「往時には、ここでよく貴族が決闘したものさ。その昔……、そう、かのフィリップ三世の治下にあった頃はね」
中庭の練兵場を見渡しながら、ワルドがそう蘊蓄を垂れる。
ちなみにフィリップ三世というのは、アンリエッタの祖父にあたる人物だ。
「ふうん? なるほど……」
そんなワルドに気を使い、適当に感心したような顔をして相槌を打ったものの、もちろん瑠螺はフィリップ三世だのなんだのといわれても何も知らなかった。
ただ、中庭は今でこそあちらこちらに樽や空き箱が積み上げられた単なる物置き場となっているものの、苔生した石製の旗立台が、かつての栄華の名残をかすかにとどめているようだ。
歴史や兵に格別の思い入れがあるというワルドの目には、あるいはそれを通して、往年の勇士たちの姿が見えているのかもしれない。
「古き良き時代。王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代だよ」
「どんな時代であれ、過ぎ去ってしまえばよくなるものだともいわれるがな」
瑠螺が、自分自身の経験もふまえてそんな風に口を挟むと、ワルドは軽く肩をすくめた。
「確かにね。一般的には、当時の貴族は、常に名誉と誇りをかけて魔法を唱えあったとされている。でも実際には、およそくだらないことで杖を抜きあったりもしたものさ……。そう、例えば、女性を取り合ったりとかね」
話しながら、ワルドは瑠螺から二十歩ほどの距離をとって、彼女と向かい合う。
それを聞いて、今度は瑠螺が肩をすくめた。
愚かしいとは知りながらも想い人を巡って争うことが、名誉だの誇りだのといった大概は男の自己満足に過ぎぬことを賭けて争うことと比べて、はたしてよりくだらぬことだといえるのかどうかは知らないが……。
「……まあ、おぬしがどう考えていようと、それは自由であろうよ」
思わず口をつきそうになった胸中の皮肉めいた言葉を飲み込んで、瑠螺は袖口から一振りの剣をすっと引き抜いた。
「そろそろ、始めるとするかの?」
仙宝の類でもデルフリンガーでもないただの鉄剣で、しかも刃を五遁金行仙術で潰してある。
ここへ来る前に、模擬戦用に仙術でちょちょいと作っておいたものだ。
急造の品だが、まあ一戦くらいはもつことだろう。
そんな瑠螺を、ワルドは左手で制する。
「そう急がないでくれ。立ち合いには、それなりの作法というものがある。介添え人がいなくてはね」
「うん? 介添え人……じゃと?」
瑠螺は、軽く首を傾げた。
正式な決闘ならいざ知らず、稽古の試合くらいでずいぶんとまた仰々しいことである。
そんなものがどうしても必要だとも思えないが、まあ、ハルケギニアでの手合わせの作法についてはよく知らないし。
ここらの貴族というのは往々にして形式にこだわるようだから、そういうものなのかもしれない。
「そうさ。安心したまえ、ちゃんと呼んである。じきに来るはずだ」
ワルドがそう言った、ちょうどその時。
物陰からルイズが姿をあらわした。
「おお。介添え人とはご主人であったか。今朝は早起きじゃのう?」
「リュウラ……?」
ルイズは自分の使い魔とワルドとを、困惑した様子で交互に見比べる。
「……ちょっとワルド、来いっていうから来てみれば。こんなところで一体、何をする気なの? 介添え人ってなによ?」
「なに。きみの使い魔の実力を、ちょっと試したくなってね」
それを聞くと、ルイズは顔をしかめて頭を横に振った。
「ワルド、いまは大事な任務の途中なのよ? なにもこんなときに、そんなことをしなくてもいいでしょう」
「なに、任務は明日からだよ。今日は休みだから、少しくらいの気晴らしは構わないだろう」
アルビオンへ向かう船は、フーケからの事前情報にもあったとおり、明日までは出ない。
