「タバサどの、よう口添えしてくださった。助かりました」
「あ、ありがとうございます、ミス・タバサ」
「ええと……、その。ありがとう」
瑠螺、シエスタ、ルイズが口々に感謝の言葉を述べるのに対して、タバサは小さく首を横に振った。
「いい」
ただ一言そう呟いただけでくるりときびすを返して、自分の席に戻るでもなく、そのまま食堂から出ていく。
自分に注がれる、同級生たちからの好奇の視線を避けるようにして。
入れ代わりに、彼女の隣に座っていたキュルケが席を立って、三人の方へやってきた。
ルイズはそれを見て、露骨に嫌そうな顔をする。
当のキュルケの方は、かなり機嫌が良さそうなのだが。
「何よ、キュルケ」
「ルイズ……じゃ、なさそうね。それじゃあ、そちらのお二人かしら?」
彼女はそう言いながら、三人の顔を順に見やった。
そして、その表情や態度から察したらしく、瑠螺の方に向き直る。
「リュウラ、あなたみたいね。昨日ここに来たばかりの人が、いつの間にかあの子と仲良くなってただなんて驚きだわ」
「うむ、昨夜ちょっと行きがかりがあってのう」
ルイズは困惑したように、二人を交互に見やった。
「ちょっと、リュウラ。あなた、いつの間にタバサやキュルケと知り合ってたのよ?」
「キュルケとは、今朝ご主人を起こしに行ったおりに部屋の前で出会うたのじゃ。タバサとは、……あー、何というかの。昨夜外を散歩しておったときに、ちと縁があって」
口止めされているので、イルククゥのことは話に出さずに、ちょっと目を逸らしながら適当な答え方をした。
キュルケは興味深そうに、探るような目でそんな瑠螺の顔を見つめる。
何か隠していることがありそうだと感づいたのであろう。
年を経て普段の振る舞いには落ち着きが出てきたとはいえ、瑠螺は元々嘘が顔や態度にでやすい性質なのだ。
「……そう? ただ会って挨拶したくらいの仲で、あの子が口を出すとは思えないんだけど。そもそも、知らない人に挨拶されても無視するでしょうし」
キュルケがそう言って、にやっと笑う。
「人と関わらない、目立たないを通してるあの子が、こんなに大勢が注目してる前で助け舟を出すだなんてねえ。いつの間にそんなにご執心な相手ができたのかって、ちょっと驚いたのよ」
話しながら、『どうせなら男の子が相手ならなおよかったんだけど、まあ友達が増えたとかでもいいか』などと、年長の姉妹か母親みたいなお節介なことを考えていた。
彼女は、自分以外に付き合う相手もいなければ男にも興味を示さない、物静かな友人のことを常々気にかけていたのだ。
(それとも、同年代の男よりも大人の女のほうが好みとか……。いやいや、あの子の趣味はよくわからないけど、さすがにそれはないわね)
そんなとりとめもないことを考えているキュルケをよそに、瑠螺は首を傾げた。
「そうなのかや?」
だとすれば、あの少女は望まぬ注目を浴びることになるのを承知の上で、自分たちに助け舟を出してくれたということか。
そういえば、昨夜はひとつ借りができたなどと言っていたようだったが。
貸し借りに関して律儀な性質なのか、それとも縁や友誼をそれだけ重んじる人柄なのだろうか。
「……ふむ。なれば、そのことも踏まえて、もう少ししっかりと礼を言っておくべきだったかのう……」
瑠螺はそう呟くと、ルイズに少し時間をもらうと言いおいてから、タバサの去っていったほうに足を向けた。
当然のごとく、ルイズも主人として同行すると言い、キュルケやシエスタもついていきたいと申し出たのだが、瑠螺はそれはやめてほしいと断った。
「キュルケによると、あの子は目立つのが嫌いなのじゃろう? 先ほども、皆の視線を避けるように去っていったし。それではあまり大勢でおしかけても、かえって嫌がられるのではないかと思うでな」
これは、半分は嘘である。
主たる理由は、礼を言うついでにあの後イルククゥとはうまくいったのか、ということを聞いてみたいからであった。
先ほど教室で他の生徒らが使い魔を引き連れてきていたときにも、彼女の姿はどこにも見えなかったので、瑠螺はそのことがずっと気にかかっていたのである。
口止めをされている関係上、ルイズらがいたのではイルククゥのことを話題に出せない。
「でも、……むぐっ!?」
何か抗議をしようとするルイズの口を、横合いからキュルケが塞いだ。
