微笑むと、深々とお辞儀をして、去っていった。
「ふうむ。……さて」
瑠螺は一息つくと、自分に与えられた部屋をざっと見渡してみた。
ルイズの部屋ほどではないが、豪奢な内装である。
指を鳴らすだけで明かりが付けられる、仙宝もどきのランプ(ルイズが使っているのを見てやり方を覚えた)まで備え付けてあった。
ただ寝起きするだけなら、十分すぎるほどに広くて快適そうな部屋だった。
しかし、仙人がさまざまな作業をするにはあまり向いていなさそうだし、広さも足りない。
瑠螺は袖口からおもむろに壺を取り出すと、中から家のミニチュアのようなものを引っ張り出して、そこらに並べた。
すると、ミニチュアはみるみる大きく膨らんで、部屋の半ばを占領する。
もっとも、戸口を開けて中に入れば、その見た目よりさらに何倍、何十倍も広いのであるが。
あらかじめ卜占によって今日旅立つことを知らされていた瑠螺は、普段あまり持ち歩かない仙宝だの、作りかけの仙宝やそれに必要な材料だの、その他仙人の日常に必要な細々したものを、みんなこの『楽居壺』の中に納めて持ってきたのだった。
「この『べっど』というやつも、なんとも寝心地がよさそうじゃが。いかんせん、使い慣れておらんからのう……」
まあ、いずれにせよ今夜のところは、寝る気はないのだが。
仙人は、十日や二十日、寝なくてもなんともないのである。
瑠螺は楽居壺の家の中から必要な材料を取り出すと、まずは室内に侵入者防止用の、最低限の陣図などを仕掛けてまわった。
それが済むと、一旦楽居壺を袖に納め、窓の外に飛葉扇を浮かべて、空の散歩に出かける。
既に真夜中だが、空には大きな月が二つも出ているし、そうでなくても正体が妖狐である瑠螺は暗闇でも物を見ることができるのだ。
ルイズの使い魔として召喚されたわけだが、仙人の目的はあくまでも清徳を積むことである。
使い魔としての仕事をしないつもりはないが、ただここに留まり、言われるままに使い魔とやらの責務を果たすだけで、それだけでよいとも思ってはいなかった。
「ひとまず、朝までにこのあたり一帯の散策くらいは済ませておきたいのう」
ルイズに何か探し出すよう頼まれたり、新たな仙宝作りをしたりするときに備えて、必要となりそうな材料の在り処も見繕っておきたいし。
何よりも、一体自分は何のためにこの世界に召喚されたのか。
自らの目で見て回ることで、手探りでそれを判断していかなくてはならないのだ……。
使役獣/乗騎:
乗騎は、仙人に忠実な乗り物となってくれるもので、生物ではない場合もある。
瑠螺公主の用いている飛葉扇も乗騎の一種である。
使役獣は、巫蠱の仙人が作成するもので、薬を飲ませたり別の種類のものをかけあわせたり、術者が練った気を注いだりして育てられた獣である。
普通の動物を超える強さや知能、特殊能力をもっており、主人に絶対の忠誠をもって仕え、共に成長していく相棒となる。
飛葉扇:
五遁木行の乗騎で、外見は木の葉で作られた扇である。
口訣で命じると巨大化して宙に浮かび、5人までが乗れる飛行する乗り物になる。
ただし、風に乗って飛ぶので速度は不定であり、仙術で風を操れなければ自由に飛び回ることは難しい。
また、この扇であおぐと自在に風を起こすことができ、敵を吹き飛ばして転ばせるなどの用途に用いることもできる。
暑い時などには口訣を唱えれば、自動的にあおがせておくこともできる。
楽居壺:
中に家のミニチュアが入った、壺の形をした仙宝である。
このミニチュアを取り出すと、たちまち大きくなって10人までが快適に暮らせる家となる。
内部は常に温度が一定で柔らかな寝台もあり、空間の隙間に展開するので空き地の必要もなく、野営に用いれば野の獣に襲われるなどの心配をすることなく休息がとれる。
より上級のものであれば、庭や食事もついた大きな屋敷が収まっていることもある。