「まあ、とにかく。大事がなくて何よりじゃな」
爆発で破損した教室の片付けをしながら、瑠螺はむっつりした顔で机を拭いているルイズにそう声をかけた。
ルイズの起こした爆発それ自体は、至近にいた彼女とシュヴルーズを吹き飛ばし、教卓を台無しにして、教室の前の方に煤をまき散らした程度だったのだが。
突然の爆音と閃光に驚いた使い魔たちが騒ぎ出し、窓ガラスをぶち割ったりそこら中を引っかき回したりして、結局部屋全体に被害を拡大したのである。
そして駆けつけてきた他の教師が気絶したシュヴルーズを運び出し、午前の授業をすべて中止にしてルイズに教室の後片付けを命じたため、彼女は使い魔の瑠螺と二人がかりでその作業に従事することとなったのだ。
とはいえ、不意のショックで昏倒したシュヴルーズも含めて大した怪我を負った者は誰もいなかったので、まあ大事なかったといってよいであろう。
少なくとも仙人の基準では、この程度の損害も、たかだか半日足らずの労働を言い渡されたことも、ごくごく些細な問題である。
が、ルイズが仏頂面のまま返事をしないので、瑠螺は話題を変えてみることにした。
「あー、ときに。他の者が身構えておったことからすると、ご主人はいつもこのような感じなのかや?」
「……そうよ」
「では、魔法とは失敗すると、制御を失って爆発を起こすものなのかの?」
仙術の失敗でも、同じような現象が起こる場合はあるだろう。
しかし、いつもかもそうなるということは考えにくく、そこが不思議だった。
「違うわよ。普通はね」
ルイズの声に、いらいらしたような、刺々しい調子が混じる。
「ふうむ……」
だが、瑠螺は思索に耽っていて、それには気が付かなかった。
「……なれば、やはりご主人は特別な存在、ということかの……」
「っ……!」
瑠螺の何気ないその呟きに、ルイズはかあっと頭に血が上り、まなじりがつり上がった。
もちろん、瑠螺の言葉には彼女を非難したり揶揄したりするような意味合いなどまったくない。
ないのだが、また魔法を失敗した上に罰として課せられた労働のせいで気持ちが荒んでいたルイズには、そうは思えなかったようだ。
「……ああ、そうでしょうとも。こんなメイジなんて、他にいないわよね。わたしみたいなののとこへ来て、なまじ手や足があるばっかりに馬鹿みたいな仕事ばっかりやらされて。さぞ運が悪かったでしょうね?」
「ご主人?」
瑠螺が困惑したような目を向けたことにも、ルイズは気付かない。
「でもね、こっちだって、あんたみたいな田舎者よりも犬や猫でも来てくれた方がよかったわ。……ええ、それなら掃除くらい、喜んで一人でやったのよ!」
最初のうちは激情のままわめき散らしたいのを自制心でどうにか堪えているという感じだったが、最後の部分は耐えかねたように吐き捨てて、手にした雑巾を乱暴にバケツへ放り込んだ。
もちろん、そんなささやかな八つ当たりなどで、気持ちが晴れるわけもない。
むしろ、そのバケツの水もこの使い魔が用意してくれたものだったことを思い出して、なおさら屈辱的な気分になった。
瑠螺はただじっと、そんなルイズの様子を見つめていたが、ややあって静かに口を開く。
「……そうか。人よりも犬や猫の方が優れておる、という人間も、わしの故郷ではなかなか見かけるものではないがのう」
話しながら、ゆっくりとルイズの方に歩み寄った。
「では、わらわが人間でなければ、ご主人は満足なのじゃな?」
そう言って、俯いて瑠螺から顔を逸らすようにしているルイズの顎につ、と指をかけると、自分の方へ向き直らせる。
「な、なにするのよ?」
いきなりの行動に、ルイズがどぎまぎして後じさる。
瑠螺は目を細めて、そんな彼女の顔をじいっと見つめ返した。
「なれば、よおく見ておおき――」
「……うむ、こんなものかのう?」
あちこちが真新しくなって、爆発以前よりもきれいになった教室を見渡して、瑠螺は満足げに微笑んだ。
「ご主人、そろそろ食事時であろうし、食堂へ向かわれてはどうじゃ? 後の片付けは、わしがすませておくゆえな」
「あ。うん」
ぽけーっとしていたルイズは、ややあって、素直にこくりと頷いた。
先ほど、瑠螺の正体である美しい金色の妖狐の姿を見てからは、ずっとこんな調子である。
瑠螺は正体を明かした後、「これで、片付けはご主人一人でやってくれるのじゃな?」などと意地悪を言ってみたりもしたのだが。