そして、瑠螺ににこやかに微笑みかける。
「わかったわ。あたしたちはお邪魔はしないから、どうぞごゆっくり」
「うむ、かたじけない」
瑠螺が去って行ったのをしっかりと見届けてから、キュルケはルイズを解放した。
「――ぷはっ! なにすんのよ、出し抜けに!」
「しーっ、静かにしなさいよ。これからリュウラを、そーっと追うんだから」
「……は? なんで?」
先ほどの瑠螺は、飛葉扇で口元を隠すようにしてちょっと目線を逸らしながら、自分だけでタバサを追う理由の説明をしていた。
観察力の鋭いキュルケは、これはなにか隠し事があるなとピンときたのだ。
それを聞いて、ルイズは呆れたような顔になった。
「だから、こっそり後をつけようっていうの? のぞき見なんて、趣味が悪いわよ。大体あんた、さっき邪魔はしないって、自分で言ってたじゃないの!」
「あら、物陰から見てたって二人の邪魔にはならないでしょ?」
キュルケはルイズの非難を、涼しい顔で受け流した。
「あたしはただ、親友が心配なだけよ。……もしかしたら、初めての恋! とかかもしれないし?」
先ほど一度は否定したものの、瑠螺の側が主人に嘘をついてまで一人だけでタバサと話したがっている様子なのを見て、その疑念が再発したのである。
一旦そんな疑いを抱くと、タバサがさっさと食堂から出て行ったのも、もしや逢引をしたいから後を追って来いという合図なのでは……などという、勘ぐりまで湧いてきて。
ほどなくして、そうだそうに違いない、というような気になってきたのであった。
キュルケの中では、恋と情熱がすべての物事の中心だから。
「恋? って……、タバサと誰が?」
「やあねえ。もちろん、今追いかけてった人に決まってるじゃないの」
「……は、はあ?」
「ええっ!? ま、まさかリュウラさんとミス・タバサがそんな……、あ、いえ、あの、口答えとかではないですけど……」
この色ボケはとうとう本格的に脳をやられたか、みたいな白けたような目でキュルケを見るルイズに、顔を赤くしてあたふたするシエスタ。
そんな二人の反応にも、キュルケはうろたえない。
「あたしだって意外だわ。でも、合理的な帰結よ?」
もちろん恋とは別に友情とか、信頼とか、敬愛とか、そういう感情も人にはあるってことはわかっている。
でも、自分でさえタバサと親しくなるのにはかなり時間がかかったのに、昨夜来たばかりの人がいきなり、あの人との関わりを極端に嫌う子から公衆の面前で庇われるくらいになるだなんて……。
「こりゃあもう一目惚れとか、そういう種類の感情しかないじゃないの。そうに決まったわ! 恋よ、恋!」
ちなみに当のキュルケ自身が普段恋だと称しているものも、概ねはそういう一目惚れというか、『ちょっと見て気に入った』程度の感情であることが多い。
熱するのも早いが冷めるのも早い、微熱のようなものである。
彼女の二つ名が『微熱』であることが、それを証明しているといえよう。
タバサに常々、『あなたも恋をしてみなさいよ。恋はいいわよ』などと勧めていたキュルケとしては、たとえ少々一般的な規格からは外れている相手であっても、とにかく氷のような友人の心にようやく火が付いたというだけでも喜ばしいことであった。
しかるにそんな彼女とは対照的に、ルイズの態度はあくまでも冷ややかである。
「ええ、そうかもしれないわね。あんたのその、色ボケした頭の中では」
そりゃあもちろん、大事になったりする前に事態を収拾してくれて助かったし、感謝しているが。
大概誰でも気に入らないと感じるであろうあのむかつくロレーヌの言い分から庇ってくれたくらいのことで、なんでそこまで発想が飛躍するのかがルイズには理解できなかった。
「大体、あの子は一年の時に、ロレーヌから決闘をふっかけられたこともあったじゃないの。あの時のこともあって元々あいつが嫌いだからこっちの肩を持ってくれた、っていうだけじゃないの?」
キュルケはそんなルイズの意見に肩をすくめて、首を横に振った。
「いいえ、あの子に限ってそれはあり得ないわね」
「なんで、そんなことが言い切れるのよ?」
「あたしはあなたよりはあの子のことをよく知っているのよ、ヴァリエール。だって、親友ですもの」
「…………」
ルイズは何か反論したそうだったが、結局何も言わずに口をつぐんだ。