彼はそれから、確かに馬鹿げたことかもしれないが、強いか弱いかが気になるともうどうにもならなくなるのが貴族のやっかいなところなのだ……とかなんとか言って、やめさせようとするルイズにあくまでも手合わせをするのだという意思を表明し続けた。
「それに、互いの腕前を見ておくこともできるし、練習にもなるからね。悪いことばかりじゃない」
そんな二人のやりとりを、なんとはなしに聞きながら。
貴族とやらがどんなものかは知らないが、女と強さを競いたがる男というのも珍しいなと、瑠螺はぼんやりと思った。
あるいは、こちらの世界ではそうでもないのかもしれないが。
そんなことを考えていると、ワルドを説得するのを諦めたルイズが、今度は瑠螺に話しかけてきた。
「リュウラ、やめてちょうだい。こんなことで余計な怪我を増やすものじゃないわ、姫さまに対して無責任よ」
「……ふむ」
瑠螺は、ちょっと困ったような顔つきになって考え込んだ。
怪我や疲労くらいはどうとでもなるだろうし、腕の確かなメイジと手合わせをしてみるというのはなかなかよい経験になりそうだから、自分としてはわりと乗り気なのだが……。
(考えてみれば、自分の許嫁と使い魔が打ち合いなぞしておるところを見るのは、愉快なことではないかもしれぬのう)
なんにせよ、ルイズが嫌がっているのであれば、無理にせねばならぬというほどのことでもないだろう。
「あー、ワルドどの。まことに申し訳ないのじゃが、立会い役のご主人は気乗りがせんようであるし」
それを聞いて、ワルドはいささか不快そうに顔をしかめた。
「……なんだね、いまさらになって。先ほどは、受けると言ったじゃないか」
「うむ、わらわは構わぬが。しかしじゃな、いわゆる使い魔というやつとしては、ご主人の意向に従うのが筋というものではあるまいかのう?」
「きみはルイズが嫌と言ったから、その前に交わした僕との約束などはどうでもいいというのかい?」
平静な調子を保とうとはしているものの、その声には隠しきれない苛立ちから来る刺々しさがにじみ出ていた。
「いや、それは……」
「使い魔であるきみのことを、ルイズが気遣うのは当然だ。主人なのだからね。だからといって、それに甘えて主人の後ろに庇われたままでいるのが、使い魔のすることか。それでは、伝説の名が泣くぞ?」
申し訳なさそうな顔をする瑠螺の言葉を遮り、畳みかけるようにそう言って煽ろうとする。
「ちょっと、ワルド! そんな言い方はないでしょう!?」
ルイズはそんな彼の挑発的な物言いを不愉快に感じたようで、まなじりを吊り上げている。
その様子にちらりと目を走らせて、ワルドは胸中で軽く舌打ちをした。
(少し、口が過ぎたか?)
そう思ったものの、いまさらどうしようもない。
冷静に考えれば、自分の強さをアピールするにしても、別にどうしてもいまここで戦わなくはならないということもなかっただろうし。
ルイズの心を掴みたいのなら、彼女の意向に強硬に反して無理押しをしない方が、むしろ賢明だったもしれない。
しかしワルドには、自分の思惑通りに事が運ばないとやや感情的になりやすいところがあった。
(なに、小さな躓きだ。取り返しのつかない失策ではない)
ここまで来てしまった以上は、どうしても決闘に持ち込まなくては。
そうして伝説以上の力を見せつけ、彼女を守れるのが使い魔ではなく自分であることを示せば、失点は取り返しておつりがくるだろう。
そう、自分に言い聞かせる。
「すまない。だが、大切な婚約者の使い魔がこうも柔弱な態度では、不安になるんだよ」
ワルドはいかにも誠実そうな態度と微笑みを繕って、そんなことを口にする。
「婚約者、って……」
それでルイズの機嫌が直ろうはずもなく、むしろ彼女は余計に眉をひそめた。