彼女があわてるでも恨めしげな目をするでもなく、この調子で「あ。うん」としか言わないものだから、何も面白くもなく。
結局は肩をすくめて冗談だと言い、そのまま最後まで手伝ったのである。
「……ルイズや」
瑠螺は、とことこと教室から出ていこうとする彼女に声をかけて呼び止めた。
「あるいは、おぬしは特別な存在などでなく、普通のメイジの方がよかったと思っておるのかもしれんがのう。……誰でも、自分と付き合っていくしかない。そういうものであろうぞ」
話しながら、瑠螺は異世界から来た、妹のような少女のことを思い浮かべていた。
彼女もまた、悩み苦しみながら少しずつそのことを受け容れていったのだ。
瑠螺は話しながら、掃除の過程で出たごみや使った用具を窓の外に浮かべておいた飛葉扇に乗せると、自分もまたそれに乗り込んで片付けのために出ていった。
「……あんたは本気で、わたしが特別な存在だとか思ってるわけ?」
ルイズはその後ろ姿を見送りながら、苦々しげに顔をしかめて、ぽつりと呟く。
「馬鹿馬鹿しい……」
それこそ、何も知らない田舎者の過大評価というものだと、ルイズは思った。
彼女は本当に特別なメイジというものを、すぐ傍で見て知っている。
かつて『烈風』と呼ばれ、生ける伝説となった偉大な英雄、すなわち彼女自身の実の母親である。
父も、姉たちも、家族はみな優秀なメイジだが、母は明らかに別格の存在だった。
自分はそんな母とはまるで違うし、父や姉たちとも違う。
もし特別だとしたら、特別落ちこぼれなのだとしか考えられない。
「特別なのは、あんたでしょ。……あんただけだわ」
彼女はどこか異郷の地から来た、人間の言葉を解する幻獣、すなわち韻獣の類。
人の姿に化けられることからすれば、それなりに高度な先住魔法(ハルケギニアにおける実際の使い手は精霊魔法と呼ぶし、どうやら彼女の故郷ではセンジュツと呼んでいるようだが)も使えるのであろう。
なるほど、それならば人間の社会の常識に極端に疎いことも頷ける。
もちろん、自分の使い魔がそんな希少で強力な存在だったことが嬉しくないわけではない。
だから、あまりに予想外だったことも相まって、さっきから少しぼうっとしていた。
しかし、それと比べて、自分は……。
「そりゃあ、メイジの実力を知るには使い魔を見よ、なんていうけどね……」
それを言うなら、この学院の長である押しも押されもせぬ大メイジ、オールド・オスマンの使い魔なんて、ただのネズミである。
所詮は大したあてにもならぬ一般則・経験則であって、例外も多々あるに違いない。
それでも、ルイズは使い魔に言われたその言葉が、なかなか頭から離れなかった。
それは彼女が、実家の使用人たちのように自分に媚びたり励ましたり慰めたりする意味合いでそう言っているのではなく、同級生たちのように虚仮にしたりからかったりしているのでもなく。
単に事実としてそうであると、本気でそう考えているのだということが、その言葉から伝わってきたからであろう。
これまでにそんな風に思ってくれた相手は、優しい下の姉くらいなものだった……少なくとも、ルイズ自身はそうだと考えている……のだから。
・
・
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食堂で、ルイズはゆるゆると昼食を口に運びながら、なおも自分の使い魔に言われたことを思い返していた。
しかし、今は腹が満たされることで、先ほどよりも心に余裕が出てきていた。
自分は気高い精神の持ち主だと信じる者にとってはいささか屈辱的な事態だろうが、実際には人の感情なるものは、往々にして胃袋の含有量ごときによって左右されるかなり即物的なものなのである。
肉体が満たされれば、心も落ち着くのだ。
「……ふん、特別だとかそうでないとか。考えてみれば、どうでもいいことだったわね」
どうあれ、いつか必ず魔法を成功させる。
結果を出すことでみんなを見返し、支え続けてくれた家族に恩を返す。
要するに、これまで通りのことをするだけではないか。
強いて言えば、それに『主人として使い魔の思い込みに応えてやる』という、ささやかな追加の目標が足されたくらいなものだ。
(よぉし。さっそく、午後の授業からがんばるわよ!)