友達だからと、そう自信ありげに言い切られては、さすがにそれ以上ずけずけと不躾に反論することははばかられる。
「……ま。確かに恋ってのは、ちょっと飛躍してたかもね?」
キュルケはルイズが口をつぐんだのを見て、自分も軽く肩をすくめると一歩譲歩した。
「でも、とにかく普通じゃないことは確かなのよ。あなたが信じないのならそれでもいいけど、とにかく、あたしはあの二人を見守りに行くから。それじゃあお先」
そう言ってひらひらと手を振り、キュルケは瑠螺の去っていった方へ向かう。
「ちょ、ちょっと。待ちなさいよ!」
ルイズも結局は、そんなキュルケの後を追うようにして駆け出した。
恋だのなんだのは全然信じていないが、自分の使い魔が普段は孤立気味の同級生と一夜にして親しくなったというのは、確かに気にはなる。
それに、もしかしたらこれをきっかけに瑠螺が、まがりなりにも主人である自分を差し置いて、宿敵ツェルプストー家の娘であるキュルケも交えた三人で仲良くなっていってしまうのでは……、という不安も感じたのだ。
ちょっとした嫉妬心や独占欲のあらわれだといえよう。
「ああっ! ま、待ってくださいっ」
……使用人としての仕事が残っているはずのシエスタまでが、なぜかあわてて彼女らの後に続いていった。
・
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(いたわ、ちょうど二人で話してるわね!)
しばしの後、三人は人気のない中庭の隅の方で、立ち話をしているタバサと瑠螺の姿を見つけた。
小声で、ひそひそとささやき合う。
(ど、どんな話をされてるのでしょうか……?)
(さあ。でもやっぱり、恋がどうのこうのなんて雰囲気じゃないわよ)
こそこそと物陰に隠れながら様子を窺ってみるが、二人とも落ち着いた様子で、別に色恋沙汰の話などをしているようではない、くらいのことしかわからなかった。
なにせ風系統のメイジであるタバサは耳がいいし、ぼーっとしているように見えて目敏く周囲に気を配っていたりすることもキュルケは知っている。
それに見つからないような距離を保っていれば、大声で怒鳴り合うようにして話してでもいない限り、会話の内容などはまともに聞き取れるはずがない。
(ルイズ、リュウラはあなたの使い魔でしょう。ここまで来たんだから、いまさら盗み聞きがどうとか気取ってないで、なにを話してるのか教えなさいよ?)
(そ、それは……やっぱり、よくないわよ……)
感覚の共有ができないとは言えず、ルイズはそんな言い訳をして目を逸らした。
(融通の利かないお堅い子だこと。いいわよ、それならあたしが聞こえるようにしてみるから)
キュルケはそう言って、その豊かな胸の狭間から杖を取り出すと、軽く振って風の流れを弄ってやる。
二人の会話がこちらの方へ流れてくるように、かつ、自分たちの立てる音がそちらの方に流れていかないように仕向けたのだ。
彼女は火系統のメイジであり、他系統の魔法は得意とは言えないが、若くして既にトライアングルクラスというかなり高位のメイジであり、この程度の初歩的な呪文くらいは問題なく扱える。
自然にもあり得る程度のごくささやかな風の流れの操作に過ぎないので、風の専門家であるタバサといえども特に周囲に警戒を払っているならいざ知らず、他人との会話に注意を取られている状態ではまず気付くようなことはないはずだった。
(よしよし、聞こえてきたわ)
三人は、風に乗って運ばれてきた微かな囁き声に、一心に耳を澄ませた。
盗み聞きはよくないなどと言っていたルイズまでそんなことしているのを見て、キュルケは一瞬不審そうな目をした後、何かに気が付いたようににやっとした。
(これでまた、あとでこの子をからかってやるいい話の種ができたわね)
それはさておき。
瑠螺はその時ちょうど、イルククゥに関する話をタバサに振っているところであった。
万が一にもどこかで誰かが盗み聞きしていないとも限らない(実際にしているわけだが)から、彼女の名前や使い魔といった言葉は出さないように、一応言葉には気をつけながら、だが。
『ああ、ときに。昨夜はあれから、あの子とはうまくいったのかえ?』
瑠螺の言葉に、タバサはこくりと頷いた。
『話し合えた』
(……あの子? あの子って誰よ?)