昨夜、少なくとも今の時点では結婚はできないと、そうはっきり言ったはずなのに。
いまだに婚約者だと公言するのはどういうつもりなのか。
彼には自分の気持ちが、ちゃんと伝わってないのだろうか。
「それほど強く望まれるのであれば……、仕方ないかのう。確かに、一度は約束したことでもあるしなあ」
瑠螺はそう言って肩をすくめると、ルイズの耳元に口をよせ、手にした剣を見せながら、小声で優しく諭すように話しかけた。
「なに、心配いたすな。見ての通り、刃は潰してあるゆえ、当たっても大怪我にはなるまい。それに、金丹で治療もできるでな。わらわも婚約者どのも、明日に尾を引くようなことにはならぬ」
「……そうね。あんなことを言われて引き下がるのはわたしだって嫌だし、まあ……」
ルイズは溜息を吐いて小さく頷くと、邪魔にならないところへ下がった。
「お互いに、なるべく怪我なんてしないように気をつけてちょうだい。……それから、ワルドは別に、婚約者とかじゃないからね。少なくとも、今のところは」
最後にそう、彼には聞こえないような小声で付け加える。
「うん? ……」
これはどうしたことかと、瑠螺は首を傾げた。
昨日はワルドから婚約者扱いされても、それを否定しようとはしていなかったはずだが。
(……もしやこの男、昨夜のうちに何ぞ、ルイズに嫌われるようなことでもしよったのかや?)
あまり好ましくない想像をして、瑠螺は軽く顔をしかめた。
まあ、ルイズはそこまで取り乱している様子はないし、さすがに手籠めにされたとか、そんなことまではなかろうとは思うが……。
先ほどの物言いからすると、何かのはずみでひどく無礼な口でも聞いたとかだろうか。
そんな女性陣の胸中などはつゆ知らぬワルドは、口の端を軽く持ち上げると、細剣のように前方に突き出す形で悠然と杖を構えた。
「よし、それでこそ伝説の使い魔だ。さあ、始めようか」
瑠螺はそんな彼の態度を見て、若干呆れたような面持ちになる。
(どう見ても許嫁からの不興を買っておるというときに、こやつは……)
鈍いのだか楽観的なのだか知らないが、とにかくルイズを婚約者だと称してはばからない割には、彼女のことがよく見えていないらしい。
こんな調子では、ルイズも彼と結婚などはしない方が正解かもしれない。
そういえば、キュルケも昨夜、目が冷たくて情熱の感じられない、つまらない男だとかなんとか言っていたことだし。
(まあ、わしが口を差し挟む事でもなかろうがな)
気持ちを切り替えると、あらためて鉄剣を構え直し、軽く試合前の一礼をした。
まずは油断なく身構えたまま、相手の出方を窺おうとする。
「おやおや……。朝っぱらからどこへ行ったのかと思ったら、なんだか面白そうなことになってるねえ?」
いつの間にやら、他の同行者たちも中庭に姿をあらわしていた。
少し離れたところから、事の成り行きを見守っている。
というか、実を言えば彼女らを呼んだのはルイズであった。
ワルドから突然、他の面々のいる部屋から離れた中庭に来てくれと呼び出されたルイズは……、さすがに不埒な真似をされるかもなどとまでは思わなかったものの、一体何の用なのかとそこはかとなく不安を感じたのだ。
またしても昨夜のように口説かれたりするのは、少なくともこの旅の間にはごめんこうむりたい。
そこで使い魔の瑠螺にも声をかけて一緒に来てもらおうかとしたが、彼女の姿が部屋に見当たらなかったため、やむなく他の同行者たちに頼んでそれとなく見守ってもらうことにしたのである。
「本当。面倒だし二度寝しようかと思ったけど、来てよかったみたいね。ねえ、どっちが勝つか賭けない?」
負けた側が今日の朝食を奢るってことで、とキュルケが提案すると、誰も強いて反対する者はいなかった。
「で、みんなどっちを選ぶの?」