ルイズは気持ちを新たにすると、意気込んでデザートのケーキを頬張り始めた。
その真偽のほどはさておいても、瑠螺が自分のことを本心から認めてくれているのを感じたからこそ、ごく短い時間で立ち直って明るい気分になれたのだ。
しかるにそうして思索の世界から戻ってきた彼女は、少し離れた席のあたりで、いつの間にやら何か騒ぎが起こっているらしいことに気が付いた。
「なによ、いった……、い……!?」
何気なくそちらに目をやったルイズは、予想外の光景を目にしてしばし固まることとなる。
なんと自分の使い魔が、同級生と何やら悶着を起こしている様子なのだ。
あわててフォークを置いて、そちらの方へ駆け寄った。
「ちょ、ちょっとあんたたち、何してんのよ!?」
「あや、ご主人」
ちょっとばつが悪そうにルイズの方を振り向いた瑠螺と対峙していた同級生は、ヴィリエ・ド・ロレーヌという男子生徒だった。
見れば、瑠螺は自分の背に、使用人らしき少女を庇うようにしている。
「見てわからないかね、『ゼロ』のルイズ? 君の使い魔に、ちょっと礼儀を教えてやろうというのさ」
彼は風系統の名家の出で、入学当初は風で自分の右に出る者はいない、などと豪語していたエリート気取りのラインメイジだ。
そんな風に自分の出自と腕前を鼻にかけているものだから、魔法の使えないルイズのことを特に見下して常日頃からからかっている者たちの一人でもある。
もっとも、物心ついたときから間違いなく当代最強の、いやもしかすればハルケギニアの歴史上でも最強かもしれぬ風の使い手を間近で見てきたルイズからしてみれば、彼の増上慢などはおよそ滑稽なだけであった。
それにこの男は、入学早々の授業で同級生かつ年下のタバサに風系統の『フライ』の腕前で負け、そのことを逆恨みして無理に決闘を吹っかけたあげく一蹴される醜態をさらしたのである。
同級生の多くもその時のことを引き合いに出しては、陰で彼のことを笑いものにしていた。
ただしルイズと違って腕前がそれなりにあるので、表立って公然と侮蔑されることはあまりない、というだけだ。
そんなわけだから、ルイズは彼からの侮蔑など、大して意に介したこともなかった。
「余計なお世話よ、ロレーヌ。何があったのか知らないけど、人の使い魔に主人を差し置いて教育をしようだなんて、メイジとして無作法に過ぎるとは思わないのかしら?」
「ふん、『ゼロ』に一体どんな教育ができるというんだ? 現に、貴族に対する礼儀の心得もないようじゃないか。仕方がないから君の代わりにやってやろうというんだ、むしろ感謝したまえ」
ルイズはきっとロレーヌをにらみつけたが、こいつとだけ話していても埒があかないと考えたのか、視線を外して周囲に目をやった。
他の生徒らも遠巻きに様子を見ているが、多くは事の成り行きを楽しんでいるようで、口を出してこない。
教師に助けを求めるというのがもっとも妥当なのだろうが、この食堂では教師の席は上階のロフトにあり、そこまで行って事情を伝えるには時間がかかる。
「ご主人、そう刺々しい声で言い争わないでくりゃれ。シエスタが怯えてしまうでな」
結局、よしよしと使用人の頭を撫でながらたしなめるような声をかけてきた、自分の使い魔の方に向き直った。
「一体、何があったのよ。教えて。その、しえすた? とかって子はなに?」
「それはのう、話せばちと長くなるのじゃが……」
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瑠螺は昼食も、例によって厨房でいただいた。
その後、暇だったこともあって、ルイズが食べ終わるまで礼としてなにか仕事の手伝いでもさせてくれまいかと申し出たのであるが、それは断られた。
使用人たちは瑠螺のこともどこかの貴族であるものだと考えていたし、そうでなくとも客人にそんなことをさせれば、後で上の人間からどんなお叱りを受けないとも限らないからだ。
