恋する妹
「ねえ……美咲は、好きな人とかいないの?」
お昼休みの喧騒の中、しっとりとした声で、友達の奏さんが私に問いかけます。
その質問は、思春期のーー特に女子なら誰もが一度はしたことがあるような恋愛トークでしたが、私は答えることが出来ませんでした。……私の好きな人は、軽々と口にするには少し問題のある人なんです。
でも嘘は吐きたくないので、好きな人がいないとはいいません。
だから、言葉を濁してごまかします。
「ええと……すいません、恋愛とかまだわかんなくて……」
「ううん、いいのよ」
奏さんは私の回答なんて割とどうでもよかったみたいに、濁した回答に突っ込むことなどしませんでした。
でも、どこかこの会話には真意があるようで……。
「…………」
「………………?」
「……………………」
……な、なんでしょう!
奏さんがなんだかニコニコしてこっちを見つめてます!
これは……完全に、自分も聞いてほしいアピールですね! めんどくさい!
自分が恋愛について聞いてほしいことがあるから私に質問したんですね! ええ!
「……えっと……奏さんは、好きな人とかいるんですか?」
「待ってました!」
待ってましたって言っちゃいましたよこの人!
「実はね……私、好きな人が出来たのっ!」
でしょうね! これで好きな人いなかったら私びっくりですよ!
「……でね、その好きな人っていうのが……」
…………えっ……?
そのとき奏さんが口にした名前は、私の心を揺るがすには充分すぎるほどの爆弾を秘めていて。
聞いた途端真っ白になる思考と締め付けられる胸の苦しみで、私はどうにかなってしまいそうでした。
泣きそうになるのを堪えつつ、なんとか痩せ我慢でその場を乗り切って。
満身創痍で臨んだ午後の授業は、まったく頭に入って来ませんでした。
……私はノートの端に鉛筆をゆっくりと走らせ、好きな人の名前を書きます。
そして、想いを断ち切るかのように消しゴムで一気にそれを消します。
……それでも、完全に文字が消えることはなくて。
うっすらと残った「お兄ちゃんが大好きです」の文字が、常にお兄ちゃんのことを忘れられない私の心の中を体現しているかのようでした。
……そう、私の好きな人は実のお兄ちゃん。
そして奏さんの好きな人も……。
放課後、私は自分の机から一歩も歩けませんでした。
全身の力がまったく入らなくて、抜け殻になったようでした。
……そこに、奏さんと小百合さんがやって来て声をかけます。
いつもの通り、三人で一緒に帰ろうというのです。
でも、そんな気力は私にはありません。
奏さんと一緒にいると、私はいつの間にか苦しく苦しくて……せつなくなります。
だから私は二人の誘いを断って、教室に残ることにしました。
そして私は、ひたすら小説を読み漁ります。
……小説は、いいものです。
どんなに苦しいことがあっても、どんなに辛いことがあっても、読んでいる間だけは全てを忘れさせてくれる。
私が今日読んでいるのは、妹モノのライトノベルでした。
結末は……、兄と妹の結婚。
しかし、作品に出てくる兄妹は義理のそれで……。
実の兄妹が結婚する作品なんて、なかなか巡りあえなくて……。
私は、結局憂鬱な気分で学校を後にするのでした。
続く