「そりゃ、リュウラだね」
あの隊長どのとやらがどれほどの腕前かは知らないが、自分は怪盗時代に盗み先の警備についていた魔法衛士数人と同時にやり合ったこともある。
連中は、こちらの操る巨大ゴーレムには手も足も出なかったのだ。
魔法衛士だろうがなんだろうが、そのゴーレムを剣で一刀両断にするようなやつと太刀合わせて勝てるわけがない。
「瑠螺さんでしょ。仙人さまなんだし」
「じゃあぼくも、リンと同じで」
央華出身の二人は、仙人の強さをよく知っている。
「わたしも、あの人」
なんなら、昼食と夕食も賭けてもいい。
むしろ賭けたいと、タバサは本をめくりながらそう言った。
「あら、リュウラばっかり大人気ね。……でもルイズは、当然婚約者どのに賭けるでしょう?」
キュルケから手招きされて、そう水を向けられたルイズは、わたしはこんなバカなことで賭けなんかしないわよとか、昔の話で今は婚約者じゃないわよとか、ぶつくさ文句を言っていたが。
強いて選択を迫られると、顔をしかめて俯いてから、ちらりと瑠螺の方を見た。
「ワルドには悪いけど……」
自分の母……かつて『烈風』の二つ名で呼ばれ、生きながらにして伝説となった英雄……や、最強の先住魔法の使い手と目されるエルフあたりならともかく。
ハルケギニアの常識に外れた能力の数々を事も無げに披露してきたあの瑠螺に、尋常なメイジが勝てるとはちょっと思えない。
どの程度本気で戦う気かにもよるだろうが、あんまりあからさまに手を抜きそうなイメージもないし。
「あー、全員同じみたいね。賭けにならないわね、これじゃ」
キュルケは、苦笑して肩をすくめた。
自分だけがあのつまらない、何の義理もない男に賭けて損をする気は、もちろんない。
「……どうした? 遠慮はいらないよ。全力でかかってきたまえ」
そんな、ルイズ含む同行者らからの自分に対する評価の低さなどつゆ知らず。
目の前の立ち合いのことしか見えていないワルドは、なかなか仕掛けてこない瑠螺に対してあえて杖の先を少し下げて打ち込みやすい隙などを作って見せつつ、そう言って薄く笑った。
(遠慮はいらぬ、ときたか。さて……)
央華でなら、自分よりも遥かに年長の仙人に対してそんな口を利くとはよほどの身の程知らずか、並外れて豪胆かといったところだが。
ワルドはこちらの年齢や素性などについては何も知らないし、若くして魔法衛士隊の隊長に上り詰めたという自信もあるだろうから、まあ無理もない態度だろう。
瑠螺としても、そのことに文句をつけるつもりはない。
が、とはいえまだ道士の域を出ない一番弟子の悠季よりも明らかに年少のこの相手に対して、はたして本当に全力で戦うべきか、それともある程度手を抜くべきかを計りかねていた。
メイジというものは若いからといって侮れるものでないことはわかっているが、この男の腕前はさて、どの程度のものなのか。
手を抜けば失礼なのか、それとも本気で戦えば大人げないのか。
「……ああ、いや。申し出はありがたいが、よろしればそちらから来られよ」
なので、先手を譲ることにした。
まずは相手の腕前のほどを見せてもらってから、どのように対応するかを考えようというわけだ。
「おや、緊張しているのかな? いいだろう。きみに仕掛ける踏ん切りがつかないというのなら、では、こちらからいこうか!」
そう言って余裕たっぷりに頷くと、次の瞬間地を蹴って一足飛びに間合いを詰め、鋭い杖で刺突を繰り出した。
常人には捉えきれないであろうほどの素早い突きだったが、これは届く直前で瑠螺の剣が持ち上げられ、あっさりと弾かれる。
しかしワルドも、その程度のことでいちいち動揺したりはしなかった。
なんといっても相手は伝説の使い魔なのだ、一撃で片が付くなどとは初めから思ってはいない。
「は!」