それではかえって迷惑になりかねないと、彼女も納得して引き下がった。
とはいえ食事が済んだ以上厨房にいても仕方がないので、シエスタと一緒に食堂へ赴き、生徒らの邪魔にならないよう壁際で彼女の仕事ぶりを眺めたり、アルヴィーズとかいう人形を眺めたりして、ルイズの食事が終わるまでの時間を潰していたのだが……。
「すみません、グラモン様。こちらを落とされました」
シエスタが、一人の男子生徒……ギーシュ・ド・グラモンとかいう名前の……が落とした香水の瓶を拾い上げたことで、ちょっとしたトラブルが起こった。
彼はなぜかそれが自分のものであることを否定したのだが、その香水の瓶を見た彼の級友たちが、それがモンモランシーという女子生徒の作ったものであることを見抜いたのである。
そして、するとお前は今その子と付き合っているのだな、と言って冷やかし始めた。
ギーシュという生徒はそのことを必死に否定していたが、そこへケティという名の女子生徒があらわれ、やはりあなたはミス・モンモランシと付き合っていたのかと泣いて、彼の頬を張り。
次いでそのモンモランシーという生徒があらわれ、やはりあの下級生に手を出していたのかと冷ややかな目で、ワインを彼の頭にぶちまけていった。
要するに、二股をかけていたのがばれたわけである。
ギーシュはそれでも、「あのレディたちは薔薇の存在の意味を理解していない」とかなんとか気取ったことを言って取り繕ったものの、内心穏やかではなかったらしい。
あっけにとられるシエスタに目をつけ、「彼女らの名誉を守るため、機転を利かせて知らないふりをした自分に合わせるべきだった」などと難癖をつけだしたのである。
「も、申し訳ありません!」
シエスタは青ざめて、必死に頭を下げた。
この世界では魔法を使える貴族と使えない平民とでは、身分の差も力の差も実に大きい。
貴族を怒らせたら、理不尽でもとにかく平謝りして許してもらうしかない、というのが常識である。
そこへ、彼女を守るように瑠螺が割って入った。
「これ、そのような筋の通らぬ物言いをするものではないぞよ。それではなおのこと、おぬしの立場が悪くなるだけではないか……のう?」
瑠螺がシエスタを庇ったのは、もちろんギーシュの物言いが身勝手で理不尽だと感じたからだが。
あまり怯えさせては、彼女の正体が露見することになりはせぬかと案じたからでもある。
人間に変じる術を身に付けた妖物の類は、怯えたり怒ったり、興奮したりといった激しい感情の動きによって、一時的に正体をあらわしてしまうことがよくあるのだ。
瑠螺自身、いまだに感情が昂ると、耳や尻尾を飛び出させてしまう。
シエスタがどうかはわからないが、彼女は自分の正体を隠しておきたいようだったから、万一の場合を考えてあまり動揺させぬうちに事態を収拾してやらねば、と思ったのである。
「む……、それもそうだ……な。いや、僕としたことがつい取り乱して、レディに対して失礼した。許してほしい」
幸い、そのギーシュという生徒は根は悪くない人間だったようで、瑠螺が密かに『命金行鎮心 冷』の術をかけて落ち着かせたうえでたしなめてやると、すぐに自分の非を認めて謝罪してくれた。
しかし、今度はそれとは別の生徒が、横合いから口を挟んできた。
それが、ロレーヌだったのである。
「待てよギーシュ。お前の二股の件はともかく、さっきの授業中といい、こいつは貴族に対して不躾すぎるんじゃないか?」
彼は、先ほどの授業でマリコルヌに同調した結果、シュヴルーズから口に赤土を押し込まれた生徒のうちの一人だった。
そのことで瑠螺に対して気に入らない思いを抱いていたところに、またしても彼女が『横合いからしゃしゃり出て、貴族に対して生意気な言動をとった』のだ。
彼の考えでは、これは罰を受けて当然の振る舞いだった。
幸い今は、教師が誰も近くにいない。
そんなわけで、彼はこれを絶好の機会ととらえたわけである。