(あら、謎の第三者が登場ね)
『そうか。やはり、互いに分かり合うには閨を共にして、ゆったりと語らうのが一番であろうからのう』
(ねねね、閨を共にぃ!?)
(ははあ。ってことは、相手はリュウラじゃなくて、どこぞの素敵な青年だったわけね)
(きゃぁ、きゃあぁ。リュウラさんが、ミス・タバサの恋の橋渡しを!?)
もちろん、使い魔のドラゴンのことだなんて思うわけがなかった。
韻竜でない普通のドラゴンは喋れないし、幼竜でも体が大きすぎてそもそも部屋に入れるわけがない。
『あなたのおかげ。ありがとう』
『いやいや、おぬしがあの子のことを深く想っておればこそじゃ。その真心が通じたのであろう、わらわなどは何もしてはおらぬ』
瑠螺が微笑んでそう言うと、嬉しさのためか、気恥ずかしさのためか、タバサの頬にほんの微かに赤みがさした。
(らぶらぶですね! らぶらぶ!)
(タバサー、やるじゃないの! いつの間に、そんな素敵な相手を見初めてたのよ!)
『あの子は、今度はあなたも一緒に、三人で夜を過ごしてみたいと言っていた』
『そうか、光栄じゃのう。おぬしさえよければ、いつでも喜んでお邪魔いたすぞ?』
(ささささ、三人で一緒にぃぃ!?)
(きゃー、きゃーー!!)
(初心なあの子にしては、思ったよりディープな世界に踏み込んでるのねえ。ま、タバサじゃなくて、その殿方の趣味なんでしょうけど)
顔を真っ赤にしてあたふたしているルイズと、やはり頬を紅潮させて、ついでになぜかフンスフンスと鼻息荒く興奮気味に目を輝かせているシエスタをよそに、キュルケは落ち着いた様子でうんうんと満足げにしていた。
自身が男をとっかえひっかえすることに慣れている彼女としては、今さらそのくらいの話で動じるものではない。
(……ん? でも“あの子”って呼んだってことは、もしやお相手はタバサよりも年下……)
キュルケは脳内で、『幼くして女を知り尽くしたような不敵な笑みを浮かべた美少年に、頬を紅潮させたタバサが恥じらいながらもぴったりと寄り添っている』あたりまで妄想たくましく思い浮かべた。
(……なんかすっごく楽しそうじゃないの。あたしも、頼んで混ぜてもらおうかしら?)