間髪入れずに、二の太刀が振るわれる。
今度はただ素早いだけでなく、フェイントを交えていた。
胴を杖で薙ぐように打ちすえると見せかけて、途中で軌道を変えて額を狙うのだ。
「……うむ」
けれど、瑠螺はその攻撃も凌いだ。
胴を守ると見せかけつつ、相手が罠にかかったと確信して振るわれた本命の杖の軌道を跳ね上げた剣であっさりと反らして受け流す。
「がはっ!?」
次いで、がらあきになったワルドの腹へ、瑠螺の反対側の拳がめりこんだ。
ワルドは悶絶してよろめいたが、その後の剣による一撃をかろうじて杖で受け流すと、必死に飛び退って間合いを取り直す。
瑠螺は、強いて追撃をかけようとはしなかった。
(なかなかに使えるのう……。若いというのに、大したものよ)
央華では、きちんとした指導者から教われるごく一部の恵まれた境遇にある者でなければ、まっとうな武術を身に付けることさえ望めないのだが。
文化の発展したこの世界だからこそということもあろうが、ワルド自身の天賦の才や多大な努力の賜物でもあるのだろう。
事実、同じ世界の者であっても、先日叩きのめした賊どもなどとはまるで技量が違っている。
これならば魔法抜きの武技だけでも、一軍の将が務まるだけの腕前はありそうだ。
あるいは虎のような、人間を遥かに凌ぐ身体能力を誇る猛獣が相手であっても、その気になれば剣だけで打ち倒してのけるかもしれない。
だが同時に、瑠螺のような洞主クラスの仙人と渡り合えるというほどではないのも、また確かだった。
(少しばかりだが、稽古をつけて進ぜようか)
どうにか体勢を立て直したワルドは、内心で舌打ちをしていた。
(ち……、さすがは『ガンダールヴ』といったところか!)
始める前には、ルーンの効果で身体能力などが強化されているにしても所詮は女性であり、剣技に関しては素人なのではないか……、といった、楽観的な予想もしていたのだが。
この女にはどうやら、相当な武術の心得があるらしい。
ただ素早いだけの素人ならいかようにでも翻弄できただろうが、これでは。
(魔法を使わざるを得んな!)
できることなら相手の得意分野で完勝し、ルイズに対してより強く自分の実力と使い魔の非力とを印象付けられれば言うことはなかったが、致し方あるまい。
ワルドはそう結論すると、杖を構え直して、また余裕ぶった微笑みを浮かべてみせた。
「いや、参ったよ。素早いし、剣も巧みに使いこなす。さすがは伝説の使い魔だ」
「伝説? ……ああ」
そんな話もあったなと、瑠螺はいまさらながらに思い返した。
(そう言えば、ルーンとやらが光っておらんな?)
武器を持てば輝き出して体の切れが増すものとばかり思っていたが、先ほどから剣を握っているにもかかわらず、左手の甲にあるルーンは沈黙したままだ。
あるいは、この剣がわざと刃を潰して殺傷力を奪った、いうなれば剣の形をした鉄の板でしかないために、ルーンが武器と判断していないのかもしれない。
央華における禁呪系統の術でも、剣の第一義はものを斬ることであるとされているから、禁じるまでもなく最初からどうやっても斬れない剣ではそもそも剣とみなされない可能性が高いだろう。
(してみると、ガンダールヴとやらの力が知りたいとか言っておったこやつの望みにはそうておらぬ、ということになるが……)
そもそも発動していようがいまいが、その力を使うまでもなかったわけだからまあいいだろうと、瑠螺は適当に考えた。
そんな彼女をよそに、ワルドは言葉を続ける。
「だが、きみが武器を握って本領を発揮するならば、メイジの本領は魔法だ。ここからは、僕も魔法を使わせてもらうよ」
「ほう?」
つまり、ここからは術もありということか。
瑠螺は軽く頷いた。
「それはまた、面白そうじゃな。苦しゅうない、かかってこられよ」