「そういった輩に躾をしてやるのも、貴族の務めというものだろ?」
もちろん瑠螺は、彼に対しても『命金行鎮心 冷』の術をかけた上で、別に自分は貴族の権威に対してどうこうなどと言うつもりはないのだと説明しようとした。
しかし、無駄であった。
ロレーヌはギーシュと違い、一時的な感情の昂りのためにそういった言動をとっているわけではなかったからだ。
瑠螺がその事実に顔をしかめていたところへ、ルイズがあわてた様子で駆け寄ってきた……。
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「……と、いうわけでな。ちなみにこの子とは、ご主人も知っておろうが昨夜知り合うて、今朝から食事の件などでも世話になっておるのじゃ」
瑠螺からかいつまんだ話を聞いたルイズは、呆れたように溜息を吐いた。
「なによ、それ。あんたは何の関係もないのに横からしゃしゃり出てきただけじゃないの、ロレーヌ!」
「そ、その通りだ。先ほどの件は僕が悪かった。その使用人にもミス・リュウラにも、何も非はないぞ、ロレーヌ!」
ギーシュもまた、そんなルイズに同調した。
先ほどは一時的な苛立ちでついつい使用人の少女にあたってしまったが、普段の彼は自分のことを女性を守る薔薇の棘だなどと言っているフェミニストなのである。
ロレーヌはそれに対して、いらいらした様子で首を横に振る。
彼の考えでは、ドットメイジやまして『ゼロ』ごときには、名門出のラインメイジである自分に意見する権利などないのだった。
「僕がこいつを躾けてやろうというのに、横合いからしゃしゃり出てきたのはそっちだろう。引っ込んでいろ!」
「わらわが、このあたりの作法に疎いというのは事実であるがなあ……」
感情を昂らせる学生たちとは対照的に、瑠螺はあまりいつもと変わらぬ様子であった。
もっとも、その内心はわからない。
シエスタに不安を与えぬよう、あえて苛立ちや怒りなどを見せずに平静な態度を保つよう努めているだけなのかもしれない。
瑠螺は今でこそ冷静で高貴そうな雰囲気を身にまとってはいるものの、修業時代には行動的で活発で、怒りっぽく拗ねやすく、人情に脆い少女だったのである。
今でも、その地金は変わってはいるまい。
「……して、どのように教育していただけるのじゃ? 先ほどのシュヴルーズどののように、講義でも聞かせていただけるというのかや?」
顔は笑顔だが、心なしか声に剣呑そうな雰囲気が混じっていた。
もしもこの場にシエスタがいなければ、ロレーヌの頭に既に拳骨くらいはぶち込んでいるかもしれない。
「ふん、これだから無教養な田舎者は困る」
そんな雰囲気などさっぱり感じていないロレーヌは、にやっと口の端を歪め、瑠螺の顔に向けて杖を突きつけた。
「貴族が教育をしてやるといえば、決闘に決まって」
しかし、その言葉が言い終わらないうちに、横合いから静かながらよく通る声が聞こえてきた。
「わたしが買う」
得意げなロレーヌの顔が、その途端に強張った。
「その決闘は、彼女の代わりにわたしが買わせてもらう」
その声の主は、一年生の頃に彼を完膚なきまでに叩きのめした、小柄な青髪の少女……『雪風』のタバサだったのである。
彼女の隣に座っていたキュルケは、そんな友人の行動に目を丸くして、そっと尋ねた。
「どういうことよ? あなたがそんなことを言いだすだなんて」
彼女は普段、他人と進んで関わろうなどとはしない子なのだが。
「借りがある」
タバサは振り向かずにロレーヌの方を冷ややかな目で見つめたまま、短くぽつりとそう返事をした。
それから、瑠螺、ルイズ、シエスタの方を手にした大きな杖で示して、きっぱりと宣言する。
「今後もその三人に手を出すなら、わたしが決闘を買う。いつでも」
――もちろん、ロレーヌが真っ青になって言い訳がましいことを口にしながらあわてて退散していったのは、言うまでもない。