駅から動物園のある広場までの道中は、大きな車道に面したアーケード街でした。
小さな歩道の左右には小さな屋台が軒を構え、開運グッズや手作りのアクセサリーなどを売っています。
それを仲睦まじくひやかしながら進む男女と、その後ろをつける怪しい女二人。
傍から見ればおかしな光景ですが、お兄さんたちは気づいていないようです。
「……ねえねえ、小百合さん」
ここまでの段取りはこれまでのループと同じ。とりあえず私はホッとします。
「……ねえねえ、小百合さん、見てください」
でも、気を抜く訳にはいきません。
いつ何時これまでと違う反応が起こるかーー。
「ねえねえ、小百合さん、見てくださいよぉ!」
「ど、どうしたの!」
袖を引っ張られて左を向くと、なぜかみーちゃんが涙目で私に話しかけています。
「な、なぁにみーちゃん? なにかあった?」
私はこれまでのループにないイベントに一瞬驚くも、何事があったのかと気を引き締めてみーちゃんに向き直ります。
すると、みーちゃんは。
「ほらっ、見てくださいこれ。金色のブタさんですよ? かわいくないですか?」
……いや、どうでもいいわっ!
私は思わず心の中で突っ込みを入れます。
その間にどんどんお兄さんたちは人混みの奥へと行ってしまって……。
「みーちゃん、走るよ!」
「ええ! ブタさんが……」
焦った私は、驚くほどに呑気なみーちゃんの手を引いてお兄さんがいる前方へと走り出すのでした。
今までの動物園を使ったループでは、どれもみーちゃんがお兄さんたちの姿を見ながら闇を深めていく構図がずっと続くカタチで時間が進みました。
そのときに見せる、だんだんと光がなくなっていくみーちゃんの瞳が私は大好きでゾクゾクしていたのですが……今回のループのみーちゃんはどうでしょう。
横を見ると、今回のみーちゃんは片手に動物園のパンフレットを持って小躍りしていました。
いや、楽しんでる場合じゃないでしょみーちゃん!
「あっ、ほら見てください! かわいいですよっ!」
私が呆れていることも知らずに、みーちゃんは広場のドッグランにいる犬たちを眺めています。
……あなたこれからもっと珍しい動物を山ほど見られるのにあなたって子は……。
「ほらほらみーちゃん、お兄さんたち先に行っちゃってるよ?」
「はっ! ご、ごめんなさいついワンちゃんがかわいくて……」
……あなたもかわいいよみーちゃん。
私は心の中でみーちゃんを愛でつつも、きちんと彼女をお兄さんたちの近くまで連れて行きます。
しばらく広場を歩くと、細い道を一本隔てた向こうにキリンの長い首が描かれた看板が見えました。
動物園の門です。
かなちゃんはチケットをお兄さんに預かってもらっていたらしく、受付ではお兄さんがチケットを提示しています。
お兄さんたちが園内に入ると、続いて私たちもゲートをくぐります。
確実に変な格好をしているみーちゃんが警備員さんに不審がられていましたが、ここは私が「この子ちょっと変なんです……」って視線を送ったことで回避。
無事ゲートをくぐるとそこには……。
「こ、コアラがいますっ!」
ユーカリの木にしっかりとしがみついて眠る、コアラの姿がありました。
とってもかわいいのですが、かなちゃんたちは既に向こうの方へ行ってしまっています。
「ほら、お兄さんたち行っちゃったよ!」
私は柵にへばりついて見ているみーちゃんを催促します。
しかし……。
「ふへぇ……こんなにかわいい生き物が存在するなんて……きゅんきゅんしちゃいますねっ……」
ほ、ほだされてるっ!
みーちゃん、コアラにお熱です。
「ほーらー! 見失っちゃうよ!」
「いやです……もっと見るんです……っ!」
そして少しの間はコアラを見ていたみーちゃんでしたが、木にしがみついたまま微動だにしないコアラに飽きたみーちゃんは、すぐにお兄さんを追って早足で歩き始めました。
……お兄さんたちがこんなにかわいいコアラを早く通り過ぎた理由はこれだったんですね。
前回はみーちゃんの愛が重すぎて動物を見てる余裕なんてなかったので、新鮮な気持ちです。
続く。