片想い妹は闇堕ちルートを辿り得るか?   作:雨宮照

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考える妹

……まあ、かといって二人が何をしていたのか気にならないはずなんてなくて。

私は、翌日の今日、奏さんに恋愛トークを持ちかけてみることにしました。

ホラー映画を怖いとわかってても見たくなる……ってのとはちょっと違いますし、なんですかね?

打ち切りの報告だとわかっていても、好きな漫画の重大発表を見ちゃうような、そんな現象でしょうか?

あるいは、原作が大好きなアニメが作画崩壊してるのを知ってて毎週見る……みたいなもの……ですかね?

いずれにしても私の気持ちを完璧に比喩できているわけではありませんが、要は好きだからこそ気になってしまうってことです。

今日はお兄ちゃんと登校できなかったし、私のもやもやはずっと続いたままです。

お兄ちゃんとは毎日一緒に登校するのが日課だったのに……、それもお兄ちゃんが高校生になってからは、珍しいことになってしまっています。

これまでも、今も、これからも。

ずっと続くと思ってるものは、突然壊れたりするものなんです。

だから、怖いんです。

……ずっと近くにいたお兄ちゃんが、遠くに行ってしまうのが……。

教室についた私はとりあえず鞄を席に置くと、奏さんの席へと向かいます。

……しかし、鞄を置いた時点で奏さんは私に気がついたようで、目が合うと私の隣の男子の席へとやって来ました。

そして了解も得ずにその席に座ると、私に突然切り出します。

「聞いて聞いて、昨日ね……!」

「ど、どうしたんですか……?」

「……美咲のお兄さんに会って、連絡先交換してもらっちゃった!」

……れ、連絡先!

私だってお兄ちゃんの連絡先、持ってますし!

言ってしまえば誰よりも先にお兄ちゃんの連絡先をもらったのは私ですし!

「でさ、お兄さんってどんな子が好みなのかな? ……教えて欲しいな」

……むうう、お兄ちゃんの好みですか?

それは……大人しくて、素朴な子が好きだって言ってましたけど……。

ここでその事を伝えたら、奏さんがお兄ちゃん好みの女の子に変わっちゃうってことですよね……。

そしたら、お兄ちゃんは私の元から離れていって……。

でも嘘は吐きたくないので、話をはぐらかすことにします。

「と、ところで奏さんっ! 昨日お兄ちゃんとはどこで会ったんですか?」

これだって、気になっていたことです。

まあ、奏さんがお兄ちゃんの高校から出てきた時点で奏さんがお兄ちゃんのところに会いに行ったのはわかっていますが、一応聞いておきます!

「え、会ったのはね……、引かないでね? 私、お兄さんの高校まで会いに行ったの。……ストーカーみたいだよね、こんなの」

しょ、正直に言いました。

奏さんは、お兄ちゃんのことが好きだってことも、昨日お兄ちゃんの高校に行ったことも、全部はぐらかすことなく本当のことを私に言ってくれます。

それは私を信頼してくれていることの証明で……、それなのに私は……。

苦しい、苦しいです。

親友の恋の失敗を願っている私が、大嫌いです。

「ご、ごめんなさい。ちょっと体調が優れなくて……」

だから私は親友をこれ以上傷つけないように。……それ以上に自分が傷つかないように。

その場を切り上げることにしました。

しかしーー

「えっ、なら保健室連れてくよ」

って、奏さんが言うんです。

……奏さんは、どこまで優しいんでしょう。

本当のことを言わない性格の悪い私なんかより、よっぽどお兄ちゃんの彼女にお似合いです。

奏さんは私を気遣う体勢で、保健室まで優しく連れていってくれます。

それに比べて私は、心の中で奏さんの破滅を願って叫んでいるんです。

張り裂けそうな胸の苦しみを心の中で、五線譜なんて無視して叫ぶ。

さながら私は悪魔のようで、狂った玩具のようで。

そんな人がお兄ちゃんに釣り合うわけなんてなくて……。

 

……目覚めたら、目の前には保健室の天井がありました。

考えすぎて、知恵熱にうなされていたようです。

昼寝から覚めたとき特有の、あのなんとも言えない気怠さが私を包みます。

ベッドの横の机に置いてあったお水をひと口飲んで意識がはっきりしてくると、今度は保健室の独特なニオイにむせ返りそうになりました。……幼い頃から病弱でよく保健室を利用していた私ですが、未だにこの匂いは慣れません。病院も一緒です。

小学生のときは保健の先生がお母さんの同級生だったので気軽に利用していましたが、今の中学校に進学してからはあまり利用していませんでしたし、久しぶりのニオイに体が驚いたのかもしれません。

……そういえば小学生のときは休みの日に怪我や病気をすると、お兄ちゃんがおんぶしてくれたっけ……。

お兄ちゃんは倒れた私を日陰に運ぶと、決まってチョコのスナック菓子とオレンジジュースを買ってきてくれました。

それは、私の大好きなもので。

……それを知り尽くしたお兄ちゃんは、私の一番好きな人でした。

「……やっぱり、渡すわけにはいきません」

私は体温であたたかくなったベッドの上で、一人意思を固めます。

でも意思をはっきりさせた途端、私には奏さんが癌のようなものに思えてしまいました。

正常だったお兄ちゃんとの関係に、突如として発生した害悪な要素。

大切な友達であるはずなのに、そんなことを思ってしまいます。

私は人間の恋心というものが如何に人間にとって制御できない感情なのかを目の当たりにして、人というものの存在から何から、全てが信じられなくなって来ていました。

私は、奏さんが持つ恋心という腫瘍をお兄ちゃんへと転移させないために、なにか打つ手を考えます。

……しかし、こういった経験のない私にはどうすることも出来なくて、現実から目を背けて、一人再び夢の世界に逃避するしかないのでした。

 

続く。

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