三人が三人ともそんな調子だったので、彼女らはその後の二人の話を、ちょっとだけ聞き逃したのであった。
「して、あの子はいま、どこに居るのじゃ? おぬしが連れておらぬ様子なので、ずっと気になっておったのじゃが」
「街へ行かせた。買い物」
タバサは、合理的な思考を重んじる人間であった。
別にお披露目などしなくても、留学生で使い魔が風竜となれば目立つから、同級生も教師らも皆すぐに覚えてくれるはずなのだ。
ゆえに召喚翌日の使い魔帯同のしきたりなど無視して、せっかく和解した使い魔なのだからさっそく初仕事をしてもらおうということで、お金を渡して王都へ欲しい本を買いに行かせたのである。
しかし、それを聞いた瑠螺は顔をしかめる。
「それは……、大丈夫かのう」
どういうことか、と小さく首を傾げるタバサに、瑠螺が説明する。
「だってあの子は、人間の社会のことなどには疎いのであろ? ドラゴンとやらには、買い物をしたり、金銭を用いたりする習慣はあるのかや?」
狐には買い物なんて概念はないし、きっとドラゴンとやらもそうなのではないだろうか。
イルククゥと同じく人間外種族の出身である瑠螺としては、自分自身の経験からいって、人間の社会にまだ馴染んでいない者に買い物や貨幣の仕組みなどがいきなり理解できるとはどうにも思えなかった。
あの子は知能の面では人間に劣らないのだろうが、それとこれとはまた別の問題だ。
「そうでなくとも、初めて見る街並みや人ごみには戸惑うであろうし。今ごろは、途方に暮れておるやもしれぬぞ」
「…………」
言われてみるとタバサも、確かにそうかもしれない、と心配になってきた。
昨夜和解したのだし、人間の子供でもできるような仕事くらいは任せても大丈夫と思っていたが、少々軽率だっただろうか。
「……確かめてみる」
そこで、じっと目を閉じて精神を集中させ、イルククゥと感覚を共有してみると――。
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『お金は使うと、なくなっていくのね。同じ一枚でも、材料によって価値が違うのね。ひとつ勉強になったのね……』
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イルククゥはどこぞの道端に座り込みながら、そう呟いているところだった。
その言葉の内容から察するに、どうもどこかで別な買い物に金を使い込んでしまい、本が買えなくなったらしい。
「どうなのじゃ?」
瑠螺から声をかけられたタバサは感覚を元に戻すと、溜息をついて軽く頭を振った。
「……あなたの言うとおり。あの子にはまだ、買い物は無理だった」
瑠螺は、仕方がないのう、というように苦笑して、肩をすくめた。
「まあ、それではしょぼくれて帰りにくう思うておるやもしれぬし。ここはわらわが迎えに行って、とりなしてやるからと慰めて連れ帰ってこようかの?」
瑠螺は親切心と、この機会に自分も街の様子を見ておこうかという好奇心とから、そう申し出た。
「わたしも行く」
「タバサには、授業とやらがあるのではないかえ? 無論、わらわもご主人には断っておかねばならんが……」
「あなただけでは、あの子の居場所がわからない」
イルククゥもいつまでも同じ場所にはいないであろうし、瑠螺はまだ知らないことだが、ハルケギニアの街は概して央華の邑よりも規模が大きい。
まして王都ともなれば、初めて訪れる者があてもなく捜し歩いて人ひとりを探し出すなど、到底できるものではない。
タバサとしては、一回や二回授業をサボったところで何の問題もなかった。
彼女は座学でも実技でもトップクラスの生徒であり、この学院で二年次の新学期初頭に習うような内容などは、とうの昔に学び終えていた。
それにちょっとした事情があって、故郷からの呼び出しで急に出かけることも多いので、教師陣にはあらかじめその旨を伝え、授業に出席していないことがあっても咎められないように配慮してもらってある。
「そうか。では、一言断りを入れてからわしの飛葉扇で、ゆるゆると行くとしようかの」
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瑠螺とタバサはその後、偶然出会ったようなふりをしてさりげなく姿をあらわしたルイズらに、これから出掛けたい旨を伝えた。
もちろんイルククゥのことを正直に話すわけにはいかないから、『遠出したタバサの使い魔がトラブルを起こして困っているので、飛葉扇を持っている瑠螺がタバサをそこまで連れて行ってやることにした』というような説明をしたのだが。
ルイズはそれに、快く許可を与えた。
ただ、最後に一言妙なことを言って、瑠螺とタバサに首を傾げさせたが。
『そりゃ、どこへ行って何をしようと、あんたたちの自由だけど……。あ、あんまり、破廉恥なこととかはしてこないでよ!』
そうして、二人が出かけた後。
ルイズはキュルケとシエスタを交えて、『使い魔云々などというのは口実でタバサを件の想い人と逢引きさせるのに違いない』『もしかしたら朝から姿が見えないタバサの使い魔は、今はその少年を乗せているのではないか』などと、三人で姦しく妄想の花を咲かせたのであった。