続いてお兄さんたちが向かったのは、水の生き物コーナーでした。
ここでは北極や南極をはじめとする地域の珍しい動物たちが観察できるようです。
コーナーごとに地面の色が変わっているので、自分がどこにいるかわかりやすくていいですね……。
私が感心していると、隣のみーちゃんが袖を引っ張ります。
「ねぇねぇ小百合さん、なんだか人集りが出来てますよっ! 行ってみましょう!」
うん。完全に尾行してること忘れてるでしょ。
幸いなことにその人集りにはお兄さんたちも含まれていたので、私たちもそれを追って移動します。
近づいて覗いてみると柵の中は深く掘り下げられており、そこに敷かれた水の上には北極の氷を模した白い大地がどっしりと構えていました。
そしてその白い氷の下から現れたのは……。
「し、シロクマさんですっ!」
みーちゃんが声に出した通り、その大きな体を真っ白な毛に覆われた北の頭領、シロクマさんでした。
シロクマさんは私たち観客に「ちょっとまってて」のポーズをすると、再び氷の下に潜っていきます。
そして数秒後に出てきたシロクマさんでしたが……なんと、手に道具を持って現れました!
これにはさすがの私も興奮してしまいます!
「見てくださいっ! また潜りましたよ!」
「ほんとだ、今度はオレンジのボールを持ってきたね!」
「あっ、もう一匹来ましたよっ!」
「かわいいねっ!」
二人でシロクマさんを見ながらきゃいきゃいとはしゃぎます。
二人で手を取り合って、賢い動物を見て感想を言い合って…………はっ!
「みーちゃん、楽しんでる場合じゃないよっ! お兄さんお兄さん!」
「あっ! そういえば!」
……常識人ポジションで客観的に尾行を進めていた私でしたが、不覚。
みーちゃんと巡る動物園の旅が面白すぎて、お兄さんたちを見失うところでした。
その後も度々目的を忘れながら、私たちは動物園での二人の行動を監視し続けて……。
その間に、私は今回のループがかなり特異なものになっていると確信できる点を二つばかり確認できました。
一つは、お兄さんの態度です。
これまでのループでは、アプローチするかなちゃんにデレデレするお兄さんを何度も目にすることがありました。
例えばかなちゃんがお兄さんに「ひと口ちょうだい」をして、お兄さんが鼻の下を伸ばしながらあーんしたり。
例えばかなちゃんがお兄さんと写真を撮ろうとして接近して、お兄さんが鼻の下を伸ばしながら抱き寄せたり。
その度に過去のみーちゃんは黒いオーラをどわっと放出し、上下の歯をギリギリと噛み締めていました。
しかし今回のデートを見てみると、お兄さんのなんと健全なことか。
食事をあげるときには小皿に取り分けて渡し、写真を撮るときには過度の接触を避け。
……いや、鼻の下伸び切って逆に悟りを開いたんですかあなた!
っていう突っ込みどころが一つ。
そしてもう一つ気になったところが、お兄さんたちが私たちに見やすいところにいることです。
過去のどのループでも、お兄さんたちを尾行する際に私たちが悩まされたのが、彼らの立ち位置でした。
なんだか私たちの視点からちょうど障害物に隠れて見えない位置にいることが多く、みーちゃんが飛び出していくのを抑えるのが大変でした。
ただ今回は、尾行している私たちにデートを見せ付けるかのように見やすい位置で動物を見るんです。
それは、なんだか「俺たちにはやましいことなんてない」ってお兄さんがみーちゃんにアピールしているみたいで……。
と、ここまで思考したところで私の疑念が確信に変わりつつあることをここに宣言しておきます。
……この世界に起きていることに気がついているもう一人の人物は、恐らくお兄さんです。
続く。