さあ、始まりましたのはなんでも言うことを聞く権利をかけた一世一代のレースゲーム対決! 実況と解説は私、藤沼美咲です!
ステージによって有利不利がないように、ステージはオーソドックスな初期のもので行います。
基本的にお兄ちゃんにゲームでは歯が立たない私ですが、車を走らせやすい初期ステージでなおかつアイテムによる運にも左右されるこのゲームなら話は別です。
私にも勝機はあります!
まず、レース開始前。
私とお兄ちゃんは正々堂々戦うことを誓い、聖杯を酌み交わします。
……いやまあ中身はお茶なんですけど、こういうのは気分です!
「美咲、こういうの珍しいけど本気でやっちゃっていいんだな?」
「はい、望むところです!」
一杯のお茶をぐいっと呷ると、私たちはほぼ同時にコントローラーを手に取りました。
そして、各々がスタートボタンを起動させます。
するとカウントダウンとホイッスルの音が鳴って、私たちのカートは一斉にテープを切って飛び出しました!
まず初心者はここのスタートのタイミングが分からずに失敗して時間をロスするのですが、ベテランの私とお兄ちゃんは苦もなくスタートダッシュを成功させます。
このレースにはコンピューターも参加させていて、この時点で着いてきているコンピューターは六人中二人。
つまり先頭集団にいるのは、現在お兄ちゃんと私を含めて四人です!
それから順位に大きな変動はなく、私たちは最初のアイテムコーナーへと辿り着きます。
ここでは自分のカートの加速や相手のカートの減速などの様々な効果をもたらすアイテムを手に入れることが出来ます!
私が手に入れたアイテムは……やった!
自分のカートを強力にパワーアップさせられるアイテムです!
これを使えば現在三位の私は加速して上位二人をごぼう抜きです! ……とか思ってたんですが。
お兄ちゃんが他の人のアイテムを奪うアイテムで私のアイテムを持って去っていきました!
「詰めが甘いな!」
「ぐ、ぐぬぬ……」
ドヤ顔で行ってくるお兄ちゃんがムカつきます!
私を煽ってるはずなのに、なんでこんなにかっこいいんですか!
お兄ちゃんは私から奪ったアイテムも使って、見えないくらい遠くまで行ってしまいます。それに比べて私は、目の前にいる二位のゴリラのキャラクターの背中を追いかけるだけ……。
私はこのままお兄ちゃんに勝てずに、お願いを聞いてもらえずに散っていくのでしょうか? いえ、そんなのは嫌です!
私はコースの終盤に差し掛かると、アイテムコーナーを通り過ぎて……あっ!
画面を見ると私のキャラクターが手に持っていたのは、誰かと誰かの順位を入れ替えるというレアアイテムでした!
自分と自分よりも順位の低いキャラが入れ替わってしまう可能性もあるので普段は使いたくありませんが、お兄ちゃんにどうしたって勝てない状況の今は使う他ありません!
既にアイテムを手に入れていたお兄ちゃんのアイテムは、コース上に障害物を置くだけのノーマルアイテムです。
加速も減速もせずにお兄ちゃんは一直線にゴールテープに向かっています。
……と、ここで私のアイテム発動!
すると、たちまち辺りが光に包まれます。
そして再び画面が通常の明るさに戻ったとき、順位が変わっていたのは……。
「あっ、お前っ!」
「……あっ!」
変わっていたのは……、お兄ちゃんとゴリラのキャラクターでした。
つまり一位はゴリラのキャラで……二位と三位は変動なくお兄ちゃんと私。
ってことで、私はお兄ちゃんの力と運の前に儚く散ったのでした……。
「ふふん、俺に勝とうなんて百年早いぞ」
「むぅ、もうちょっとだったのに……」
もうちょっとで、なんでも私の言うことをなんでも聞いてもらえたのに……。
「……ああ、そうだったな! 美咲がなんでも俺の言うこと聞いてくれるんだっけ?」
……はっ! そうでした。
ほんの少しだけお兄ちゃんの要求に期待してしまう私ですが、お兄ちゃんが私と……なんてそんなお願いをしてくるわけがありません。
私はどんな大変なことをお願いされてしまうんでしょう……?
ま、まさか奏さんのことをもっと質問されたりしたら……!
とかなんとか私が勝手にこれから起こることを妄想して不安になっていると、お兄ちゃんがついにその要求を口にします。
「美咲……。俺がお前にして欲しいことは」
「……ごくり。して欲しいことは……?」
心臓が高鳴ります。
それは果たして私にとって役得な要求か、それとも……?
「……お前にして欲しいことは、お前の要求を教えてもらうことだ」
「…………えっ?」
今、なんて……?
「だーかーら、お前がして欲しいことをしてやりたいってのが俺のお願い。ほら、早く言えっ」
お兄ちゃんは私の頭をわしゃわしゃと、でも決して乱暴ではなく愛のこもった愛撫を、丁寧に施してくれます。
それによって私のこころは溶けてしまいそうなほど温かくなるわけですが……。
「でも、なんでですか……?」
私はいつの間にか瞼に滲んでいた涙を拭いながらお兄ちゃんに聞きます。
するとお兄ちゃんは快活な笑顔を私に向けて、こんなことを言ってくれました。
「美咲が俺になにかおねだりするのなんて珍しいだろ? よっぽどなにかして欲しいのかなって思って。……嫌なことでもあったか?」
……お兄ちゃん。
私はもうその言葉だけで充分満たされていましたが、この勝負を持ちかけたときからずっと頭の片隅に思い描いていた一つのお願いをお兄ちゃんに言ってみます。
「……じゃあお兄ちゃん、一つお願いがあります」
「おう、なんでも言ってくれ」
私がお願いするのは、小さいときによくお兄ちゃんがやってくれたおまじない。
私が泣いていたときによくお兄ちゃんがやってくれた、想い出の行為。
「お兄ちゃん……だっこ」
羞恥に染まっていく顔を隠すように下を向いてしまう私ですが、見えないお兄ちゃんの顔も真っ赤になっていくのが何故か感じ取れて、なんだかこそばゆくって。
……部屋の温度が二度くらい上がったようなこの感覚に、熱中症にも似たくらくらした頭ではどうにも正常な思考を働かせることが出来ずにいたのでした。
続く。
初めまして……もしかしたら過去作でもお世話になっている人はお久しぶりです、雨宮照です!
もうお気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが、この作品は平日の午前7時10分に投稿することを心がけております!
私の執筆スタイル的に毎日ノルマを決めて書くと作品が死んでしまうので気分によって書く日と書かない日がありますが、今作はなるべく頻繁に更新する予定ですので、是非最後までお付き合い下さい!
それではまた次話でお会いしましょう! バイバイ!